視覚障害者図書館および情報サービス事業の資金調達および管理システム:国際事例研究
第一部:概略報告書
重要な発見
知識と情報
視覚障害者および印刷字を読めない障害がある人々への図書館サービスの提供における、資金調達、蔵書の開発、ユーザー人口へのサービスの浸透、ユーザーの満足度などに関する業績を、国別に比較する客観的な方法はない。多くの事例において、比較をしない場合でも、成果やユーザーの満足度の適切な評価方法はない。
対象となるユーザーグループのインクルーシブな定義とエクスクルーシブな定義
対象となるユーザーグループの定義は、従来の印刷物を使用する能力に基づくインクルーシブな定義から、視力低下に関する医学的な基準に基づくエクスクルーシブな定義にいたるまで、さまざまである。多くの機関は、明白な医学的定義よりも、機能的定義の方を好み、従来の印刷物を読むのが難しい人々すべてにサービスが提供されることを望んでいる。すべてのフォーマットが各ユーザーグループに適切であるわけではないが、目安としては、印刷字を読めない障害がある人々すべてにサービスを提供するよう、製品やサービスを調整するのが当然である。しかしながら、各機関の責任に合致した資料を提供しなければならず、また著作権に関する例外についても調整が必要である。
著作権
著作権に関する制限は、資金調達レベルとともに、回答機関が遭遇する障壁として最も数多く指摘された。主な問題は、著作権に関する例外が十分に総合的かつ一般的でなく、各組織は国境を越えて資料をプールすることができず、その結果取り組みが無駄に重複している点である。
組織と管理
サービス提供機関は一般に、政府による政策決定と財政支援、およびサービス提供について、役割と責任の両方が明確にされているモデルの中で活動することを好む。
ユーザーに、資料をどこで入手したらよいかを伝えるには、組織構造が一つしかない場合か、あるいは役割と責任の分担が明確である場合の方が簡単である。これはまた、サービスの普及を推進するが、このようなサービス事業の主要な目標の一つは、人々がサービスの存在をしっかりと認識し、サービスへのアクセスが簡単であると思えるようにすることである。
政府内の複数の部署で責任を分担するモデルでは、誰も全体像を見ることができないので、提供されるサービスの格差と、連携の欠如が生じる可能性がある。特に教育の場で使用される教材の供給が、責任とそれに伴う資金調達の不明確さの犠牲となっていることが多い。
国の特別な状況や長年受け継がれてきた方法などの制限を受けるため、各機関が、メニューから選ぶようにモデルを選ぶことができないのは明らかである。しかし、カナダの例は、製作と配布における特定の機能(「階層」モデルに見られるような機能)が、自国の特定の機関によってどのように実現できるかを検討することにより、また、役割や資源および責任を、しかるべく再配分するために、(政府を含む)全関係者の全体的なロードマップを作成することによって、他のモデルを採用できることを示している。オランダなどその他の国々でも、中央の製作機関と公共図書館との間で役割を再分担している。
これは明らかに、一夜にして可能なプロセスではない。たとえばいくつかの事例では、各機関の規約を変える必要がある。資源の再配分はきわめて重要であるが、各機関は資金が調達できない場合、新たな責任を担うよう求められることはない。
資金調達
回答者の考えによれば、十分な資金のもとにサービスを提供するには、政府からの定期的な資金援助は、必要条件ではあるが、必ずしも十分条件であるとは言えない。
第三セクターの財源に、大部分、あるいは全面的に依存する場合、ニーズに応じた経費の不足をはっきりと自覚する結果になる(オーストラリア、イギリス、カナダ)。これは、定期的に政府から資金を得ている国ではほとんど認められない(アメリカ合衆国、デンマーク、オランダ、スウェーデン)。しかし、主として、あるいは完全に政府の資金に頼っている国々(日本、クロアチア)では、資金が非常に不足しており、増額するための政治的影響力を得ることも難しいと各機関は感じている。経済状態(南アフリカ、クロアチア)と障害に対する態度に影響を与える文化的要素(特に韓国と日本で顕著)の両方を考慮した場合、政府からの定期的な財政支援が最善と考えられる成果をもたらす。
