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障害理解のスキル開発をサポートするEラーニング:事例研究

2008年8月11日
IFLA(国際図書館連盟)年次大会2008(ケベック、カナダ)
図書館利用に障害のある人々へのサービス分科会 
境界を越えて-全ての人がより図書館にアクセスしやすくするためのICTの新しい活用法-

マーガレット・E・S・フォレスト(Margaret E. S. Forrest)
イギリス エジンバラ(Edinburgh)
エジンバラ大学(University of Edinburgh)
学術専門司書(Academic Liaison Librarian)

要約

本論文は、2006年から2007年までダンディー大学(University of Dundee)図書館で実施された事例研究について解説したものである。この事例研究では、図書館職員を対象とした障害理解のための研修をサポートするEラーニングモジュールが開発された。このコースは、ADDIEモデルというインストラクショナルデザインを使用して開発された。そしてモジュールの目的について話し合いがもたれ、参加者によるフィードバックが学習教材の評価に使用されている。この研究から、広い地域に分散している機関においては特に、職員の障害理解の促進にEラーニングを使用することに、数多くの利点があることがわかった。

背景

3年前、私はオスロ(Oslo)でのIFLA会議で、当時勤務していたダンディー大学ファイフ(Fife)キャンパス図書館のアクセス監査実施におけるIFLAチェックリスト(イールヴァールとニールセン2005年)の利用に関する要約発表を行った(フォレスト2006年)。2005年の障害者差別禁止法(イギリス議会 2005年)に伴い、イギリスでは障害者関連の法律が最近改正された。障害者差別禁止法は、障害の定義を拡大し、公共機関(大学を含む)に以下の新たな法的義務を課した。

  • 障害者に対する違法な差別の撤廃と機会均等の促進
  • 障害者平等スキーム(Disability Equality Scheme)の公表(2006年12月以降)

ダンディー大学では、障害者の平等に関する法律に対する図書館の対応を調整し、障害のある図書館利用者の情報ニーズを満たすために、リソースを最大限活用することを推奨し促進するアクセシビリティチームを結成した。同チームの最初の仕事の一つがアクセス監査の実施であり、それはファイフキャンパス図書館で実施されたものと非常によく似ていた。当時同大学には9つの図書館があり、アンガス(Angus)のストラカスロ(Stracathro)からファイフのカーコーディ(Kirkcaldy)まで、地理的にも広く分散していた。監査はIFLAによるチェックリストのガイダンスに従って実施され、図書館の物理的な空間と、カスタマーケアや職員の教育研修など利用者に対するサービス全般の、両方の改善に役立つ数々の提案がなされた。

ファイフキャンパスにおける最初の図書館アクセス監査から大学全体の監査に至るまで、職員研修に焦点を当てた本論文は、3年前のオスロでの発表のフォローアップと考えられる。今回は、障害理解研修をサポートするEラーニングの価値を中心に論じていく。このプロジェクトの予備的研究については、最近出版されたライブラリー・レビュー誌(Library Review)の中で詳しく解説している(フォレスト2007年)。

職員研修

大学全体のアクセス監査の結果、図書館職員に対する障害理解研修を支援する必要性を警告されたのを受けて、アクセシビリティチームは、さまざまな研修方法と、そのそれぞれの長所および短所を検討した。たとえば、

  • 職員が参加可能な外部の講師による1日研修
  • 必要に応じて図書館職員が利用できる、障害問題に関するオンラインリソースのレポジトリ
  • 大学のバーチャル学習環境(Virtual Learning Environment: VLE)を利用したウェブ研修

大学図書館は遠く離れた9つの場所に分散していたため、研修日を設けて全職員を教育する方法は実現可能とは考えられなかった。全員が参加できるよう何日も日程を組まなければならないからである。また、オンラインの参考資料だけを使用する方法は、職員を教育する際、さまざまな学習スタイルや情報ニーズに対応できる十分な柔軟性を備えておらず、そのような手段は使えそうにないと判断された。多くの議論を経て、アクセシビリティチームは、ブラックボード社(Blackboard)のソフトを利用した大学のVLEを通じて配信される、すべての職員にとってアクセシブルなオンライン研修コースの開発を始めた。コースは5週間にわたって実施され、参加者は1週間に1時間、これに専念しなければならないと決定された。コース修了後も、学習教材は職員の手元に残され、その後参考資料として使用したり、復習や覚えた内容の訂正などに利用したりできることになった。

