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鳥取県立図書館『はーとふるサービス』の取組み
~特別支援学校支援と聴覚障がい者へのサービス~

藤井美華子(鳥取県立図書館情報相談課長 兼 図書担当 係長)

1 はじめに

 鳥取県立図書館の障がい者サービスが本格的に始動したのは2007年、館内で課・係を横断する委員会を組織し、「だれにでも利用しやすい図書館」であることをわかりやすく伝えるため、「はーとふるサービス」という名称でサービスを実施している。都道府県立図書館の重要な役割である学校図書館への支援、中でも特別支援学校への支援について、また、2014年に全国初となる手話言語条例の制定を契機に実施している聴覚障がい者へのサービスについて紹介する。

2 特別支援学校への支援

 2006年、当時の特別支援学校の職員から鳥取県立図書館に支援の要請があり、当館職員と特別支援学校担当者との意見交換会を行った。「予算が少なく資料の購入ができない」「調べ学習に対応した資料が少なく、資料相談に応じることができない」「教職員に学校図書館について理解してもらうにはどうすればよいか」などの要望や意見を受け、翌年、特別支援学校への支援が始まった。これにより、全ての特別支援学校に図書館の物流システムで資料の搬送が可能になった。

(1) 資料の貸出

①特別支援学校用セット

 読書や授業で利用したいという特別支援学校からのニーズを受け、教育現場の児童・生徒の状況を最も理解している司書教諭、司書2人が選書したセットであり、2010年から貸出を開始した。セット内容は、ことばや数の絵本、科学絵本、詩の本、昔話、読み物などのほかに、「食べ物」「乗り物」「行事」などテーマ別のセットもある。

②大型絵本、布の絵本

 大型絵本は文化祭など学校の行事、授業の導入部分に活用していただいている。布の絵本は17冊3セット、1セットは個人貸出用で障がいがある方のために貸出し、2セットは協力貸出用で障害者週間などの啓発展示、高等学校の家庭科の授業などにも活用していただいている。

③授業に活用できる資料

 特別支援学校からの様々な資料相談に対応するため、授業に活用できる資料、進路指導に活用できる職業紹介、面接、社会人としてのマナーの本、その他にも昼休憩や図書館まつりなどの行事などに使う読み聞かせ用の絵本など、それぞれの障がいを考慮し、資料提供に努めている。

④はーとふるセット

 セット内容は布の絵本、DAISY、マルチメディアDAISY、LLブック、大活字本、点字絵本である。特別支援学校への貸出はもちろん、障がいがある方が利用できる様々な資料の存在を周知し、障がい者サービスの普及・啓発にもつなげている。高等学校の人権ロングホームルームや、ユニバーサルデザインの展示などで活用していただいている。

はーとふるセット

(2) 研修、セミナーの開催

①図書館業務専門講座

 県民の様々なニーズに対応するため、毎年4回、県内の公共図書館・学校図書館職員のスキルアップを目的に開催し、2007年からは障がい者サービスの研修も行っている。講座では必ずはーとふるサービスの広報の時間を設定し、講座終了後には特別支援学校の司書教諭、司書、県立図書館職員で情報交換も行っている。

②図書館活用セミナー

 特別支援学校の児童・生徒を対象に、職員による図書館の利用案内と活用法のセミナーを実施している。館内ツアーや利用できる資料・サービスも紹介し、将来の利用につなげている。また、学校図書館支援の対象である教職員にも図書館のサービスや活用法を理解していただくためにセミナーを実施している。

(3)訪問相談

 特別支援学校図書館に職員が訪問し、運営、管理等についての支援、相談、情報交換などを行っている。訪問相談は図書館側からではなく、相談を希望する学校側の要請に応じて実施し、多い学校では年2~3回希望がある。相談内容は、授業実践、選書、リクエストなど様々だが、各学校や生徒の実態に応じて対応している。