サービスを提供する機関が、明らかに、同じまたは類似のサービスを提供するために資金調達を競い合っているのではない場合、あるいは、組み合わされることでよりよい結果をもたらす取り組みを重複して行っているのではない場合の方が、全体的な資金調達の問題に容易に対処できるということは、論理的であると思われる。
技術
技術革新は変化の重要な推進力であり、この例は繰り返し、アンケートに回答した各機関によって提供されてきた。技術は、読み物がどのように製作され(たとえば、変換方法、ツール、出版社からのデジタルファイルの直接的な提供)、配布されるか(たとえば、リクエストに応じた点字印刷、直接のダウンロード、ストリーミング、電子図書ファイル、フラッシュメモリ装置、衛星配信、無線配信など)に影響を与える。
さらに技術革新は、製品およびサービスの配布モデルの変更を可能にし、その結果、サービスポイントとしての各機関の役割も変更できる。
このように技術は、これまで可能とされてきた以上に根本的な組織モデルの変更を、ある程度まで(その程度は国によって大きく異なるが)可能とする。
また、すべての関係者がチャンスをとらえなければ、社会における技術の変化により、一般に、従来の印刷物を読むことができない人々は、状態が改善されるどころか、むしろさらに悪化し、取り残されてしまう可能性さえあることも、明らかである。
サマリー(要約)
好ましいモデルについては、注目すべきコンセンサスが出現している。いくつかの例外はあるが、ほとんどの回答者が、民間機関、ボランティア機関、あるいは公的機関のいずれによって役割と責任が果たされるかは問わないが、これらが明確に定義され、調整されたシステムと、政府からの資金援助を受けたサービ事業、できる限り主流の物理的媒体およびデジタル媒体を通じたサービスの提供を好む。
提言
視覚障害者および印刷字を読めない障害があるユーザーへの図書館情報サービスの提供については、一つの「ベストプラクティス」モデルがあるわけではない。状況は国によって大きく異なる。しかし我々は、適切な方法で組み合わされれば政策や慣習の基本となる多数の共通要素を確認した。
サービス提供機関とその代表機関の活動に焦点を当てる方策
1
サービス提供機関は、ユーザーの実体験の評価を含む、正確に比較できる評価基準を開発することにより、サービス事業がどれだけうまく機能しているかに関する知識と理解のレベルを高めることを優先すべきである。(特にサービス提供機関とIFLAに対する提言)
2
視覚障害者と印刷字を読めない障害がある人々を代表し、またその利益のために活動している各機関は、公平なサービスの提供が、公共あるいは民間の慈善の問題としてではなく、市民権あるいは人権の問題と見なされることを確保するために、資源を割り当てなければならない。(特にユーザーグループを代表し、その利益のために活動している組織に対する提言)
3
サービス提供機関による資金調達および資金利用に対する共同アプローチは、ユーザーの利益を最大限に増やすものと思われる。限られた資源をめぐる競争は、資金調達システムから排除されるべきである。(特に国家政府および地方政府、サービス提供機関、その他の資金提供機関に対する提言)
4
責任が明確に定義されているシンプルなモデルは、最も効果的にサービスを提供すると思われるので、関係者は緊急に、明確に定義された役割と責任を設定する機会を吟味しなければならない。(すべての関係者に対する提言)
国際協定のレベルを含む、政府の戦略および政策立案に影響を与える方策
5
本調査に対する回答者の意見の中で圧倒的に多かったのは、提供可能なサービスの改善において、「当然の権利として」資金援助を受けることが極めて重要であるということであった。法律や指令で義務付けられている公平なサービスの平等な提供を実施するためには、慈善寄付ではなく、公共の資金による持続性のある支援が提供されるべきである。(特に国家政府および地方政府に対する提言)
6
