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視覚障害児童向けのさわる絵本の貸し出しコレクションの創設

2007年8月23日
IFLA(国際図書館連盟)年次大会2007(ダーバン、南アフリカ)

マリオン・リプリー
クリアビジョン・プロジェクト
ロンドン
イギリス

抄録

さわる絵本は、視覚障害児のため新しい情報、新しい概念、そして新しい語彙の世界を開くことができる。このような図書は子どもの触察能力を発達させ、読み方を学びたいという意欲を起こさせる。さらにこれらの絵本は非常に楽しいものである。

クリアビジョン郵送貸し出し図書館は過去6年間で1,000冊以上の貸し出し用のさわる絵本のコレクションを集めた。その大半は視覚障害のない、また点字の経験のないボランティアの人たちによる手作りである。このコレクションはハイテク機器を全く使用することなくわずかの予算規模で行われた。

これらの絵本はイギリス全国の視覚障害児に大いに楽しまれている。

はじめに

視覚障害のない子どもは生まれたその日から見るものすべての画像が目に入ってきます。この子どもの持つ世の中に関する知識のほとんどは身の回りを見て目に入ってくるものから得ています。日常の生活で見えないもの(スーパーマン、恐竜、有名人、ウサギの巣の中)は、テレビや本、雑誌の中で見るのです。これらの画像は情報を提供すると同時に、常に楽しみと刺激の基にもなっています。視覚障害のない幼児向けの物語の本は文字よりも絵が多く、高年齢の子ども向けの本でさえいくつかの挿絵があるのが普通です。子ども向けのノンフィクションの本で絵の入っていないものを出版するなど考えられないことです。

弱視もしくは全盲の子どもにとっては状況は全く違います。このような子どもたちは、ほとんどの子どもが当然のこととして日常目にする光景を奪われているだけでなく、通常は挿絵が全くない本を使って読み方を学ぶことを期待されています。ページをめくったら次にはどんな楽しみがあるだろうか、ためになるだろうか、怖いだろうか、または面白い挿絵がでてくるのだろうかという楽しみはこの子どもたちにはないのです。さわる挿絵の入っている児童図書の数は極めて少なく、その大半は自分の子どもが楽しみながら学べるものを作ろうと必死になっている両親、教師などが作成したものです。この忙しい大人たちは特別な手工芸の技術を持っているわけでもなく、訓練を受けたわけでもありませんが、どうにか工夫してきちんとしたさわる絵本を作成しています。しかし、その絵本を楽しむのはわずか一人か二人の子どもだけです。たいていの場合このような絵本は急いで作られ、すぐにばらばらになってしまいます。

すべての視覚障害児一人一人のニーズと希望を満足させるに足る十分な数のさわる絵本を作成することは望むべくもありませんが、私たちは楽しくてわくわくするようなさわる絵本をたくさん紹介することは出来ます。視覚障害児は自分の指が何を探検しているのかを理解するために手助けを必要とするでしょうが、これらさわる挿絵は触察能力を発達させ読書意欲を高めると同時に、新しい概念と語彙の世界を開いてくれるのです。

このような理由で2000年にクリアビジョンはイギリスにさわる絵本の図書館を作ることを決定しました。

背景

クリアビジョンは全国郵送貸し出し図書館で、13,000冊以上の蔵書には一般児童書に点字を打った透明なプラスチック・シートが挟み込まれています。どの本も墨字使用者と点字使用者が一緒に使えるので、視覚障害のない家族やクラスメートの助けを借りて子どもが点字を学んだり、視覚障害のある親が視覚障害のない子どもに本を読み聞かせたりすることができます。

これらの本を使えば視覚障害のない友人が読んでいる本を視覚障害児も読むことが出来るのですが、中にはさわる挿絵は使われていないのです。ですから、さわる絵本のコレクションはこれまでとはかなり違う新しい情報資源なのです。

このプロジェクトを開始する前に私はフィンランドのヘルシンキにあるセリアさわる絵本図書館を訪問し、そこで多くの絵本を見てきました。何年にもわたってさわる絵本図書館を成功裏に運営してきた方々とさわる絵本図書館の運営に関する様々な面について話し合うという、貴重な機会を得ることが出来ました。

