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2001年GLADNET年次総会

フォーラム 若年者の雇用と高齢労働者のパートナーシップの創造と効果的な実践

講演 Susanne Bruyère氏
(コーネル大学(アメリカ) 産業・労働学部 雇用と障害プログラム責任者)

 本日は主催者の皆様そして河村宏様お招きいただきありがとうございます。アジア太平洋地域ではエキサイティングな事が起こっているのでたくさんの事をこちらに来て学んでいけると思います。バーバラ・マリーさんと私から今日は技術とITが障害者や若者、高齢者の雇用をする上で何ができ大切なのかという事をアメリカの状況を中心にお話します。皆さんの感想も伺いたいです。色々な話をしますがポイントになるのはまずなぜこの問題が重要なのかという背景です。アメリカではADA施行後の今でも障害者と障害のない人の雇用率の格差があります。雇用の準備にも格差があり出来れば技術やITを使って雇用が拡大する事を願っています。チャンスだけではなく挑戦課題もあるわけですのでそれをふまえ、河村さんの要請があったコーネル大学で行っている高齢化の調査もまじえて話をします。若い人がこれから雇用をこれから確保するかという問題だけではなく長年働いてきた人たちが高齢化とともに障害が出てきた時に技術を使って、いかにサポート出来るかという話です。トレーニングにも触れたいです。アメリカでは今でも雇用機会の格差が障害者にあります。雇用率は失業率全体は4%位ですから今までにない高いレベルでは推移はしています。健常者は男性の雇用率95%、女性は82%ですが障害者は、男性34%女性33%です。障害タイプによって違いがあり特に格差が著しいのは重度障害がある方で雇用率26%です。重度で無い場合の方は78%です。体に障害がある人は一番難しく34%です。知的障害は41%、視覚障害44%、聴覚障害が64%であります。コーネル大学では4年間にわたり雇用者側が何を考えているか調査をしました。全米で1000を越える雇用者の調査をしました。アメリカでもイギリスでも障害者に対する差別を禁止する規定がありますが人事関係者の対応をイギリスとの比較をしました。調査では法律上は差別は禁止されていますが実際雇用者側が何をしているのか、またどういった態度を持っているかということを調べました。昨日話が出ましたが日本と似た結果が出ました。仕事の監督側はどう対応をしてよいのかわからないといった声があります。障害者に対しての訓練が不足しており雇用者側も十分な訓練を受けた人ならば雇用しても良いのだがという声が聞かれました。従って若い障害者に対しての訓練が重要であとがわかります。アメリカでは教育のレベルにより雇用率の差がある事がわかります。より高い教育を受けていれば雇用レベルが上がります。女性よりも男性、あるいは少数民族の雇用率も低いという現実があります。色々な格差があるわけですが、障害者の場合も所得レベルは一番高いところまでは届かず、仕事の内容も事務、機械のオペレータ、調理、販売職が多くなっています。IT部門は日本でもアメリカでも大きく伸びていますが障害者のIT分野での進出はコンピュータサイエンティストが0.8%、コンピューターオペレータが0.7%、プログラマーが0.2%にしかすぎません。具体的な資料については昨日お配りした資料をご参照ください。ナスダックは先月までは良かったのですが今は良くないですがいわゆるドッドコムと言われる企業の成長が著しいです。それに伴ってスキルレベルの高いIT分野の労働者が求められています。データをご紹介すると1985-96年アメリカのIT分野の雇用は2倍の50万人から100万人に増えました。またアメリカの労働統計局によると2006年までにさらにコンピュータプログラム、コンピュータサービス分野の雇用は2倍の200万人になります。ITには雇用のチャンスがあるわけですが、IT以外にも伝統的な分野でもITをよく使っている分野では成長が見込まれています。2006年までにこの分野でも560万人の雇用が見込まれてます。もう少し基本的なデータに移ります。一般の数字ですがアメリカの国民の52%はコンピュータを所有しています。家庭でのインターネットのアクセス出来る人は31%です。したがって在宅勤務が可能となってきました。そして、テレワーク(在宅勤務)の方が一般よりも時給が12%高くなっています。またITが普及するに従って仕事に必要なスキルは肉体的なものから認知的スキルに変わってきました。これまで肢体不自由の雇用率が低かったのですが現在在宅勤務が可能になってきた今、認知スキルを生かせば雇用率を高めることが出来ます。日本でも色々な技術がより安価で得る事が出来るようになってきました。技術が利用しやすくまた、在宅勤務がしやすくなってきたという事です。

