音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

母親が語る『発達障害のある大学生、ユニコと歩む日々』 その24

発達障害のある子の行動 行動面のトラブルをなくすために

ユニコの行動面で目立つ特徴としては、

スケジュールがきちんと決まっていると安心して取り組めることがあげられる。

「自由が一番怖い」

と本人も言っているが、

枠組が決まっていないと、先が見通せないと、とてつもなく不安になるのだ。

幼い頃、初めて行く場所に向かっているときには、

「あと何分で着くの?」と、よく聞かれた。

事前にわかっているときには、できるだけ詳しく、予定や時間の目安を伝えるようにしている。

また、好きなことにはついつい熱中しがちで、気がつくと時間が過ぎてしまうので、

タイマーやアラームをうまく使って、時間の管理をしている。

一方で、決まった枠組を求める心理からか、

深く考えずにとった行動が、習慣となってしまう危険もある。

ある自動販売機で一度飲み物を買ったら、

その前を通るたびに、必ず飲み物を買うものだとインプットされてしまい、

毎回買おうとするようになる危険。

食堂で昼食をとったあと、アイスクリームを食べる。

これも、一度食べたら、次からも食べなければ気が済まなくなる危険がある。

不用意な習慣づけをしないように、

習慣になりそうな場所では、物を買わない、食べない。

特別な機会にだけ、買ったり、食べたりするようにしている。
(そしてそのことをきちんと告げる。)

ちょっと困った行動としては、収集癖がある。

パンフレットをもらうのが大好きなのだ。

活字中毒が原因なのだろうか? 

出かけるたびに、あちこちで無料のチラシやパンフレット、冊子を大量にもらってくる。

あまりにもたまってしまうので、

もらってきたら、すぐに目を通して、必要な所だけ切り取って保存し、あとは捨てるというルールを作った。

こうしてスクラップした記事や写真を見ていると、ストレス解消になるらしく、それはそれで役立ってはいる。

ユニコが自分から始めたことで、うまくいったのが、「喜怒哀楽日記」だ。

中学2年生から高校2年生にかけて、

その日にあった喜怒哀楽の出来事を1行ずつ記録する日記だ。

ある日の日記を紹介しよう。

喜 新体力テストのハンドボール投げで6メートルも投げられた。
怒 ある人が注意してきたが、その人はそれと同じ事をしている。
哀 体育着を忘れた場合、友達や先輩に貸りなければならないなんてひどすぎる。
楽 題名がわからなかったけど読みたかった本が図書室にあった。

