音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

IFLAロゴ


認知症の人のための図書館サービスガイドライン

ヘレ・アレンドルップ・モーテンセン(Helle Arendrup Mortensen)
ギッダ・スカット・ニールセン(Gyda Skat Nielsen)
翻訳:(財)日本障害者リハビリテーション協会
日本語監訳:高島涼子

書誌データの補足
項目 内容
発表年 Copyright 2007 国際図書館連盟
原文 「Guidelines for Library Services to Persons with Dementia」(IFLA Professional Reports 104.)(ISBN 978-90-77897-22-5)

目次

序文

謝辞

認知症とは?

認知症の最も一般的な症例

認知症の進行段階

認知症小史

公共図書館の課題

認知症の人にサービスするためには

認知症の人とのコミュニケーション

認知症の人のための図書館資料

在宅の認知症の人に対する図書館サービス

長期介護施設およびデイケアセンターの人々に対する図書館サービス

職員との連携

図書館サービスのモデル

施設での特別プログラムとイベント

読書指導員

民族的および文化的マイノリティ

図書館サービスのマーケティング

結論

参考文献

ウェブサイト

追加資料

執筆者

序文

過去10年間で、多くの国々が認知症関連の疾病に対し、ますます関心を寄せるようになってきたが、これは主に高齢者人口の急激な増加が原因である。認知症は一般に加齢による疾病と考えられているが、若年者でも認知症を患う場合がある。

認知症の人は徐々に記憶を失っていき、人格が大きく変化する場合もある。また身体的制約が増え、日常生活の多く、あるいは大部分において、介助が必要となる。このような精神的および身体的制約にもかかわらず、認知症の人は多岐にわたる図書館サービスから大いに利益を得ることができる。

このガイドラインを発行する目的は、図書館に対する意識の向上で、認知症に苦しむ人々の家族や友人だけでなく、図書館の専門職員、介護者、公共政策立案者にも、多様な図書館サービスや資料が、喜びや娯楽を提供すると同時に、記憶を刺激する手助けもできるということに高い関心を持ってもらうことにある。

これまでの経験から、認知症中期の人であっても、文献を読んだり情報を入手したりすることによって利益が得られることがわかっている。このガイドラインは、図書やその他の図書館資料によって知的刺激を与える方法について、実践的なアドバイスを提供する。さらに、このようなサービスをターゲット層に合わせて調整する方法についても、図書館員に提案する。ここで紹介されている事例は、その大部分が、デンマークの公共図書館から寄せられたものである。

本紙は、IFLA図書館利用において不利な立場にある人々へのサービス分科会(LSDP)の常任委員会による一連のガイドライン出版物の一つで、特別な障害あるいは特別なニーズを持つ人々に焦点を当てている。LSDPによるガイドラインの全リストは、本紙巻末に掲載されている。

『認知症の人のための図書館サービスガイドライン』の執筆者一同は、世界各国の志を同じくする人々からの質問に喜んで回答する所存である。執筆者一同の連絡先に関する情報は、本紙巻末を参照していただきたい。

謝辞

本紙に貢献してくださった多くの方々および各機関に対し、執筆者よりお礼を申し上げたい。特に、IFLA図書館利用において不利な立場にある人々へのサービス分科会(LSDP)の常任委員会の皆様、スウェーデン読みやすい図書センター所長ブロール・トロンバッケ(Bror Tronbacke)氏、デンマーク高齢者情報センター、デンマーク回想法センター、そしてスターリング市の認知症サービス開発センターに感謝を申し上げる。また、LSDPのヴィベッケ・レーマン(Vibeke Lehmann)氏にも、本文の文体および文法について編集をしていただいたことに対しお礼を申し上げる。

認知症とは?