 障害者の雇用にはチャンスと克服しなければならないチャレンジがありますが、チャレンジといってもこれをプラスに考えなければなりません。ITにより新しい雇用が生まれてきていいます。障害者の雇用を支援したい人にとってもチャンスがあります。新しい形態のトレーニングが可能となりスキルを身につけ障害者の雇用の支援が出来るようになりつつあります。まだ十分に活用はされていませんがインターネットにより昔には出来なかったような新しい形のコミュニケーションも可能となりつつありあます。通勤が出来なくても在宅で快適なサポートを受けながら自分のスケジュールに合わせて行うテレワークというものがあります。これだけのチャンスもありますが同時にチャレンジもあります。こういったチャレンジを克服してはじめて障害者の方が雇用を得ることができます。昨日も話に出ましたがアクセスの問題です。これには政策やアドボカシーが必要です。アクセシビリティを本当の意味で実現しなければインターネットがあっても使うことが出来ません。インターネットに皆がアクセス出来なければならないのです。これまでの仕事ではいわゆるローテクがハイテクに変わってきました。その分新しい仕事が生まれますが自分の競争力をつけ自分の労働力の市場価値がなければ仕事を失ってしまうので常に新しいスキルを身につけなければなりません。ITも進化するのでそれに合わせて自分の技能の訓練が必要となります。どういった仕事があるのかを知った上で教育訓練を行い雇用者に対しても雇用が障害者にとって可能であるものに変えてもらわないといけません。職場の環境を障害のある方でも仕事がしやすいような雰囲気に変えてもらう努力も求める必要があります。雇用者に対しても障害者の雇用が価値があるという事を提示しなければなりません。

 アメリカではバリアを克服するために政府助成金が実施されています。ここ数ヶ月の例ではこれから雇用を求める人たちに対する教育訓練の助成金もありますし連邦のプログラムでもITを促進しようというものもあります。政府の助成金は2つあり5月15日締め切りの障害者のためにITを促進するというプログラムはアメリカの労働局が提供しています。一件あたり30万ドルから60万ドル、年間トータルで280万ドルという助成です。まだ大きな額ではないですがこれをきっかけに更にすすめていきたいと思います。また、政府に対してはこういった助成の重要性を認識させなければなりません。教育機関や民間機関や障害者にサポートを提供する人たちも協力をしていく必要がありあます。障害者のために特定されてはいませんがその他に1億3500万ドルが技術的なスキルのトレーニングのため政府より助成され、300万ドルが上限となっています。いわゆる技術というとコンピュータプログラミングとなってしまいますが、それだけではなく技術に関連するスキルをより広く応用していこうという目的があります。

 もう一つ紹介したいのはこれまで2年間行われてきた連邦政府の大統領行制令です。障害者のためのADAという法律がありますがそれだけではなくまず連邦政府がモデルを示そうというイニシアティブがとられ大統領が行制令を出して5年間で連邦政府10万人の障害者雇用を創出するというものです。これに基づき59の連邦省庁では今ある仕事の中で障害者であっても出来るテレワークの仕事を無いかどうか探し、無ければ作り出す事で新たに10万の雇用創出の指示が出ました。重度の障害のある方がターゲットとなり各省庁で仕事のチャンスがあれば必要なサポートをしなければならないとの指示も出ています。コーネル大学は96の省庁を調査し各省庁で障害者の新規雇用を確保出来るような活動を支援しています。仕事を作り出すだめにはトレーニングの制度を作りどこからでもトレーニングが受けられるようにしないといけません。ウェブサイトがご覧になれると思いますが詳しくはそちらを見て下さい。