3 聴覚障がい者へのサービス

 全国で初めてとなる『鳥取県手話言語条例』の制定を契機に、当館でも手話への理解と普及を進める様々な取組みを実施している。

(1)知ろう!学ぼう!楽しもう!みんなの手話コーナーの開設

 2014年7月に開設したこのコーナーは、障がい者サービスの普及を推進するために開設した「はーとふるサービスコーナー」の隣にあり、手話を身近に感じ、手話への理解を深めていただけるように、手話学習資料、手話付き絵本や手話ソングなど手話に親しみやすい本、手話のDVD、障がい理解の本を配架している。

みんなの手話コーナー はーとふるサービスコーナー

(2)手話・字幕付図書館紹介DVD「ホンとに役立つ鳥取県立図書館活用術」

 図書館の様々なサービスや機能について、全ての県民に周知し理解と認識を深めていただくために、手話と字幕が付いた図書館紹介DVDを製作した。鳥取県聴覚障害者協会に手話通訳と監修を依頼したことにより連携がより一層深まり、完成試写会と手話付き図書館ツアーでも手話通訳をしていただいた。このDVDは、県内の市町村図書館をはじめ、特別支援学校、障がい者団体に配布し利用していただくと共に、来館できない方のためにホームページで動画が視聴できるようにしている。

「ホンとに役立つ鳥取県立図書館活用術―手話・字幕付図書館紹介DVD」 http://www.library.pref.tottori.jp/hp/menu000002900/hpg000002888.htm

(3)手話で楽しむおはなし会

 聴覚に障がいのある人も絵本を楽しめるように、また絵本を楽しみながら手話に親しんでいただけるように、絵本の読み聞かせに手話通訳が付く「手話で楽しむおはなし会」を毎月開催している。職員の読み聞かせに合わせ、隣で手話通訳者が手話を行うおはなし会である。参加者は聴覚障がいのある子どもや大人の方、親子、手話を学習している方、手話に興味のある方など様々である。

手話で楽しむおはなし会

(4)遠隔手話通訳サービス

 鳥取県では2013年12月から、ろう者が聞こえる人と円滑に意思疎通を図ることができるよう、ICTを活用した遠隔手話通訳サービスモデル事業を行っている。ろう者と聞こえる人との間で、手話によるコミュニケーションを行うとき、タブレット型端末のテレビ電話機能(Skype)を通じて、手話通訳センターに常駐する手話通訳者が画面越しに手話通訳を行い、コミュニケーションをとる方式である。当館では2015年1月にこのサービスを開始したが利用が少なく、サービスの周知が今後の課題である。

遠隔手話通訳サービス

(5)バリアフリー映画上映会

 2011年から、視覚や聴覚の障がいにかかわらず、だれもが楽しめるバリアフリー映画上映会を始めた。年2回開催し、特別支援学校、障がい者団体への案内や、鳥取県職員対象の人権研修に登録し、バリアフリー映画の普及に努めている。
 この上映会を始めた目的は、全ての人に映画を楽しんでいただくこと、また、バリアフリー映画を周知することにより、はーとふるサービスの普及につなげることである。上映前には必ず、手話通訳を付けてはーとふるサービスのPRを行っている。

4 今後の課題

 4月には障害者差別解消法が施行され、今後、合理的配慮について図書館でも様々な変更や調整が必要となることが考えられる。それに伴い、基礎的環境整備、つまり適切な合理的配慮を提供するための土台の部分を充実させることが非常に重要である。

①職員の資質の向上

 合理的配慮の考え方や具体的手法、障がい者サービスについて理解できているか、また職員の支援体制が整備されているか?

②施設・設備の整備

 誰にでも利用できる設備であるのか?

③サービスの充実

 誰にでも利用しやすいサービスとなっているか、アクセシブルであるか?

 これらの現状を見直し、改善できることには対応していくことが必要である。そして、全ての人が利用しやすい図書館にしていくことが今後の大きな目標である。