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講演2−1 災害後のCBRの実施

インドネシアCBR開発研修センター(CBRDTC)代表
ジョナサン・マラトモ

 

松井 マラトモさんについては、後ろのほうのレジュメに紹介が載っています。インドネシアのソロ、日本で言えば京都にあたるところですが、そこにあるCBRセンターを拠点としていらっしゃいます。今日は主にアチェでの災害との関わりでCBRについて話をしてもらいます。

ソロには日本関係者も随分行っておりますが、戦後まもなく、アジアで初めてと思いますが、総合リハビリテーション・センターができました。それをつくった方がドクター・スハルソといって、インドネシアのリハビリテーションの父といわれる方です。マラトモさんがかかわっておられるCBRセンターは、ソロの総合リハビリテーション・センターと密接に連携しながら活動を続けられているということだと思います。ではマラトモさん、お願いします。

 

マラトモ 松井さん、どうもありがとうございます。私の英語はチャパルさんほど上手ではありませんが、ベストを尽くそうと思います。この15年間 CBRに関わっていますが、大半が地方での活動なので英語はあまりうまくありませんが、ベストを尽くします。

みなさん、おはようございます(この部分は日本語)。

皆さんを前にしてお話ができるということを非常に幸福に感じています。日本には1995年以来よく来ていまして、非常にいい経験をしました。福井県の勝山に行き、20人の知的障害者の人たちと一緒に仕事をしました。小さな箱に簡単なものを付けるという単純作業でしたが、有意義な作業でみんな満足していました。その勝山で1週間一緒に作業しましたが、最後のお別れの会で1人の知的障害のある人が非常にすばらしい歌を歌ってくれました。「津軽海峡冬景色」。演歌だったのです。知的障害のある人から教えてもらって歌詞を一行一行覚えました。本当に演歌が大好きになりました。

カラオケに行って、一緒に演歌の歌を歌いましょう(この部分は日本語)。

私の日本での経験をご紹介しました。

 

今日は、津波災害後のアチェ、およびジャワとジョグジャカルタの地震のあとのCBRの実施について私の経験をお話ししたいと思います。

最初に、インドネシアにおけるCBRについて重要なことを申し上げたいと思います。インドネシアではCBRの概念とその実践の間にはいろいろな違いがあります。最初の理由としては、インドネシアの地域社会には様々な異なる状況があり、文化、社会環境が違っているということがあげられます。インドネシアは大きな国で、たくさんの島から成り立っております。本当に島の数がいくつあるのか、何千という数なので正確に数えられません。まったく名前のない島もあります。いろいろな民族、多くの文化があります。インドネシアではこのように地域で状況が異なっているということがCBRの背景としてあります。

第2の理由としては、CBRイニシエーター(創設者)の間には障害問題に関する考え方や価値観の違いがあるということです。NGOや政府機関が障害問題に対して自分自身の価値観、パラダイムや理念を持っているときは、こうしたパラダイムや理念が、CBR活動の実践に影響を及ぼします。

そして最後の理由として、CBR自体の進化があります。個人モデルから、医療モデル、社会モデル、インクルージョンのモデル、人権モデルへと変わってきているという進化がありますので、CBRはいろいろな状況によって異なってきます。CBRを実施する場合、どのCBRが実際の状況に適用可能なのか考える必要があります。いろいろな状況によってCBRが違ってくるからです。

 

インドネシアにおける大半のCBRは、まだプロジェクト指向です。国家のプログラムではなく、NGO、政府機関、障害者団体がプロジェクトとして行っています。プロジェクト指向ということは、プロジェクト期間が関わってくるということです。期間限定の上、対象分野も、予算も限られますし、もちろん資金もリソースも限られています。そして時には、援助機関がNGOに圧力をかける、次にNGOが地域社会に圧力をかける、その地域社会が障害者に圧力をかけたりします。そしてその障害者はいったい誰をプッシュしていいのか分かりませんが、プロジェクトですと、そういう状況に置かれがちかと思います。

現在は、CBRをプロジェクト指向から国家的なCBRプログラムに移行させようという取り組みがあります。つまり国家的なプログラムとして政府がNGOや障害者団体とともに協働で推進し、CBRのために十分な予算を拠出する、ということです。まだこれは努力段階ではありますが、国家的なCBRプログラムをぜひとも実現させたいということで協力しています。

CBRの促進や実施における障害者、障害者団体、自助グループの役割が増大しています。以前はキャンペーン活動、アドボカシーに焦点が当てられていました。つまり政府の公共政策を変えようということでしたが、現在では障害者団体が積極的にCBRプログラムに関わろうとしています。CBRは障害者に積極的に、かつ広範囲に関与する機会を提供しているからです。

 

アチェの津波、北スマトラとジャワの地震に対応するため、CBRのアプローチと戦略が採用されました。それまでCBRは通常の状況のもとで実施されていましたが、アチェ、北スマトラ、そしてジャワの災害後の状況にもCBRのアプローチが採用されました。

