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問題はホームレスではない
標準以下の住宅で暮らす人々には革新的な図書館サービスが必要
(抄訳)

スティーヴン・M・リリエンタール(Stephen M. Lilienthal)
2011年6月15日

出典:
The Problem Is Not the Homeless | LJ Feature Story
Library Journal特集記事
http://www.libraryjournal.com/lj/home/890752-264/the_problem_is_not_the.html.csp

ホームレスの数は増加しており、ホームレスを対象とした図書館サービスもまた増加しつつある。にもかかわらず、多くの図書館司書と図書館管理運営者は、ホームレスは非常に複雑な問題であるため、そのニーズに応えることはできないと信じている。それは個人自身の問題を反映していることが多く、ホームレス自身が「問題」だと考えているのだ。しかし、手ごろな価格の住宅が不足していることや、労働と経済の変化にも原因はある。このような状況ではあるが、ホームレスや低所得層の利用者にサービスを提供する活動を進めている革新的な図書館司書と図書館が存在する。その取り組みは、生涯を通じて活動家であったサンフォード・バーマン(Sanford Berman)の刺激を受けた、米国図書館協会(the American Library Association)の方針61の精神を実現するものである(ブラタント・ベリー(Blatant Berry)による”The Problem Is Poverty(問題は貧困である)”参照)。この方針では図書館司書に対し、「米国における貧しい子供、大人及び家庭の増加への対応という緊急のニーズ」の認識を促している。

ホームレスは他人ごとではなく、広く蔓延しており、不況のせいでさらに解決が難しくなっている。「財政面と差押えの危機のために、ますます多くの人々がホームレスになっていくのを、私達は繰り返し見ています。現在、ホームレスは増加傾向にあります」と、全米ホームレスと貧困法律センター(the National Law Center on Homelessness and Poverty)の開発コミュニケーション担当ディレクター、ホイットニー・ジェント(Whitney Gent)は語る。図書館はもっと多くのことができる、とジェントは強く主張する。「図書館は情報スペースですから、ホームレスをやめたり、防いだりするためのリソースを見つける手助けをするという重要な役割を果たすことができます」

ミシガン州アルマ・カレッジ(Alma College)の図書館司書で、元ソーシャルワーカーのアンジー・ケラー(Angie Kelleher)はこれに同意するが、支援範囲については慎重である。「図書館は、良い仕事が不足しているという問題を解決したり、もっと手ごろな価格の住宅を建設したり、より良いヘルスケアとメンタルヘルスケア、あるいは薬物乱用に対する治療を提供したりすることはできません」とケラーは言うが、ジェント同様、ホームレスを支援するために、図書館はこれまでよりはるかに多くのことができると考えている。

サンフランシスコのモデルによるアプローチ

ホームレスを支援するために図書館と図書館司書によって講じられた積極的な措置を見れば、ホームレスを「問題のある利用者」という単純なカテゴリーに分類する考え方が不適切であることは明らかである。すべての図書館利用者は平等に扱われなければならないという考え方は、図書館司書にとっては自己満足を得られるものかもしれないが、ホームレスの図書館利用者の声にただ耳を傾けるという簡単なサービスを含む有用な活動を妨げる可能性もある。

ホームレスを支援するためのアプローチを見直した図書館の一つが、サンフランシスコ公共図書館(SFPL)である。

ホームレスの図書館利用者に、より良いサービスを提供したいというサンフランシスコ市の要請を受け、2009年にリア・エスゲラ(Leah Esguerra)がSFPLで働き始めた当時は大きなニュースとなった。給料はSFPLが支払うが、その小切手は保健省から振り出される。エスゲラは、メディアのインタビューに応じることよりも、カウンセリングが必要な図書館利用者に対応する方を好む。

エスゲラの典型的な一日は、図書館の衛生・安全スタッフ(HaSA)とのミーティングから始まる。HaSAは、市のホームレス・アウトリーチ・チーム(HOT)の利用者だった元ホームレスである。HaSAは現在、図書館のインターンとしてパートタイムで働いている。ミーティングの後、エスゲラとHaSAは、中央図書館の376,000平方フィートのパブリックスペースすべてを歩いて回る。HaSAは自分自身のホームレスの経験を語りながら、ピアカウンセリングを行い、シェルター(緊急一時宿泊施設)と食事に関する情報を提供する。パブリックスペースを歩いて回る間、エスゲラは利用者のアセスメントを行い、政府の支援や、健康面と精神面の問題に対する治療が必要かどうかを判断する。