 ナショナルトレーニングインスチュチュートでは障害者は在宅で雇用に必要な技術関連のトレーニングを受けられます。こういったものをテレトレーニングと呼んでいます。マンパワー社もインターネットを使ってグローバルラーニングセンターという名前でトレーニングを提供しています。こちらは障害者だけではなく広く一般向けです。テキサスにノーアビリティという組織があり、これは障害者の皆さんにITの分野でどのようなキャリアが求められているかという情報を提供しトレーニングが受けられるように支援しています。詳しくはウェブページをご覧になってください。

 さてIT分野でのチャンスですが今では在宅で教育を受けることが出来ます。健常者は52%がコンピュータを持っていてインターネットのアクセスも31%ありますが障害者の場合はその半分しかありません。まずは、インターネットとコンピュータ利用の可能性の格差を克服する必要があります。昨日も話が出ましたがまずウェブサイトへのアクセシビリティの問題があります。ウェブサイトもアクセスが出来なければ使うことが出来ません。テキストへのアクセスというバリアを越えていかなければなりません。

 もう一つのバリアはインターネットのリサーチ機能にあります。多くの企業は求人にインターネットを使う方向に向かっておりこれが障害者への新しいバリアになっています。ウェブにアクセスが出来なければオンラインで申し込みをして履歴書を送ることも出来ないわけです。企業のインターネットを使った求人活動は急伸しています。ウェブを使った業務処理をするセルフサービス型ウェブサイト機能を利用する企業も増えています。例えば健康保険の登録もオンラインでの申込は99年には10%だったのが2000年度には39%にまで増えました。またオンラインでの個人データの変更サービスを使った人は13%から31%に増えています。401K(確定拠出型企業年金)の変更も12%から35%に増えています。退職年金等もオンラインで処理されています。そして雇用に関しても同様な傾向が見られます。大卒の雇用に関して三分の二以上の企業がインターネットを通じて求人を実施しています。何か仕事を探す人はネットにアクセスしないといけないのです。上位500位までの国際企業の79%は2000年度インターネットで求人活動を展開しています。98年度には29%、99年度には60%でしたからその伸びは顕著です。この企業の内訳は北米企業90%、ハイテク企業は100%、小売企業は89%、金融企業は73%が入っています。いかに全ての分野の企業にとってインターネットが求人に使われているかという事です。とりわけハイテク企業はそれが顕著でヒューレッド・パッカード社は履歴書5万通をデータベースの形で持っています。シスコシステムズは履歴書の81%をインターネットから受け付け新入社員の66%はインターネットから雇用を得ています。他の企業でも似たような傾向がみられます。驚くべき事はオンラインの求職者の65%は非技術系の職業なのにインターネットを使って求人が行われているということです。2万8千500以上のウェブサイトで求人がなされており、モンスタードットコムという就職サイトでは求人数は47万件です。フォーチュン誌掲載企業のトップ500企業の5分の4がインターネットで求人を掲載しており求職数は1200万件で様々な分野を網羅しています。この統計は何年度の分かはわかりませんが最近の数字だと思います。企業がインターネットでの求人をしているために使い方を気を付けないとプロセス自体が大きなバリアとなりかねないという事がわかりました。

 次ぎのチャレンジは身体障害者にとっても認知的な要求が高まっているという事で認知障害や学習障害のある人たちにはより大きなチャレンジとなっています。このような仕事に対しても競争性を高め技能を維持しアップデートする要求が障害者にも高まってきました。ここでもインターネットのアクセシビリティが確保されなければなりません。

 どれだけ頑張っても仕事と人が適材適所でなければバリアとなりかねません。障害者が仕事を得ること、働き続けることに対する偏見がまだ職場にはありこれもチャレンジとなります。

