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発表 「国際開発協力と障害者の人権活動との連携:マルチ開発協力専門家の視点」

司会: 今日は、長田こずえさんをお迎えして、開発における障害に関する懇談会ということでお集まりいただき、ありがとうございます。

 こういった会合はこれまでJANNET(障害分野NGO連絡会)、または日本障害者リハビリテーション協会でも開催してきたのですが、もう少し突っ込んで、開発一般の中に障害を含めていく活動というのはどう可能になるか、今日は実践されている方々も来られていますので、そんなお話もぜひしたいと思っております。

 今日は懇談会ということで呼びかけましたところ、予想以上にたくさんの方がお集まりくださることになりまして、会場はセミナー形式のようですが、あくまでも懇談会として進めさせていただきます。

 初めに長田さんからお話をいただき、その後、既にお声をかけております6人の方々からそれぞれの活動を5分くらいでご紹介いただきます。その後、フロアの皆様からの長田さんへのご質問やディスカッション、皆様からの活動紹介もぜひお話いただければと思っております。

 それでは始めに、国連ニューヨーク本部経済社会理事会支援事務局開発協力政策課で経済担当の上級事務官としてお仕事をされております、長田こずえさんから、20分から30分くらいお話をいただきます。

 どうぞ皆さん、長田さんをお迎えください。

長田: こんにちは、国連事務局の長田です。ありがとうございます。

 今から始めさせていただきますが、ちょっと最初に質問があります。今日参加しておられる方の中で、どちらかというと障害問題の専門家というよりも、開発の専門家である方は、何人くらいおられるでしょうか。挙手をお願いします。はい。それでは、どちらかというと自分は開発の専門家ではなくて障害の専門家であるという方は手を挙げてください。大半が障害の専門家ということですね。今日はちょっとそのバランスをうまくとらなくてはならなくて。

 これに関して三つの話題があります。先に手を挙げていただいた開発専門家の方には、なぜ今障害なのか、なぜ開発分野で障害をやらなければならないのかを説明したいと思います。そして大半の、一応障害の専門家の方、NGOの方とかには、もう障害の話はあまりしないで、開発ということは一体何かについて話します。開発の基本というか、今世界の開発の分野で何が起こっているのか、ちょっと障害を離れて、開発のことを勉強してみようと思います。

 基本的には、どうしたら具体的に現在の開発の世界の、あまりない予算を特に増やさないで、うまく開発と障害を連携させることができるのかということを、考察したいと思います。

 余談ですが、基本的に目的としては今、開発の分野で障害をやっている人を勇気づけたいというか、そちらで頑張って、今やっていることに自信を持って欲しいというか、もちろん向上させなければいけませんが、今皆さんがやっておられる活動を継続するということはとても大事だと私は基本的には考えております。そういう視点で話を進めます。

 すみません、障害専門の方はちょっと耐えてください。開発の専門家の方がおられますので、障害のこともちょっと言いますね。これは開発の人向けです。

 障害の世界ではいまいろいろなことが起こっていますが、大事なこととしては、国連の人間の立場としては、国連の国際権利条約(国連障害者の権利条約)というものができました、このことは大切です。そのインパクトというのは非常に大きい。国連はいろいろな条約とか条文とか決議案をどんどん信じられないくらいの数で生み出していますけれども、国際権利条約というのは国連の中でも非常に大事なものであって、そのインパクトはとても大きいということですね。これは私もそう思います。ですから、国連の国際権利条約に基づいて国のODA(政府開発援助)の指針に影響を及ぼしたり、あるいは地方の条例(千葉県の差別禁止条約など)とか、あるいは国家計画とか地方自治体の政策サービスに対する影響が出てくるのは当然だと思います。

 障害の分野でも最近の新しい国際的な動きとしては、国連のWHO(世界保健機関)などが中心になりまして、障害の定義とか障害のカテゴリーなどが変わってきたのですね。それは簡単に言うと、障害を障害者個人の問題にする障害の「個人モデル」「医学モデル」から、社会が障害を作り出しているのだ、社会に責任を求める「社会モデル」、社会の態度などに移転していくというこの社会モデルに変わってきたということですね。

 それから、開発と連携のしやすいところでは、国連のWHOなどが、コミュニティ・ベースド・リハビリテーション、すなわち、CBR(Community-Based Rehabilitation:地域に根ざしたリハビリテーション)といったものを提唱したりしています。今は世界の各地で、障害者の10年ということが生まれて、アジアにもアジア太平洋障害者の10年、2003年から2012年というものがあったりします。こういう状況にだいたいなっているのですね。

