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日英シンポジウム2000「高齢者と障害者の自立と社会参加の促進:NPOと企業・行政の役割を探る」

プレゼンテーション報告:「障害者にとっての自立と選択」

ニック・ぺリング

ニック・ペリング

皆さん、おはようございます。ご一緒できてうれしく思います。  今日はDLF(the Disabled Living Foundation)がこれまで経験してきたこと、また私たちが組織としてどのように発展してきたかについてお話します。

DLFは障害者が自由を獲得し、そして選択肢が得られるようにするために日々働いています。私たちの場合は専門家のアドバイスですとか、データベースよって情報を提供するということをしています。特に障害者のための器具についてのアドバイスや情報です。これは直接障害者本人にも提供されますし、またヘルスケアの専門家を通して提供することもあります。今現在イギリスには750万人から800万人の障害者がいるといわれています。そのうちの最低400万人が何かしらの器具を使っているといわれています。イギリス政府はおよそ2億5千万ポンドという巨額のお金をこの分野、つまり障害者の器具に費やしております。また今後ともこの予算はさらに増加するということがいわれています。日本でも同様の傾向にあると伺っております。

さて我々が作りましたデータベースにはすでに1万8千個以上の障害者のための器具についてのデータが入っております。また2千を超えるメーカーですとか供給者の情報も入っております。データベースとしては非常に大きなものです。とはいえ、このデータベースの中に入っている器具が最高のものであるとは必ずしも申し上げられません。なぜかというとその器具を実際に使うユーザーとそれからそれを買う人たちの間にはやはり認識の違いあるいはギャップがあるからです。必ずしもユーザーのニーズを吸い上げた人が器具を購入するというわけではない、それが事実です。ただ今日は障害者の器具がどうしたということについて話をするよりもDLFという私の組織がどのように成長したかそして障害者と社会とどのように関係してきたかについてお話ししていきましょう。

DLFは典型的なイギリスのボランタリー組織ということで生まれたんですが、もともとは裕福な女性が立ち上げたものです。この女性の近い親戚の人が障害を負ったため、彼女はそれに対して何かをしたかったわけです。ですからまずは障害者のために何かをする組織ということでスタートしたわけです。もちろんこの女性は裕福でしたから、相当の資金をそこにつぎ込むことができ、これでもって自分の知り合いを理事に、そして組織として始まったわけです。ですからこの時点では障害者のために何かをする、障害者のための組織だったわけです。

立ち上げ以来、DLFはたくさんのいい仕事をしてきました。さきほどちょっとご紹介がありましたけれども、障害者のための器具センターを初めてイギリスで作りました。これはつまりショールームみたいなものですから障害を持つ方、あるいはその家族が自由にそこにきて必要な器具を買うということができるわけです、また作業療法士の人たちに色々な最新情報を提供するということもずっとやってまいりました。

さらに一般社会の人たちの、失禁に対する態度やアクセスに対する考え方を何とか変えていこうということも努めてまいりました。DLFには最初の時代から多くの作業療法士が活動に関わっており、そして彼らのサポート、また彼らに対する情報などのやり取りによって大きくなってまいりました。イギリスも特にこの2、30年ですが、多くの変化を経てきました。

特にこれは障害者に対する姿勢が変わってきたということなんですけれども、今ではDLFはこれらの変化を通して、時には導き、時には導かれながらユーザーと新しい関係を作ってきました。もともと作業療法士がいろいろ、活発に活動してきたこのグループなんですけれども、その後時代は変わりまして障害を持つ人たち自身が自分たちが発言したい、自分たちの気持ちをもっと聞いてほしいと思うようになりました。

これまでは障害者にはこれをしてはいけない、これはあなたにはできるということをいわれてきたわけですが、彼らはそうではなくて自分たちがそれを決めてやってみたい、自分がやりたくないならやらないという意思をどんどん伝えたくなってきたわけです。非常に過激な障害者もいて、昔ながらの組織、あるいは昔ながらのボランティア組織とは何も一緒にしたくないという人もいました。そのような状況下にあってもDLFはまだ作業療法士に情報を提供しましょう、アドバイスを提供しましょう、障害者自身に同様の情報を提供しましょうというスタンスをまだ変えていませんでした。しかしながら今度は政府も障害者の声に耳を傾けなければいけないという認識を深める時期がきました。となるとDLFが十分な役割を果たせなくなっていたという現実に直面したわけです。そのギャップを何とかしなければならないということで我々も認識を変え、そして今度は障害者のためのというよりも障害者も参加した組織として活動を変えたわけです。その結果、今では私どもも積極的に参加し、雇用差別を受けない権利、物やサービスにアクセスできる権利、身の回りの世話などを自分で決める権利、こういった権利を国にも働きかけ、そして国も認めるようになりました。こういった権利はつまりは自分の命、暮らしをコントロールする権利のことです。