各国政府は、出版される情報のコンテンツにアクセスする特別な権利を、視覚障害者が有すること、そして、公共図書館サービスの支援に一部充てられている税金を、視覚障害者が納めていることを理解しなければならない。他の印刷字を読めない障害がある読者と合わせ、視覚障害者は最高で人口の20%を占めている。(特に国家政府および地方政府に対する提言)
7
各国政府は、関連するユーザーグループに図書館情報サービスを提供するすべての機関の役割と責任を明確に定義し、設定する取り組みにおいて、適用される政策と財政支援を提供しなければならない。(特に国家政府に対する提言)
8
視覚障害者および印刷字を読めない障害がある人々の定義は、医学的な規定ではなく機能的なニーズに基づくべきである。アメリカ合衆国の事例は、視覚障害者を対象としたサービス事業は、さらに広い範囲のユーザーグループにサービスを提供するよう、各機関の権限を広げることによって実質的に利益を得られるので、これも考慮する必要があると示唆している。本提言と、やはりユーザーコミュニティの拡大を指摘する、多くの国における明白な人口統計学的傾向を考慮すると、資料の提供について見直す必要があるといえる。 (特に国家政府および地方政府に対する提言)
9
著作権に関する例外は、純粋に医学的な定義との関連で規定されるのではなく、視覚障害者および印刷字を読めない障害がある人々の機能的ニーズと関連付けられるべきである。(特に国家政府、出版社およびその代表機関、欧州委員会、WIPOに対する提言)
10
著作権に関する例外では、特定のフォーマット(たとえば録音図書、あるいは点字)を指定するべきではない。これは、急速な技術の変化が新たなフォーマットを生み、一部の既存のフォーマットが使用されなくなってしまう可能性が高いからである。また、ユーザー自身も、このような発展に遅れずについていくことを希望している。(特に国家政府、出版社およびその代表機関、欧州委員会、WIPOに対する提言)
11
著作権に関する例外では、ユーザーがその独自のニーズを最も効果的に満たすことができるフォーマットのバージョンを選んだり、あるいは製作したりすることを認めるべきである。その判断は、ユーザーの重要なエンパワメントを制限してしまうので、事前にするべきではなく、また例外の定義に具体的に盛り込むべきではない。(特に国家政府、出版社およびその代表機関、欧州委員会、WIPOに対する提言)
12
国家政府および適切な国際機関は、ある国でアクセシブルにされた資料が他国でも使用できるよう合意を確立し、取り組みの無駄な重複の回避を進めていかなければならない。(特に国家政府、出版社およびその代表機関、欧州委員会、WIPOに対する提言)
コンテンツ提供機関および著作権所有者を参加させる方策
13
出版社およびサービス提供機関は、すべての資料をできるだけ早く利用できるようにする活動に、どうすれば出版社がより密接に関与できるかを検討するべきである。たとえば、変換用のすべてのコンテンツのデジタルファイルを作成することが考えられる。事例研究からは、これによってサービスの提供がはるかに効果的となると、回答者が信じていることがうかがえる。(特に出版社およびその代表機関、サービス提供機関に対する提言)
14
出版社は、価格を変更することなく、一連の通常業務の一環として、すべてのコンテンツを代替フォーマットで提供することにより、技術によってもたらされた効率性の向上を、公平なサービス提供の支援に利用することが勧められる。(特に出版社およびその代表機関、国家政府およびサービス提供機関に対する提言)
提言は以下の機関に提出された。
- 国家政府および/または地方政府
- 提言3,4,5,6,7,8,9,10,11および12
- サービス提供機関
- 提言1,3,4,13および14
- 国家政府および地方政府以外の資金提供機関
- 提言3および4
- 欧州委員会およびWIPO
- 提言9,10,11および12
- 出版社およびその代表機関
- 提言9,10,11,12,13および14
- IFLA
- 提言1および4
- ユーザーの代表機関あるいはユーザーの利益のために活動している機関
- 提言2および4
- 掲載者注:
- 原本では、提言に番号をつけていないが、最終ページでは、どの機関にどの提言を提出したのかを番号で整理している。そのため、提言に番号を振って掲載した。