 権利条約も、これも時間がないので手短に話しますが、有効になったのは今年からです。今年の5月から権利条約は有効になりました。そしてこれは、国際的には8大国際権利条約の一つとして、開発の方はCRC、子どもの権利条約というのはよくご存知だと思います。それから、有名なものとしては女性差別撤廃条約というものがあります。これはすべて人権条約ですね。そういったものと同じステータスです。これは障害の分野では画期的なことだと私は思います。何カ国が批准したとか署名したとかはちょっと飛ばしますが、これが有効になるというのは最低20か国の批准が必要で、障害者の権利条約も初めて今年の5月に有効になりました。

 だいたい今何か国が署名したかというと、10月の段階で135か国が署名をしております。日本の状況は、日本は、署名はしたのですけれど、まだ批准はしていませんから、批准に向けて努力中ということであります。日本と同じような状況の国が、シリアとかイスラエルとか、そういう努力中の国ということになっています。

 皆さん興味があると思いますけれども、ではどんな国がでは署名していないのか。135か国が署名していますから、やる気のない国ですね署名していなのは。

 署名していない国の例としては、イラン、イラク、それから米国といったところがこのカテゴリーに入るでしょう。米国は選挙が終わったから(新しい大統領になったので)、ひょっとしたら変わるかもしれませんが、私はなんとも言えません。

 権利条約の中身としては、開発と関係がある、大変に。なぜかというと、かなりの項目にわたり、人権の中でも社会経済権という人権が入っているのです。それは開発と非常に相性がいい権利だと思います。今は開発だから社会権のところだけを取り出してみましたが、第9条のアクセシビリティ、21条の手話や点字を含む情報に関する項目、25条の健康・医療に関するもの、26条のリハビリテーション、CBR、コミュニティ・サービス、補助器具の提供とかテクノロジーに関する項目、さらに、28条はばっちり社会権ですね、社会経済権。社会保障、収入保障に関する項目。これは結構大事ですね、社会権としては。31条1章の障害の統計とデータに関する項目。そして32条にはまさに、今日の本題ODAなど国際協力に関する項目が入って、かなりの比重で社会経済権、社会権に関する社会権と人権が入っているということで、それはかなり開発と関連があると思います。

 次は、32条に具体的なことがあるのですが、時間もないのでこれは家に帰って読んでください。国際協力に関する義務を義務づけたというところが非常に大事だと思います。障害の専門家、いわゆる障害ばっかりやっている人にとって、開発とは何かという堅い話になりますが、やはり開発には開発のルールがあるということで、開発のルールに関してお話をさせていただきます。

 経済学ですね。やはり開発というのは経済学を見ていかなくてはいけないのではないか。人間の社会経済の状況を向上させるという介入ですから、経済的な介入政策なのですね、開発ということ自体が。ちょっと経済を勉強する必要があります。

 経済とは何かというと、いろいろな定義があるのですけれども、障害に関しては、やはり人間開発の経済学と見ていくのが一番妥当ではないかと思います。我々人間というのは経済的に見れば資源(人的資源)ですから。我々は、人材と定義しています。人的資源。そして最近流行りの言葉ではソーシャル・キャピタルと言っています。社会関係資本と訳しているみたいですね。開発を行って、例えばみんなが使えるような空港を作ったり、アクセシビリティがよくなったりすると、これは公共財(資源)、あるいは公的サービスの改善ということになりますから、経済学としては健康とか公的な知識とか水、環境、その他のインフラストラクチャーはすべて公共財ということになります。そういったものを利用して、人的資源を向上させる、社会関係資本を向上させると考えると、障害者をエンパワーしていくということは、十分経済的に妥当なことだと思います。こういったアプローチを、国連などでは、例えばILO(国際労働機関)がとっているベイシック・ヒューマン・ニーズ(BNH)アプローチとか、UNDP(国連開発計画)などが進めている人間開発アプローチだというふうに定義することができると思います。

 そこで段階になるのが、人的資源というのはどうすればいいかというと、教育とか訓練とか雇用ですよね。人間を、プロダクティビティというか、その生産性を高めるということで、教育、訓練、雇用といったものが重要になってくると思いますが、さらに、ここで社会関係資本としては、やはり障害者が自分たちで自分たちのことを主張するというか、英語ではNothing about us without us、我々のことは我々で、我々を抜きで決めないようにというようなコンセプトがありますが、社会の中での障害者団体、あるいは障害者の自助団体の結成ネットワークなどがこのソーシャル・キャピタルに入ると思います。

 だから基本的に言うと、開発というのは結構、経済学的なものであるから、障害者の問題のすべてを開発で扱うのは無理であると私は信じております。その他にも障害者の問題で大事なことはたくさん、開発以外にもあると思います。例えば、人間の尊厳の問題。障害者の人で非常に重度の方がおられますよね、そうすると人間の尊厳の問題も大切になってきますね。哲学とか。あるいは障害者の文化活動、文化活動もあるいは開発とも言えなくもないかもしれないけれど、開発の主流ではありませんよね。文化活動というか、障害文化ですね。そういう、開発(協力)では解決できないような問題もあるというか。障害者の問題をすべて開発で扱おうとするのは、根本的に全然間違っていると思います。