私たちは最初にこの新しいプロジェクトの予算を立てました。クリアビジョン図書館では既に建物(大きい部屋が1つ)、スタッフ(2名)、小規模の倉庫スペースと既存の目録作成・貸し出し方式を持っていました。ですから、検討すべき主要事項は、スタッフの勤務時間延長、さわる絵本の購入費もしくはその作成用材料の購入費、そしてこの新しいサービスの宣伝に要する費用でした。私たちの目標は3年間で1,000冊のさわる絵本を入手することでした。プロジェクト全体の予算見積もりは31,000ポンド(当時のイギリスの平均年収のほぼ1.5倍)でした。募金活動でこの目標を達成するのに1年半かかりました。

私たちの当初の意図はイギリス国内や世界各国からできるだけ多くのさわる絵本を購入することでしたが、すぐ判明したのは購入できるような適切な絵本はほとんどないということでした。どこの国にもないのです。そのようなわけで新しい図書館用のコレクションの多くはボランティアによる手作りにならざるを得ませんでした。つまり、既製のさわる絵本を購入する費用は予定より少なくて済みましたが、ボランティアの皆さんとの打ち合わせや研修の実施およびデータ表やサンプルの提供に非常に多くの時間と費用を必要とすることになりました。イギリス各地の自宅で作業して下さった数百人のボランティアの皆さんのおかげで、今現在1,000冊以上の様々な種類の素晴らしい手製のさわる絵本コレクションが出来上がりました。

どんな絵本でしょうか?

私たちの新しいコレクションのうち700冊は布製で、生地や物の形、形のある物が本のページに縫い付けられています。このやり方がボランティアの人たちにとって満足できる一番作りやすい方法でしたし、大半の人はこの種の本を作る道具や材料を既に持っていました。布の絵本は手触りがよく、幼い子どもたちにとってはもっとも丈夫で安全といえます。形のある物はページに糊付けするよりは縫い付けたほうがしっかり留まり、ページも破けることはありません。またコラージュ仕立ての絵本もあり、様々な素材がページの上で組み合わされています。絵本の中には実物の真空成型を挿絵としてページ上に貼り付けたものもあります。

また、線を盛り上がらせた挿絵を使った絵本もあります。これは一般のメーカーによるスクリーン印刷で、線を盛り上がらせるためにインクではなくレジンを使用しています。蔵書のうちの1、2冊はスウェル・パーパーで作られた挿絵を使っています。このスウェル・パーパーという特殊な紙にはアルコールの入ったマイクロカプセルが組み込まれています。マイクロカプセルは熱に触れるとどこでも黒い色の下で破裂して、ページ上のその部分だけ盛り上がります。一般的には、線の盛り上がりやスウェル・ペーパーは、幼児にとっては触って分かりたいという興味を強くもつようなものではありません。

絵本のほとんどはイギリスで作成されましたが、ドイツ、ノルウェー、フィンランド、フランス、チェコ、そしてベルギーで作られたものも多少あります。もともとは英語以外の言語で作成された絵本もありますが、当館の蔵書は英語版です。

すべての絵本にさわる挿絵がついていますが、音(ベル、音のボタンなど)、匂い(ラベンダー、スパイス類などが縫い付けてある布の袋に入っています)がついているのもあります。絵本の題材としては、童謡や昔話、創作話、数字、アルファベットの各文字、早期学習、日常生活などが取り上げられています。ほとんどの絵本は視覚障害児のためのさわる絵本として特別に作成されたものですが、既存の一般の絵本にさわる挿絵を付け加えたものも多少あります。ほとんどの絵本に点字と拡大文字が付いています。

誰が使うのでしょうか?