世界保健機関(1)によれば、認知症は疾病が進行した結果である。ある人がアルツハイマー病、または関連疾患による認知症と診断された場合、記憶、思考過程および行動の障害という明白な症状を呈する。初期症状としては、最近の出来事を覚えていられないという問題や、日常的なことや普段よくしている仕事をするのが難しくなることなどがあげられる。また、混乱や、人格の変化、行動の変化、判断力の低下、言葉に詰まる、考えがまとめられない、方向がわからなくなるなどの症状があらわれる場合もある。

認知症は正常な老化の過程ではない。そして社会的、経済的、民族的、あるいは地理的な違いにかかわらず発症する。人それぞれで認知症の症状は異なるが、皆次第に身の回りのことができなくなっていき、日常生活のすべてにおいて支援を必要とするようになる。現在認知症の治療法はないが、医学的な治療によって病気の進行を遅らせることができる場合もある。疾病やけがが原因で起こった認知症は回復することはない。しかし薬物、アルコール、ホルモンあるいはビタミンのアンバランス、もしくは鬱病が原因で起こった認知症は回復する場合がある(2)。

認知症の最も一般的な症例

アルツハイマー病(AD)

アルツハイマー病(AD)は認知症の最も一般的な原因である。認知症のすべての事例のうち、約60%はADに関係があると推定されている(2)。ADは、脳の思考、記憶および言語をつかさどる部分を侵していく。

ADが進行すると、脳の特定の部位の神経細胞が死に、脳が委縮する。これが記憶力、発話、思考および判断力に影響を与える。ADの発症は緩慢であり、通常ゆっくりと悪化していく。現在、その原因は明らかになっていない。ADは、社会のすべての人々に見られ、社会的階級、性別、人種あるいは地理的環境には無関係である。ADは高齢者によく見られるが、若年者でも発症する可能性がある。

ADは、人によって症状が異なる。その影響は主にその人が発症前にどのような人物であったか、すなわち、その人格、健康状態およびライフスタイルによる。ADの症状を理解するには、初期、中期および後期という3つの進行段階に照らし合わせてみることが最もわかりやすいであろう。前述のように、すべてのADの人が後に述べるすべての症状を呈するわけではなく、個人によって症状は異なる。

脳血管性認知症

脳血管性認知症は、認知症のすべての事例の約20%を占める。脳血管性認知症は、血管が損傷を受け、酸素の供給が危険な状態になったときに発症する。脳内で酸素の供給がうまくいかなくなると、脳細胞が死に、その結果小さな卒中(脳梗塞)が次々と引き起こされ、脳血管性認知症になる可能性が高くなる。

(国際アルツハイマー病協会(ADI)(2)より引用)

脳血管性認知症の人の中には、しばらくの間小康状態を保っているが、再度発作が起きた結果、突然悪化する者もいる。これはアルツハイマー病の人の多くが経験する、ゆっくりとした症状の悪化とは対照的である。アルツハイマー病なのか、あるいは脳血管性認知症なのかを判断するのが難しい場合もある。また、これら両方の影響を受けている可能性もある。

(WHO『アルツハイマー病:介護者のための手引き』(1)より引用)

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、認知症の原因としては3番目に多く、全事例の20%以下を占める。レビー小体型認知症は、老化と脳の神経細胞の死が原因で起こる点で、アルツハイマー病と似ている。この病名は、レビー小体として知られる、脳神経細胞の中に発生する異常なタンパク質の塊から名付けられた。

レビー小体型認知症の人の半数以上には、パーキンソン病の症状も発現する。

(国際アルツハイマー病協会(ADI)(2)より引用)

認知症の進行段階

初期段階では、以下の症状を呈する。

  • 言語の扱いにおける困難
  • 深刻な記憶力の低下―特に短期記憶
  • 時間の感覚の喪失
  • よく知っている場所で迷子になる
  • 判断における困難
  • 自発性や意欲の喪失
  • 抑うつや攻撃性の兆候
  • 趣味や活動への関心の低下

中期段階では、以下の症状を呈する。

  • 非常に忘れやすくなる-特に最近の出来事と人の名前
  • 介助なしに一人で生活することができなくなる
  • 料理、掃除、買い物ができない
  • 極端に依存的になる
  • 個人的な衛生面の管理に介助が必要
  • 発話における困難の増加
  • 徘徊、その他の異常行動にかかわる問題の発生
  • 家や地域社会で迷子になる
  • 幻覚を見る