 次に、ODAのデータを見ましょう。これは私の専門ですから、今はこういう状況になっているのです、ODAは。特に日本のODAはこういうふうに危機にあるのだということを理解してもらいたい。

 開発とは何かというと、非常に経済的なものであって社会的なものであって人間の生活を向上させるものであると言いましたが、国連では開発とは何かというと、いわゆるミレニアム開発目標(MDG)の指標ということで定義しております。それは皆さん大体ご存知かと思いますけれど。ちょっと言いますね。障害の専門家の方を対象に。

 まず、貧困を撲滅する。これは1日1ドル以下で生活する人の数を減らすということですね。貧困撲滅が第一。二番目は初等教育の充実化。これは指標としては児童の就学率を使います。そして男女平等。これは教育における男女の格差を、あるいは就学率の男女格差などを下げます。そして幼児死亡率、これは5歳未満で死んでしまう幼児の死亡率ですね。これを下げるということが第四番目。第五番目が妊産婦の死亡率を下げる、改善する。そして第六番目がHIV/AIDSマラリアその他の病気。そして七番目が環境。これは水とかトイレとかスラムの改善とかそういうことですね。そして八番目に開発のためのグローバルなパートナーシップ。そしてここにODA、国のGNI(国民総所得)の0.7%をODAに回そうということ。あるいは医薬品の問題とか、市場のアクセスの問題、労働の問題ですね、これはナショナル企業の雇用とか、あるいは通信情報に関するものなど、この八つでだいたい国連は、ほぼ大まかに開発というものを開発として定義している。

 これはやはり、ルールだと思うのですね。国連がすべてやれるではないけれども、開発というものの定義はだいたいこういうものであって、それは障害であっても障害でなくても、やはり関わっていかなければならない定義である。

 それを簡単に障害に嵌めるとどんな感じになるかというと、例えば一番の貧困撲滅であればマイクロクレジットとか企業活動とかCBRとか、そういうものが入るのではないか。初等教育の場合は児童の就学率ですから、統合教育、あるいは特別支援教育。男女平等に関しては女性障害者の問題。幼児死亡率などは早期発見とか早期治療、あるいはリハビリテーション、CBR、あるいは障害の原因となったものを遡って減らしていくとか、そういうことが考えられると思います。妊産婦の死亡率の改善については、障害の原因の排除、そして母親、家族の訓練。HIV/AIDS や病気に関するもの、マラリアなどに関しては、リハビリテーション、それから障害者のセクシャリティ、性的なことに関する問題などはCBRなしでは考えられないと思います。七番の環境に関しては、トイレとかスラムの改善、ここにアクセシビリティが入ってくると思います。あるいは障害者のネットワークの構築、ソーシャル・キャピタルの構築などが入ると思います。八番としては、開発のグローバルなパートナーシップ、ここには障害者の参加できる政府の開発援助、つまりODAを作っていく。障害者が中心になってできる開発援助を作っていく。そしてこれに関する支援や、あるいはバリアフリーな通信、バリアフリーな観光、障害者の職業訓練、雇用、障害者団体の地域的な、国際的なネットワーク、手話や点字に関する国際教育、こういったことが全部ここに嵌まると思います。

 九番目ですが、ここは私結構言いたいのですが、その他にもすごく大切なものというか、障害と開発に直接は関係ないと言われるがちょっと大事なものを取り上げてみたのですが、いわゆる障害者文化ですね。開発の主流に文化が入ってくるということは私はないと思います。

 それから大事なこととしては差別禁止法。差別禁止法は法律ですから、それを設定すること自体がとても大事なことですが、その法律そのものが開発協力であるということはあり得ないと思います。ですから、差別禁止法を作る動きと、開発と障害のメインストリームとは、私は必ずしも同じではないということで、それはそれ、これはこれと見ていった方が妥当。

 例えばそれから、時期としては2008年ですね。2008年は国際協力の年ということで、楽天的に見れば、5月に日本はTICAD IV(第4回アフリカ開発会議)という、アフリカ開発に関する課題を抽出した、アフリカの開発に関する会議を日本は開きました。そしてアフリカへの援助倍増計画などを今考えているから、そういう意味では非常に活発な開発の年であるといえます。

 そして、皆さんご存知かと思いますが、日本のODA機関であるJICA(国際協力機構)と円借款の機関でJBIC(国際協力銀行)という開発銀行が合体して、結婚するというか合体しまして、一つの機関になって、これは世界で一番大きな援助機関となったわけですね。そういう意味では、2008年は開発の年であるということも言えなくはないと思います。