毎日2、3回、館内をめぐるエスゲラは、しばしば深刻な問題を抱えている人々に遭遇する。また、1日に約5回から8回、図書館職員が質問に答えたり、ソーシャルサービスを紹介したりするのを支援している。エスゲラは、図書館が提供するコンピューターや就職活動に関する講習を活用するよう、利用者にたびたび説得を試みる。通常、英語が堪能ではない人々でも、英語でコミュニケーションをとることは十分可能であるが、タガログ語が堪能で、スペイン語も少し話すエスゲラは、図書館資料をどこで見つけたらよいかを、彼らの母国語で教えることができる。エスゲラは、ホームレスの図書館利用者に関するアドバイスを、SFPL分館の職員や、米国およびカナダの多数の図書館システムの同業者から求められている。

技術とその先への架け橋

ニューヨーク州クイーンズ図書館のヤングアダルトサービス担当コーディネーター、ヴィッキー・テリール(Vikki Terrile)は、図書館がしばしば、不安定な住宅で暮らす家庭のニーズを見過ごしているとの懸念を示している。このような家庭は、ホームレスの一部に含まれ、急速に増加しつつあるとして、多くのソーシャルサービス機関の対象となっている。

テリールは、市教育局のファミリーシェルター連絡係と連携しながら、年に10回ホームレスシェルターを訪問している。そこでテリールは、親子と十代の若者を支援するために図書館が行っている活動を紹介する。訪問を通じてテリールは、コンピューターへのアクセスや研修及び就職活動の支援から、親達が利益を得ていることに気づかされる。「家庭と親もまた、情報を必要としているのです」とテリールは語る。

デンバー公共図書館(DPL)コミュニティ技術センターの図書館司書、メラニー・コレッティ(Melanie Colletti)は、DPLがホームレスと低所得層の女性のためのデイシェルター、「ギャザリング・プレイス(Gathering Place)」を年に4回訪問し、女性達に技術と図書館について紹介していると語る。

DPLは訪問を通じて、就職面接のテクニックとオーディオブック及びMP3プレーヤーの使用方法を指導している。「ギャザリング・プレイス」での講習の後、参加者はバスのチケットを受け取り、中央図書館に見学に行き、図書館利用カードを入手する。コレッティは、「ギャザリング・プレイス」の利用者のスキルはさまざまであると言う。コンピューターを一度も使ったことがない者もいれば、行政や企業の仕事に就き、非常に熟練した技術を持つ者もいる。

DPLは図書館サービス及び技術法(LSTA)に基づく助成金2万ドルを受領し、対象を絞った技術研修とキャリアカウンセリングサービスを、前科のある女性に提供している。これらの女性の一部は、ホームレスであるか、ホームレスになる可能性があり、また「ギャザリング・プレイス」の利用者となる可能性もある。

「私達が出会う多くの女性は、ただ図書館に行くということをためらっています。ですからこのプログラムは、ホームレスではなくなって久しい人でも利用できる、地域のリソースへの架け橋として、本当に役に立ちます」と、「ギャザリング・プレイス」のCEO兼所長であるレスリー・フォスター(Leslie Foster)は語る。

ブッククラブによる連携促進

ブッククラブは、ホームレスの利用者と図書館司書との対話のきっかけとなる素晴らしい手段であることが判明した。

ミシガン州のマーガレット・ケリー(Margaret Kelly)は、トラバースエリア地域図書館(TADL)で成人向けサービス担当コーディネーターを務める一方で、ホームレスを対象としたブッククラブを立ち上げた。同様なクラブを設立したボストンの弁護士に関する『ピープル(People)』誌の記事にヒントを得たのである。

