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途上国の障害分野における人材育成の今後の課題

琉球大学 教授 高嶺豊

 今回のパネルディスカッションは、途上国の障害分野における人材育成と国際援助機関の関係についてさまざまな視点から議論がなされた。その中で、人材育成の効果的な方法をグッドプラクティス(成功事例)として検証できたことは、一つの大きな成果であった。

 今回明らかになったことは、人材育成には十分な時間と資源の投入が必要であることだ。ダスキンの研修プログラムを通じて、人材研修の成功要因として挙げられた点は、(1)研修生の選考に現地で本人や家族の面接を行っていること、(2)研修プログラムは研修生のニーズに合わせた個別研修が主であること、(3)研修後のフォーローアップとして、研修先のネットワークを通じて人的、資金的な支援を行っていることなどである。そして、このプロセスには、膨大な時間と、多くの資源が投入されている。
 世界銀行の報告書の中で、これまでの障害支援プログラムは、小規模で、ピースミール(断片的)な取り組みで、成果は限定的であったと分析している。そして、今後は長期的な計画に基づく総合的なプログラムが必要だとし、そのために十分な資源の投入が必要であると提言している。ダスキンの研修プログラムはこの提言に沿うものであるといえる。

 さて、国際的な障害分野の動向として、2006年12月に「障害者の権利に関する条約」が国連総会で採択された。現在加盟国による批准のプロセスが進んでおり、2008年5月には20カ国が批准し正式に条約が効力を発する。条約の採択を受けて、これまで障害問題に余り関心を示してこなかった国連の開発関係機関が、障害支援を開発計画の中に包含する動きが顕著になっている。その例として、国連開発計画(UNDP)は、途上国政府のUNDAF(国連開発援助枠組み)やCCA(国別共通アセスメント)に障害支援を包含することに着手したとのことである。
 また、2000年に採択された国連ミレニアム開発目標(2015年までに貧困率を半減等)を達成するためには、開発プログラムに障害支援を包含する必要があるとの認識が高まり、国際開発金融機関では、障害支援をメインストリーム化する取り組みが始まっている。世界銀行、アジア開発銀行、日本国際協力銀行等が既にインフラ事業や開発事業に障害支援を包含し始めている。
 このように障害は今後開発分野に包含されることになって行くと予想される。このことは、開発分野の潤沢な資源が投入されることになると同時に、開発関係者と協力して活動することが増えることになる。これまで、障害関係者は、当事者を含め狭い領域で活動してきたが、これからは、開発分野の様々な領域で協働することが要求される。そのためには、障害の経験をもち、視野の広い、専門知識をもつ人材の育成が重要になっていく。  「障害と開発」の視点に立った人材育成が喫緊の課題である。