 悪いほうを見ましょう。日本のODA資金の低下なのですね。これは現在はイギリスの下にあって世界で3位くらいだと思いますが、これもちょっと古いデータですが、2~3年のうちに日本のODAの額は世界で5位、あるいは6位くらいに転落する可能性はかなりあります。必ず5位か6位に落ちますね。特にマルチ、国連などのマルチから削っていますから、さらに、二か国間協力に関しても日本の地位はもう圧倒的に低下している、これが冷たい現実です。こういった中で今重視されているのは、南‐南協力、南と南の国の協力関係を利用したり、これに関して特に中国、インドなどの影響力が増加していますから、そういった意味で、ODAの世界で完全に地理的・政治的な構図の転換が見られています。そして日本のODAの低下、こういった中で日本もちょっと頑張って欲しいと思います。この低下傾向が継続すると日本の障害関係者の立場も微妙になりますね、国際的には。

 全体のODAの額が増えなければどうなるかというと、当然南‐南協力、あるいは三角協力というものが重視されるのは当然だと思います。なぜかというと、同じだけの資金を使ったら、第三国研修とか、途上国の人の人材を活用していく必要性が出てくるわけですね。これは英語ではquality for moneyと言っていますけれど、同じだけの資金を使ってなるべく良い結果を上げようとすると、当然南‐南協力になって、日本人の高いエキスパートの資金を削って、その部分をタイとかインドとかそういう第三国で、人材が豊かなところの障害者団体のリーダーに中心になって開発をしてもらえば、同じ金額で結果はどんどん上がる。国際的なODAの世界で見て、インドとかそういう第三国、特に英語圏の第三国ですね、フィリピンなど中レベルの国の人材が、国際的に見て非常にレベルが高いこともまた間違いないと思いますね。日本は、私の感覚では日本人はちょっと不利なのですよ、どちらかというと。例えば言葉の問題とかそういったことで不利な立場であって、コストが高すぎるというのは現状だと思います。そういう意味で、南‐南協力、つまり三角協力を増やしていくということが一つの今後の政策になるのではないかと思います。障害と開発の分野でも同じでしょうね。

 一つは、OECDのDAC(開発援助委員会)というところが、今年ガーナの首都アクラで会議を開いて、ODA、援助の効率性に関するパリ宣言の見直しをしました。つまり、今後ODAはどういうふうに国際的にやっていけばいいかという政策を練ったのですけれども、その計画は昔の三位一体型の開発路線、つまり開発援助と直接投資と貿易を三位一体化させようというほうに進んでいるのですね。だから、今までのようなプロジェクト型の、ある意味では細かい、障害者を訓練するとか、障害者団体を訓練するようなプロジェクトとか、タイのAPCD(アジア太平洋障害者センター)などもそうなのですが、これは成功プロジェクトなのですが、形式的には一応プロジェクト型の援助ですね。そういうものをもうやめて、どちらかというとセクターベース、例えば教育セクターに一つの国にまとめてお金を出すとか(その割り振りは国が決める)、あるいは雇用セクターにバンとお金を出して、細かいことは言わずに当事国に任せてしまうというセクターベースのほうに移行してくれと。そういう動きがかなり強くなっています。なぜそうするかというと、小さなプロジェクトがたくさん一つの国に、400とか500とか、小さな国で障害者のプロジェクト、女性のプロジェクト、マイクロファイナンスのプロジェクト、水の改善のプロジェクト、がちゃがちゃあると、トランザクションコスト、いわゆるそれに関わる経費的なコスト、サポートするオペレーションコストがものすごく高くついてしまいます。教育セクターのところにバッとお金を出すほうが、ずっと有効であることは有効なのです。

 さて、ここに問題が出てくる。そういうふうに進んでいますから、世界のODA業界は。間違いなく世界のODA業界はこちらのほうに進んでいて、国連もそうなっています。そういう中で、では今までみんなが一生懸命やってきたジェンダーとか障害とか、そういうクロスカッティングなイシューがどうなってしまうのだという問題があります。なぜかというと、セクターベースにして受け入れ国側に全部任せてしまうと、受け入れ国側はそこまで障害とかジェンダーとかそういうクロスカッティングなイシュー、あるいは人権とか環境とかそういうイシューを重視しないという可能性が大いにあるということですね。変な言い方をすると、障害とかジェンダーとか環境とか人権とかいったものは、無視するかもしれない。意外に今まで、昔風の言い方をすればドナーの押しつけであったという場合もあったと思います。それは悪い押しつけではなくて、良い形の押しつけであった。でも、今のODAの主流は、そういう押しつけはいけないということになっている。これは逃れられないことであって、それをどうやって打倒するかということを考えています。