一つの大きな効果は、これが図書館に入り浸っているホームレスとのコミュニケーションのきっかけとなったことだ、とケリーは言う。「ホームレスは一人でいることを好み、社交的ではありません」と語るケリーは、「今日はどんな日だった?」とか「どこで働いているの?」などの会話を始めるきっかけとなる言葉は、ホームレスの人々には適切ではないと指摘する。「参加者はすでに図書館利用者となっていました」とケリーは説明する。「私は、この人達はこういうホームレスであるとか、ああいうホームレスであるというのではなく、利用者としての姿を知りたいと思いました」

宗教理念に基づく「セーフ・ハーバー(Safe Harbor)」と呼ばれる冬期シェルターの取り組みと提携し、ケリーはブッククラブの会合をシェルターで開いた。すると、ホームレスの参加者が聡明な読者であることに気づいた。出席人数はさまざまで、最も多いときで8人がブッククラブに参加したが、目標は「量的成果」ではなかった、とケリーは主張する。ある参加者に目の問題があることに気づいたケリーは、地域の眼科医とライオンズクラブに連絡し、治療を求めた。「私はソーシャルワーカーではありません」とケリーは言う。「でも、地域のリソースについてはよく知っています」

読書の力

当時トラバースエリア地域図書館に勤めていたマーガレット・ケリー(上)は、ホームレスを対象としたブッククラブの活動を推進し、ホームレスの利用者との間にあった壁を取り払った。この取り組みにより、ローリ(Lauri)(右上)のような読者とのかかわりが生まれ、トム・オッカート(Tom Ockert)(右下)が直面していた視力の問題が明らかにされた。

クリーブランド公共図書館(CPL)は、ケア連盟医療センター(Care Alliance Health Center)のブッククラブにパートナーとして参加した。訪問看護師のドナ・ケリー(Donna Kelly)がプログラムの陣頭指揮を執った。CPLは図書を提供し、しばらくの間、図書館司書のマース・ロビンソン(Merce Robinson)が司会として補佐した。CPLはまた、ブッククラブの参加者に、著者の講演会やサイン会への参加を呼びかけた。

ロビンソンとケリーは、図書館司書がホームレス支援のためにできる優れた活動を説明しているが、同時に、図書館が検討しなければならない大きな課題、すなわち持続性も指摘している。ロビンソンによれば、CPLのプログラムへの積極的な参加が、職員の再編成が原因で減少したとのことである。CPLは近い将来、積極的な参加が増えることを期待している。ブッククラブへのケリーの参加は、TADLがゴーサインを出したとはいえ、そのコミットメントは、組織的ではなく個人的であることが判明した。今年初めにTADLを去らなければならなくなったケリーは、「セーフ・ハーバー」プログラム終了まで、数カ月間ブッククラブの会合を開催し続けた。

プログラムの継続

ノースカロライナ州のグリーンズボロ公共図書館(GPL)は、ホームレスと低所得層の利用者にサービスを提供するプログラムを、活発なパートナーシップとサービスに対する強力なコミットメントにより、どのように持続できるかを示した好事例である。GPLは、プログラムの対象となる利用者の声をじっくりと聞くことの重要性も立証している。

12月から3月までの毎週月曜日、GPLでは食事が提供される。この食事の時間は「ウィンター・シリーズ(Winter Series)」と呼ばれ、50人から60人の参加があるが、そのほとんどがホームレスである。ホームレスではない人の中には、この食事を節約手段として利用している低所得者もいれば、仲間を求めて来ている人々もいる。試験プログラムとして開始されたことが、現在では普通に行われており、共同責任者であった図書館司書がいなくなっても継続されている。

ホームレス支援組織の「爆弾ではなく食料を(Food, Not Bombs)」地域支部は、この活動の重要なパートナーの一つである。この組織は、地元の食料品店とパン屋から食料を入手している。また、GPL友の会(Friends of GPL)が、プログラムの図書館負担分として年間200ドルを寄付している。地域機関と関心のある一般の人々からの寄付もある。

当時のGPL電子図書館司書、ジェニファー・ウォレルズ(Jennifer Worrells)は、当初ホームレスがコンピューターの講習と就職情報に関心を持つだろうと考えていた。だが、ホームレスが必要としているものの多くは、「レファレンスカウンターの後ろからは提供できない」ことを学んだ。参加者が、早急に必要なのは寝る場所とヘルスケアであることを明確に示したのである。

