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視覚障害児にとってアクセシブルな絵本

ビアトリース・クリステンセン・ショールド

リサーチャー/インターナショナルコーディネーター

スウェーデン国立録音点字図書館(TPB)

IFLA視覚障害者図書館分科会会長

項目 内容
会議名 IFLA(国際図書館連盟)年次大会2007(ダーバン、南アフリカ)
発表年月 2007年8月23日

摘要

スウェーデン国立録音点字図書館(TPB)は1992年以来、就学前(1-7歳)の児童を対象としたさわる絵本の制作を進めてきた。このような本では、テキストが点字と大活字の両方で印刷されている。その制作基準は、触覚に関する研究や、弱視の人の色の知覚能力に関する研究に基づいている。そのため、このような本は、弱視の子どもだけでなく、全盲の子どもにも楽しんでもらうことができる。

TPBは既存の児童書をアクセシブルにするという選択をしたが、これはスウェーデンの著作権法により可能となっている。触れて見る絵は、オリジナルのコピーではない。なぜなら、触覚では知覚できない細かい部分は省略しなければならず、また、色や陰影、そして視点を変えなければならないからである。

点字付きのさわる絵本は、読むスキルの発達を助けるうえで重要な役割を果たす。目が見えない子どもは、目が見える子どもほど「記号を読む」経験が多くないので、似たようなスキルを獲得できる機会を提供する必要がある。さわる絵本を早い年齢で使用することは、このような初期の読みのスキルを発達させる一手段であるといえる。

TPBは、ジョン・M・ケネディとイヴォンヌ・エリクソンによる、視覚障害者の絵の知覚方法に関する研究結果に基づいた、特別なデザインを開発した。さらにTPBは、出版社やイラストレーター、およびグラフィック産業界を対象に、さわる絵本、すなわち「すべての人のための本」の作り方に関するガイドラインを作成するプロジェクトを実施している。

キーワード:さわる本、点字、視覚障害児、障害児、すべての人のためのデザイン、公共図書館

はじめに

私たちは画像に満ち溢れた社会で暮らしている。ここで語る視覚文化には、家庭や路上で、あるいはバスや電車の中で、私たちを取り巻いている画像が含まれる。さらに、私たちの身の回りには、あらゆる種類の看板、道路標識および情報掲示板もある。さまざまな環境の中で活動するために、私たちはこれらの記号を解釈する方法を知っておく必要がある。記号学は、記号の解釈と記号理論を扱う科学である。しかし、私は記号学について発表するつもりはない。ただ、子ども向けの絵本を研究している科学者たちによって適用されている、これらの理論の一部について語るつもりである(2006年フェレニウスおよびエリクソン)。

私は絵本について語るが、特に全盲および弱視の児童を対象とした、さわる本について詳しく話したい。

絵本にはそれ自体が備えている二つの機能がある。 1) 物語を絵で再生する 2) 物語/文章中で語られていない詳しい内容を付け加える

挿絵つきのおとぎ話は、児童の言語発達を助けるタイプの文学として良い例であり、大人がこのタイプの本を子どもに読んで聞かせるのは重要である。大人が子どもと一緒に読むときは、普通、絵を指し示しながら、ものの名前を言う。このような方法により、子どもは絵を見、描写されたものの名前を学び、絵と実物との間の関係を理解する訓練を受けるのである。私たちはこのようなタイプの学習をほとんど意識しておらず、それどころか、絵は私たちが直観的に知覚し、理解するものだと当然のように考えている(同文献)。子どもに絵本を読んでやったことがある人ならだれでも、子どもの興味を引くのは、小さな部分である場合が多いとわかっているだろう(同文献)。この小さな部分を巡って、大人と子どもとの会話が始まるのである。このため、絵、あるいは絵の一部に関する子ども自身の解釈が、もう一つの重要な局面として追加される。

絵は、目が見える子どもだけでなく、視覚障害児にとっても重要である。カナダの研究者、ジョン・M・ケネディは、視覚システムと脳が画像をどう処理するのかを研究している。ケネディによれば(1992年、1996年)、概略図を描くことは、生まれつき目が見えない人を含め、すべての人間に共通している。ケネディは、視覚障害者でも、隆起した線を描く道具を使って、目が見える人と同じように描くことができるということを証明した。ケネディは、「私たちは一般に、視力という知覚システムを通じて、形や外見が心に訴えかけてくるものと考えている」と指摘した。しかし、ケネディの実験で、触れることによっても、ほとんど同じように情報を伝えられることが証明された。さらにケネディは、最も明白な理論として、簡単な描画では、それぞれの線が何らかの外見あるいは形の物理的な境界を示すと述べている(1996年)。

