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公共図書館における図書館利用に障がいのある子どもへの読書支援について

窪田英貴(小平市中央図書館 サービス担当)

1 小平市立図書館の障がい者サービスについて

 小平市立図書館では、著作権法が改正された2010年以降、「活字による読書が困難な方」に図書館を利用していただくために、様々な取組みを行ってきました。その結果、録音図書の利用数は年々増加しており、今後、視覚障がい者だけでなく、高齢者や肢体不自由の方、発達障がいの方のニーズも高まることが予想されます。
ここで、小平市立図書館が行ってきた取組みや事例を紹介します。

①視覚障害者情報総合ネットワーク「サピエ」への加盟

 2013年に、日本点字図書館が運営する視覚障害者情報総合ネットワーク「サピエ」に加盟したことで、デイジー図書の利用が大幅に増加しました。「サピエ」から全国の点字図書館関連施設が作成したデイジー図書のデータをダウンロードして提供することが可能になり、多様な資料をすぐに提供できる体制を整えることが出来ました。
 「サピエ」からダウンロードができるデイジー図書の検索は、インターネットを通じて行います。しかし、当市の利用者の多くはパソコンを使うことができないという現状がありました。そこで、当館ではサピエ図書館で人気のある資料をリスト化した「サピエ図書館録音図書利用ランキング」を作成し、ランキングのデイジー版の貸出及び図書館ホームページに音声データを掲載することで情報収集しやすいようにし、一人でも多くの方にデイジー図書の存在を知ってもらうように努めています。利用者の中には、ホームページで音声データを視聴し、デイジー図書をリクエストする方もいます。

小平市立図書館の録音図書貸出実績の推移(2014年度は2014年12月24日時点)

  2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度
カセットテープ 94 122 152 40 16
デイジー 0 17 144 748 1003

②広報の実施

図書館の障がい者サービスについては、どのようなサービスを受けられるのか知らない方が多いのが現状です。そのため、サービスを利用される当事者の方にはもちろんですが、当事者以外への広報も積極的に行ってきました。
当事者以外の方への広報を積極的に行う理由は、「口コミ」の力が大きいと感じたからです。図書館の障がい者サービスを初めて利用される方からお話を伺うと「ガイドさんから聞いた」、「家族がチラシを見て教えてくれたことで、図書館の障がい者サービスを知った」と話される方が多いです。そのため、当事者の周りにいる「家族」、「ガイドヘルパー」、「ボランティア」への情報提供が当事者にもつながるのではと考えたからです。
広報の内容として、「公共施設、小・中学校、病院、老人ホーム等への障がい者サービスのパンフレット・チラシの配布」、「市報・図書館メールマガジンへの掲載」、「図書館ホームページ内ハンディキャップサービスのページの充実」、「障がい者サービス用資料・機器の展示」等を行い、一人でも多くの方に、図書館の障がい者サービスの存在を知ってもらえるように心がけています。

12月の障害者週間に合わせ、障がい者サービス関連資料の展示を実施

12月の障害者週間に合わせ、障がい者サービス関連資料の展示を実施

小平市立図書館が作成した案内冊子「ハンディキャップサービスごあんない」(左からデイジー版、活字版、点字版)

小平市立図書館が作成した案内冊子「ハンディキャップサービスごあんない」(左からデイジー版、活字版、点字版)

2 図書館利用に障がいのある子どもへのサービスについて

 当市では、図書館利用に障がいのある子どもへのサービスとして、「布の絵本・遊具の作成及び貸出」、「点訳絵本の作成及び貸出」、「LLブックの貸出」、「マルチメディアデイジー図書の貸出」を行っています。

①「布の絵本・遊具の作成及び貸出」

布の絵本・遊具は、フェルトやマジックテープなどの素材を用いて作られ、聴覚・触覚・手足の運動・情緒などさまざまな障がいのある子どもたちに利用されています。市内のボランティア団体「布の遊具 “ひまわり”」が作成し寄贈していただくとともに、販売されているものも購入しています。現在では169点所蔵し、展示やおはなし会等で使用しています。

