矯正と図書館サービス連絡会・第1回研究会
「少年院・少年鑑別所の読書環境~全国調査から見えてきたこと~」の概要報告
井上奈智
矯正と図書館サービス連絡会1)は,矯正施設と図書館との連携充実や,矯正施設内の読書環境整備を目的として,2010年9月に発足した任意団体である2)。図書館員や矯正施設関係者のほか,出版関係者や刑事政策の研究者等で構成されている3)。現時点でおよそ70名の会員が所属している。
最近の活動としては,2014年11月1日に,明治大学において,第100回全国図書館大会公募型分科会「試してみよう!絵本の「読みあい」:「読みあい」が生み出す不思議なチカラを体験する」を開催した。ノートルダム清心女子大学の村中李衣氏を講師に招き,女子刑務所における読み合いプログラムの紹介や,参加者による読み合いの体験を行った。
本稿では,2014年12月13日に,成城大学で開催された第1回研究会「少年院・少年鑑別所の読書環境~全国調査から見えてきたこと~」の概要を報告する。
研究会は,18名が参加し,矯正と図書館サービス連絡会の会員が9名,非会員が9名であった。前半は,「少年院・鑑別所における読書環境等に関する調査」集計結果の概要が報告され,後半は,2014年に改正された少年院法の経緯と,そのうち「読書」の扱いの変化が報告された。報告者は,いずれも,矯正と図書館サービス連絡会の事務局長である日置将之氏が務めた。
1.「少年院・鑑別所における読書環境等に関する調査」集計結果(概要報告)
報告者の日置氏は,大阪府立中央図書館の現役職員であるが,以前に教官として少年院での勤務経歴を持ち,図書館および刑務所をテーマに精力的な活動を行っている。本調査は,日置氏が所属する日本図書館研究会4)が主体となって実施された。調査概要5)は,図表1のとおりである。
図表1(調査概要)
目的 | 少年院・鑑別所の読書環境と図書館の利用状況について調査し,2005年に実施した前回調査時からの変化および少年院法改正前の実態を知ること |
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対象 | すべての少年院および鑑別所各52施設 (計104施設) |
方法 | 質問紙を対象施設に郵送(返答も郵送) |
時期 | 2013年6月~7月 |
回収率 | 少年院28施設,鑑別所29施設 (計57施設 55%) |
※ 前回調査は2005年10~11月に実施(対象は少年院のみ,有効回答数は22)
5年から10年ごとに調査を行うことでその変化を捕捉する想定であり,今回は2013年に,前回は2005年に実施された。2005年の調査との大きな差異は,少年院に加えて鑑別所も対象に含めていることである。ともに法務省が所管する矯正施設であるが,その役割は異なる6)。少年院は,家庭裁判所から保護処分として送致された少年(12歳以上)に対し,健全な育成を図ることを目的として矯正教育の中心を担う施設である。収容期間は数か月程度から時に2年を超える場合もある。一方,鑑別所は主として家庭裁判所から観護措置の決定によって送致された少年を,最高8週間収容する。専門的な調査や診断を行う施設であり,矯正教育はほとんど行われない。
アンケートの回収率は,55%であった。一般の調査に比べるとやや低い印象があるが,施設の性質上,外部の調査に応じにくいことを考えると,回収率はかなり良いといえる。回収率を上げるために,目に留まるように,黄緑色の封筒や記念切手を用いるなどの工夫をしたという。
アンケートは,28の問いからなり,蔵書,予算,図書室や寮内の書籍の配置場所や利用時間帯,漫画・雑誌・新聞・電子書籍・インターネットの扱い,選書方法,貸出方法,担当者の有無,自弁書籍の扱い,読書を活用した矯正教育,少年の読書時間,図書館との連携等,多岐にわたる。ここでは少年院及び鑑別所と図書館の接点を中心に,その結果を見ていきたい。なお,前回調査は,少年院のみの数値である。また,前回調査の記載のない項目は,今回から追加した設問である。
最初に,備付書籍(国が購入している書籍。官本ともいう。)の年間予算および蔵書冊数を図表2および3に示す。年間予算は,厳しい国の財政状況を反映してか,減少しているものの,蔵書冊数が増加していることがわかる。この蔵書冊数には,図書室だけでなく,寮内,集会所・食堂,職員室等の書籍を含む。
図表2(年間予算)
少年院 | 平均275,351円 (最高900,000円,最低40,000円) |
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鑑別所 | 平均178,500円 (最高1,000,000円,最低50,000円) |
※前回調査:平均312,500円(最高600,000円,最低110,000円)
図表3(蔵書冊数)
少年院 | 平均5,599.7冊 (最高17,500冊,最低1,300冊) |
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鑑別所 | 平均2,714.1冊 (最高8,000冊,最低1,379冊) |
※前回調査:平均4,940冊(最高11,958冊,最低500冊)
図表4から,蔵書の確保を,購入だけでなく寄贈に頼っている現状がうかがえる。回答したすべての少年院が寄贈を受けている。寄贈元は,更生保護女性会,篤志家,教誨師等,多岐にわたる。図書館から寄贈を受けているという回答は,少年院および鑑別所を合わせて5施設であった。
図表4(寄贈の有無)
少年院 | あり28,なし0 寄贈割合(平均:17.2%,最高:65%,最低:0.3%) |
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鑑別所 | あり25,なし3,回答なし1 寄贈割合(平均:20.1%,最高:70%,最低:1%) |
図書室を持っている施設はかなりある(図表5)が,現実にはあまり活用されず,書庫のようになっている場合も多いという。利用頻度を見ると,少年院では「入らない」(利用させない)という回答がもっとも多く43%であり,鑑別所は,1週間に2回が最多で44%を占めた。貸出冊数は,少年院は2冊,鑑別所は3冊が最頻出であった。