モジュールの開発

図書館司書2人と障害顧問2人、IT障害者サポートオフィサー1人、そしてEラーニングの経験が豊富な大学教師1人からなるサブグループが、アクセシビリティチームの下に結成された。

サブグループは、Eラーニング教材の開発をサポートするため、ADDIEモデル(Intulogy社2006年)というインストラクショナルデザインを使用した。そして、職員研修に関わるニーズを、さまざまな研修方法とともに分析した。この分析から得られた情報が、コースの設計と開発に役立てられた。14人の図書館職員が、2006年10月から12月まで試験的に実施された最初の研修に参加し、その際の学習教材に対する評価が、2007年4月の全体での研修に先立ち、コース内容の改善に利用された。

モジュールの目的と学習成果

コース紹介の中で、モジュールの目的と求められる学習成果が明確にされた。Eラーニングモジュールの目的は、図書館職員が障害者のニーズについてさらに学習を深め、そこで理解したことを使って、すべての図書館利用者に対し、利用者中心の卓越したサービスを提供することであった。

コース修了時までに、参加者が以下の内容についてより理解を深めることが期待された。

  1. 障害者差別禁止法と図書館サービスとの関連
  2. 障害問題を論じる際に使用する最適な専門用語
  3. 図書館サービスの提供におけるインクルーシブな実践の促進方法
  4. 学習資料への平等なアクセスを提供するために、どのように情報技術を利用できるか
  5. 印刷字が読めない障害がある読者のために、学習資料をアクセシブルにすることができる代替フォーマット

モジュールの概要

学習成果を達成するために、参加者は週に最低1時間を割くことが求められ、その時間を使って、15-20分間学習教材に取り組む活動を何回か行えばよいとされた。また、参加者全員を対象とした任意参加の初回対面ミーティングもあり、そこで参加者は、Eチューターや参加している他の同僚と顔を合わせた。この最初のミーティングで参加者は、障害理解に関する知識のレベルを判定するための学習前/診断テストを受けるよう求められた。

Eラーニングの教材は、5つの大きなテーマに分類され、毎週1ユニットずつ、それぞれのテーマについて学習が進められた。テーマは以下の通りである。

  • 法律
  • 障害に関する専門用語
  • インクルーシブな実践とカスタマーケア
  • 障害者をサポートする支援技術の利用
  • 代替フォーマットによる資料の利用と作成

コースの構成は、毎週取り組むユニットすべてにおいて一貫していた。読むものがあり、することがあり、考えることがあり、さらに学習を深めたい参加者のために参考文献が紹介された。「すること」は通常、参加者が学習教材に取り組んだり、お互いに情報をやりとりしたりすることを促す、何らかのタイプのオンライン学習活動を伴っていた。たとえばある活動では、参加者にその日職場に来るまでの様子を振り返ってもらい、障害のある人だったら、同じ道のりをどのようにたどることになるか、そして途中で直面する可能性のある障壁は何かを検討することを求めた。参加者はその後、モジュールの掲示板にアクセスし、自分の考えを記し、他の参加者の考えと比較するよう求められた。別の活動では、チームウェブサイト(wikis)を使用し、さまざまな障害種の人々に対する適切なサービスの提供に役立つガイダンスシートを、新しく入った図書館職員向けにグループで作成することを参加者に求めた。支援技術の利用に関するユニットでは、印刷字を読めない障害の疑似体験を試みる活動も行われた。参加者は、画面読み上げソフトを使用し、コンピューターで合成された音声を聞きながら、画面上で資料を「読む」よう指示された。