布の遊具“ひまわり”が作成した「クリスマスツリーのタペストリー」

布の遊具“ひまわり”が作成した「クリスマスツリーのタペストリー」

②「点訳絵本の作成及び貸出」

点訳絵本についても、市販されている資料が少ないことから、市内の点訳サークル「かりん」、「けやき」に依頼し、絵本に点字シールを貼ったものを作成し寄贈していただき、現在141点所蔵しています。点字を読むことができる子どもが、絵本を読んで楽しめる機会の提供に努めています。

③「LLブックの貸出」

 知的障がいや学習障がいなどの方にも、読書を楽しんでいただくために、図や写真を多く使うなどしてわかりやすく書かれた本である「LLブック」を20点所蔵しています。

④「マルチメディアデイジー図書の貸出」

 現在、当市のデイジー図書利用のほとんどが、公共図書館で広く普及している「音声デイジー図書」ですが、近年、パソコンで絵や文字を表示させることができる「マルチメディアデイジー図書」の利用も見受けられるようになりました。
 マルチメディアデイジー図書は、音声を聞きながら文字や絵を読んで見ることができるため、肢体不自由やディスレクシアの方々に多く利用されています。利用者の中には、普段は肢体不自由のお子さんのために読み聞かせをしていたが、録音図書の存在を知り図書館に借りに来たお母さんもおり、「文字や絵が表示されるので集中して読んでいた。読み聞かせの代わりになったので良かった」との感想をいただいたこともあります。
 2014年11月26日に、小平市が学校図書館運営の支援を目的として配置している学校図書館協力員の研修会で「ディスレクシアへの支援について」というタイトルで、マルチメディアデイジー図書やデイジー教科書の紹介を行いました。

研修会の様子①

研修会の様子①

研修会の様子②

研修会の様子②


学校図書館協力員の方々に文字や絵を表示して聞ける録音図書を実際に体験してもらったところ、「弱視や発達障害の子どもでも読みやすいのでは」との感想をいただく一方で、「マルチメディアデイジー図書」という言葉自体を聞いたことがない方が多かったため、今後、図書館から学校関係者への周知を積極的に行うことが、小・中学生への利用増加には不可欠だと考えられます。

3 今後の展望について

 公共図書館では、まだ「マルチメディアデイジー図書」の利用は少ないのが現状です。
その理由として以下の2点が挙げられます。
1つ目の理由は、「録音図書の認知度が低い」ことです。著作権法改正以降、「録音図書」=「視覚障がい者が利用する資料」ではなくなりました。しかしながら、当市の障がい者サービスの利用者のほとんどが「視覚障がい者」の方です。これは、録音図書の利用対象者が「視覚障がい者以外の方で活字による読書が困難な方」でも利用できるようになったことを知らないことが原因だと考えられます。
 2つ目の理由として「コンテンツが少ない」ことが挙げられます。マルチメディアデイジー図書は「児童向け」のものが多く、中・高生、一般向けの資料が少ないため、様々な世代の方がマルチメディアデイジー図書による読書を楽しむことが難しい現状です。将来、コンテンツが増加し、より多様なジャンルの読書を楽しむことができるようになれば、利用も増えていき、多くの方にマルチメディアデイジー図書の存在を知っていただけるのではないでしょうか。
 図書館の障がい者サービスや録音図書に関する広報を積極的に行ってきたことで、近年当市の障がい者サービスの利用者として、肢体不自由や高齢の方、またディスレクシアの小学生にもデイジー図書を利用していただいております。公共図書館として、一人でも多くの「活字による読書が困難な方」に図書館を利用していただくために、今後も継続して、図書館側からの情報発信を積極的に行っていきたいと考えます。それが、あらゆる利用者に対する読書支援の第一歩に結びつくと信じています。

参考URL
小平市立図書館ホームページ ハンディキャップサービスのページ
http://library.kodaira.ed.jp/service/handicap.html