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超現代的デジタルライブラリーをめざすデンマーク盲人図書館

エリザベス・タンク
デンマーク国立盲人図書館(DBB)館長、DAISYコンソーシアム会長

項目 内容
会議名 2006年 IFLA(国際図書館連盟)年次大会<韓国 ソウル> DAISYワークショップ
発表年月日 2006年8月17日
原文 DBB on our way to the hyper modern digital library

デイジーの導入と開発を進めるにあたり、デンマーク国立盲人図書館(DBB)はデジタル思考を中心にすえることを決定した。以来DBBは、デジタルという出発点から歩み出すと同時に、アナログが廃れるに伴い、アナログ技術と結びついたすべての思考方法や慣習および伝統を捨て去り、アナログとの関係を解消していくことを常に意識するよう努めてきた。

DBBは、真にデジタルなプロセスの実施に向けて前進していくことを目的としてきたが、それには次のような点が含まれていた。

  • 高速化
  • 個人ユーザーを対象としたサービスの改善
  • ユーザーオプションの増加
  • ユーザー機能の強化
  • 一ユニットあたりの製作費の削減

デジタル思考で重要なのは、複雑なデジタル環境の普及を受け入れつつ、その複雑性がカオスに匹敵するものではないという事実を理解することである。デジタルの世界は混沌としており、不安定かつ曖昧で、矛盾があるようにさえ思えるかもしれない。しかし、それはまた非常に将来性があり、組織における人間の創造力と知的能力が試される世界でもあるのだ。

デジタル思考

新たなデジタル環境の発達はアナログ技術の衰退とともに進んで行くが、そこではアナログ世界で使われていた古い習慣や思考方法に従った実践はもはやありえない。すべての活動は新たなデジタル環境のもとで再考されなければならず、これは組織全体にとって刺激的な課題であり、またすべての作業過程に影響を及ぼす点で複雑な問題でもある。もはやこれまでと同じようにすることはできず、すべてのプロセスは系統立てて考え直されなければならない。

去る2000年に、DBBは「デジタル化」という言葉を開発活動のキーワードとすることを決定し、それ以来この言葉を使用してきた。このように優先順位を決めたことで、組織内のさまざまな部門の資源を、デジタル化を進めるイニシアティブへ新たに割り当てるという長期間にわたるプロセスを正当化することができた。事実このプロセスは過去8年間継続して実施されている。DBBでは資源の利用について繰り返し評価をし、その結果、改革と新思考によって資金が節約できることを確認した。

DBBが恐れているのは、無意識のうちに古い習慣やアナログ思考がデジタルの世界に持ち込まれてしまうことである。私たちの思考やアイディアは、デジタル思考とは別の方法をとろうとする強い感情に引きずられてしまうからである。

そこでDBBはデジタル思考の観点からすべてのプロセスを熟考し、その後DBB内外で多くの点が変更された。

まずDBBは、館内でのデジタル化プロセスの計画と実施を、確実に、最も効率よく、また順調に進めたいと考えた。そこですべてのプロセスがまとめられ、資料の予約から製作、配布から廃棄に至るまで、あらゆる細かい内容について、繰り返し分析と再設計が行われた。

更にDBBは、デジタル化社会にふさわしい製品およびその配布に関して、組織的かつ法的枠組みを開発するため、図書館外部の環境を変えることにも成功した。

DBBの主導により2005年にデンマーク図書館法が改正され、DBBおよび類似機関が、資料の返却を求めることなく、障害のある国民のために資料を製作し、配布することが可能となった。配布した本を将来また貸し出すために返却してもらうのは、あまりに費用がかかりすぎるからである。このようなやり方はアナログ思考に基づくもので、デジタルの世界では無意味だといえる。

首尾よくデジタル化を続け、究極のデジタルライブラリーというすばらしい図書館を新たに創造するのは、実にやりがいのある仕事である。DBBは館内のすべてのスタッフが、これまでの考え方に変わる新しい創造的な思考の必要性を尊重しつつ貢献できるよう、能力向上をはかることに熱心に取り組んでいる。

この大望を胸に抱きながら、DBBはバリアーを取り除くための組織的な開発プロセスに着手し続け、時折、面白く高い成果を上げることに成功しているが、こうなると強力である。なぜなら、このプロセスに関わるすべての人に、更に先へ進めたいという熱意と、楽観と、勇気がもたらされるからである。

デジタル化実施のプロセス

DBBはアナログからデジタル技術への移行を2008年末までに完了することを目指して活動を開始した。この開発活動を通じて、今回のように段階を追って移行を進めることには、長所と短所の両方があることが証明された。