 ちょっと見ましょう、日本の低下。一番左のところ、国連のドナーのトップ10か国。数年前の、2004年のデータですが、その段階でも日本は3位になっております。これは今は絶対5位か6位になっていますから、国連に対する日本の資金というのは5位とか6位とかで、資金がかなり低下しています。2004年でもう3位です。イギリスの下ですね。今はたぶん、ずっと下に下がっている。

 真ん中のデータは面白いと思います。これは世界の中でトップ10の、受け入れ国側のリストです。これは国民一人あたりの資金援助にしました。どこの受入国側が国民一人当たり一番多く援助を受けているか。なぜかというと、インドのように人口の大きな国がたくさんお金を貰うのは当たり前でしょう? だから、これは国民一人がいくら援助を国連からしているかというデータで、一番多いのはリベリアで、一人当たり47ドル、国連から受けております。二番目が東ティモール。国民一人当たり45ドルを国連の援助として受けていることになりますね。面白いのは三番目のレバノンですね。レバノンも、国連から国民一人当たり年間32ドルの資金を得ています。これは以外ですね。レバノンみたいな比較的中進国、レバノンは結構お金持ちですから、中進国としては比較的経済的には豊かです。なぜこんな国にこんなにいっぱい援助をあげなければいけないんだと思うくらい多いですよね。それからスーダンですね。そして六番目にもヨルダンがあるでしょう、ここも政治的に不安定な地域ですね?ヨルダンの場合は、国民一人当たり22ドル、国連が与えています。アフガニスタンも19ドル、国連が資金を出している。

 ぱっと総合的に見ればわかると思いますけれど、一言で言えば、国連がたくさん国民一人当たりにお金を出している国というのは、みんな戦後、紛争後の国と言えるかと思います。結論から言えば、国連は、紛争後の国に関してはものすごく強みがあるのですね。そういう国に強い。国連がお金を出している国は、トップはほとんど大変貧しいか、それとも中進国の紛争の国か、レバノンのような資金に関係なくて、紛争後の国であると言えると思います。

 一番右、これも関係ないかもしれないけれど、ちょっと勉強してみましょう。今、南‐南協力のトップのドナー10カ国。一番がサウジアラビア。これは国連だけの南‐南協力ですけれども、一番がサウジアラビア、二番目が韓国、三番目が中国、四番目がインド、そしてちょっと五番、六番は省きますが、八番目がトルコということです。二番韓国、三番中国、四番インドというふうに、やはりアジアの国がダントツで多いわけですね。だから南‐南協力の可能性、第三国を使うという可能性はやはりもっともっと考えていくべき。障害と開発とて同じです、政治的な流れは。

 これが国連、今の資金繰りの状況です。だから皆さん、これってちょっとショッキングだと思うのですね。もっと日本が上だとみんな思っていると思うのです。ちょっと勉強するためにこの資料も見ます。一番大事なのは、私が言いたいのは、こういう状況ですね。今大事なのは援助国側のオーナーシップを、受け入れ国側の意向を重視するというふうになっている。そして、ドナーと受け入れ国側の総合的な責任の説明、アカウンタビリティの必要性、ガバナンスの問題などが重要だという。そして、小さなプロジェクト型の援助よりも、セクター援助。教育セクター、医療セクター、労働セクターなどに支援するというふうに移行しております。

 そしてもっと大胆なものとしてはもうセクターと言わないで、直接国家予算へ金を出していく。直接国家予算への、直接的な経済的な援助を奨励するような傾向になっている。必ずしも障害者のクロスカッティングの課題の中では難しい面もあると思います。国連もそういった中で、今デリバリーがすごい。一つの国連というものをモットーにして、国ごとに、今まで十か国以上あった国連が、一体化してやる方向に向かっています。Delivering as One UN、One UN(一つの国連)の改革です。

 つまり国連はもう一つになるんだと。ILOもWHOもへったくれもなくて、一つでやっていく。なぜこういうことになったかというと、やはり資金繰りですね。例えばベトナムの場合、十以上の国連機関がこの国でばらばらに活動していたのですが、その十以上の国連機関の資金全部を合わせても、ベトナムへの国のODAの総額の2%に過ぎなかった。つまり98%は二か国間とか世界銀行とかそういう他の機関がやって、国連は全部合わせても2%なのですね。だから、一体化してやっていくしかないということで、生き残りを考えています。これが国連の現状です、把握して欲しいですね。