こうは申し上げていますけれども、障害を持った人というのはどういう人なのかという定義に話は戻ってしまいます。理想的には障害を持った人でも社会に十分にアクセスできるというのが一番いいのでしょう。つまり他の人とまったく何も違わない、同じような形で社会に参加できるというのが一番の理想でしょう。しかしながら今の社会でそれが出来るかというと残念ながらその環境は整っているということはいえません。従って、目に見えない差別もまだまだあるわけです。しかし私たちは我々の活動、また障害者の声を聞くことから次のように考えています。誰かが社会にアクセスしよう、あるいは社会に参加しようとするのを阻むものは障害者自身ではない、障害者にストップをかけているような社会のバリアこそがアクセスを阻むものなんだという風に考えています。ある人がビルに入りたい、だけれども車椅子だから入れないということになれば問題なのはその障害者ではない、ビルの設計なんです。そういう風にものの考え方を変えたわけです。医療モデルから社会モデルへのシフトというのは、障害者の機能に問題があるのではなく、障害者をとりまく社会環境に問題があるという認識の変化です。障害者にとっての問題の解決ということを考えたわけですけれども、もちろん何らかの障害を抱えているということを否定するわけではないんですけれども、人々の持っている機能をふさわしく使っていくということを考えるようになったわけです。そういうふうにすることによって社会へのアクセスを誰もができるようにしようということなのです。

初期の権利運動のころの熱気は落ち着き、DFLが今共通のアジェンダということで取り組んでいるものは、障害者、健常者を一緒の場所で働くようにするということ、そして選択を可能にするということです。そしてまず福祉機器というところから始まりました。そして最近の監査コミッションで出ましたことですけれども、我々が抱えている重要な役割というのはその障害者が自由を獲得するそして自立を獲得するということでございます。

我々の組織の20%のスタッフ及び40%の理事が障害者であり、今年はこれが50%になる予定であります。これをすることによって我々が組織として障害者が望んでいることを保証することが出来るわけです。そしてユーザーグループなどを使って新しいサービスの開発を考え、またメインのスタッフ、そして理事もこの組織を運営するにあたって、より障害者に焦点を当てて彼らのニーズを理解した上で運営していくということです。そしてこの組織がオープンであるということも重要であります。スタッフが貢献出来るような個所がたくさんあるということが大事であります。

国民保健サービスが出したのは新しいプランでありますけれども、今後の展望といたしまして、まず福祉機器にどういったあるいは福祉機器サービスにどのような問題があるのかということをその中でうたっております。そしてただ新しいポリシーを作っていく際に障害者がどれだけ関われるのかということも考えているわけです。あるポリシーを現実にしていくというところでは携わっているところがあるわけですけれども、新しいポリシーの開発ということを考えなくてはなりません、まだまだやらなければいけないことはたくさんあります。

イギリスの企業というのがどれだけ障害者を雇っているのか、これはまだ非常に少ないわけです。60%の障害者が職がないということ、そして職が探せる割合が健常者に比べて六分の一であるということがいわれております。約50万人ほどが失業状態にあるということがいわれております。そして障害者差別禁止法によって、サービスへのアクセスというのが保証されているにも関わらず、これは現実的にはまだまだ少ない、つまり社会の完全なアクセスがないということです。NGOは今、この差別という分野に取り組んでおりますけれども、我々が確認していかなければいけないのは最善のとりくみをしなければならない、雇用の政策にしても商品あるいはサービスへのアクセスにしても、最善の形を打ち立てなくてはいけない。そうすれば他の企業がこれをみて真似することができる。もし、NGOがそれをしないんだったら、誰が一体それをするんでしょうか。ですからまだまだやらなければならないことはたくさんあります。政府のこともきちんと監視していかなければいけません。障害者差別禁止法を作りました、障害者差別禁止法委員会を作りました、権利委員会も作りました、しかし政府としてはこれで全てが終わりだと考えてほしくないわけです。ですから法律ができたということだけで満足してはいけない、それからまた教育上の役割もあります。たくさん、多くのニーズがあるわけですね、どのようにして差別を減らしていくのかというようなこと、これは本当に教育のプロセスに関わっていると思います。それからまた障害者に対して情報を提供するというニーズもあるわけです。そして彼らが自由と選択肢を獲得できるようにするということが目標です。このようにして継続的に努力をしていくということが必要です。それこそまさにNGOがこの役割を発揮できる分野ではないかと思っております。ありがとうございました。