一部のユーザーグループに対する試験がさまざまなプレプロジェクトにおいて実施され、繰り返し行われた作業を通じて、新たなタイプの製品や配布形態が開発されてきたのは、明らかに有益であった。そしてその結果、ユーザーおよびDBBはどちらも、応用の利く確かな経験を得、それが現在進行中のデジタル化への移行に関して、都合のよい解釈と自信をもたらしている。しかし数年間にわたりアナログとデジタルの二種類の生産ラインを稼動させてきたコストは、非常に高くついてしまった。

また、大変成果をあげた事例の一つに、エンドユーザーのためのデジタルブッククラブの開設がある。デジタルブッククラブが初めてDBBに提案されたとき、DBBにはさまざまなデジタル図書を非常に大勢の人々に同時に提供する力が無かった。しかし、利用者はデジタルライブラリーの利用を熱望していたので、DBBはそのような機会を提供する方法を見つけなければならなかった。

デジタルブッククラブは良案であるように思われた。「今月のデジタル図書」を提供することによって、同じタイトルの図書を全員に送ることができた。デジタルオーディオ図書のマスターコピーを製作するのにはコストがかかるが、デジタルコピーの単価は大変安く、また全員を対象に同じタイトルの図書を毎月大量に製作するためには、新たな図書館システムを前もって用意する必要はなかった(当時はまだ新しい図書館システムはできあがっていなかった)。

デジタルブッククラブとともに、DBBはウェブに掲示板を開き、クラブ会員に対して、たとえば技術的な問題や、何が一番よかったか、どうしても受け入れられないことは何かなどのフィードバックを求めた。ユーザーもまたサイバースペースの中でお互いに助け合い、このようにしてDBBは多くの有益な情報と将来への示唆を得た。またこのときにDBBはスムーズな移行プロセスの基盤を設立し、2,000人を超えるユーザーを対象としたサービスを、1ヶ月以内でデジタルサービスへと移行することに成功した。これが完了したのが2006年の5月である。

現在DBBは、館内のすべての雑誌および新聞をデジタルフォーマットに変換することと、ブッククラブ時代からとられていた方法を再利用し、ユーザーへのサービスをアナログからデジタルへと移行させるプロセスを促進することを計画している。

ユーザーと相互にコミュニケーションをとることによって、DBBは新技術が原因で起こるユーザー側の問題について更に多くを知ることができ、また開発プロセスにおいて考慮しなくてはならない重要な問題に注目できるようになる。この点で、ユーザーとのコミュニケーションは大いに推奨される。

DBBのデジタルサービスの利用者

デンマークに住む人が障害のために通常の読み物を読むことができない場合、DBBの会員になることができる。2005年以降、DBBは更に多くのユーザーグループにサービスを拡大してきたが、その結果、以下のユーザーにデジタル化されたサービスが提供されるようになった。

  • 視覚障害者
  • 読みの障害のある人々
  • 身体障害者
  • その他の障害者

2005年以前は、DBBのサービスを受けられるのは視覚障害者だけに限られており、他の障害者は公共図書館を通じてのみ、サービスを利用することができた。

デジタルコンテンツの配信を考えたとき、障害のある利用者が公共図書館を通じて利用を続けるのはかなり時代遅れであると思われた。それよりもむしろ図書館を「バイパス」し、直接エンドユーザーに資料を送る方がデジタル思考の理想に合うと考えられた。そこでDBBでは2006年1月以来この方法をとっている。

この「バイパス」は、図書館の視点からすればかなり物議をかもすものと考えられてきた。図書館の立場も理解できる。しかし社会の中ではこのような傾向が強まりつつあり、それゆえ図書館部門全体としても、今後は現代の状況に適した対処方法を見つけ出す必要がある。

DBBおよびデンマーク国内の図書館で論議や実験的な活動が進められていく中、このような状況についてもしばしば検討されている。DBBと公共図書館との関係は、研究図書館との関係と同様、変化しつつある。組織的かつ法的な枠組みはできあがったが、DBBは今なお多くの図書館コミュニティーと協力し、図書館および出版業界における新たな役割を開発し、また障害のある図書館利用者への支援を提供するために図書館コミュニティーが今後果たすべき役割を見出せるよう支援する取り組みを続けている。これらの開発プロセスは将来も続けられ、DBBにとっては、ここでもまたデジタル思考によるアプローチが中心となる。

デジタルユーザーに関しては、2006年現在のDBBの計画によれば、2005年にデジタル会員となった1,000人に加え、3,500人の新たなデジタルユーザーを獲得することが期待されている。しかし、障害のある利用者がデジタル化されたサービスの利用を始めようとする熱意は、予想を超えた速さで膨らんでおり、そのためこの熱気あふれるヨーロッパの夏に、DBBはデジタルユーザーの数に関する「2006年のミッション」をほとんど達成してしまった。しかし、DBBは所属先である文化省およびユーザー利益団体に対して、デジタルサービスに対する要望の増加に応じるためできる限りのことをすると約束した。

