母親が語る『発達障害のある大学生、ユニコと歩む日々』 その13
発達障害のある子の自転車修業
習い事、ではないが、
水泳と同じように、ユニコが父と一緒に特訓してマスターしたのが、自転車だ。
6歳の誕生日に、ユニコはポムポムプリンが描かれた黄色い自転車を買ってもらった。
ニコニコと、とても嬉しそうに、補助輪付き自転車にまたがるユニコ。
… … …
ほかの子は、自転車にまたがるとすぐにペダルに足をのせ、漕ぎ出すのに、
ユニコは、ただまたがって、ニコニコしているだけ。
「しゅっぱーつ、しんこーう!」
ユニコの明るい声が、青い空に、むなしく響く。
「漕いでごらん」
…(笑顔だけど、動かないユニコ)
ユニコの足を持ち上げて、ペダルに載せ、
中腰のまま、片手でハンドルを操作しながら、もう一方の手でペダルを回し、
自転車を前に進めてやらなければ、
ユニコには「漕ぐ」という動作がわからなかった。
ペダルを押す足の力も弱弱しく、心もとない。
とはいえ、補助輪が付いているので、しばらくするとなんとか乗れるようにはなった。
その後、1年ほどして、無謀にも補助輪を取る決心をし、また試練の日々が始まった。
最初は自転車にまたがって、足で地面を蹴って歩く(走る)だけ。
勢いをつけて、速く走れるようになったら、1、2回ペダルに足を載せ、そのままバランスをとる練習。
慣れたら、ひと漕ぎ、ふた漕ぎして、少しずつ、ペダルで漕ぐ距離を伸ばしていく。
横でハンドルに手をかけ、舵を取りながら、父が伴走(つまり、ランニング)。
毎週末、あちこちの遠くの公園まで、ひたすら自転車を漕ぐユニコ
ひたすら走る父(これでずいぶん、お腹がひっこんだのでは?)
涙ぐましい努力の甲斐あって、1年ほどたつと、補助輪なしで乗れるようになった。
この父娘の根気には本当に頭が下がる。
おかげでユニコは今、大学に自転車で通っている。
旅行に行ったときにも、レンタルサイクルであちこちめぐることができる。
ただし、うしろから見ていると、ふらふらしてバランスが悪く、危なっかしい。
最近、自転車は車道を走るという交通規則が徹底されるようになったが、
ユニコの場合、かえって危険な気がする。
「交通量が少ない道を通りなさい」
「自転車専用レーンがない狭い歩道では、押して歩いてね」
「左側通行!」
いろいろ声をかけてはいるが、
事故がないように、規則違反で捕まることがないように、と
自転車で出かけた日は(つまり毎日)祈るばかりだ。
ユニコさん、今日もどうか、安全運転でお願いします。
(自転車のライトは自動点灯するものにしている。ユニコがうっかりライトをつけ忘れることのないように。)
ちなみに、自転車には乗れるけれど、さすがに自動車は危険だろう(それに、こればかりは父が横に座って指導というわけにもいかない)ということで、自動車免許は取らないと決めている。
<ユニコからも一言>
私は買ってもらったばかりの時については記憶がない。でも、何度も公園に行って練習をしたことは覚えている。私が漕ぎ出そうとしなかったのは、確かにそのやり方がわからなかったからかもしれない。見よう見まねで何かするのは今も苦手だ。だから実際に横に立つなりしてその動作を同じ方向からしてくれるとありがたい。正面に立たれても動きが逆になるため、まねしにくいというのは、昔からずっと変わらないでいる。
大学には自転車で通っているが、通う途中で結構大変なことがある。横に2列以上で並んでいる人、携帯電話を操作している人、イヤホンをして歩いている人など、さまざまな障害物を避けて漕がなければならない。もし、このブログを読んでいる人で、そのようなことをしている人がいたら、どうかやめていただきたい。ただでさえ、自転車で走ることが普通の人より大変なのに、より一層大変になってしまうからだ。そうは言っても自転車は便利な乗り物なので、時間を見つけて乗れるようにしておいた方がいいと思う。教えるのは大変だと思うけれど根気を持って接すれば必ず乗れるようになるはずだ。それから、このブログを読んで、障害があると自動車免許を取得できないと嘆いている方は、ご安心を。私が取得できないだけで、同じ障害があっても、取得できる人はいるみたいだから。