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視覚障害者図書館および情報サービス事業の資金調達および管理システム:国際事例研究

第一部:概略報告書

サービス提供機関とその方法

サービス提供機関

本セクションでは、各国でどのようにサービスが提供されているのか、その類型化を試みる。たとえば、資料を製作し、エンドユーザーへのサービスを直接提供する単一の機関が存在するのか、あるいは、サービス事業は構造化されており、一つまたは複数の機関が資料を作成し、それが別の機関を通じてエンドユーザーへ提供されるのか、もしくは、多数のサービス提供機関が存在し、それぞれが半ば独立して活動しつつ、多少は効果的に協力しあうという、場当たり的な形を取っているのかなど。

中には、比較的簡単なモデルを持つ国も見られる(しかし、これらのモデルが実際にどのように機能しているのかについて、正確に理解するためには、事例研究も参照のこと)。デンマーク国立盲人図書館(DBB)は、一つの機関が直接サービスを提供しているよい例である。スウェーデンは、一つの機関、すなわちスウェーデン国立点字録音図書館(TPB)が資料を製作し、その後、公共図書館を通じてそれを配布するという、構造化モデルのわかりやすい例である。南アフリカもこれに似ているが、教材の提供が行われていないという深刻な問題を抱えており、また資金もはるかに不足している。これらのモデルのいくつかは変化しつつあるが、それは、かなり明確に定義される一つのモデルから、別の同様なモデルへの変化である。たとえばオランダでは、広義での「デンマーク」モデルから広義での「スウェーデン」モデルへと移行している。イギリスや日本などの他の国々では、全体的な戦略の欠如と取り組みの重複に特徴づけられる、きわめて断片的なモデルが認められる。

日本では、サービスの提供に関与している機関の数はイギリスと同程度であるが、日本の回答者がその役割と責任は明白であると考えているのに対し、イギリスではそのような理解は見られない。日本でもイギリスでも、各機関の良好な協力関係が認められるが、日本の方がより組織的であるように思われ、イギリスの方が不確定な要素に依存しているように感じられる。

韓国も、さまざまな専門のサービス提供機関の間で、その役割と責任が明確にされておらず、公共機関と民間非営利機関によるサービスの提供が一つのネットワークに適切に統合されていない例といえる。公共図書館の数は増加しているが、それが視覚障害者に対するサービスの提供において果たす役割は、非常に遅れている。

アメリカ合衆国の状況は複雑であるが、これは、その面積と人口の全体の大きさを考えれば驚くことではない。日本は、人口は非常に多いが、面積は比較的小さく、アメリカ合衆国よりも中央集権的な政府組織を持ち、また文化的にも大きく異なっている。アメリカ合衆国では各州の自治が進んでいるので、たとえば学校には全国的な教育課程はなく、このことが教科書の提供に影響を与えている(ただし、これは現在全国的なイニシアティブによって解決されつつある)。教材(大学院レベルまで)は、民間非営利機関であるRFB&D(視覚障害者およびディスレクシアの人々のための録音サービス機関)により貸し出されている。国立図書館(議会図書館)のもとで運営されている、NLS(視覚障害者および身体障害者のための全国図書館サービス)は、非学習用資料の主な提供機関で、この点において、アメリカ合衆国はスウェーデンタイプの構造化されたモデルを持つといえるが、NLSは専門の地域図書館および準地域図書館を通じて機能しており、公共図書館システムと管理機構および基準は共有しているものの、これとは異なっている。

オーストラリアもまた、断片化の問題を抱えているが、これは主に地理的なレベルでの問題であり、最も人口の多い州では一つの機関のもとで活動が行われているのに対して、その他の州の機関はその傘下には入っていない。

カナダは、ここ数年で、国立図書館、図書館協会および主要な第三セクター専門図書館などの多くの関係者により、公平なサービスのための全国的な戦略の研究とその策定への一致した取り組みが進められてきた、特に興味深い事例である。この協力体制が確立されれば、地域レベルでサービスを提供する図書館と、ネットワークの調整と資金提供を行う連邦レベルの全国的な調整機関、そして代替フォーマットによる蔵書を入手し、カタログ化し、製作し、保管する製作センターという三者の参加による連携構造を基本としたものとなるであろう。構造上はスウェーデンのモデルと似ているが、ネットワークの会員すべてが政府機関というわけではない。しかし、政府による資金援助はまだ実現しておらず、前政府によりいくらかの資金は割り当てられたものの、選挙後、新たな政府となってからは、棚上げされたままになっている。

本書は各国の状況についての要約であるが、「悪魔は細部に宿る」と常に言われるように、詳細については本報告書の第二部の事例研究を参照してほしい。

専門図書館がエンドユーザーに直接サービスを提供している国

デンマーク-デジタルサービスは公共図書館を通さずに提供される。

カナダ-ただし、多くの公共図書館も、専門図書館と連携し、直接ユーザーにサービスを提供している。(下記参照)

  • オーストラリア
  • オランダ(2006年末まで)
  • 南アフリカ
  • アメリカ合衆国(地域・準地域専門図書館およびその他のボランティア機関と民間機関のネットワーク経由)
  • イギリス
  • クロアチア-クロアチア国立視覚障害者図書館が主な提供機関であるが、一般公共図書館とも協力して活動している。
  • 韓国