これらの絵本が弱視または全盲の子どもにとって計り知れない価値があるのは明らかです。また、まださわる挿絵がものめずらしい高年齢の子どもにも喜ばれています。

きわめて多くの視覚障害児が視覚以外にも学習障害を持っています。つまり、簡単なさわる絵本であっても、視覚障害児の場合は障害のない子どもよりも遅い年齢で使用するほうが適切なことがあります。視覚障害以外に学習障害のない子どもでも年齢が低い時には発達に遅延があることもあります。ですから、さわる絵本はかなり広範囲の年齢の子どもたちに楽しんでもらえると考えています。

さわる絵本は全盲の子ども同様、弱視の子どもにも楽しんでもらえます。強い色のコントラスト、拡大文字、光を反射する素材などを使っているので多少視力のある子どもにとっては特に楽しめる本です。

手作りの絵本は、小さな物を喉に詰まらせてしまう可能性のある乳幼児にとって通常は安全なものではありません。これらの絵本を利用するときは子どもから目を離さないようにする必要があります。

どんなものが良いさわる挿絵になるでしょうか?

さわる挿絵を作成するということは、印刷された挿絵を単に隆起させるだけの問題ではありません。視覚障害児にとって有意義なさわる挿絵とはどういうものかを考えることが大事です。カフェ全体を小さな箱(chip carton)で表現したり、一片のタオル地やセラミックのタイルでお風呂場を表現したりします。田舎の小道はページを横切る一本のくねくね進む線で表すことが出来ます。バナナの房も指のように広げれば1本ずつばらばらに触ることが出来ます。挿絵を作成する人は、子どもがその中の何に集中するかということを熟慮して、余分なものを除外する必要があります。子ども向けの単純なさわる絵本のデザインや作成に関する情報は、インターネット、各種出版物、さらにこの会議のほかの発表でもたくさん入手できます。

さわる挿絵における一番重要な点は、子どもが自分自身の指で触って探検することを楽しむことです。大人は、子どもが触っているものを解説したり、なぜそこにあるのかその理由を理解できるように手助けをします。触っているものが何であるかを識別して当てたり外れたりするテストであるかのようなことを示唆してはいけません。さわる挿絵を創作するときは、あらゆる努力をしてできるだけ単純で簡単に理解できるものにしなければいけません。

次に挙げるのは低年齢の子ども向けのさわる絵本すべてに当てはまるいくつかの簡単な規則です。

  • 「安全」-縫い付けであれ糊付けであれ、重要なのはすべてを確実にページに取り付けるということです。小さなものや織りの粗い布は、窒息の原因になる可能性があるので避けます。毒性のある糊や、先のとがったものなども避けます。
  • 「単純」-幼い子どもにとって単純すぎる絵本などありません。大半の絵本は複雑すぎます。
  • 「小さい」-ページの大きさは子どもの小さい手でもさほど努力することなく触って分かるぐらいのサイズが良いでしょう。ページが大きすぎると部分的に触りきれない挿絵がでてくる可能性があります。
  • 「短い」-一つ一つの挿絵を手で探るのは時間がかかります。ページ数が多ければ子どもは絵本を読み終える前に飽きてしまったり、初めの方を忘れてしまったりします。幼い子どもにとってはわずか数ページで十分でしょう。
  • 「丈夫」-子どもは取り付けられているものを絵本からもぎ取ろうとするでしょうし、噛んだり、投げたり、上に座ったりするかもしれません。頑丈であればそれだけ長持ちします。可能なところはスポンジできれいに拭き取れるようにしておくことです。
  • 「良い刺激を与える」-ざらざらしている、滑らか、硬い、柔らかい、暖かい、冷たいなど、様々な種類の生地を使うことです。コントラストの強い色や、反射したりキラキラ光ったりする材料を使って弱視の子どもに刺激を与えるようにします。

絵本はどこから来るのでしょうか

私たちの絵本の中では、視覚障害のない乳幼児用にデザインされ、商品として作成された一般用の布の絵本はごくわずかです。そしてその大半は、有意義なさわる挿絵という観点からはほとんど意味をなしていないのですが、時にはさわる絵本と称してもいいようなものが出版されています。私たちのコレクション初期の一冊は、服を着るというテーマの一般の子供向けの本で、ファスナー、ボタン、スナップなどが付いています。