参加者には、随時オンライン評価を通じて、知識や技術が身についているかどうかを確認する機会が与えられた。コース修了時のアンケートがフィードバックを得るために使用され、学習後のテストの結果が、参加者の障害理解に関する知識レベルに見られる何らかの変化を明らかにするために役立てられた。

評価と参加者からのフィードバック

学習後のテストの結果は、障害問題に関する参加者の知識に、およそ30%の向上が見られたことを示していた。そして、最終アンケートからまとめられたコメントとフィードバックをもとに、さらに評価が加えられた。

モジュールの目的は、障害者のニーズに対する理解を深めるよう、図書館職員に促すことであった。参加者は、自分自身が学んだことについて考え、知識と認識が向上したと感じるかどうか示すよう求められた。79%が、モジュールの目的が達成されたと同意し、次のようなコメントをする者もいた。

  • 障害は、すべて目に見えるとは限らず、誰もが異なるニーズを抱えた一個人であることに気づいた。
  • 図書館が特別なニーズのある読者に提供できる多数の電子的な手段への認識が、はるかに高まった。

ほとんどの参加者(87%)が、求められる学習成果のそれぞれについて理解を深めたと感じていた。

掲示板を使用したオンライン学習活動は、参加者の間で人気が高かった。86%が、この機能の利用は楽しく、理解を深めるのに役立ったと回答した。

  • 掲示板へ参加したことで、他の参加者が出してくれたアイディアや意見から、障害者のニーズについてさらに考えさせられた。
  • 自分が何かの一部であり、孤立していないということ、遠隔地学習コースの貴重な存在であることが感じられた。

もう一つのタイプのEラーニング活動は、オンラインクイズであった。モジュールでは、障害者に関する法律のユニットにこれを取り入れていた。参加者はこのクイズにすべて答え、回答をチェックし、掲示板に参加して、他の参加者と結果を比較するよう求められた。クイズは大変好評で、86%の参加者が、コースにもっとクイズを取り入れてほしかったとコメントした。

参加者は、Eラーニングコースについて最もよいと感じたことは何かを尋ねられた。これに対し数人が、自分に最適の時間と場所で学習することができる柔軟性であると述べた。

  • オンラインコースなら、学習時間を1週間の勤務時間中に分割して収めることができるので、丸一日のセミナーによく見られる「情報過多」よりも楽だと思う。
  • 自分の都合のよい時間に取り組んだり、前に戻って参照することができたり、前のユニットがそれぞれ利用できたり、チューターが利用できたりする。

コースをオンラインで実施することにより、遠隔地の図書館の職員や非常勤の職員も、メインキャンパスを拠点に活動している同僚とともに学ぶことができた。2回目にコースが実施された際には、スコットランドの別の大学図書館からも多数参加があった。掲示板とグループ活動を通じて、参加者はこの近隣施設におけるアクセシビリティの問題について学んだ。そして、他の大学が同じ問題にどう対応しているかを聞くことの意義についてコメントした。

しかし、アクセシブルなソフトウェアに関するユニットに取り組む際には、各大学で違うリソースを使用しているため、異なる学習アプローチが必要であることが判明した。

嬉しいことに93%の参加者が、オンラインコースを同僚に勧めると回答した。数人が、障害理解研修は第一線の職員にとって不可欠であると感じること、また、すべての職員がこのコースへの参加から利益を得るであろうとコメントした。ある参加者は次のように述べた。

  • 健常者として、私たちがどれだけ多くのことを当然と考えているかを学んだ。このコースは物事を違った角度から見せてくれた。

概して、このコースの試験的実施と第1回目の実施に関する参加者からのフィードバックは、それが好評であったことを示している。

研究結果と結論

Eラーニングによる職員の障害理解研修の実施に関するこの小さな事例研究は、この手段の利用に多数の利点があることを示している。これらのほとんどは、他のタイプのEラーニングコースと共通しており、その中には、学生が自分に最も都合のよい時間と場所で学ぶことができるという柔軟な学習アプローチもあげられる。これは特に、遠隔地学習や、広く分散した職場に勤務している職員の研修を望む機関において有用である。この研究で参加者は、意見交換や相互学習のための出会いの場であるオンライン掲示板を高く評価していた。第2回目の研修ではチームウェブサイト(wikis)が使用され、参加者は同一文書にともに取り組み、これをさまざまな方法で修正したり、お互いが書いた内容についてコメントしたりすることができた。オンラインクイズでは、参加者が自分の知識をテストし、誤答から学ぶことができた。このクイズは、希望すればいつでも参加し、繰り返し実施することができた。