図表5(図書室について)
少年院 | あり14,なし13,回答なし1 蔵書冊数:平均4,266.1冊 (最高15,700冊,最低200冊) |
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鑑別所 | あり25,なし3,回答なし1 蔵書冊数:平均2,669.3冊 (最高8,000冊,最低1,926冊) |
少年院および鑑別所では,図書室だけでなく,寮内にも書籍が設置されている。少年は寮生活がメインになるので,寮内の設置も重要である。利用頻度は,毎日も含め,1週間に1回以上が,少年院では78%,鑑別所では84%を占めた。貸出冊数は,少年院は3冊,鑑別所は5冊が最頻出であった。
図表6(寮内の備付書籍について)
少年院 | あり28,なし0 蔵書冊数:平均1,482冊 (最高15,000冊,最低50冊) |
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鑑別所 | あり14,なし15 蔵書冊数:平均2,066.9冊 (最高4,040冊,最低300冊) |
備付書籍のジャンルは,文学や読み物が中心であり,学習参考書の類もある。漫画や雑誌を置く施設も少なくない。暴力シーンや性的描写があるものを避ける場合も多いが,中には藤沢とおるの『GTO』を所蔵している施設もあった。
備付書籍の他には,自弁(親や先生からの差し入れ)書籍も認められており,本調査の対象となっている。少年の嗜好に合わせられることから,自弁書籍を楽しみにしている少年も多いという。本稿では紙幅の関係で詳細を割愛する。
読書の取り組みは,図表7のとおりである。朝の読書は奈良少年院で始まった7)が,現在では広がりを見せている。読書感想文発表会では,立候補を募ることで,実際に発表者となった少年は,その時点で認められた,選ばれたという気持ちを持つという。多くの少年が,原稿を暗記して発表会に臨むが,見学に来た親や学校の先生は,自信に溢れて発表する少年の姿に驚くケースも多い。
図表7(読書の取り組み)
図表8は,図書館との連携についての設問である。貸出方法はセット貸出のような形態や,教官が借りに行くケースがある。利用していない理由として,余裕がないという回答が,少年院で14%,鑑別所で18%ある。図書館での受け取りが負担であり,書籍が少年院や鑑別所まで運搬されれば利用するケースはかなりあると思われる。図書館を利用したいかという問いには,少年院および鑑別所を合わせて,利用してみたいが3施設,思わないが4施設であり,どちらともいえないが13施設ある。岡山少年院のように,少年院が図書館の配送のルートに組み入れられている事例もある8)。図書館がPR をすれば,需要を喚起する余地があると思われる。
図表8(図書館からの貸出)
2.少年院法改正と「読書」の扱い 9)
2014年の少年院法改正は,2009年に広島少年院で発生した職員による在院者への暴行事件が契機となっている。事件を受けて設置された有識者会議の提言で,「書籍の閲覧について国費で在院者にふさわしい本を十分に備えるよう努めること」が求められた。現行の少年院法には読書に関する条文がなかったが,今回の改正で関連条文が設けられたため,これまで曖昧だった施設内での読書にも法的根拠が生まれることになる。
刑務所等の根拠規定であり,主として成人を対象とした監獄法(2007年廃止。現在の刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律)には読書に関する規定がある。読書を行う期間や冊数は,その下限が,法務省による通達によって担保されている。これまでは,少年院および鑑別所における読書の根拠が明確でなかったため,内規が施設ごとに規定されており,運用が少年院および鑑別所によってばらばらであった。今後整備される法務省の通達によって,少年院および鑑別所にも一定の読書環境が担保されていくものと思われる。改正少年院法の施行日は未定であるが,公布日である2014年6月11日から一年以内に施行される。本研究会では,先の調査結果のような図書館側の知見を活かすために,通達作成の担当者に接触し,望ましい読書基準を積極的にはたらきかけることの重要性が指摘された。
注
1)http://kyotoren.cocolog-nifty.com/(last access 2015/01/08)
2)『図書館雑誌』105巻2号,日置将之「矯正と図書館サービス連絡会の発足について:矯正施設と図書館との連携充実・読書環境整備を目指して」,日本図書館協会,2011年,82-83頁
3)http://kyotoren.cocolog-nifty.com/blog/1-seturitusyusi.html(last access 2015/01/08)
4)http://www.nal-lib.jp/(last access 2015/01/08)
5)アンケート概要をまとめたものとして,『出版ニュース』2343号,日置将之「アンケート調査から見えてきた少年院法改正前の現状 少年院・少年鑑別所の読書環境」,出版ニュース社,2013年,4-9頁がある。
6)同書,4頁
7)『日本矯正教育学会大会発表論文集』39回,青木英明ほか「読書指導 朝の読書導入による一考察」2003年,40-45頁
8)『現代の図書館』50巻3号,日置将之「矯正施設における「読書」と図書館サービスの現状について(特集 マイノリティサービス:社会的包摂と多様性)」,日本図書館協会,2012年,204頁
9)日置氏が整理したものとして,http://current.ndl.go.jp/e1592(last access 2015/01/08)がある。
(いのうえ なち:矯正と図書館サービス連絡会,国立国会図書館)
[NDC 9:016.53 BSH:1.少年矯正施設 2.読書]
この記事は、井上奈智.矯正と図書館サービス連絡会・第1 回研究会「少年院・少年鑑別所の読書環境~全国調査から見えてきたこと~」の概要報告.図書館雑誌.Vol.109,No.2,2015.2,p.98-100.より転載させていただきました。