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母親が語る『発達障害のある大学生、ユニコと歩む日々』 その22

発達障害のある子の目・耳・体
ちょっと違う、ユニコの感覚と体

ユニコは、心理面でさまざまな特徴を持ち合わせているが、

身体面でも、ほかの人とは違っている所が多い。

まず、視機能。

視機能検査の結果、ものの奥行きがわかりにくく、動くものを目で追うのが苦手なことがわかった。

だから、ボール運動は苦手だし、いろいろなものによくぶつかるのだ。

「ときどき風景が平らに見える」

「遠くを飛んでいたボールが突然目の前に現れる」

「文字が踊っているように見えることがある。10秒ぐらいで収まるけれど」

「文字がゆがんで見えることもある」(以上、すべて本人談)

前回の記事でユニコ自身もコメントしているが、

人の顔が見分けられず、服装で判断するのもなかなか難しい。

髪型が変わったときや、いつもと違う服を着ているときは、わからない。

知り合いに声をかけられても、無視してしまうことが何度もあり、

それが原因でトラブルになる。

親しい人には、話しかけられても誰だかわからずにそのまま通り過ぎることがあると、あらかじめ伝えているが、

それでも、相手から「無視しないで」と言われてしまう。

次に、聴覚。

聴覚過敏で、大きな音が大嫌い。

コンサート、ライブ、演奏会などには、誘われても行かれない、と周囲に伝えている。

そう言っておかないと、

誘っても来ない、つきあいが悪いと誤解されてしまうから。

人の声や話の一部が、突然聞こえなくなったり、雑音のように聞こえたりすることがある。

ざわついている所や、大きな音がする所にいると気分が悪くなるので、耳栓をして対処している。

そして、痛覚。

痛みの感覚が鈍い。

これまで、額を深く切るけが、花火でのやけど、ぶつかって歯が欠けるなど、けがばかり。

しかも、ひどいけがでも痛みを感じないのか、

泣くこともなく、普段の様子とあまり変わらないのだ。

3歳の頃、腕にひびが入った時にも、特に痛がったり泣いたりすることもなかったので、発見が遅れた。

ひびが入った方の腕をまったく使わず、ぶらぶらさせているので、ようやくおかしいと気づいたのだ。

幼い頃は、血が出ていないか、けがをしていないかなど、よくチェックしてやらなければならなかった。

また、体の調子が悪いというのにも気づきにくいようで、

お腹の具合が悪くて気持ちが悪いのを

お腹がすいていて気持ちが悪いのだと思って、いつもより多く食事を取り、

結局、具合が悪化してトイレに駆け込むなんてこともよくある。

こればかりは、口で伝えてもわかりにくいだろうし、

何度も失敗を繰り返しながら

自分自身で体調を判断できるようになってもらうしかない。

もうすぐ20歳だけど、

お酒を飲むなんて、まだまだ考えられない。

平衡感覚。

体のバランスを取るのが苦手なので、

人から声をかけられて、びっくりして振り向いただけでバランスを崩し、転倒して捻挫。

うしろからは話しかけず、ユニコの前に出て、しっかり視線を合わせてから話しかけるようにしないと、危険なのだ。

身体の、目に見えない部分についても、チェックが欠かせない。

歯のケアもその1つだ。

手先の不器用さから、どうしても歯磨きが不十分になりがちなので、

幼い子どもにするように、ときどき仕上げ磨きをしている。

過保護だろうか?

歯のケアがきちんとできずに虫歯になったり、歯周病になったりすることを考えれば、

自力でうまく磨けない場合、年齢にかかわらず、介助は必要だと思う。

もちろん、自分で磨く方法も、折に触れてチェックし、

デンタルフロスを使う練習も続けている。

痛みの感覚が鈍いということは、

親不知のトラブルや虫歯などに気づかない可能性があるので、

それもあわせてチェックする。

そもそも歯の治療は、かなりハードルが高い。

歯を削るときの金属音

じっと座って、ずっと口を開けていなければならない

いつ終わるともしれない治療

ユニコの奥歯に虫歯を発見したとき、

普段から障害のある人を診察している歯科医師をネットで探して、

ユニコについて事前に話してから連れて行った。

先生は、治療の前に、これからどんなことをするかを説明し、

音の出る機器を使うときには、少し動かして、どんな様子かを見せてくれたので、

ユニコは安心して治療を受けられた。

信頼できる歯科医師を見つけて、小さい時から定期的に健診を受け、いざというときに備えておくと安心だ。

最後に、薬について、ユニコから伝言。

インフルエンザになったとき、

リレンザを処方されたが、これがとても難しかった。

リレンザは飲み薬ではなく、吸入する薬なのだが、

初めて服薬するときに、

「吸い込む」が、どういうことかわからず、

逆に吹き出してしまったのである。

宙に舞う白い粉

1回分減ってしまったリレンザ

当然、親に怒られる。(すでに体調が悪いので、よけいにダメージが大きい。)