 次はいいところは、そういう生き残りの中で国連は何をするか。国連はもうJICAとかそういうODA機関と比べてどこが強いのだという、コンパラティブ・アドバンテージと言っているのですが、そういうことを見つけていかなければならない。そこで思いついたのが人権条約。人権に基づく開発という考え方なのです。国連の強みとしては、やはり他の人ができないこと、人権に基づく開発です。権利条約というのは国連にとってもある意味で生き残り。ミレニアム開発目標だって、一応定義でしょう?開発はこういうものであるという定義というか、スタンダードですよね。そういうスタンダードを作ること、人権を促進するということとを、開発の世界でも見つけようとしてやはり生き残りを必死になってやっている。そういうところに皆さんが協力してくれたら国連は助かるのですよ、どちらかというと。そういう意味で生き残ろうとしています、間違いなく。それから、UNDPの奨励する権利に基づく開発路線というのは別にそういう状況の中で生まれてきたのだと思います、生き残りのため。インパクトは大きいと思います。

 それから、国連が得意な平和維持軍。さっき言いましたよね、紛争後の国、緊急援助などと開発をリンクさせて、自分の強みのある緊急援助とか紛争後の支援、それから開発への移行期で自分たちがやっていこう。他のドナーができないことをやろうとしているのだと思います。にもかかわらず、開発支援における受け入れ側国のオーナーシップというのはどうやっても大事な問題だから、どんなに緩い開発であっても、ドナー側の押しつけであってはいけないということですね。そういう条件が開発というものにはあるのですね、そういうことです。

 国連は、一方ではそういう紛争後の国とか、誰にも相手にされない、我々はこういう国をドナー孤児(donor orphan)と言っていますけれども。例えばイランですね。ドナー孤児、どこの国もイランには資金を出しませんね、政治的な制裁の面で。それに金を出しているのは今国連だけであって、そういうところで国連は生き残ろうとしているわけです。他の国ができない中。イランのようにドナー孤児の国もあるし、みんなに愛される、これを我々はドナーダーリンの国があります。ドナーダーリンの国というと例えばアフガニスタンとかですね、どちらかというと。みんなに愛され過ぎる国。そういう国に国連は行って、そこでは国連はドナーの調整役をします。どちらかというとドナーダーリンの国は、ドナーが多すぎるのですね、国のキャパシティがないのにドナーだらけで誰が何をやっていいかわからないという状況にいるから、そこで国連は頑張ります、調整役として。そういうふうにやっています。 

 最後になりますが、国連の弱点としては、今回の権利条約の国連における弱点としては、今までの例えば女性差別撤廃条約のジェンダーや、あるいは子どもの人権条約と異なって、障害者の権利条約を開発と連携させていくための資金とキャパシティのある専門機関が国連の中にはないのです。例えば、女性差別撤廃条約の場合、ジェンダーの場合、国連にはUNIFEM(国連女性開発基金)という、これはUNDPの下部組織ですが、そこは資金もあったしキャパシティもあったし、政府の支援もあったのです。そこが主体となって開発と女性の権利を連携させて頑張ってきました。子どもの権利条約と開発の連携の場合は、特にそういう独立機関はなかったけれども、今まであったUNICEF(国連児童基金)、国連にはUNICEFという児童と青少年の機関がありますから、そこが音頭を取って子どもの権利条約と開発を連携させることができて、そのための資金もキャパシティもあった。ところが、今のもの、障害者の権利条約を実施に関して、それを開発と連携させていくために実主体となる、本当のことを言うと資金とキャパシティのある国際機関というのは全然ないのですね、ゼロです。UNICEF、UNIFEMのようなキャパシティも資金もどこも持っていません。ですから、国連の専門機関としてこの障害の分野で、一番活発ではっきり言って一番資金があってキャパシティも一番あると思われるのは、CBRをやっているWHOです。あそこは定義もやっているし、国連の中でも一番キャパシティがあります。お金もあるし。そういうWHOでも、他のところ、例えばUNICEFなどと比べれば小さいのですね、しかも障害をやっているユニットが小さい。だから、やはり本当にメインストリームを確実にしようと思ったら、政府などにプレッシャーをかけてもらって、ジェンダーのUNIFEMのような、資金とキャパシティのある専門機関を国連の中で、障害者権利条約と開発を連携させるために作っていく必要があると私は思うし、私の同僚の伊藤亜紀子さんでもそういうふうに感じているみたいですね。ですから結果から言うと、我々はでは何を教えるかというと、現時点では国連の組織の中ではそういう実施機関がないから、障害の開発へのメインストリームしかないのですよ。メインストリームをやっていくしか対策がないということですね。私などはもう、偶然こういう、開発政策の仕事になったのも何かの縁だと思って、メインストリームならできるからということで必死になってメインストリームをやっております。そして、南‐南協力に関するフォーラムの資料をお配りしましたが、そういうときにもできるだけ障害をメインストリームにするように頑張りました。メインストリームしか資金がないというのは寂しいなという感じはしますね。でも南‐南協力とかそういうところに組み入れれば将来性があるのではないか。特に南を、南から南への協力、あるいは三角協力、あるいは南から北への協力というふうな考え方もコストパフォーマンスをよくするという点ではいけるのではないか。JANNETを通して上野悦子さんとか一生懸命やっておられる、例えばバングラデシュに先進国の人を連れていって訓練をするとか、そういうことは広義において、南から北への協力になると思って、欧米はけっこうやっていますよ、昔から、こういった第3国での北の専門家の訓練を。バングラデシュとかインドネシアのソロにあるCBRの研修所とか、あるいはインドの研修所とか、そういうところを使って研修をやっております。有名なところでは、欧米のNGOでアクション・エイド(Action Aid)とか、イギリスのNGOでビレッジ・エイド(Village Aid)というのが有名なのですが、そこは参加型開発調査、参加型村落地域調査(PRA:Participatory Rural Appraisal)の研修などをよくやっています。そういうところは必ず、第三国研修というか、欧米の先進国の参加者を途上国に送るというやり方をしていて、そういうアプローチは「障害と開発」でもできないことではないかなあと思うのですが、どうでしょうか。