後期段階では、以下の症状を呈する。

  • 食事が困難
  • 親類、友人、よく知っている物が認識できない
  • 出来事を理解したり解釈したりするのが困難
  • 家の中を一人で歩くことができない
  • 歩行が困難
  • 公共の場で不適切な行動をする
  • 車いすに座ったきり、もしくはベッドに寝たきりになる

(WHO『アルツハイマー病:介護者のための手引き』(1)より引用)

認知症小史

認知症(Dementia)という言葉は、ラテン語のde=out from(~から出る)+ mens=the mind(知力)、つまり疾病のために知力が失われる、あるいは損なわれるという意味からきている。

紀元前2000年から1000年頃のエジプト人とギリシャ人は、加齢と高齢とが記憶障害に関連していることを十分認識していた。

中国人は、認知症に「痴呆症」という言葉を使用していた。また老年性認知症には「老人痴呆症」という言葉を使っており、これは基本的には、言葉が不自由で反応がなく、おかしなことをするという特徴がある、高齢者の疾病であると言われていた。

紀元1-2世紀のローマ人、アウルス・コーネリアス・ケルスス(Aulus Cornelius Celsus)およびクラウディウス・ガレノス(Claudius Galen)らは、回復不可能な高度知的機能障害を生じさせることで知られる、慢性の精神疾患に言及していた。

(WHO『認知症とは何か?アルツハイマー病とは何か?』(3)より引用)

フランス現代精神医学の創始者であるフィリップ・ピネル(Philippe Pinel)博士(1745年-1826年)が、1797年に初めて「認知症」という言葉を使用した。

ドイツの有名な病理学者であるアロイス・アルツハイマー(Alois Alzheimer)博士(1864年-1915年)が、1906年、記憶力の低下、見当識障害および幻覚をもたらす異常な精神疾患で死亡した55歳の女性について報告した。アルツハイマー博士が初めて、この疾病を特異な脳の変化と報告したため、「アルツハイマー病」として知られるようになった。

公共図書館の課題

世界の人々の高齢化が進んでいる。現在、世界全体で2400万人が認知症を患っていると推定される。そしてその3分の2は発展途上国で暮らしている。この数字は2040年までには8100万人以上に増加するものと思われる。この増加の大部分は、中国、インドおよびその近隣の南アジア・西太平洋諸国などの、急激に発展しつつある人口過密地域において見られるであろう。

(国際アルツハイマー病協会(ADI)(2)より引用)

このように認知症の人の数が非常に多いにもかかわらず、多くの国々における公共、保健および社会サービスは、認知症の人のニーズの高まりに応じるよう、十分に優先順位がつけられているとはいえない。認知症関連疾患の割合が増加しつつあることから、認知症の人のニーズにこれまで以上に責任を持って対応することが、すべての社会層に利益をもたらすことになるであろう。

これまで司書は、一般に認知症の人に対する専門的な介護の輪に参加してこなかった。知的刺激にかかわるケアよりも、身体的なケアの方に治療の重点が置かれることが多い。

公共図書館のサービスは、すべての人々の情報および余暇活動のニーズにこたえることとされているにもかかわらず、多くの公共図書館では、認知症の人に対する特別なサービスを提供していない。民主主義社会においては、文化、文学および情報にアクセスする権利は、障害者を含むすべての人に与えられている。生活の質は重要な要素であり、誰もができる限り長く社会に完全参加する権利を持っている。

認知症の人が自宅に住んでいるのか、あるいは施設に入所しているのかにかかわらず、文化の違いによって、その受け入れ方や対処方法は異なる。しかし公共図書館は、文化の違いには関係なく、認知症の人に対する特定のサービスや蔵書を調整する道を切り開いていくことができる。北欧諸国やその他の西側諸国では、この課題に対する理解と受容が高まっている。

読み物や音楽は、記憶の刺激に役立ち、同時に喜びや楽しみも提供する。読書や音楽鑑賞は特にいくつかの脳機能に刺激を与える。よく「使わなければ失う」と言われるが、これは真実であることがわかっている。静かな音楽や瞑想的な歌も、緊張感や不安を軽減することが知られている。