以来、リレンザを吸入する前には、

ストローで飲む様子を思い浮かべたり(実際にストローで水など飲んでみたり)

吸って、吐いて、吸って、吐いて、と深呼吸したりしてから、

いざ、リレンザに挑戦! という段取りを踏むようにしている。
(高熱の状態で、これをするのは、なかなかつらいものがある。)

今も、インフルエンザになると、

熱や頭痛のつらさよりも、吸入の方が不安なようだ。

(そういえば、ユニコはシャボン玉も苦手だ。)

ユニコは、服薬が難しくない薬を開発してほしいそうだ。

<ユニコからも(長い)一言>

前回の項目で書いてしまったけれど、私は人の顔を判断するのが苦手だ。このため制服でも私服でも苦労をしてきた。制服では、みんなが同じ服装なのに、髪型も似たり寄ったりだから、誰が知り合いで誰が知り合いでないのか、わからない。顔を見ればわかるでしょ、と言われるけれど、ときどき顔が中心付近からぐしゃぐしゃになって、誰だかわからなくなる。その時は既にパニック状態で、その状態で挨拶されても、誰だかわからずに無視をしてしまい、相手に嫌な印象を与えてしまうのだ。体操服でも同じ。一応苗字は書いてあるけれど、あんなに小さかったら誰が誰だかわからない。それに体育の時は、普段髪が長い子も結んだりするから、そうすると、普段髪が短い子と同じに見えて、誰が誰だかわからなくなる。

体育の球技の際は、ボールを目で追うのが苦手だ。バレーボールでは、自分がサーブしたボールがどこかに消えたと思ったら、サーブに失敗したらしく、突然(見えるでしょ、と思うかもしれないが全然見えないのだ)頭上から降ってきて頭を直撃する。バスケットでは、ボールを追え、と言われても、ボールが時々見えなくなる。サッカーでは、ゴールに近いと思ってボールを蹴っても、シュートできない。すべて自分自身が原因だとわかっていたから、同級生たちが健全な視機能を持っているのに、授業中にふざけた態度をとっているのが許せなかった。

次に聴覚。私は吹奏楽などの大きな音が苦手で、これによるトラブルもいくつかあった。例えば、ヴィヴァルディの『四季』という曲を学校で聞いたときには、複数の楽器が混じって演奏をしているのに耐えられなくて、途中で具合が悪くなってしまった。在日韓国人の人が故郷の音楽を太鼓で演奏してくれたときには、音がうるさいのに耐えられなくて、その部屋を出た。吹奏楽部のコンサートは、大きい音で複数の楽器が混じるという二重の苦しみに耐えられないから(ときおり、手拍子が起きたりするが、そうするともっと苦痛になる)誘われても行けない。何がそんなにつらいの?と言われるが、イメージとしては、掃除機をかけている時にヘビメタの音楽が流れ、そこに絶えず電話の着信音が鳴り続け、赤ちゃんが泣いているようなものだ。こんな部屋には誰もいたくないだろう。それが私にとっての吹奏楽なのだ。耳栓は、その場から出られない時に大変重宝している。

痛覚については、あまり記憶がないが、怪我をしても普通に体育をしていると、痛くないのか聞かれる。それで、痛くないと言うと、強がっていると思われ、奇異な目を向けられる。本当に痛くないからそう言っただけなのに・・・。自分の体調についても、まだわからないところが多いし、それが原因で家族によく迷惑をかけている。大学を卒業するまでにはしっかりと、自分がどのような時に具合が悪くなるのかと、その時どうしたらいいのかを覚えておきたい。

リレンザは本当につらい。インフルエンザに伴う頭痛や熱よりもずっと。それはうまく呼吸ができないからかもしれない。実際、さまざまな場面で息を吸ったり吐いたりすることがあるが、私はよく逆になっているそうだ。そのため、小学校の理科の実験で、息を吹き込むということがあったが、私には危険だと判断され、ほかの人がした。いっそのこと、リレンザの成分はカプセル剤にしてはもらえないだろうか。その方が私にとっては飲みやすい。

ほかの人とはちょっと違うこれらの感覚を、もっと多くの人に知ってほしいし、理解してほしいと思っている。