「参加者はこう言っていました。『私達には基本的なニーズがあります。あなたが私達に教えたいことをするには、まずしなければならないことがあるのです。髭も剃っていないし、ちゃんとした服も持っていないのに、どうやって仕事に就けるでしょう』」と、GPL公共サービス担当アシスタントディレクター、ブリジット・ブラントン(Brigitte Blanton)は、当時を振り返って言う。散髪がなされ、歯科医による診療も実施され、口腔衛生用品が支給された。また、看護学生と教授が食事の時間に来訪し、参加者を対象に検診を行っている。

このプログラムの結果、公民権をはく奪された人々とつながることができた。グリーンズボロ市長、市議会議員及び郡政委員が特別ゲストとして招待された。ウォレルズは現在、ギルフォード郡の公立学校図書館司書を務めているが、「ウィンター・シリーズ」により、新しいデイセンター計画の際に、ホームレスが地域の指導者と「同じテーブル」につくことができた、と語る。仮設デイセンターは2009年に開設され、今春、全面改修された施設にプログラムが移転された。

「ウィンター・シリーズ」の取り組みは、ホームレスと市の地域指導者及び選挙で選ばれた指導者との対話のきっかけとなった。現在、市内の冬期緊急シェルターの数は増え、「ウィンター・シリーズ」プログラムは、参加者がシェルターの午後7時の門限に間に合うように、早めに実施されている。これは、ホームレスを対象としたプログラムの立案時に考慮すべき重要な内容である。

このような一連のプログラムを実施する利点の一つとして、きっかけを得るのが難しい、ホームレスの図書館利用者との関係づくりが挙げられる。「ジェニファーがホームレスと知り合いになれたので、問い合わせがある場合は、彼女を呼んで尋ねるようになりました」と、ブラントンは振り返る。ウォレルズは自分が去った後も、GPLが引き続き責任を持って「ウィンター・シリーズ」に関与していくものと信じている。

ソーシャルワーカーを巻き込む

カリフォルニア州サンノゼ公共図書館(SJPL)が2009年に立ち上げた「図書館内ソーシャルワーカー(SWITL)」は、ホームレスだけでなく、他の利用者にもサービスを紹介している。このアイディアは、どのような公共図書館でも、またリソースが非常に限られている図書館でさえも利用できる。そして、姿が見えにくいホームレスや、支援を必要としているその他の人々に手を差し伸べる手段を提供する。

「公共図書館会議に出席したとき、ワークショップでホームレスと精神病の問題を取り上げていて、その部屋には人があふれていました。図書館職員はこのような利用者がかかわる状況に対処するのは難しいと考えており、必死で支援方法のアイディアを探していました」と、SJPLパートナーズ・イン・リーディング(Partners in Reading)の家庭識字担当コーディネーターで、SWITLのアイディアを最初に考案したデボラ・エストライヒャー(Deborah Estreicher)は語る。

このプログラムは2009年10月に、宣伝を最小限に抑えて開始された。毎月第四月曜日に会が開かれ、全米ソーシャルワーカー協会(National Association of Social Workers)の会員がボランティアカウンセラーとして参加するが、これは、必要な損害賠償保険料を同協会が援助していることもあり、当然である。SJPLでそれ以前に行われていた同様なプログラムに、図書館内弁護士(LITL)がある。無料プロジェクトに参加しているボランティア弁護士が、20分間相談に応じる。SWITLの印刷資料には、ボランティアソーシャルワーカーが提供する情報は、そのボランティア「一人」の「意見」であり、市や大学または公共図書館の意見を代弁するものではないこと、そして来館の目的は、利用者とソーシャルワーカーの関係づくりのきっかけを得ることではなく、情報と紹介を得ることに限られると、明確に記載されている。

「プログラムは、地域のすべての人々にサービスを提供することを目的としていました。シェルターや就職先を見つけることは、確かに、参加してくれた図書館利用者が直面している重要な課題の一部です。サンノゼ市は通常、食料と衣類を必要としている人にこれらを提供できますが、シェルターは残念ながら高い料金がかかります。お年寄りや女性、子供は、見ていて一番つらいです」とエストライヒャーは言う。