認知症に対処するには、常識や温かい心だけでは不可能であり、専門知識と経験も、その解決策の重要な部分を占めると強調しておくことが重要である。つまり、認知症に関する確固たる知識が不可欠なのである。

以下の項目では、ニーズに合わせた図書館サービスや特別な資料が、認知症の人にどのようによい影響を与えられるかを解説していく。

認知症の人にサービスするには

認知症の人にサービスを提供する図書館員は、認知症関連の疾病について豊富な知識を身につけ、これらの利用者がどのように反応するかを知る必要がある。参考となる文献は非常に多い(参考文献参照)。また、図書館員がこの分野の専門家に相談し、関連のある研修や会議に参加し、できればよき指導者とともに、しばらくの間、介護施設で認知症の人を観察することが強く勧められる。サービス計画を成功させるには、複数の専門家による協力が重要である。

成果を出すためには、家族や介護者との密接な協力とともに、忍耐と思いやりも必要である。

認知症の人とのコミュニケーション

  • 認知症の人が、自分が話題になっているのではなく、自分が話しかけられているのだとわかるように、アイコンタクトをとる。
  • 話す前に、必ずこちらに注意を向けさせる。
  • はっきりと、そしてゆっくりと話す。アイコンタクトをとる。
  • 言語障害がある人々にとって、非言語コミュニケーションは非常に重要なので、自分だけでなく、認知症の人のボディランゲージにも注意を払う。
  • 簡単な言葉、短い文を使い、外来語を避ける。
  • 混乱を避けるため、繰り返しや一貫性のある表現を使用する。
  • 創意に富む聞き手となり、理解と寛大さと敬意を示す。
  • 認知症の人には十分な回答時間を与え、「はい」か「いいえ」で簡単に答えられる質問をする。自由に回答する質問は避ける。
  • 会話には日常的な話題を取り入れる。たとえば、天気や、記憶をよみがえらせるようななじみのあるものについて。
  • 落ち着いて支援し、励ましのジェスチャーを使う。

認知症の人のための図書館資料

図書や視聴覚資料は、施設での生活の質を高めることができる。楽しい記憶を呼び起こすことによって、利用者がアイデンティティの感覚を取り戻す手助けをすることができる。

認知症の人は、その生涯において、特別な趣味や関心を持っていた可能性がある。図書や音楽が利用者にこのような趣味を思い出させ、子供時代や青年時代、職業生活や家族の記憶をよみがえらせる場合がある。

絵本

認知症の人は通常、大きく、はっきりとした絵、特に写真を好む。人気があるのは、動物、花、ファッション、子供、田舎、古い車などである。大きく、はっきりとした絵の子供むけの絵本がよい。

図書の朗読

認知症の人は通常、誰かに読み聞かせをしてもらうことを楽しむ。しかし、本文は短く、また話の筋も単純でなければならない。読みの障害を抱える人々のための読みやすい図書も、短い文で書かれており、あらすじも複雑ではないので、適切である。エッセイやおとぎ話、短編小説もよい。冗談や、昔から知られている韻を踏んだ詩、とても簡単なクイズも人気がある。認知症の人の中には、なじみのある詩や歌を聴くのを楽しむ者もいる。このような人たちは、歌に加わり、歌詞を覚えるのに驚くほどの能力を発揮することがよくある。子供むけの作品も、一度で最後まで読み終えられるので、このような活動に取り入れることができる。

介護職員のためのテーマ図書

ある種の図書は、認知症の人との日々のかかわりの中で、介護職員の役に立つ可能性がある。クリスマスやイースターなどの祝日に関連したテーマ図書は、昔からの伝統や、祝日の食事、装飾などについての会話を始めるきっかけとして使うことができる。また、さまざまな国の写真入りの『コーヒーテーブルブック(卓上用大型豪華本)』を使っていろいろな話題を試してみることは、大いに実りある結果を生む可能性が高い。

