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母親が語る『発達障害のある大学生、ユニコと歩む日々』 その17

発達障害のある子と運動 その1
体育の授業はいじめの温床(思い切って言わせてもらいます)

ユニコの苦手克服作戦。次は、運動。

これはもう、本当に大変だった。

「運動能力」というユニコ自身の問題だけにとどまらず、

周囲のクラスメートとの関係(運動ができないと、いじめの対象になりやすい)

ひいては、体育教師との関係(どこまで支援を求めるか、また、許容してもらえるか。いじめへの対応は?)

そんなこともかかわってくるのだ。

そもそも、どうして運動が苦手だというだけで、意地悪をされなければならないのだろうか?

4月の新学期―クラス替え

なんとかうまくやっていけそうだと思っていたのに、

第1回目の体育の授業のあとに始まる、ひそひそ話や陰口

仲間外れや嘲笑。

ユニコと組むと、自分も下手だと思われるから?

勝ちたいのに、足を引っ張るユニコが許せない?

ユニコのおぼつかない動きを見ているだけで、腹が立つ? 馬鹿にしたくなる?

どうして、英語や数学は能力別授業なのに、体育は全員一緒なのだろうか?

体格も、体力も、運動能力も、そして運動の経験も、人によって差があるのに。

小学校はまだしも、中学、高校になったら、体育も能力別・体力別・習熟度別クラスでの授業にしてほしい。

学ぶべき内容も、設定すべき目標も、

運動が得意な子と苦手な子では、全然違うのだから。

ユニコは協調運動が苦手だ。

だから、球技が苦手。

マラソンや水泳なら、自分のペースで進められ、周囲に迷惑をかけることもまずないが、

バレーボール、ハンドボール、ソフトボール、サッカー、バスケットボールなど

チームでプレーする球技になると、もう目も当てられない。

小学校の頃は、まだよかった。

世話好きな男の子たちが、いろいろと工夫しながら教えてくれたから。

中学・高校時代は、心無い女の子たちの嘲笑と罵倒に苦しんだ。

「なんでそんなにできないの?」(それがわかれば苦労はしません。)

「まじめにやってよ」(これ以上できないくらい、まじめにやっています。)

「見て、あの踊り方! ひどいよね(クスクス)」(見て見ぬふりができないのですか?)

それでも、自分には意欲を見せることしかできないから、と、

ユニコはいつも、誰よりも早く体操服に着替えてグラウンドに向かい、

授業の最初にやらなければならないランニングや腹筋運動にも、一生懸命取り組んだ。

すると、そういう態度がまた気に障るのか、

「ゴキブリ」と陰口をたたかれた。(そんなに素早い動きは、ユニコにはできないと思うのだけれど。)

体育の授業こそ、いじめの温床だ。

先生方には、ユニコのような子どもたちを守るために、

授業を工夫し、

意地悪や陰口には毅然とした態度で臨んでほしい。

ユニコの場合、先生方が随分配慮してくださり、意地悪を言う女の子たちへの指導も、繰り返ししてくださった。

ときには、ユニコのことをよく理解してくれているクラスメートが、女の子たちに言い返し、やり込めてくれることもあった。

でも、嫌がらせがまったくなくなるということはなかった。

苦しい、つらい体育の授業が、

あとあとまで尾を引く心の傷やトラウマにならないように、

周囲の大人はよくよく気を配ってやらなければならない。

<ユニコからも一言>

体育の授業での苦しみは、学年が上がるにつれて開始が早まると思う。高校1年生なら、同じ中学校から進学した人がいない場合、1回目の授業のあとから陰口などが始まる。それは誰も私の運動能力について知らないからだ。進級後、最初の授業の時、既に私の周りで不穏な空気が漂い始める。

小学校でもすべてがよかったわけではない。それまで仲よくしていた人が、私の運動能力が目に見えて低いことに気がつくと、露骨に冷たい態度をとったりした。運動ができない私が同じチームに入るとがっかりする気持ちも、陰口を叩きたくなる気持ちもわかる。私が入ったチームは、ほとんどと言っていいほど毎回負けるのだから、言いたくもなるだろう。だが逆にそういった苦手な人がいると、工夫をすることが求められ、最終的にはチームの仲がよくなったりは…しないだろうか。

意欲を見せようとしている動きを笑われた時には、さすがに腹が立ったし悔しかった。彼らが体を満足に動かせることが羨ましかった。運動が苦手だと、それだけで体育に対して苦手意識を持ってしまう。それがひどくなると、学校のことも嫌いになってしまうから、本人とも話し合った上で、本人に合う支援を行ってほしい。そして、運動ができていないからといって、ふざけているとか、まじめにやってとか、周りを見てその通りにやってとか言わないで、実際に体を動かして見せて教えてほしい。

本当に、学年が上がるにつれて、体育には苦しめられた。でも先生方の対応がよくなっていったのも事実だ。体育教師には、甘えている、気合でなんとかしろ、など不当なことを言われるかもしれない。でも、教師はしっかりと支援をしてほしい。ほかの人に、私のように辛い思いを味わってほしくないから。