 高齢化という問題も二つの理由で重要です。障害者に関しては加齢による症状が多くなるという可能性があります。テクノロジーが障害を補う場合もありますし反対に壁となる場合もあります。企業にとっても労働者の高齢化は課題となり障害者の雇用が保持され続けるという事が難しくなります。アメリカの労働力の高齢化も世界各国と同様に見られます。アメリカでは45-54才55-64才の年齢層を見ますと今後10年後でそれぞれ4420万人と3500万人へと増えていくと予測されており伸び幅は17%、39%です。2010年までには労働人口のほぼ半分の44%が20-64才になっています。可動性、視覚、聴覚の問題すべてが加齢と関わってきます。少子化の影響で若年層の労働人口も減少していきます。むこう10年で25-34才、35-44才の年齢層は1%、6%の割合で減っていきます。高齢化と少子化の傾向でより高齢者が増え、社会保障の政策もが変わり高齢者の労働が促進されていく事になります。2003年には年金の受領開始年が65から67才に引き上げられます。2000年の3月時点で65-69才に対してあった社会保障を受ける所得限度が撤廃されました。企業側が雇用を維持していきたいという傾向が読みとれます。このように労働力が高齢化していくと障害による仕事の限界も増えていきます。25-34才の年齢層の7%が仕事の限界があると言われています。45-54才に関してはこのような制約が10分の1から6分の1に増えると言われています。55-61才でも同様です。年齢層別で見てみましたが障害者でも同じ現象が見られます。体力、耐久力が落ちる、反応が鈍くなる、関節炎が増える、視覚聴覚障害が出てくるという傾向は健常者の加齢でも障害者にも見られる共通現象であります。障害者においても機能に障害がある人の雇用は下がっていくだろうと思われます。

 この現象に対してアメリカでは機能を在宅で、職場で維持するためにRCというリハビリテーションと技術の研究プログラムの基金が設立されでサクセスフルエイジングのためのテクノロジーの研究をしています。日本でも同様素晴らしい研究が見られます。こういったテクノロジーによって身体的なアクセシビリティだけではなくコミュニケーションのアクセシビリティを確保し健康を監視していくという事も医療関係団体によって行われていきます。これは教育省、国立障害者リハビリテーション研究所から資金提供を受けている新しい基金により実施されています。

 まとめに入ります。リハビリテーションと障害者の政策研究サービスの提供に関して考えられる事です。仕事とトレーニング学習分野におけるしっかりしたビジョンの確立が必要です。これは高齢者だけでなく障害者に関しても言えることです。障害者の人々はITの仕事の選択肢についてもきちんと知らされるべきです。例えばどういった事が話題になっているかという情報、ITのニーズは何か、技術系、非技術系でどのようなニーズがあるかといった事を知らせていくことが必要です。また遠距離学習の機会も障害者には特に促進して行く必要があります。この実現には各国の規制当局がインターネットや関連のテクノロジーへのアクセシビリティを監視していく必要があります。IT分野の障害者雇用には雇用者側に何らかの奨励策を作っていく必要もあります。

 引用した統計、urlなどの参考文献をリストアップしましたのでご参照ください。セクション508というアメリカの規制で全てのテクノロジーのアクセシビリティに関するものも載せました。グラドネットのウェブのurl等も載せましたのでご覧下さい。

ご静聴ありがとうございました。


・ World Wide Web Consortium (W3C) accessibility Initiative.
http://www.w3.org/wai

・ Tool to test Your Web Site's Base Accessibility - Bobby
http://www.cast.org/bobby

・ Job Access with Speech (JAWS)
http://www.hj.com

・ Life Beyond Yahoo: Disabled Web Access
http://servercc.oakton.edu/~wittman/find/disabled.htm
(Collection of links on accessibility specifics)

・ Information Technology and Disabilities, Vol. VII No. 2 April, 2001
http://www.rit.edu/~easi/itd/itdv07n2/contents.htm