サンノゼ市民とサンノゼ州立大学(SJSU)が共同で利用する中央図書館であるキング図書館は、SJSUのキャンパス内にあり、エストライヒャーと、館長代理でSJSU社会福祉事業学科教授のピーター・アレン・リー(Peter Allen Lee)とが協力しやすくなっている。「ピーターはすぐ隣の建物にいます」とエストライヒャーは語る。プログラム開発に参加したほかの二人の指導者は、全米ソーシャルワーカー協会(NASW)カリフォルニア支部地域B担当ディレクターのグレン・トーマス(Glenn Thomas)と、前任者でグレンの妻のシンディー・トーマス(Cyndy Thomas)である。

リーは大学院生と協力し、包括的なニーズアセスメントアンケートを英語とスペイン語で開発・実施し、360人以上からの回答を得た。「ホームレスは、回答者がアセスメントでニーズを指摘した分野の一つでした。少数の回答者が、現在住む場所がない、あるいは家を失う危険があると回答しました」とリーは述べる。

「家を失った人をシェルターに送ったり、緊急住宅支援を得る方法を教えたり、ストレスへの対処方法を提案したりするなど、あらゆる紹介が可能です。私達は素早く情報を調べることができます」とリーは説明する。ボランティアソーシャルワーカーが作成した、地域のリソースを掲載したパンフレットも利用できるようになった。

シンディー・トーマスは、ただ地域のソーシャルサービスのリストを図書館で利用できるようにするだけでは、効果的な紹介サービスの提供として十分ではないと言う。検証済みのインタビューテクニックを駆使し、移動の問題から自殺性鬱病や中毒に至るまで、さまざまな個人のニーズを理解するために必要な信頼を得るには、時間がかかる。図書館では知識は入手できる。しかし多くの場合、人々は打ちのめされており、与えられた支援を利用するのは難しい。

シンディー・トーマスによれば、図書館で利用者とともに情報紹介活動に取り組む利点の一つは、より臨床的な場に比べて、自分が受け入れられていると利用者が感じているように思えること、そしてその結果、信頼関係が強まることである。

サービスの穂を継ぐ

リーとSJSU 図書館情報学科(SLIS)教授リリー・ルオ(Lili Luo)は、SJSU応用科学技術カレッジから研究助成金を受領し、SWITLモデルをどのように拡大できるかを研究している。SWITLのリーダーシップチームは、プログラムの宣伝を増やすことと、NASWのさらなる関与を得ることに関心を示している。そして、ラテン系やアジア系など、特定の移民集団の支援と、持続可能性の確保を望んでいる。

「ほかの人達がこのモデルをどのように採用し、模倣していくのかを考えると、胸が躍ります。また、ほかの図書館が同様なことをどのように進めていくのか、そしてそれらの図書館とのネットワーク作りにも関心があります」とリーは語る。

さらに多くの図書館が、専門団体やソーシャルサービス機関と連携を築き、LITLやSWITLなどのプログラムを段階的に実施していかなければならない。「医療、法律そしてソーシャルサービスと雇用関係の各機関は、もっと図書館と直接的なつながりを持たなければなりません。ニーズの有無にかかわらず、人々は図書館に向かうのですから」とSJSU図書館司書のフランシス・ハワード(Francis Howard)は言う。

すべての図書館は、ホームレスと低所得層の利用者にサービスを提供するために、さらに多くの取り組みを行うべきである。サンノゼ、グリーンズボロ及びサンフランシスコなどの図書館は、不利な状況にある人々の生活を向上させる可能性を持つ模範的な図書館として、その役割を果たしている。

ホームレスにサービスを提供するための教育

現在、図書館情報学(LIS)のカリキュラムには、ホームレス、貧困者及び失業者へのサービス提供の問題と方法を取り上げているものもある。たとえば、ボストンのシモンズ・カレッジ(Simmons College)図書館情報学大学院の非常勤職員、シェリー・ケザダ(Shelley Quezada)は、「識字能力と、十分なサービスを受けていない人々へのサービス:課題と対応」という講義を行っている。

