音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

講演1 中国のコミュニティにおける、障害者の自助実現に向けての実践的取り組み

北京知的障害者コミュニティサービス機構代表 孟維娜(モン・ウェナ)

司会 さっそく、講演に移ります。お1人目の講師である孟維娜(モン・ウェナ)さんのご紹介を赤星さんよりお願いします。

赤星 社会福祉法人日本キリスト教奉仕団は今年で50周年を迎えます。

ESCAPの障害者支援行動計画の一環として、東南アジアのための人材育成の項目があり、それに呼応して1980年からアガペ交換研修プログラムを実施しています。孟さんは1988年に、そのアガペ交換研修プログラムの中国からの研修生として、日本においでになりました。

孟さんは、中国・慧霊(ホイリン)という団体の創始者です。1985年に中国大陸で初めての民間の知的障害児の特殊学校、広州民間至霊学校(日本語名:ずりんがっこう)を創立しました。

日本に来て、福祉の勉強をしたことでさまざまなインスピレーションを受け、1989〜90年にかけて、16歳以上の知的障害者へのサービス提供として、職業訓練、自立支援を始められました。現在では、北京、西安、西寧、天津、清遠、重慶、長沙、広州、蘭州、香港など、10か所に拠点が広がっています。

では、孟さん、よろしくお願いします。

 私は1988年に初めて来日しましたが、日本に来たことは私の人生に大きな変化をもたらしました。当時、中国改革開放は始まったばかりでした。障害者教育に関して専門的な情報が欠けており、人権に基づいてサービスを提供するという思想も概念もなかったのです。1980年代に私たちがつくった特殊学校が中国で初めての学校なのですから、自慢にはなりません。中国が遅れていることを示すだけです。

自分にふさわしい形で働く

私たちの目的は、すべての障害者が社会に平等に参加し、また社会的な成果を共に喜び合えることです。私たちの願いは障害者たちがこのコミュニティで楽しく共に過ごすことです。私たちはコミュニティにたくさんのグループホームをつくりました。1つのグループには生活指導員が1名いて、利用者は5〜6名です。人数が多いと思われるかもしれませんが、経済的な面を考慮しました。皆で楽しく一緒に生活しています。

北京と西安は世界的に有名な観光都市ですので、四合院で活動を広げています。旅行会社にお願いしてお客様を施設に呼んで、餃子をつくったり、書道を教えたりしています。また、中国舞踊の披露や特徴のある手芸品をつくって販売もしています。旅行会社から少し手数料が入ります。

最初はあまりうまくいきませんでしたが、最近、このツアーはとても人気があります。私たちの技を見たい人たちは、必ずこの旅行会社のツアーに参加しなければならない仕組みになっているからです。旅行会社にとってもメリットがあるのです。

職業指導の写真

昨年から私たちは大きな企画を打ち出しました。それは、外国の新婚さんたちに中国式の結婚式をあげてもらうというものです。将来的には、結婚式だけではなくて、旅館もつくりたいと考えています。

大切なことは、お金を儲けることだけでなく、すべての利用者が企画に携わるうちに、自分にふさわしい仕事を見つけることができるという点です。

パワーポイントにあるそれぞれの職業は、簡単な仕事ですが、皆にとって大切な仕事なのです(右写真参照)。こういったプロジェクトからはお金もいただけますので、働く皆も意欲満々です。

利用者は施設をただ利用するのではなく、タイムカードもありますし、自分がどのくらいものをつくったか計算することができます。もちろん、どのくらい儲かったかも計算しています。このような仕事は1人ではできませんので集団で取り組むことが人間関係にもよい影響を与えています。

コミュニティも巻き込んでよりよい方向へ

私たちが行っていることは、コミュニティにもよい影響を与えています。

外国のお客様が私たちのツアーに来ると、近所の店で買い物をするので、コミュニティに利益をもたらします。以前は、多少、軽蔑されている感じもあったのですが、次第にコミュニティが私たちを認めるようになりました。2006年、私たちは初めてコミュニティの選挙に参加しました。

私たちは、観光ツアーを組むことが目的ではなく、利用者がその地方のコミュニティでよりよい生活ができるようになることが目的なのです。工業企業がたくさんある都市では、外国企業の仕事を含め、簡単加工事業をしています。同じ観光関係の仕事であれば、利用者たちは北京で仕事をしたいと思っています。

知的障害者の現状と課題

仕事はもちろん楽しいのですが、いろいろな問題も起きています。

中国の知的障害者は、これまではほぼ家に閉じ込められていましたが、慧霊の利用によって、生活への視野が広がり、異性に対する興味も抱くようになってきました。

2003年、施設の中で男女関係に関する事件がありました。私たちは男女の性的な関係ととらえたのですが、女性の親が施設と男性を訴えて強姦事件になりました。メディアはこの事件を大きく取り上げ、知的障害者の性の問題をどう扱えばいいのか、たとえば、結婚をしていいのかということも含めて、注目されました。

私たちは、この事件を強姦事件としてみなすことに納得できません。今、弁護士と相談しながら、これからの対応を考えているところです。私たちがなぜ納得できないかというと、当時の判事が、2人の知的障害のある当事者に「あなたたちはこのようなことをしましたか?」と尋ねたところ、2人がそのままうなずいたため強姦事件になったのですが、しかし、私たちが2人に「してないですよね?」と聞くと、彼らは「してません」と答えたのです。

中国では、知的障害者と性的関係をもつと、すべて強姦事件と判断されます。このケースも強姦事件として扱われました。でも、中国にはまだ知的障害者同士の性的関係をもつことをどのように考えるのかということについてきちんと定まったものがないのです。これから施設の中での男女関係にどう対応していくか、私たちにとって大きな課題となっています。

利用者の保護者たちが施設に対して不信感を抱く場合もあります。女性利用者の親の不信感が特に強いようです。わが子に問題が起きないように、いつも警察のように監視するように言われたこともあります。

さらに、中国には私たちのような民間組織に対しての支援がありません。資金の問題はとても大きい問題です。保険の対象にもなっていません。施設を運営していると、事故などいろいろな問題が起きますが、保険というフォローがないために施設を閉鎖せざるをえない場合もあるのです。

改革開放後、中国では欧米のマネがよく見られます。しかし私たちは、すぐ隣の国である日本の支援を求めています。日本は私たちと同じ文化・思想をもっていると思うからです。

ありがとうございました。

司会 ありがとうございました。