郷土史

郷土史の人気は高く、読みやすく、わかりやすい言葉で書かれた著名な人々の伝記もまた然りである。過去に関する本は、回想法やグループでの会話に非常に適している。

失語症の人々のためのオーディオブック

失語症の人々のためのオーディオブックは、ゆっくりとしたスピードの朗読で、認知症の人も利用することができる。

音楽

音楽は認知症の人との交流において重要な手段である。言語コミュニケーションが難しい場合が多いが、歌や踊り、音楽鑑賞はそのよき代替手段となる。音楽は認知症の人に次のような機会を提供する。

  • 感情表現
  • 他者との交流
  • 過去の追想
  • 個性の表現
  • 不安や落ち着かない気持ちの軽減

音楽は小集団でも個別でも利用することができる。使用する音楽は、人気があり、なじみのあるものでなければならない。たとえば、

ビデオおよびDVD

誰もがよい映画を見るのを好む。認知症の人は、母語で故国の古い映画を見るのを楽しむ。このような映画は、「古きよき時代」の記憶をよみがえらせる。郷土史および自然に関する映画も人気がある。

その他のメディア

コンピューターゲームなどの、その他の新しい電子メディアは、新世代の認知症の人の興味を引くようになるであろう。多くの高齢者はすでにコンピューターに親しんでいるので、介護者や親類、あるいは図書館員の助けを借りてインターネットで検索することを楽しめるであろう。コンピューターの画面上の画像を、会話を進めたり、特定のテーマについて図解したりするために利用してもよい。図書館員は介護者に関連のあるサイトを紹介することができる。

「回想法キット」

回想法キットは、記憶の刺激に大変役に立つ。デンマークでは、図書館や高齢者施設がこのようなキットをデンマーク回想法センター(5)から借用したり、購入したりすることができる。このキットはテーマが決まっており、古い調理器具や、女性用あるいは男性用の古い化粧品、教科書や学用品、工芸品や道具、園芸用品などが含まれている。キットを開ければ、すぐに会話が始まるだろう!

いくつかの国では、このような回想法キットが出版社から販売されている。たとえば、アメリカ合衆国のバイフォーカル・プロダクションズ(Bi-Folkal Productions)(6)や、イギリスのウィンスロー(Winslow)(7)など。

北欧諸国では、図書館が独自の回想法キットを開発する傾向が高まっており、介護者や地域の歴史協会と協力している例も見られる。

図書館員や介護者のための認知症に関する資料

認知症に関する図書やその他の情報資料の選集も、図書館員や介護者が利用できるようにしなければならない。公共図書館が、広い範囲にわたって選択された認知症に関する図書とその他の資料を、一般の蔵書の一部として提供することが望ましい。

在宅の認知症の人に対する図書館サービス

自宅で生活している認知症の人は、図書館の宅配サービスや図書郵送サービスを利用することができる。認知症の人は、図書館のこのようなアウトリーチサービスの、明確なターゲットであるといえる。

新たな在宅利用者を訪問することは、その人の特別なニーズを確認する上で重要である。認知症初期段階の在宅の人の多くは、配偶者や親類と生活している。これらの介護者に、図書館員が最初に訪問する際に同席してもらい、サービス継続のために家族の一人に窓口となってもらうことが重要である。在宅の認知症の人に対するアウトリーチサービスには、その人の個人的な状況の理解が必要である。認知症の人を日々介護し、そのニーズに対処することは難しいが、適切な図書や音楽、あるいは情報を提供することによって、本人と介護者の両方の生活の質を大いに向上させることができる。在宅介護者およびその他の外部の支援員にも、図書館のサービスを知ってもらい、本人の代わりに図書館とコンタクトをとることを促すべきである。

長期介護施設およびデイケアセンターの人々に対する図書館サービス

長期介護施設

長期介護施設では、認知症関連疾患に苦しむ入居者の数が増加している。いくつかの国では現在、認知症の人のための特別な施設を設立している。このような施設には、認知症に関する特別な教育を受けた職員が配置される予定である。

デイケアセンター

認知症の人のための地域のデイケアセンターが設立されている国もある。ここでは利用者は、さまざまな趣味の活動や遠足、その他の娯楽活動をして、半日、または1日を過ごす。図書やその他の図書館からの資料は、デイケアセンターの利用者に大変喜ばれている。