本の中の触れて見る絵

ケネディの理論は、TPB(スウェーデン国立録音点字図書館)によるさわる絵本の制作に適用された。制作作業は、現在ゴテンブルグ大学の講師を務めているイヴォンヌ・エリクソンによって1992年に始められた。エリクソンは、触れて見る絵に対する子どもの触知覚について、幅広い研究を実施した。

エリクソンは、一枚の絵の中で、触覚によって知覚可能な部分はすべて、触れて見る絵へと変換することができるという結論に達した。TPBが制作した絵本は、オリジナル制作とは呼べないが、しかし、印刷された図書を変換した作品であるといえる。コラージュのテクニックと組み合わせたシルクスクリーンが使われているが、ときには、シルクスクリーンの方法で制作された構成だけが使われることもある。テキストは大活字および点字で印刷されている(2006年エリクソン)。

コラージュの絵では、強い色彩のさまざまな素材を使用するので、色のコントラストもよい。弱視の人でも絵の細部が見えるように、コントラストを強くする必要がある。非常に視力が低い弱視の子どもでも、絵を見ることと絵に触れることが同時にできる(同文献)。

絵はカラーだが、「視覚的な」絵では非常に多く使われているように錯覚される陰影は、まったく見られない。これは、色の陰影を触れて知覚することができないからである。触れて見る絵の中で陰影が表現された場合、それは新たな形であると知覚され、読者が絵を知覚する際に混乱が生じる。

触れて見る絵では、ほとんどすべての形や物体は前か横、あるいは上から見た状態で描かれる。この原則に従うことで、さまざまな形が認識しやすくなるのである。触知覚が可能なのは、たとえば、角、縁、線、隆起によって表現される表面の感触の違いなど、はっきりとわかりやすい形だけである。これらの要素すべてが、触れて見る絵のデザインに同時に影響を与えている(1997年、2006年エリクソン)。

アクセシブルな絵本

TPBは、幼児および低学年の子どもを対象に、年間3-4冊の絵本を制作している。その目的は、すでに出版されている図書を、全盲および弱視の子どもたちにとってアクセシブルにすることである。よく知られている作品や、私たちの「文化遺産(おとぎ話)」だけが制作されている。幼児向けの一番簡単な本には、ありふれたものが描かれており、ストーリーは何もない。しかし、テキストは、たとえものの名前だけであっても、点字と大活字の両方で印刷されている。

その次の段階として、「うさこちゃん」シリーズのような、簡単なあらすじの本がある。文章はリズミカルで覚えやすい。童謡の本もこのタイプの別の例で、大変人気がある。その次の段階は、これよりも長い物語で、民話の場合もある。たとえば、TPBではノルウェーの民話「三匹のやぎのがらがらどん」を、さわる絵本として制作した。

前述のように、絵の最も重要な部分だけが触れて見る絵に変換される。それでは、TPBでは、どのようにして、オリジナルの絵のどこの部分が、触れて見る絵にふさわしい、最も重要な個所であると決定するのであろうか?ここにいくつかの例をあげて示す。

オランダ人ディック・ブルーナによる「うさこちゃん」シリーズは、コントラストがはっきりしていてわかりやすいのだが、ときどき、オリジナルの絵ではうさこちゃんの姿が知覚しにくいことがある。ある絵では、うさこちゃんの腕が体の上にのっている。この部分が修正されなければ、子どもはうさこちゃんの腕を、服の一部だと解釈してしまうであろう。そこでTPBでは、腕が体から離れて突き出ているように描き直した。

次の例は、さまざまな車についての本である。私がこの本を選んだのは、ほとんどの車は、子どもに限らず視覚障害者全員にとって抽象的なものだからである。オリジナルの本では最初のページに、大型トラックとその運転手、そしてトラックより小さい車を運転し道路工事をしている三人の人たちが描かれている。皆、石や砂利を降ろしている。では、この絵の中で最も重要な部分はどこであろうか?TPBでは、石を降ろしている大型トラックであるという結論に達した。それはオリジナルの絵の中でも最も大きい部分を占めている。しかし、TPBでは大型トラックの描写の細部を省略し、視点の位置も変更した。オリジナルでは、大型トラックは後方から斜めに見て描かれているが、触れて見る絵では、横正面から描かれている。このように視点を変更したのは、前述のように、横や前や上から、つまり直角方向からの描写の方が、触れて見る場合にはわかりやすいからである。