公共図書館が、専門図書館から支給された資料を、ユーザーに直接提供している国(専門図書館からの直接的なサービスの提供はないか、あるいはわずかである。)

スウェーデン:国が資金提供している国立図書館が、資料と図書目録サービスを提供し、県立図書館がコレクションを築き、地域図書館がエンドユーザーに貸し出す。

オランダ(2007年以降):地域図書館がエンドユーザーにサービスを提供する。移動ができない視覚障害者を対象とする全国サービスは継続し、学習教材は専門図書館で扱い続ける。

専門図書館/サービス提供機関によるエンドユーザーへの直接的なサービスの提供に加え、公共図書館もエンドユーザーに直接サービスを提供している国

  • カナダ
  • デンマーク-デジタル化によりこのモデルは変わりつつある。
  • イギリス
  • オーストラリア-専門図書館が連携していくつかのサービスを提供。その他の機関はサービスを外注。配布モデルは主に州によって異なる。
  • 日本
  • 南アフリカ-公共図書館は、国立視覚障害者図書館から資料のミニコレクションを順番に借りて利用する。
  • 韓国-数は非常に少ない。公共図書館の10%のみ。

国立図書館の役割について

国立図書館に関する「国際水準」は存在しない。各国立図書館の規模や機能は、その歴史的発展や国内の状況に応じて、国により大きく異なっている。

いくつかの国では、国立図書館は、その国のあらゆるレベルにおける図書館情報サービス事業に関する政策や全般的な規定(視覚障害者に対するサービスの提供を含む)について政府に対して助言したり、あるいはあらゆるレベルにおける図書館情報サービスの提供についてその責務と権限を明示したりする、国の図書館当局として活動している。

図書配布の方法

郵送による配布は、郵便料金の補助があることからも、今なおきわめて重要である。CDやカセットテープおよびディスクに保存された電子図書は、郵送することができるフォーマットの例である。たとえば、アメリカ合衆国のNLSでは、ほとんどの図書とすべての雑誌を郵送で配布している。

図書を借りるために図書館を実際に訪問することは、公共図書館を経由して図書を配布するモデル、特にスウェーデン(録音図書の場合。点字図書は通常TPBから直接借りられる)で実施されており、オランダでも今年から行われている。図書館を訪問することができないユーザーのためには別の規定が設けられている。また大活字本についても通常この方法がとられている。

デンマークのDBBでは、電子図書の配布に電子メールを使用しており、電子図書は点字プリンターで印刷したり、デジタル点字ディスプレイを使用して読んだり、PCのスクリーンリーダーや音声合成装置を使用して読んだりすることができる。また大活字に変換することもできる。

デジタルダウンロード

DBBは電子図書が直接ダウンロードできるポータルサイトを持っている。スウェーデンのTPBもデジタルダウンロードへの移行を計画している。カナダのCNIBもまた、デジタルダウンロードとオンラインストリーミングを提供している。

アメリカ合衆国のNLSは、ウェブ上で図書や雑誌および音楽の点字ファイルを提供しており、これらはオンラインで読むこともできれば、ダウンロードしてオフラインで使用したり、点字出力装置などを使って利用したりすることもできる。2007年以降は、デジタル録音図書への移行に伴い、フラッシュメモリに保存されたリクエスト図書(一つの図書につき一つのフラッシュメモリ)を郵送で授受するデュアルシステムを実施し、エンドユーザーやNLSのネットワークに参加している図書館が、自分たちが所有していない図書(特にデジタル化された過去の蔵書)をすべて直接ダウンロードし、コピーを作成できるようにする。これは、直接資料を入手できるようにしてほしいと希望する、新しい資料をすぐに利用したいと考えている利用者と、経済的、技術的な理由などから、これまで通り実際に図書を受け取る方がよいと考える利用者の両方の要求に応じるためである。

このほかにも興味深い試みや実験的な試みが実施されている。

韓国のユビキタス録音図書館は、韓国点字図書館によって製作されたDAISYオーディオ図書を、携帯電話を含む、有線・無線ネットワークを通じてユーザーに配信している。これを教科書の提供にも拡大しようという計画がある。

オーストラリアでは、一部の地域で衛星を利用したサービスを実施しており、これは「ブックス・イン・ザ・スカイ」と呼ばれている。これは南オーストラリア州の王立盲人協会(RSB)と、オーディオブック、新聞、雑誌、学習教材、その他のテキストを、衛星放送を通じて印刷字を読めない障害があるユーザーに配信している民間企業のAudio-Read Proprietary Ltdとが、共同で行っているプロジェクトである。ここでは安全なデジタルマルチキャストシステムと、オーディオナビゲーターと呼ばれる特許を取得済みの携帯型音声再生装置が使用されている。このシステムにより、注文した図書の翌日配信が可能となり、また売店で販売される前に雑誌を入手することが可能となる。資料のコピーはできず、利用履歴がオーディットトレールに残るので、出版社の著作権は保護されることを保証している。このシステムが、試行後、限られた地域だけではあるが、実施されることになるのは間違いない。

デンマークではDBBの点字図書は、リクエストに応じて印刷製作されており、ユーザーの希望により、そのコピーを取っておくことも、破棄することもできる。