職員との連携

認知症の人に対する図書館サービスの提供は、結果的に大きな成功を収めた。介護施設を定期的に訪問する図書館員が、施設職員と緊密に協力し合うことが重要である。できれば、図書館員は施設職員の会議に参加するべきである。

認知症の人は、日常生活にある程度決まったことが取り入れられている方が対処しやすいので、訪問する図書館員は、長期間同じ人物であることが望ましい。

図書館サービスを企画する際は、施設職員に疑問点をたずね、参加してもらう。施設入居者の生活の質の向上に、図書館サービスがどれだけ貢献できるかを介護職員が理解するようになるまでには、時間がかかることを心に留めておく。

会話の重要性

図書館資料を配布する前に、窓口として指定された人に、どのような資料を持参する予定かを知らせる。またその人に、関心のあるテーマの推薦を依頼する

訪問する際は、毎回、入居者と職員の両方との絆を育むよう心がける。職員が仕事やプライベートで利用できる図書を持参することを申し出る。

施設に入居者の親類や友人の会がある場合、その会合に参加し、図書館サービスについて話し合う。

図書館サービスのモデル

図書館サービスは、次にあげるさまざまな方法で提供できる。

1.司書による定期的な(例:1か月に一度)図書館サービス

司書は、関心を持つ入居者のために、図書、音楽その他の資料を持参し、施設のすべての部署を訪問する。

このサービスは、リビングルームやアクティビティルームに図書や音楽のミニコレク ションを置くことで補う。このミニコレクションは、訪問の際に毎回入れ替える。

2.施設のさまざまな場所に、図書、音楽、その他の資料を取りそろえて置く。

3か月ごとにコレクションを入れ替える。コレクション交換の際には、職員と入居者に提案、推薦をしてもらう。

3.デイケアセンターの利用者

デイケアセンターを利用する認知症の人に、図書館の宅配サービスを利用する機会を提供する。

施設での特別プログラムとイベント

認知症の人にサービスを提供している司書の中には、施設内で特別なプログラムやイベントを企画し、非常に有意義な経験をした者もいる。このような企画としては、朗読会や映画会、音楽会などがあげられる。企画は、施設職員や音楽療法士などとも協力して行うことができるであろう。司書によるブックトークは楽しい活動であり、ジョイントディスカッションに発展させることもできる。

読書指導員

数年前、スウェーデンの読みやすい図書センターが新たな「読書指導員」計画に着手した。読書指導員は、主に長期介護施設やデイケアセンターの職員の中から採用される。同様なサービスが認知症の人に対しても提供できるであろう。読書指導員の目的は、読書への関心を引き出し、(主に読みやすい図書、短いエッセイ、ニュース記事の)朗読会や図書館訪問を企画することである。読書指導員は、地域の公共図書館で研修を受け、これと緊密に連絡を取り合っていく。(8)

民族的および文化的マイノリティ

図書館は、認知症の人に対するサービスを企画する際、コミュニティにおけるすべての民族的および文化的マイノリティのニーズと関心が考慮されることを確保しなければならない。これは、これらのマイノリティの歴史と経験を反映する図書館資料を選択することを意味する。これらのマイノリティの中には、読み書きができない者や、読みが苦手な者もいるが、そのような人々には、母国のビデオや音楽の人気が高い。

バイリンガルの認知症の人の多くは、ある時点で「新しい」言葉を忘れてしまう可能性がある。そのような場合、図書館員は、その人がわかる言語を話す家族や他の職員に協力を求める必要がある。

図書館サービスのマーケティング

図書館は、認知症の人に対して提供される図書館サービスについての冊子を作成しなければならない。冊子では、施設に対するサービスだけでなく、在宅の認知症の人に対するサービスについても伝える必要がある。冊子は図書館で閲覧できるようにし、また医師、看護師、ソーシャルワーカー、公共の情報センター、およびその他の高齢者とその親類が訪れる場所に配布する。同様に重要なのは、図書館サービスのインターネットマーケティングで、冊子の内容は図書館のウェブページにも掲載する。

