音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「知的障がい者が安心して地域で暮らすために」法人後見の利用を考える検討会
(通称:真理プロジェクト)のとりくみ

岡本美知子

 昨年40才になった娘が、生後すぐに重い心臓病とダウン症の障害を持っていると知らされた時、将来どのような生活を送ることになるのか想像もできませんでした。でも、「生まれてよかった」と思える生活を送って欲しい、そのためにはどんなささやかな事でも良いから、楽しいこと、嬉しいこと、面白いことを出来るだけたくさん見つけて欲しいとその時に思ったことは、忘れられません。

 娘は心臓病への配慮は大変でしたが、3才半で地域の障害児訓練会に入会し初めて集団に参加してから、4才で市立保育園に入園でき、小中学校は地域の個別支援級、高等部は県立の養護学校を経て、現在も通所している障害者地域活動ホームの作業所での生活を通して、たくさんの人に出会い、いろいろな福祉サービスの利用も含めて、様々な経験を重ねることによって、自分らしい生活を送る力を少しずつ身につけてきました。
 一方で、将来についての漠然とした不安は、親の年齢があがるにつれて増してきます。元気で動けるうちにできる準備をしておきたいと、2010年の秋に、活動ホームの仲間のお母さんたち三人で、先輩の方々の活動や冊子を参考にさせていただきながら、障害を持つ本人に視点を置いて、書きやすさにも工夫をした「引継書―将来のためのあんしんノート」を作りました。(*三人会「あんしんノート」で検索できます)
 そんな私たちの活動の様子を見ていた娘は、「母さんがいなくなったら、いろいろ困ることがある。お墓参りに行く時はどうしたらいいのかな?」と言いだしました。私が、「困った時は手伝ってくれる人にお願いすればいいから、どんなことが困るのか書いておいたら」と言うと、早速「困ったなノート」を作って、薬の管理など医療的なことや、送迎、日常生活での見守りや、苦手なお金の計算を一緒にしてほしいなど、お願いしたい項目を書きだし、次にはそれを「後見人サポーター募集」と題名をつけたプリントにまとめて、私の友人や、叔父や叔母たちの親戚、ヘルパーさんたちに配って、娘なりに自分の将来の生活に対して真剣に考えるようになりました。

 2011年3月に東北大震災が起きました。
 予想を超える出来事に遭遇して、改めて日頃から周りの人とのつながりの大切さを痛感しました。
 その年の6月には、被災された方々の一時避難所での生活相談を実施した横浜市社会福祉職OBの有志の皆さんが、今度は法人後見を行うNPO法人よこはま成年後見つばさを設立されました。私たちの仲間のお一人は社会福祉士の資格を持っていて、その方が設立当初からつばさの活動に参加したということもあり、私も賛助会員として、障害を持つ人にとっての「成年後見制度」のあり方、法人後見のメリットについていろいろ学ばせていただくことになりました。

 2012年4月から、つばさの「知的障がい者が安心して地域で暮らすために」法人後見の利用を考える検討会(通称:真理プロジェクト)がスタートしました。地域の中でその人らしく暮らし続けていくために、関係性を築きながら段階的に法人後見へバトンタッチして行く方法を考えていこうと毎月1回ずつの話し合いをもつことになりました。メンバーは娘、私、あんしんノートを作った三人会の仲間(つばさのメンバーでもあります)、つばさメンバー(元ケースワーカー)の5名のチームです。
 チームが発足した時にまず感じたのは、それまで将来のことについて一人で考えようとしていた自分の気持ちがとても楽になったということです。そして将来の生活どころか、現在の生活においても母親一人が抱え込んで悩んでいる方が多いなかで、「真理プロジェクト」の活動がひとつのモデルとなって、他の方々にも参考になるような話し合いにしていきたいと思いました。

 話し合いのスタートは、ゆっくりじっくり、娘が書いた「後見人サポーター募集」のプリントに書かれている項目について本人の話を聞きながら、現在どのような支援を受け、どのような生活を送っているのか、母親が担っているのはどのようなことなのかを、ひとつひとつ書きだす作業から始めました。KJ法を使って、付箋に書きだす作業は娘にとっても面白かったようで、やや本題から外れてしまうことの方が多かったですが、積極的に参加できました。書きだした内容をまとめて、役割分担表の一覧にしてみると、予想していたこととはいえ母親の私が担っている内容は、衣食住を含めた生活全般、健康管理、様々な福祉サービスの契約や更新の手続きなど多岐にわたっていました。送迎サービスやホームヘルパーさん、ガイドヘルパーさんなども積極的に利用してきましたが、その場合でも事業所との連絡調整は親の仕事の大きな部分を占めています。
 親の役割は「こんなにも、多いのか」と改めて感じました。
 10回をかけてまとめた役割分担表を見ながら、次は現在母親が担っていることのひとつひとつを、これから誰に代わってもらったらいいのかを考えました。「後見人」の役割については、まだ「よくわからん!」という娘ですが、自分の生活を支えてくれるたくさんの人たちの存在を知ることとあわせて、キーパーソンの役割を担う「後見人」の仕事について少しずつ具体的なイメージをもっていってほしいと思います。

 横浜市は「将来にわたるあんしん施策」の重点施策として、2010年10月に「横浜市後見的支援制度」をスタートさせました。障害を持つ本人や親の思いを聞き取ることを大事にしていくという進め方は、「真理プロジェクト」の取り組みと重なることが多く、成年後見制度と合わせて利用することでよりきめ細かい支援の輪ができるようになってほしいと願っています。
 今後の「真理プロジェクト」は、この二つの制度の違いとそれぞれの役割について、娘に理解できるように話をしながら、成年後見制度の具体的な申し立てに向けて準備していく段階になるでしょう。
 準備の中には、将来の暮らしの場をどうするのかという、まだ答えが見つかっていない大きな問題も含まれていますが、時間をかけて考えたり、準備することを見守っていてくださるNPO法人つばさの存在はとても貴重です。
 関係性を築きながら障害のある人の長期間にわたる後見業務を担い、複数で対応できる体制が組める法人後見は、これからもっと求められることが多くなると思います。柔軟な対応ができ、フットワークが軽いNPO法人後見の良さと、しっかりした財政基盤をもつ行政的な法人後見など、たくさんの法人後見が広がることを願い、そのサポートを受けながら各地に「○○プロジェクト」の取り組みが始まり、障がいをもつ人たちが安心して住みなれた地域で生活できるような制度と仕組みができることを、心から願っています。


関連サイト
●成年後見事務所アンカー
 http://www.ne.jp/asahi/suda/yuki/anchor/note.html

このページで、引継書「将来のためのあんしんノート」を見ることができます。

●NPO法人よこはま成年後見つばさ(非公式)
 http://www.ne.jp/asahi/suda/yuki/index2.html

NPO法人よこはま成年後見つばさの旧サイト(非公式)です。
2014年01月29日までの情報があります。

●NPO法人よこはま成年後見つばさ(公式)
 http://www.ne.jp/asahi/hama/tubasa/index.html

このサイトで、「真理プロジェクト」の詳細を読むことができます。

真理プロジェクト
http://www.ne.jp/asahi/hama/tubasa/project.html
(つばさの事業 → プロジェクトによる後見的支援 → つばさのプロジェクト)

●横浜市障害者後見的支援制度
 http://www.city.yokohama.lg.jp/kenko/shogai/kouken/