クリアビジョンでは熱成形による挿絵を使った絵本を数冊デザインしました。数十ページの本よりも数百ページの本を印刷するほうがスケールメリットがありますが、同じことが専門的に作成される熱成形にも言えます。私たちは、王立盲人援護協会(Royal National Institute for the Blind、RNIB)と、クリアビジョンのデザインによる6種類各200冊の絵本の制作費をRNIBがクリアビジョンに支払うという提携を結びました。私たちが全種類それぞれ20冊を購入し、RNIBは残りを学校、家庭などに販売するという内容です。蔵書数1,000冊の図書館が同じ絵本を200冊も所有することが合理的でないのは明らかです。

絵本の中には海外から購入したものもあります。どの国でも市販されているさわる絵本はほとんどありません。私たちが購入したのはカナダの会社から出ている簡単な線を盛り上がらせた挿絵の付いている絵本でした。クリアビジョンはTactusというヨーロッパのさわる絵本作成者団体のメンバーです。Tactusは毎年コンテストを開催し、ここで入賞した絵本は作成されて参加各国で販売されます。クリアビジョンはこれまでTactusで入賞したさわる絵本を全種類それぞれ数冊ずつ購入しました。

私たちの絵本の一部はコラージュで、通常は一般的な本の出版を中心に仕事にしている小人数のボランティア・グループが作っています。左のページには既に出版された絵本の文章が印刷され、点字が付いていて、右側のページには印刷の絵から着想を得た簡単なさわる挿絵が糊付けされています。

私たちの図書の大半はボランティアが縫製した布の絵本です。これらの布の絵本を無報酬で作成している人たちのほとんどは、工芸グループ、婦人会、教会のグループなどに所属している高齢の女性たちです。高齢の女性の多くは裁縫技術が上手で、子どもと過ごした経験や子どもが何に興味を持つかについて経験があり、絵本を縫う時間があります。新たな手芸活動を求めていた人たちがこの新しいプロジェクトを歓迎してくれる、私はその熱心さに驚かされています。中には、数人の女性が協力して一冊の絵本を作成したところもあります。さわる絵本を縫うのに高価な材料や道具は必要ないのです。

ある大学の織物・ファッション学部の学生たちもまた科目の一部としてかわいらしい想像力に富んだ絵本を作成してくれました。この学生たちは最終資格認定のための点数を獲得し、作成した絵本はすべてクリアビジョンに寄付されました。このような創造力のある若い人にもっと多くこのプロジェクトに関わってもらうようになれば素晴らしいことです。

100冊以上の布の絵本は刑務所に入っている女性によって作成されました。イギリスの刑務所の多くは縫製作業場を持ち、受刑者が刑務所の職員や同じ受刑者の衣類を作っています。その中の3ヵ所の作業場がクリアビジョンの仕事を引き受けており、他の人のデザインを基に布の絵本を作成しています。このようにして私たちの図書館に寄付された一冊の愛らしい絵本は、10冊、20冊、時には30冊の愛らしい絵本に増えていくのです。すべて同じデザインです。ただ、時にはわずかな違いが生じることもありますが、それは問題ではありません。クリアビジョンは材料を提供しますが、刑務所は作業にかかる費用は請求しません。これらの絵本は作業場責任者の管理のもとに作成され、その水準は高く、刑務所ではこれをやりがいのある作業と考えています。同時に実用的な縫製技術も向上します。この活動は、もちろん、受刑者の社会復帰に親身になっている刑務所当局に依存しています。

さわる絵本の作成は複雑で時間がかかる一方で、部数は一つのデザインに付き数冊のみ必要とするだけです。イギリスでは人件費が高いので私たちのデザイン通りに作成してもらうとその費用はとてつもなく高額になってしまいますが、今述べた方法は他の図書館にとっても一つの選択肢になるだろうと思います。

ボランティアの研修

様々なグループに話をしたり、絵本作成のためのガイドラインを準備したり配布したりするために多くの時間を使っています。どれほどの指導を人は必要とするのかについて私は当初過小評価していました。私たちは、送付した短い説明書で絵本を作成してくれると考えていました。多くの人は絵本の作成については熱心に考えてくれましたが、説明書以上の支援を必要としたのです。現在、私たちはさわる絵本の写真を載せた説明書、布の絵本の作成方法を記したA4版一枚の説明・指導書、そして実際の完成絵本を用意しています。多くの人は要求されるイメージを描くためには実際に絵本を手にとって見る必要があると感じています。さわる絵本という概念自体がたいていの人にとって新しいものなので、これは驚くことではありません。