結論

執筆者一同は、今回の出版により、世界中の志を同じくする者たちが、認知症の人に対するサービスの提供に関する課題に取り組むようになることを期待している。

最終的な目標は、このような人々に対する図書館サービスが、図書館の基本的なサービスの一部となることである。認知症の人は、他の図書館利用者とまったく同じように、さまざまな趣味や好みを持っているが、それに加えて別のニーズがあり、図書館は他のサービス提供者とともに、そのニーズを満たさなければならないという特殊な立場に立っている。認知症の人と活動することは、確かに困難で、特別な洞察力と知識とが必要とされる。しかし、そのような努力の結果、認知症の人が身体と精神の両方に刺激を受けたという兆候を明らかに示したとき、大きな喜びを感じるのである。

このガイドラインは、さまざまな認知症関連疾患に関する基本的な情報を提供し、認知症の人に対する図書館サービスを確立するさまざまな方法を提案し、そのようなサービスに必要な適切な資料やリソースを推奨する。世界各国の図書館員には、このガイドラインを地域の状況に合わせて適用し、さらに必要な要素があれば追加してほしい。

参考文献

Alzheimer's Disease: help for caregivers
Alzheimer's Disease International
Geneva: Division of Mental Health, World Health Organization
1994. Reprinted June 2000 and January 2006.
www.alz.co.uk/adi/pdf/helpforcaregivers [Accessed 01/05/2007]

Daniel Kuhn and Jane Verity
The Art of Dementia Care.
Thomson Delmar Learning
July 25, 2007, c2008
ISBN-10:140189951X
ISBN-13:978-1401899516

Tom Kitwood
Dementia Reconsidered: the Person Comes First.
Buckingham: OpenUniversity Press
1997. Reprinted 1998, 2000, 2001

Jeannette Larsen
Library Service in the Year 2007 . With Yesterday's Objects.
LSDP Newsletter, 64, June 2007

Jane Verity
Joyful Activities for People with Dementia.
Dementia Care Australia
1997

ウェブサイト

Alzheimer's Disease International (ADI)(国際アルツハイマー病協会)
アルツハイマー協会の統括組織(世界各地の協会の住所を掲載)
www.alz.co.uk(2007年1月5日アクセス)

The Alzheimer's Association(アルツハイマー協会)
アメリカ合衆国
www.alz.org(2007年1月5日アクセス)

Alzheimer's & Related Disorders Society of India(インド・アルツハイマー病と関連疾患の協会)
www.alzheimer-india.org(2007年1月5日アクセス)

Alzheimer Europe(アルツハイマー・ヨーロッパ)
イギリス(スコットランドを除く)
www.alzheimers.org.uk(2007年1月5日アクセス)

Alzheimer Iberoamerica(アルツハイマー・イベロアメリカ)
ラテンアメリカ
aib.alzheimer-online.org(2007年1月5日アクセス)

Bifolkal Productions(バイフォーカル・プロダクションズ)
アメリカ合衆国
www.bifolkal.org(2007年1月5日アクセス)

Chinese Association of Alzheimer's Disease and Related Disorders(中国アルツハイマー病と関連疾患の協会)
www.adc.org.cn(2007年1月5日アクセス)

The Danish Reminiscence Centre(デンマーク回想法センター)
www.reminiscens.dk(2007年1月5日アクセス)

Dementia Care Australia(認知症ケア・オーストラリア)
www.dementiacareaustralia.com(2007年1月5日アクセス)

The Dementia Services Centre(認知症サービス開発センター)
www.dementia.stir.ac.uk/about.htm(2007年1月5日アクセス)

Glasgow Museums Resource Centre(グラスゴー博物館リソースセンター)
www.glasgowmuseums.com/venue/index.cfm?venueid=14(2007年1月5日アクセス)

The Reminiscence Centre, London(ロンドン回想法センター)
www.age-exchange.org.uk(2007年1月5日アクセス)

Winslow(ウィンスロー)
www.winslow-cat.com(2007年1月5日アクセス)

World Health Organizations(WHO)(世界保健機関)
www.who.int/en(2007年1月5日アクセス)

追加資料-IFLAガイドライン

Bror Tronbacke
Guidelines for Easy-to-Read Materials
1997
(IFLA Professional Report No. 54)
www.ifla.org/V/pr/index.htm