 あとは南‐南協力、アジアとアフリカ。アジアは障害者の10年をかなりやってきましたよね。それを今度はアフリカなんかに移転していくということはできませんか。アフリカならODAについても資金がつくと思うのですよ。アフリカ向けのエイド(資金)を倍増と言っていますから。あまりアジアばかり見ないで、アジアからアフリカへと移転とか、そういうグッドプラクティスのエクスチェンジというのはできませんか、ということです。アジア太平洋への支援からのスケールアップも考えてみてはどうでしょうか。

 次ですね。私が長い間国連でやっていた人間の感覚的なものですが、こういうコメントがあります。やはりポスト権利条約は、権利条約が終わった後の地理的、政治的な変化に対応する必要があると思います。いつまでも太平洋中心、アジア太平洋だけの地理的なカバーから、地理的な拡大をしていく。あるいはアフリカを含む世界、あるいは中南米や中東などの紛争後の国、アフガニスタンなども入れて、そういうところも支援をしていくというふうに、市場を広めていく必要があるのではないかと思います。障害者団体、例えばIDA(国際障害同盟)という障害者団体がありますが、そういうところと協力して、ちょっとアジア太平洋という地理的なカバーから飛び出してみるのもいいのではないかという気もします。

 ドナーとしての日本の影響力は弱まっていますから、確実に。これはますます弱くなると私は思いますから、やはり中国とか韓国とかタイとか、そういうアジアが強くなってくると、資金的にも人材的にもそういう国ともっと連携していって、日本単独でやるというよりも、連携しながら日本が目立つようにして、結果を上げていくという方向もあるだろうと思います。

 障害者のアプローチとしては、障害に関する政策の文化的な多様性を認めるということで、もっと現地主義にするというか、あるいは南‐南協力、三角協力、現地の人間の活用という方向に向かう必要があるのではないかと思います。そしてプロジェクトの評価活動をもっと現地の人に任せる。それから受け入れ国といわゆる第三国の両方がプロジェクトの評価をするとか。日本の障害者団体は、NGOが、障害者団体NGOがODAのアドバイザーとしての役割(ロール)を担っていくことが大事じゃないかなと思います。もちろん日本のNGOと現地のNGOとの連携はすごく大事ですね。

 それから最後になりますが、結果的に言えばすべての開発団体、民間団体は同じことをすべきではないと思います。開発と障害には一つ正しいアプローチがありますという感じで、今回の障害と開発に関するアプローチはこれです、これでないといけないのですということになっていくのは全然間違っているというか。例えばCBRでも、CBRにはいろいろなパターンがあって、それは私もWHOに聞いてみました。国によってどういうCBRになっていくかという、ダイナミックスな視点ですね。変化というのは逆に奨励されるべきであって、CBRはこういうアプローチで、こういうやり方でないCBRは間違っているなどというのはCBRの本にもどこにも書いていないし、A国とB国のCBRが全然違ったようなCBRになっていくこと自体も全然問題ないと思います。その中で当事者の視点がどうやって反映されるか国によってやり方が違っても良いのでは。開発ですから。