2009年末までに、現在の10,000人に対して15,000人のデジタルユーザーがDBBに個人登録をするものと予想されている。そして新たな製品が更に多くの視覚障害者とその他のさまざまな障害を抱える人々に注目されるようになることが大いに期待されている。

エンドユーザーのためのデジタルサービス―すべて要求に応じて提供

デジタル録音図書は将来に向けたステップである。DAISYの技術を使うことで、ユーザーに高品質の音声と多くの便利な機能を伴ったより優れた図書を、より迅速に製作し、提供することができる。DAISYはユーザーにより多くの選択肢と柔軟性を提供するのである。原則としてユーザーは、録音図書、電子図書および点字図書の中から、製作費の増加を気にすることなく選択することができる。

このように、デジタル図書は現在すべてユーザーの要求に応じて製作、配布されており、またユーザーはこれを所有することができる。

新しい図書館システム

新しい図書館システムはDBBのデジタル機構におけるかなめの一つである。図書館システムは数年間にわたって構築されてきたが、2006年5月以降、今後更に開発および追加により改善するべき点はあるものの、うまく機能している。

DBBのアナログによる図書館システムと同様、「Vubis」といわれる新システムでは、多くのユーザー向けサービスを自動的に処理することができる。デジタル思考に基づき、現在新システムでは、個々の会員のニーズに対応した多数の図書を、自動的に次々とユーザーに提供している。このような仕組みは、ユーザーが必要な図書をスムーズに手に入れるのに役立ち、同時にDBBにとっても大変安価な方法となっている。このようなプロセスを運営するのに必要なスタッフは、最低限のコストで維持されている。

www.e17.dk-アクセシブルな情報への近道

バーチャルインターネットライブラリーはデジタル思考を実践に適用した具体的な例である。現在DBBのオンラインポータルサイト(E17)は日々の図書館サービスの一部となっている。ユーザーは図書館の蔵書を検索し、電子メールで資料を予約したり、さまざまなフォーマットの電子図書を直接ダウンロードしたりすることができる。DBBはe17を通じてダウンロードできるおよそ2,000の電子図書を提供している。

ユーザーは掲示板を通してお互いにコミュニケーションをとったり本を推薦しあったりできる。バーチャルライブラリーはDBBのユーザーグループ向けに特別に設計された総合的なガイダンス機能を備えており、DBBが開発したウェブリーダーというプログラムを使って、E17を合成音声で読み上げることができる。

多くの諸外国の例と同様に、印刷物を読むことに障害があるデンマークの人々はこれまで日刊新聞を利用することができなかった。しかし2,3年前にDBBが日刊新聞社と合意を得ることに成功して以来、ウェブ上で完全にアクセシブルな日刊新聞が提供されるようになり、その結果、この不幸な状況に変化が見られた。この件ではDBBが技術面を担当し、新聞社が費用を負担した。現在DBBは日刊新聞3紙をe17.dkを通じて提供しており、今後3年以内にこれを速やかに拡大することを計画している。

デジタルオーディオ図書

DBBはオーディオ図書のアナログからデジタルへの変換を2002年に開始し、約1年後に作業を完了した。現在DBBはおよそ14,000タイトルのデジタルオーディオ図書を提供している。

デジタルオーディオ図書はCDで配布される。今のところ、DBBはxmlのフルテキストとともに20時間から30時間分の音声をファイルに保存することができる。ユーザーは製作されたCDを所有することができるが、不要になった際には処分するよう求められている。

最近開始されたもう一つのプロジェクトでは、ユーザー機能をいくつかの特別な図書に追加することが試みられている。DBBでは、主にノンフィクション、辞書、教材などのフルテキストによるオーディオ図書やフルオーディオ図書に、絵や写真、フィルムクリップ、その他の画像を加える最も効果的な方法を検討している。またDBBはこのタイプの資料を交換しあうことで得られる国際的な利益は非常に大きいと考えている。

要求に応じた点字図書サービス

DBBはデジタル環境で利用できる点字図書をごく限られた数しか提供していない。具体的にはおよそ1,000タイトルという不十分な数で、デジタル環境において貸し出しサービスを続けることは不可能である。また、20年から40年の間貸し出しされてきた古い点字図書もあらゆる点で非常に状態が悪くなっており、DBBはこれらの古い点字図書を現代の図書館サービスにはふさわしくないものとして廃棄することを決定した。

このため、現在DBBで利用できる点字図書の数は限られている。このサービスの後退を埋め合わせるため、DBBは2006年から2007年にかけて古い点字図書120タイトルを再製作するという異例の決定を下した。これは点字図書サービスの改善に向けた第一歩となると考えられる。