車についての絵本

できるだけ早い段階で点字を

さわる絵本は、視覚障害児に早い年齢で点字に触れさせるが、これはTPBがこのような図書の制作だけでなく、貸し出しにも力を入れている理由の一つである。

ストックホルム教育大学の研究者であるカースティン・フェレニウスは、視覚障害児ができるだけ早い段階で点字に触れる機会を得ることが重要であると指摘している。視覚障害児は、目が見える子どものようには身の回りにある印刷された文字を見ることができないので(2006年)、読むスキルの発達のための第一段階である、いわゆる「記号を読む」機会がない。たとえ二歳の子どもが点の集まりを文字として読み取ることができなくても、そのような記号になじむことが重要なのである。しばらくすれば、子どもはその点の集まりの意味を尋ね始めるだろう(2006年フェレニウス、2004年エリクソン)。

触れて見る絵を読むには

親(大人)は、触れて見る絵を理解する子どもの能力について、非現実的な期待を持たないことが重要である。なぜなら、触れて見る絵の読み方を身につけることは、学習が必要なスキルだからである。子どもの点字に対する興味についても、それが確実にあるとはいえない。一般に、点字への興味は、点字図書を数回読んだ後に出てくるものである。忍耐が肝心である!

触れて絵を知覚することは、目で絵を見ることと同じではない。目が見える人は、細部だけでなく絵全体も同時に見て、その絵が何なのかを理解するため、頭の中で想像をたくましくすることができる。触れて見る絵に触れるときはその反対なのだ。はじめに、細部に触れて感じ取り、それから全体像へと進む。一つ一つ、一部分ずつ、絵がまとまっていき、ついには全体像が分かるのだ。しかし、触れて見る絵を完全に理解するためには、もし絵を読んだ経験があまりなければ、その絵が何を表しているのかをあらかじめ知っておく必要がある。そこで、子どもに何が描かれているのかを教え、絵の中に出てくるすべてのものについて伝えることが大変重要となる。触れて見る絵にいくつものものや人が描かれている場合、それらが絵のどこにあり、どんなふうに配置されているのかを子どもに伝えなければならない。

子どもに読み聞かせをするときは、通常、一緒に座り物語を楽しむ。読んでいる内容について知っているかどうか、子どもに尋ねることもあるだろう。あるいは、おとぎ話のように初めての経験をもたらす作品では、それについて話す機会が得られるかもしれない。物語の中に子どもが知らない言葉が出てくることがあるように、触れて見る絵とそれに伴う文章に、子どもが知らないものが描かれていることもあるだろう。物語と絵についても話をするので、子どもは読みのプロセスに参加し、絵をどのように「読む」のか、学び始める。読み聞かせは、新しい世界をともに発見する機会を与えてくれる。

多くの視覚障害児にとって、さわる絵本を読むことは、絵とかかわる最初の経験であり、のちに学校の教科書で出会う絵や図への重要な導入となる。さわる絵本を通じて、幼いころに絵に親しませることは重要である。学校や正式な学びの場で、初めて絵に触れるというのは、子どもにとって難しい場合が多い。しかし、これらのスキルを早い段階で開発するプロセスは、楽しくなければならないということを忘れてはならない。これは学校の授業ではなく、遊び半分の学びなのである。

人は絵をさまざまに解釈する。視覚障害児が独自の方法で絵を解釈しても、大きな問題ではない。最も重要なのは、子どもが絵の中の隆起した部分が何か特定なものを表しているということを理解することである。TPBが制作したある本には、床に落ちた編み物の一部を表した物体が載っている絵がある。この編み物を、カーディガンだと考える子どももいれば、絨毯だと考える子どももいる。重要なのは、絵を何か意味のあるものとして解釈する能力が子どもに備わっていることである。それがあってのちに、さまざまな絵が何を表しているのかが説明できるのだ。この一手段として、絵と実物との比較があげられる(2006年エリクソン)。