Eラーニングモジュールには、Word文書、PowerPointプレゼンテーション、オンライン学習活動、関連ウェブサイトへのリンクやクイズ等、数々の「再利用可能な学習オブジェクト」が含まれていた。これらの開発には非常に時間がかかるが、いったん作成すれば、容易に更新でき、今後の研修でも繰り返し使用できる。5週間にわたる学習教材の定期的なリリースの管理が可能となった結果、学生が教材を進めるのに伴い、そのときのニーズに合わせて慎重に後のユニットを作成することができた。研修をオンラインで実施するもう一つの利点は、従来のコースにつきものの紙と印刷費が節約できることであった。

ある種の障害を疑似体験できる活動を含める試みはあったが、印刷字を読めないさまざまな障害の疑似体験を行うことを目的としているウェブサイトを、もっと活用することもできたであろう。本研究では、多くの参加者とEチューターが障害に関する個人的な体験をしており、これを掲示板で共有することに前向きであった。Eラーニング環境では、健常の参加者を対象としたコースの価値を高めるために、(希望があれば)障害者を匿名で招待し、協力してもらうこともできる。

障害理解の重要な側面はカスタマーケアと対人能力の開発であり、これは対面研修を通じてのみ達成可能であるという主張も当然できるであろう。しかし、このささやかな事例研究は、障害理解のスキル開発をサポートするためにEラーニングを利用することには、(特に広く分散している組織の場合)何らかの意義があることを示していると同意していただければ幸いである。

謝辞

このプロジェクトをサポートしてくださったダンディー大学の元同僚の皆様に感謝申し上げます。

参考資料

  • M.E.S.フォレスト(2007年)『図書館職員のための障害理解研修:オンラインモジュールの評価』ライブラリー・レビュー誌56巻8号707-715頁
    (FORREST, M.E.S. (2007), “Disability awareness training for library staff: evaluating an online module”, Library Review, Vol.56 No.8, pp.707-715)
  • M.E.S.フォレスト(2006年)『アクセシブルな学術図書館に向けて:IFLAチェックリストの利用』IFLAジャーナル32巻1号13-18頁
    http://archive.ifla.org/V/iflaj/IFLA-Journal-1-2006.pdf (2008年7月18日アクセス)で入手可能
    (FORREST, M.E.S.(2006), “Towards and accessible academic library: using the IFLA checklist”, IFLA Journal, Vol.32 No.1, pp.13-18)
  • INTULOGY(2006年)ADDIE(インストラクショナルデザインモデル)
    http://www.intulogy.com/addie/(2008年7月18日アクセス)で入手可能
  • B.イールヴァールとG.S.ニールセン(2005年)『障害者のための図書館へのアクセス:チェックリストの紹介』ハーグ 国際図書館連盟
    http://archive.ifla.org/VII/s9/nd1/iflapr-89e.pdf(2008年7月18日アクセス)で入手可能
    (IRVALL, B and Nielsen, G.S. (2005), Access to libraries for persons with disabilities: checklist. The Hague: International Federation of Library Associations.)
    (掲載者注:(財)日本障害者リハビリテーション協会翻訳
    URL:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/info/oslo/index.html)
  • イギリス議会(2005年)障害者差別禁止法2005
    http://www.opsi.gov.uk/acts/acts2005/ukpga_20050013_en_1 (2008年7月18日アクセス)で入手可能
    (UNITED KINGDOM PARLIAMENT (2005), Disability Discrimination Act 2005)

原文はこちらに掲載されている。

E-learning to support the development of disability awareness skills: a case study
http://archive.ifla.org/IV/ifla74/papers/080-Forrest-en.pdf