*掲載者注:
上記ガイドラインの日本語訳『読みやすい図書のためのIFLA(国際図書館連盟)指針』を掲載
www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/easy/ifla.html


Nancy Mary Panella
Guidelines for Libraries Serving Hospital Patients and the Elderly and Disabled in Long-Term Care Facilities
2000
(IFLA Professional Report No. 61)
www.ifla.org/V/pr/index.htm
www.ifla.org/VII/s9/nd1/iflapr-61e.pdf

*掲載者注:
上記ガイドラインの日本語訳『IFLA 病院患者図書館ガイドライン2000』
(日本図書館協会障害者サービス委員会翻訳)は社団法人日本図書館協会より発行


Gyda Skat Nielsen, Birgitta Irvall
Guidelines for Library Services to Persons with Dyslexia
2001
(IFLA Professional Report No. 70)
www.ifla.org/V/pr/index.htm
www.ifla.org/VII/s9/nd1/iflapr-70e.pdf

*掲載者注:
上記ガイドラインの日本語訳『ディスレクシアのための図書館サービスのガイドライン』を掲載
www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/easy/gl.html


Joanne Locke, Nancy Mary Panella
International Resource Book for Libraries Serving Disadvantaged Persons
2001
(IFLA Publications Series No. 96)
www.ifla.org/V/saur.htm


Vibeke Lehmann, Joanne Locke
Guidelines for Libraries Service to Prisoners
3rd Edition
2005
(IFLA Professional Report No. 92)
(Revised version of IFLA Professional Report 46)
www.ifla.org/V/pr/index.htm
www.ifla.org/VII/s9/nd1/iflapr-92.pdf


Birgitta Irvall, Gyda Skat Nielsen
Access to Library for Persons with Disabilities. CHECKLIST
2005
(IFLA Professional Report No. 89)
www.ifla.org/V/pr/index.htm
www.ifla.org/VII/s9/nd1/iflapr-89e.pdf

*掲載者注:
上記ガイドラインの関連資料として『障害者のための図書館へのアクセス-チェックリストの紹介』を掲載
www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/info/oslo/index.html

執筆者

ヘレ・アレンドルップ・モーテンセン(Helle Arendrup Mortensen)は、リュングビュー・トーベック(Lyngby-Taarbaek)市公共図書館のアウトリーチサービスコーディネーターで、2005年から、IFLA図書館利用において不利な立場にある人々へのサービス分科会(LSDP)常任委員会委員を務めている。また、在宅高齢者および施設に入所している高齢者へのサービスに、数年間かかわった経験がある。2006年から2007年にかけては、リュングビュー・トーベック市公共図書館の全盲、弱視の読者および障害がある読者のための計画のリーダーを務めた。
メールアドレス:hmo@ltk.dk

ギッダ・スカット・ニールセン(Gyda Skat Nielsen)は、2005年末まで、ソレロッド(Sollerod)市公共図書館のアウトリーチサービス部部長を務めた。また、1997年から2005年まで、IFLA図書館利用において不利な立場にある人々へのサービス分科会(LSDP)常任委員会委員の任に当たり、2005年からはLSDPの通信会員となっている。また、在宅および施設入所の認知症患者に対するサービスに、数年間かかわった経験がある。現在はフリーの図書館コンサルタントとして活動している。
メールアドレス:gskatn@mail.dk

脚注

  1. WHO. Alzheimer's Disease: help for caregivers
    www.alz.co.uk/adi/pdf/helpforcaregivers
  2. Alzheimer's Disease International (ADI)
    www.alz.co.uk
  3. WHO. What is dementia? What is Alzheimer's disease?
    www.searo.who.int/en/Section1174/Section1199/Section1567/Section1823.htm
  4. Spring Hill Music. Music for the Mozart Effect
    www.springhillmedia.com/b.php?i=8520
  5. The Danish Reminiscence Centre
    www.reminiscens.dk
  6. Bifolkal Productions
    www.bifolkal.org
  7. Winslow
    www.winslow-cat.com
  8. The Centre for Easy-to-Read
    www.lattlast.se/?page=162