視覚障害児にとってさわる絵本を理解できるようになるまでには長い時間がかかる場合がある。子どもがある本に興味を示さないからといって、別の本にも関心がないというわけではない。単に子どもがその本を面白いと思わないだけかもしれないし、十分わくわくさせられるような本ではないというだけかもしれない。何よりも大事なのは、読書は面白くなければならないということだ!だから、幅広い分野にわたって、さわる絵本を用意することが重要なのである。

公共図書館の役割

TPBはさわる絵本を視覚障害児の親に直接貸し出している。しかし視覚障害児に限らず、このような本を必要としているすべての子どもたちに、TPBの本を読んでもらいたい。印刷物を読むことに障害があるすべての人に対する図書館サービスは、公共図書館システムの一部として組み込まれているので、このような図書の貸し出しもまた、サービスの一部である。スウェーデンの公共図書館では、さわる絵本は、いわゆる「りんごの棚」と呼ばれる場所で見つけることができる。このコンセプトは1993年に導入されたもので、公共図書館の一つが児童図書コーナーに大きなりんごを作り、障害児のための特別なフォーマットの図書資料を展示したことに始まる。その後、事実上すべての図書館が、録音図書、Bliss記号や絵文字を取り入れた本、聴覚障害者のために手話をつけたビデオブック、そしてさわる絵本などを備えた本棚を設置した。図書館はTPBからさわる絵本を入手している。しかしTPBでは、幼稚園だけでなく図書館にもまとまった数の本の貸し出しを行っている。さわる絵本の需要は大きく、そのニーズに常に応えられるわけではない。

結論

これまでの話をまとめると、既存の絵本を修正して、全盲の子どもと弱視の子どもの両方が理解できるような、触れて見る絵とテキストを取り入れた本を制作するために、TPBが確かな研究結果をどのように適用してきたかについて述べてきた。初期の読むスキルを発達させるために、点字と触れて見る絵の両方を早い年齢で子どもに紹介することの重要性を再度強調しておきたい。

最後に、これまでTPBが制作してきたさわる絵本は、商品ではなく、図書館で貸し出すために非常に少ない数だけ出版されていることを記しておく。販売用に制作された本の中には、触れられるだけでなく、ときには匂いまで感じられるものもある。この重大なギャップを埋めようとしている商売があることは喜ばしいのだが、これらの製品について覚えておかなければならない欠点もある。販売用図書の一番の難点は、絵の中で最も重要な部分が、触れる部分とされるとは限らない、ということである。ときおり、あまりに多くの個所が触れる部分として作られていて、混乱を招いていることがある。またときには、触れても知覚できない部分が含まれていることもある。このため、TPB以外の業者による、全盲の子どもと弱視の子どもの両方のニーズに合ったさわる絵本の制作を支援するために、TPBは、グラフィック産業界、出版社およびイラストレーターを対象としたガイドラインとキットの開発を進めている。ちょうど今年、TPBのこの試みが、2006年スウェーデンすべての人のためのデザイン賞を受賞したことを嬉しく思っている。

参考文献

  • Domincovic, K(K・ドミンコヴィック), Eriksson, Y(Y・エリクソン), Fellenius K(K・フェレニウス) (2006年) Läsa högt för barn. ルンド: Studentlitteratur
  • Eriksson, Y(Y・エリクソン)(2004年)Att Läsa taktila bilderböcker. エンスケデ: Talboks- ochpunktskriftsbiblioteket
  • Fellenius, K(K・フェレニウス)(1996年)Reading Competence of Visually Impaired Pupils in Sweden(スウェーデンの視覚障害のある生徒の読みの能力)Journal of Visual Impairment and Blindness(視覚障害ジャーナル)90 (3)p.237-246
  • Fellenius, K(K・フェレニウス)(1999年)Reading Acquisition in children and young people with visual impairment in Mainstream Education(普通学級における視覚障害のある児童および青年の読みの獲得)(Dissertation)(学位論文) ストックホルム:HLS-förlag
  • Kennedy, JM(J・M・ケネディ)(1992年)Drawing and the Blind. Pictures to touch.(描画と視覚障害者 触れる絵) ニューヘーブン:Yale University Press(エール大学出版)
  • Kennedy, JM(J・M・ケネディ)(1996年)How the Blind Draw. (視覚障害者はどのように描くか)Scientific American(サイエンティフィック・アメリカン)1997年1月号



備考:この文献のオリジナルは以下URLに掲載されています。
(英語)http://archive.ifla.org/IV/ifla73/papers/156-Skoeld-en.pdf