これは、思いがけず、1日のよい振り返りと、ストレス解消になった。

よくよく思い返してみれば、つらく悲しいことだけでなく、楽しく嬉しいこともあったと気づけるからだ。

全部で4行なので、負担感も少ない。

「喜怒哀楽日記帳」を販売したら、一般の人にも、結構売れるかもしれない。

行動面については、まだまだこれから、世の中でうまくやっていく方法を身に着けていかなければならないようだ。

人間関係、時間の管理、日々の生活をいかに無理なくこなしていくか…

意外にも身近な所にロールモデルがいた。

ユニコの場合、父親も、

耳で聞いただけではすぐに忘れてしまうので、メモを取るようにしたり、

アラームを設定して、時間の管理をしたりと、

ユニコにも役立ちそうな技を、すでにいくつも使っていたのだ。

親、きょうだい、祖父母、おじおば、そして友人などで、同じような悩みを持つ人(発達障害がない人でも、似たような悩みを持っていることがある)が、

どんな方法でうまくやっているのか、

大いに学ぶ価値がある。

家族や友人に相談するのが第一歩だと、ユニコにも常々伝えている。

相談してくれなければ、何が困っているのかわからないのだから、助けられない。

本人が、自分の言葉で、自分の状況を伝えられること。

助けてほしいと言えること。

それができるように、

ユニコは小学校高学年くらいから、

障害のことや、どんな支援が必要かを、自分自身で周囲に伝える練習をしてきた。

手作業が苦手なこと

口で言われるよりも、メモでもらった方がわかりやすいこと

指示を明確にしてほしいこと

大きな音がする場所には行きたくないこと

何度も名前を聞くかもしれないこと…。

大学生になって、

中学・高校時代と比べれば、周囲も大人になり、

そんなユニコを温かく受け入れてくれる人も増えた。

そういう人たちが、社会に出た時、

ユニコと同じような悩みを持つ人に出会ったら、

きっと、手を差し伸べてくれるだろう。

こうしてユニコの存在が、間接的に、苦手さや困り感に悩むほかの人の役に立ち、

世界が少しだけ、ユニコとその仲間たちにとって、住みやすくなることを祈っている。

<ユニコからも(長い長い)一言>

初めての場所に行く時、どれぐらいで着くのかわかっているとパニックにならずにすむ。昔は家族に聞いたりしていたけれど、今は自分で路線検索などを活用して、だいたい何分位で着くか見通しを立てている。これはパニックにならないうえに予定を立てやすくなるから、一石二鳥だ。私は子どもの頃、相手が怒るまで、どれぐらいで着くのか尋ねたことがある。このような時は、紙に書いてあげたり、本人にとってわかりやすく説明したりするといい。(本人とその家族が学校まで15分の所に住んでいる場合、30分かかることを教えるときには、学校に行く時間2つ分と言うなど。)

不用意な習慣づけについても、親が注意するだけではなく、それがいかに危険なことかを、本人にもわかるように話すといいと思う。一方的に言われるのは、誰にとってもあまりいい気分じゃないから。

あちらこちらのパンフレットを集めてくるのも、家族はちょっと困っているみたいだけれど、これによって得られる情報もある。収集癖は、たぶん活字中毒から来ているのだと思うけれど、同じような癖を持っている人は、障害のある人はもちろん健常者にもいると思う。障害のある人がやっているからといって、完全にそのことを否定するのではなく、それによって落ち着く場合もあるのだから、ルールを決めて認めてあげてほしい。収集癖によってストレスをためずに済んでいるし、活字中毒のおかげで、私の場合は、本を読んで勉強することが苦じゃなかったから。

日記を毎日書くのが大変でも、喜怒哀楽日記だったら1日4行で済む。(長く書きたい場合でもそれを一文でまとめるようにすることで、書く時の負担も減るし、言いたいことをまとめる練習にもつながる。)今はやっていないのだけれど、それは書かなくても感情が抑えられるようになったからかもしれない。文章を書くことが苦手じゃなかったら、ぜひとも多くの人にお勧めしたい日記だ。どんな小さなことでもいいから、喜や楽を1日1個ずつ見つける。普通の人にとっては当たり前のことでも、障害のある人にとっては、それが喜であり楽なのだから、もし家族が読む場合には、否定しないでほしい。私自身、これが?と思われるようなことを書いたりもしたが、その時は確かに、本人にとって喜であり楽だったのだから。そしてしばらく同じようなことばかり怒や哀に書いていたら、その時はそっと話を聞いてほしい。

最後に、周囲へのカミングアウトは絶対に行うべきだと思う。障害があると知られたくないと思う気持ちはわかるけれど、言わないと支援は受けられない。障害名を言いたくないなら、こんなことが苦手だって話すだけでも違ってくる。小学生の時は、みんなの前で苦手なことを言ったり、中学生以降は、親しくなった人に苦手なことについて話したりしてきた。障害名は言ってもわからないことがあったりするから、こういうことが苦手だって言った方がわかりやすい。先生によっては、「私が言います」みたいな人もいるけれど、よっぽど本人が人前に立ちたくない場合を除いて、自分で言った方がいい。一番支援をしてくれるのは先生ではなくて、同級生だったりする。中学よりも高校、高校よりも大学の方が、みんな大人の対応をしてくれる。だから、今に絶望しないで学校生活を送ってほしい。