ケザダは、公共図書館司書が図書館学校で、ホームレスへの対応に関する考え方や、ホームレスがどのような人々かについて指導を受けない場合、ホームレスの問題に不用意に直面することになる可能性が最も高いと言う。

十分なサービスを受けていない人々のことを学生達に知らせたい、というケザダの願いは、一部の人々に刺激を与えた。

ボストンのエマーソン・カレッジ(Emerson College)のレファレンス担当司書、ジョシュア・ジャクソン(Joshua Jackson)は、ケザダの講義から得られた一つの重要な教訓は、図書館司書には、経済的・政治的に疎外されている人々だけでなく、図書館でしばしば見過ごされ、十分なサービスを受けられずにいる人々に対しても、専門家としての責任と社会的な責任があるということだと言う。

ジャクソンは” Finding a Home in the Library: Services for the Homeless(図書館で見つけるホーム:ホームレスへのサービス)”(bit.ly/jgF3Qu)という論文の中でこう主張している。「実際の利用者と潜在的な利用者すべてのニーズに応えようと常に努力することは、図書館と図書館司書の責務であるが、その一方で、ホームレスのような特別な利用者の独特のニーズに敏感なプログラムとサービスを開発することも同様に重要である。結局のところ、平等で民主的な公共サービスへの専門家の献身を検証するに当たり、『私達の中で最も恵まれない人』のニーズがどの程度認められ、満たされているかを知る以上に優れた方法はない」

別の学生で、マサチューセッツ州チコピー公共図書館コミュニティサービス担当司書のアン・ガンカーツ(Anne Gancarz)は、地域の修道女とともに「実質的にホームレス」であるアルコール中毒者と薬物使用者の更生のための救護施設運営に取り組んだ。ガンカーツは住人と知り合うために施設で過ごしたが、住人の多くは、過去の子供時代の経験の乏しさから、図書館にはなじめないと感じていた。ガンカーツは彼らに利用可能なサービスを紹介し、図書館の「親しみやすい顔」を示そうとした。「多くのホームレスは、図書館がそこに、自分達のために存在するということを、わかっていませんでした」とガンカーツは言う。

ケザダはホームレスとそのニーズに対する図書館司書の認識を深めるために、別の方法でも取り組んできた。マサチューセッツ州図書館コミッショナーズ理事会(the Massachusetts Board of Library Commissioners)の、十分なサービスを受けていない人々のコンサルタントとして、ケザダはマサチューセッツ州図書館協会(Massachusetts Library Association)の会合で「ギミー・シェルター・ワークショップ(Gimme Shelter Workshop)」を開催した。講演者は、ボストンとウースターの公共図書館職員と、ボストン市緊急シェルター委員会(City of Boston Emergency Shelter Commission)のジム・グリーン(Jim Greene)で、グリーンは図書館司書に対し、シェルターを訪問し、その住人にとっての図書館の魅力を理解するよう強く促した。

「ワークショップを開催するだけでも、ホームレスの問題と、図書館がホームレスにどのようなサービスを提供できるか、などのテーマの重要性について発表することができます」とケザダは言う。

ホームレスを人として見るコロンビア特別区公共図書館(DCPL)の十代の若者達

全米ホームレス連合(the National Coalition for the Homeless)事務局長のニール・ドノヴァン(Neil Donovan)は、コロンビア特別区公共図書館とともに、ホームレスと十代の図書館支援員とを引き合わせるプログラムに取り組んだ。

カメラとデジタルレコーダー、そして日誌を利用し、十代の若者達はホームレスの生涯と日々の体験を記録した。”Your Story Has a Home Here”という作品は、ワシントン中心部のマーティン・ルーサー・キング・ジュニア記念図書館で上映された。この作品はwww.dclibrary.org/node/10660で入手できる。ドノヴァンは、十代の若者達のホームレスに対する見方が変わったと信じている。ある十代の図書館支援員、ミランタ・クラーク(Miranta Clark)は、地元のニューステレビ局にこう語った。「私は、ホームレスは彼らの問題で、彼らが悪いのだと考えていました。でも、このプロジェクトを経験して、いろいろ学んでからは、必ずしも彼らが悪いわけではないのだと実感しました。」