私たちはボランティアには自分自身のアイディアを基に絵本をデザイン・作成してくださいと依頼しますが、その際、次に挙げるものの一つを基本にすることを提案しています。

  • 童謡または簡単な詩
  • 昔話(どこの文化でも良い)
  • 数えること、形、成長、またはアルファベットの文字など、物を覚え始める時期の事柄
  • 日常生活(例えば服を着る、友達の家に行くなど)
  • 自分で書いた簡単な物語

私は、可能な限りいつでも関心を持つ人たちのグループに話をし、さわる絵本を実際に見せて情報を与えたり創作意欲をかきたてたりしています。少人数のグループに依頼された時は、同じ地域のほかのグループにも声をかけるように要請して、参加者の数が出来るだけ多くなるようにし、私が出かけて行った意義がさらに深まるようにします。ボランティアの人たちが実際に絵本をデザイン・作成する前により多くの情報を得ることが出来れば結果的により良いものが仕上がります。

時には、さわる挿絵にはもっと規則をつけるべきであるとか、その規則を守らない絵本は処分するべきであると言われることもあります。しかし、さわる絵本は絶対数が不足していますし、子どもは絵本の中の何であれ触って分かるものを見つけて感動するのです。そういう状況の中で厳しい規則の長いリストをつけてボランティアの人たちの意気をくじいてしまうのはとても残念なことだと考えています。もちろん、絵本の中にはよく出来ている絵本もあればそうでないものもありますが、大半は満足できる仕上がりですし、中には本当に素晴らしい出来の絵本もあります。万が一作成・寄付された絵本が私たちの図書館にふさわしいものではなかった場合、私たちは地元の学校でその絵本の納まる場所を見つけます。

さわる絵本の貸し出し

私たちの図書館は郵送による貸し出しの図書館で、その対象範囲はイギリス全土です。本には「視覚障害者用」というラベルをつけて郵送しますので、郵送するときも返却するときも送料はかかりません。貸し出しは一回に付き5冊まで、借りる期間は4ヶ月までです。

絵本の借り手にはその絵本を使う子どもたちの年齢、能力、特別なニーズや興味の対象、またどれだけ注意深く絵本を扱うことが出来るかなどの詳細な情報を求めます。それをもとに私たちは在庫の中から適切な本を選び出します。

手作りの絵本を低年齢の子どもに貸し出す上で私たちが大きな懸念を持つのは安全性です。主な心配事は、子どもがページから何かを引き抜いてそれで窒息してしまうのではないかということです。こういう状況があったため私たちはさわる絵本図書館の開設を何年も躊躇してきました。しかし、さわる絵本の必要性はあまりにも大きかったので何か手助けになることをしなければならないと決心しました。

私たちの図書館は郵便を利用する図書館ですので、会員が建物を訪れて本を選ぶとか司書も顔見知りであるという図書館とは位置づけがかなり違います。このような場合の司書は、子どもが絵本を分解しようとするかどうかを判断する立場であり、同時に親による監督についてより良い考えを持っている人ということになります。

私たちは確実に絵本を安全に利用し楽しんでもらうために4つの段階を設けました。

  • 絵本を作成するすべての人に安全問題について説明し、確実に高い安全基準で作成することを求めています。
  • すべての絵本の裏表紙には、窒息の危険性についての警告、その絵本が3歳未満の子どもには適さないこと、および親の監督が常に必要であることを記したラベルを付けています。
  • 絵本は学校などの教育機関にのみ貸し出しています。絵本はそこで専門家によって詳細に検査されますが、この専門家とは当の子どもを良く知っており、その子どもがその絵本を使っても安全か(そしてその絵本がその子どもにとって安全か)どうかを決定することが出来ます。彼らが良いと考えれば、子どもが家庭で絵本を利用できるように親に許可を出すことが出来ます。
  • 教育機関の責任者はさわる絵本を借りる前に、さわる絵本は大人の注意深い監督の元で3歳以上の子どもにのみ利用させることに責任を持つ、という趣旨に同意する書式に署名しなければなりません。