 そして一つのODAで例えばJICAなどによる障害者のリーダーシップとか障害者のアドボカシー、いわゆる政策ですね。政策提唱に関する活動をやっていたとしても、その同じ国で民間団体のNGOが全然違うもっと具体的なこと、例えばマイクロクレジットとか、車いすを配布するとか、福祉器具を配るとか、そういうニーズがあるのであれば、そういう地道な活動をやっていること自体だって全然いいわけだし。つまりお互いがまとまって補いあってやっていくのがODAであって、私の感覚から言うと、一つの方針でみんなが同じことをやり始めたら、ではやらない国はどうなってしまうのだということで、結果から言えば皆さんが今やっておられる地道な活動が、いろいろなレベルがあると思うのですね。政策を支援することから、地域の小さなところで本当に一つ障害グループだけとかで、クロス障害ではなくて、クロス障害というのはいろいろな全ての種別の障害ではなくても、ろうならろうの方だけとか、視覚障害なら視覚障害の方だけを対象にしたような小さなプロジェクトであっても、それ自体を卑下するとか、それ自体がいけないということは全然なくて、むしろNGOなどはそういう小回りのきくところをどんどんやっていって、政府のODAを補うべきだと思います。私の考えでははっきりそういうことで、お互いに補っていくことが大事なのであって、そんなことをしていたら駄目だよみたいな、障害における開発というのはこういうパターンでなければいけないんだよ、こういうふうにやっていかなければいけないんだよ、これが良い政策なのだというほうが全然間違っている。皆さんのやっておられることを、自信をもって、ただコーディネートをちょっとよくしていただいて補っていくのがいいかなと思います。

 最後に、あまり政策ばかりでは楽しくないので、実際にクロスカッティングでどういうことをするかというと、やはり雇用のセクターが多いと大きいと思いますね。雇用と開発はすごく近いと思います。開発という分野で雇用というのはものすごく大事だと思いますよ。障害者の雇用の例ですが、これは、エンタープライズ、起業の活動を支援する。これはCottage Industry(家内工業)です。

 小さな工場でこういったものを作って、この場合はいすを作って小学校に特別のコントラクトをとって売っていくという形です。こういう起業活動も開発ですね。

 それからこれはちょっと面白いのですが、これはレバノンの例ですが、障害のクロスカッティング、雇用セクターに障害を組み込んでいくということで、障害者の雇用。これはレバノンの、アラブカーペットを作っているのではありません、障害者の人たちがアラブカーペットを修理しているのですね。カーペットを作る人はいっぱいいますが、カーペットの修理というのは意外にやる人がいなくて、カーペットというのはしばらく使っていると端のところがほつれてくるのですよ。それをちゃんと直せる人は意外といなくて、このプロジェクトは非常に成功であるという、みんなのやらないことをやるというか、そういうマーケティング精神というのが大事なのです。

 これは教育セクターですね。これもクロスカッティングの例です。これは障害者の、レバノンのシーア派のICT。シーア派というのはものすごく貧しいイスラム教の地域で、盲人の障害者、これは盲人の女性ですか、点字、音声コンピューター訓練です。インターネットとかそういうのを、点字コンピュータ が、アラビア語というのがミソで、そのときはまだ誰も使っていなかった。国連が、こういうものがあるのだよ、ということで最初は機械は4台くらいしかあげなかったのですが、後は、資金集めが上手かったみたいで、今は38台くらい持っていると聞きますから。国連はちょっとあげればいいと私は思います。最初の1台か2台くらいあげて、こうやってやってくるのだよ、あとは資金繰りをどこかから取ってくるのは本人が努力すればいいことで、そういうことは冷たく突き放すというか。キャパシティの構築ですね、援助とはそのようなものでしょうね。でも私はやはり、自分があげたのが4台くらいだったのに38台とかになっているのが嬉しかったですね。どこからそんなにお金を取ってきたんだみたいな感じで。こちらがシミュレーション・エクササイズ、皆さんご存知だと思いますが、建築計画をする人を対象に、障害者体験ですね。そういうことも、インフラストラクチャーにおける開発の障害のシミュレーションです。

 そんな感じで、最後はこの。すみません。こういうのもあるんだよ、ということで。開発というのはこういうことではないかな、ということでお話を終えたいと思います。時間オーバーですみません。

司会: 長田さん、どうもありがとうございました。

 皆さん、質問はたくさんあると思いますが、書き留めておいて下さい。

 長田さんから国連レベルにおける開発、それから障害に関する政策レベルのお話をたくさんいただきました。

 次に、具体的に活動している6人の方々からお話をいただいて、その後質疑応答、または他の方からご報告をお願いしたいと思います。今日ご報告をお願いしていますのは、NGOの方、それから援助機関、財団、そして研究機関といった方々です。

 順番は、まずシャプラニールの白幡利雄さん、次にJICAの武智剛人さん、次に日本財団のどなたか、それから難民を助ける会の堀江良彰さん、そして日本貿易振興機構アジア経済研究所から森壮也さん、最後にアジア・コミュニティ・センター21の鈴木真里さんからご報告いただければと思います。

 できれば5分または、4分くらいでお話いただけますと大変ありがたいです。