子供達の認識を育てる

ミシガン州マコーム中間教育学区の専門家、デニス・ジョーブ(Denise Jobe)は、ASK(著者、専門家と知識)と呼ばれるプログラムを通じて、ホームレスの問題に取り組んできたと言う。このプログラムではテレビ会議の技術を使用し、生徒が著者と専門家に質問できる。

二人のホームレスの男と公園で冬を越すホームレスの少年についての、ポーラ・フォックス(Paula Fox)による1991年の小説、”Monkey Island(猿島)”を、中学生が読んだ。そして、学区内のホームレス教育連絡係とシェルターの所長に、ホームレスに関する質問をした。このプラグラムを通じて、豊かなマコーム郡に住む多くの生徒が、地域のホームレスに気づくことになった。

「トップダウン」の支援ではなく連携を

米国図書館協会の社会的責任円卓会議飢餓・ホームレス及び貧困タスクフォース(Social Responsibilities Round Table’s Task Force on Hunger, Homelessness, and Poverty)の元コーディネーター、ジョン・ゲーナー(John Gehner)は、ホームレスを含む社会的に疎外されている人々へのサービス提供を専門とする公共図書館協会(PLA)実践コミュニティの結成を提案している。そして公共図書館司書について、「公共図書館にふさわしい読者にサービスを提供できるようになるだろう」と述べている。実践コミュニティは、リソースをまとめ、PLAのプログラムや州の図書館会議の調整を図り、ベストプラクティスを明らかにするとともにこれを促進し、連携を確立し、試験プロジェクトの資金調達を模索する。

イギリスで注目を集めたソーシャルインクルージョンの理念の信奉者であるゲーナーは、図書館のサービスと方針について発言してもらうために、低所得層の図書館利用者を図書館理事会に参加させるべきだと提案している。ゲーナーは、現在公共図書館の世界で一段と幅を利かせている「トップダウン」の「支援」プロセスよりも、低所得層の図書館利用者とのより積極的な連携を望んでいる。このためゲーナーは、カナダの四年間に渡る「ワーキング・トゥギャザー・プロジェクト(Working Together Project)」に似たプロジェクトを実施する機運が、米国の図書館業界でも高まることを期待している。

カナダ人材技能開発省(Human Resources and Skills Development Canada)によって立ち上げられたプロジェクトでは、四つのカナダ都市部図書館システムにおいて、図書館職員と疎外されているコミュニティの人々との間の、より強力で安定した関係を促進する新たなアプローチとして、地域主導のサービス計画モデルが生み出された。

カナダのノバスコシア州ハリファックス公共図書館の地域開発マネージャー、ケン・ウィリメント(Ken Williment)は、地域主導の図書館活動が公共図書館に新たな理念フロンティアを示すと言う。ウィリメントの見解によれば、支援の成功は、プログラムを作成し、その後それを地域に持ち込んでいく図書館司書にかかっている。

「地域開発では、専門家としての図書館司書の役割を、地域社会独自のニーズの専門家として地域社会を認識する者へと転換します。地域社会と図書館との関係は、信頼の上に築かれ、その後、サービス計画は共同のプロセスとなります。疎外されている人々の大部分は一般の公共図書館利用者ではないため、このモデルの成功は、図書館司書を地域に送り出すことにかかっています」とウィリメントは言う。そして「潜在的な利用者の経済格差を考慮せずに一律に適応される図書館方針は、意図せずして障壁を生みます。地域主導の図書館サービス計画では、オープンエンドのコミュニケーションと共感などの『ソフトスキル』を重視します」と続ける。

「図書館司書は地域社会のニーズに耳を傾け、これらのニーズに基づき、協力してプログラムとサービスを作り出します」とウィリメントは説明する。地域社会のニーズと要望が満たされるよう取り組む中で、プロセスのさまざまな段階において評価がなされる。

執筆者情報
スティーヴン・M・リリエンタール(stephen_lilienthal@yahoolcom) 2007年から2010年までコロンビア特別区公共図書館システムで図書館司書を務める。2007年アメリカカトリック大学(Catholic University of America)で図書館学修士号(MLS)を取得。現在ワシントンDC在住。