成功の度合い

この新しい図書コレクションは温かく歓迎されています。現在では120の学校に貸し出していますが、知る人が増えるにつれてこの数も増えています。

中にはこれらの絵本への感謝について私たちに手紙を書いてきた学校もあります。ある先生は、視覚障害児に文章を読み聞かせているとその生徒はページの間に指を入れて次のさわる挿絵を探そうとした、と言ってきました。これは次のページが待ちきれないという確実な兆候です。

イギリスの視覚障害児の多くは普通校に通っています。障害のない子どもたちの中で視覚障害のある子どもはたった一人だけということもあります。私たちのさわる絵本は視覚障害のない子どもにとっても非常に興味をそそられるものです。たいていの普通の絵本よりはるかに面白いし魅力に富んでいるからです。これは視覚障害児の意欲にとって良いことで、障害のないクラスメートとの交流を促進することになります。

将来

私たちは最近当初の目標であった1,000冊を達成しましたがさらに蔵書を増やして特別なニーズに対応したいと思っています。これまでは低年齢の視覚障害児や学習障害のある子どもに焦点を当ててきましたが、高年齢の子どももまたさわる挿絵の入った絵本を楽しむであろうことが明らかになってきました。挿絵の様式も種類もこれまでとは違うものが必要になるだろうと、今、様々な可能性を探っているところです。さらにノンフィクションの絵本や特に少年向けの絵本を増やすことも考えています。

クリアビジョンは点字図書館として出発したので低年齢の点字読者のための本の供給源として最も良く知られています。ここで所有しているさわる絵本は学習障害があるために情報媒体を活用できないでいる子どもたちに適しています。そのため私たちはさらに推進活動を行なって重複障害児に関わっている人たちにこの新しいサービスを広める必要があります。視覚障害のほかに重複する障害のある子どもの多くは、私たちのさわる絵本を楽しめるはずなのにまだ利用する機会が無いのです。

私たちの図書館にあるさわる絵本の多くは芸術作品です。展示されていると必ず大きな関心を呼び賞賛の的になります。また、弱視や視覚障害のある子どもたちのニーズについて認識を高めるという目的にかなうものです。これらの絵本の数冊を普通の展示会、ブック・フェアや美術館などで展示していただき、一般の人にも評価していただきたいと思います。

これらのさわる絵本は素晴らしい絵本です。私たちはその絵本について是非皆さんに知っていただきたいのです。

掲載者注

Typhlo & Tactus
http://www.tactus.org/

視覚障害児のためのさわる絵本の製作を促進するために、アイデア、リソース、専門知識を共有することを目的とするグループである。

ベルギー、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ポーランド、イギリスのさわる絵本に関わる機関が参加している。

EUの中でたくさん利用される質の高いさわる絵本を提供するために、毎年さわる絵本のコンテストを開催し、優勝した本を参加国の言語で大量に製作して、普及に努めている。

この活動に、イギリスから参加しているのが、マリオン・リプリー氏が所属するクリアビジョン・プロジェクト(ClearVision Project:http://www.clearvisionproject.org/)である。

Typhlo & Tactusのポスター発表(2007年8月21日)
Typhlo & Tactusのポスター発表(2007年8月21日)


Typhlo & Tactusのさわる絵本(2007年8月21日)
Typhlo & Tactusのさわる絵本(2007年8月21日)


パヴィ・ヴォーティライネンさん(セリア視覚障害者図書館(フィンランド))(左)とマリオン・リプリーさん(クリアビジョン・プロジェクト(イギリス))(右)(2007年8月21日)
パヴィ・ヴォーティライネンさん(セリア視覚障害者図書館(フィンランド))(左)とマリオン・リプリーさん(クリアビジョン・プロジェクト(イギリス))(右)(2007年8月21日)


備考:この文献のオリジナルは以下URLに掲載されています。
(英語)http://archive.ifla.org/IV/ifla73/papers/156-Ripley-en.pdf