2002年以降、DBBはユーザーからの要求があったときのみ点字図書を提供してきた。ユーザーは予約から2,3日後に図書を入手する。そして図書館は図書の返却を求めない。図書はユーザーが保管し、興味が無くなれば廃棄される。これにより多くの事務処理や手作業が省略される。今のところ、要求に応じて印刷することにより費用が節約されることは実際にはない。また以前に比べて費用が増えたということもなく、収支のバランスは取れている。しかし将来的には経費削減が期待される。

デジタル化された点字譜の作成

DBBは過去60年間以上にわたって製作されてきた多数の点字譜を所蔵している。このような点字譜のコレクションは国際的にも珍しい。点字譜のコレクションは6,000曲にのぼり、点字図書とは異なり亜鉛のシートに保存されているため、うまくいけば世界中の視覚障害のある音楽愛好家のために、デジタル化することができる。

現在DBBはこのプロジェクトのために資金を調達しようとしており、おそらく2008年までには資金が集まると期待されている。

DRM(デジタル著作権管理)ソリューション

すべてのものには値段がついている。デンマーク議会から認可を得、出版社協会とも十分な合意を得るために、DBBは利用者に配布するデジタル製品にDRMソリューションを導入することを受け入れた。

高信頼環境として、DBBはデジタル資料が無認可の発信源から配信されないことを保証している。そのためにすべての図書館利用者にはID番号が支給され、利用者の要求に応じてデジタル資料が製作される際にはその番号が手続きの一部として資料の中に記載される。

CDとして製作された資料には、更に受取人の郵便番号が刻印される。もし図書館の資料が間違って配布された場合、悪用者を確認するためにID番号を使うことができる。

2006年にはオーディオ資料にもデジタルの電子すかしがつけられ、資料を受け取ったユーザーを確認できるようになる。また特に個人ユーザーのために資料を暗号化する方法が研究されている。特定のユーザーを対象に、電子すかしと暗号の両方を資料に加えることもできる。DRM規格とツールの開発プロセスはDAISYコンソーシアムの後援のもとに進められている。

DRMの問題はデリケートな問題であり、当然のことながら、DRMソリューションがいかなる点においてもアクセシビリティのニーズを妨げることがないようにすることが非常に重要である。

経済的な観点

新たなデジタル化の実践はデジタル技術のもつ可能性によって進められてきた。DBBの見解では、コンピューターを通じた資料のダウンロードは、当然デジタル録音図書の配布にとっても有望な前途である。

ユーザーの要求に応じてデジタル図書を配布する結果、資料の輸送にかかる公的な経費が削減されることになる。更に図書館はもはや、返却された資料を受け取り、処理し、棚に戻すための人材や資金などの資源を必要としなくなる。そして最も優れている点は、それまでアナログの手作業によるプロセスのために割り当てられていた資源を、ユーザーのニーズに合わせて、新しく発案されたデジタルのプロセスへと移せることである。

コミュニケーションとPR

世界は開かれている。そして私たちの目標は明白である。しかし私たちが更に先へ行くための道は十分に開拓されていない。少なくとも今までのところは!なぜなら図書館部門全般と特別なニーズを持つ人々にサービスを提供している図書館は、現在の私たちのように、すべての人が情報へアクセスできるよう保証するという、特殊な状況に直面したことがこれまで無かったからである。

DBBはこの困難を最大限に活用するための努力を惜しんではならない。国内では各図書館や情報提供機関と連携し、また国際的にも協力しながら取り組まなければならない。

DBBがかつてこれほどまでにコミュニケーションに注目し、また資源を投入して活動したことは無い。デジタルライブラリーサービスとあらゆる新しい選択肢に関するメッセージを伝え、そして他の情報提供機関、図書館、出版社などに協力の必要性を訴えることが重要である。

DBBは組織を開放しなければならない。そして最後にもう一つ大事なことは、これまでの考えにとらわれず、広い心を持って、革新的な方法で検討していかなければならないということである。

DBBに関する情報

DBBはデンマークの首都コペンハーゲンにあり、同地で全国の利用者のために資料を製作、配布している。

DBBには

11,000人の個人会員がおり、
14,000のデジタルオーディオ図書、
300冊の雑誌、
3紙のデジタル新聞、
利用者の要求に応じて製作された1,000の点字図書(更に製作中)、
1,000ユニットの点字譜(3,000ユニットを更に製作中)があり、
毎年100万ユニットが利用者に送付され、
75名の常勤スタッフがおり、
毎年500万ユーロの資金が政府から支給され、
毎年約50万ユーロの収益をあげている。

更に詳しい情報はwww.dbb.dkおよびwww.E17.dkを参照。