ではなぜCBRが採用されたのかというと、CBRはコストの面から効果的であるからという人もいます。CBRには費用対効果があるかどうか、私は答えを持っていませんが、イエスかもしれません。と言うのはリソースが共有されるからです。もしかしたらCBRは高いのかもしれませんが、地域社会やNGOの持つリソース、政府のリソースも民間分野のリソースも共有しますので、CBR自体は高くつくかもしれませんが、リソースを共有することによって費用対効果が出ると言えます。

CBRは、従来のリハビリテーションに比べて視点が総合的であり、障害者問題を総合的に解決する視点を提供するという理由で採用されています。従来のリハビリテーションでは、障害者の問題というのは障害者個人が直面する個人的問題としてとらえられてきました。したがって、リハビリテーションというのは個々の障害者に直接提供される、医学的、教育的、職業的、社会的なサービスと考えられてきたのです。つまり焦点は個人に対して当てられたのです。この従来のリハビリテーションの考え方では、障害者は、リハビリテーションや支援を受ける対象でした。このような見方によって障害者は弱者と見なされ、「支援が必要な人たち」であり、その問題解決の答えが「リハビリテーション」だったのです。

しかし、CBRによって価値観に変化が起こっています。従来型のリハビリテーションは、障害者を「地域社会にいる障害者」という全体的な問題として考える上では不十分だったのです。障害の有無に関わらず、地域社会で生活をしている人たちみんなの問題としてとらえる必要があるのです。そして地域社会の問題としてとらえることです。社会の状況に影響を受けるのですから、地域社会を変えることなく障害者をエンパワーするだけでは、意味はないと思います。

 

例えば障害者に職業訓練をしたとします。物を売りに行っても、地域社会の人たちは、障害者の作った商品を受け入れないという場合があります。偏見から拒否する人がいます。これは、障害者の問題ではなく、地域社会の態度の問題です。ですから障害者を変えればいいということではありません。やはり地域社会全体も変わらなければいけないということです。障害者個人が変わるだけでは不十分なのです。このように、CBRでは障害者の問題というのは社会の問題であると捉えています。地域社会全体の問題であって、障害者個人の問題としてとらえるべきではありません。CBRのリハビリテーション・サービスは、地域社会全体の行動を変えるということに焦点を当てています。障害者の権利を完全に実現する必要があるというのがCBRの価値観です。CBRではより総合的なリハビリテーションに焦点を当てている点が従来のリハビリテーションとは違うところです。

では、どこに問題があるのでしょうか。そして何が問題なのでしょうか。この絵は(図1)CBRのガイドラインから取りました。

問題は何か?そしてどこにあるのか?(図1)

この絵(図1)をご覧ください。たくさんのいろいろな形がいろいろな場所にありますが、しかし残念なことに、はまる所が違いますよね。そのうちの1つをある場所に入れようとしても入らない状態です。この物体の形状が違うからです。穴が違うからです。そしてこの右の上の人は、この物体を切ろうとしています、切断して形を変えて、その穴に入れようとしています。これはリハビリテーションですね。つまり、たくさんの障害者に対して多くの治療を与えるという、従来型の考え方です。

しかし別の考え方としては、実際にこの場所のアクセスを向上させたらどうか、ということがあります。すべての人が利用できるようにする、障害者だけではなく、すべての人が利用可能にするということです。つまり、神様はいろいろな人間をおつくりになりました。人間はいろいろな技能を持ち、いろいろな文化を持つ人間です。障害のあるなしにかかわらず、様々な特徴を持っています。そこで、CBRではまず「場所」というものを考えます。そして「場所」に変更を加えられないかを考えます。障害者も含むすべての人が利用できないかという観点でとらえるのです。従来のリハビリテーションのパラダイムをCBRのパラダイムへ変える、つまり個人的な問題から社会的な問題へ変えるということです。障害者だけが変わるのではなく、障害者とともに地域社会も変わるという考え方です。短期的なプログラムやサービスではなく、長期的なプログラムに変わっていくのです。

さらに実際のニーズに加えて、戦略的なニーズということを考えます。戦略的なニーズというのは長期的な視点でとらえるものです。また、部分的な解決策から総合的な解決策へと変わります。排他的なプログラムからインクルーシブな、すべての人を取り込むプログラムへという変化です。

 

さて、災害後のCBRですが、この災害に対応するためにCBRに何ができるのか。どのようなアプローチ、戦略、適切な行動をとっていくべきなのか。災害後の状況の中でCBRは本当に機能するのか。災害後、CBRをどうやって維持していったらいいのか。などなど、様々な課題があります。

実際、災害後にCBRを開始したときには混乱がありました。通常はCBRを実施する場合には、地域社会の参加がもちろん必要です。地域社会からのイニシアティブが必要です。そして地域社会のリソースももちろん必要です。しかし災害後は状況はまったく混乱しています。まだ誰もが、トラウマ、パニック状態にあります。すべてを失ってしまったのです。家を失い、仕事を失い、家族を失った人もいます。特にアチェには今何人ぐらいの人がいるのか、私にはわかりません。津波のために多くの人が亡くなりましたし、津波の後どのぐらいの人がまだ影響を受けているのかもわかりません。災害を生き延びた人も本当にトラウマ状態にありますし、混乱の状況の中で生きているのです。こうした災害の直後にすぐにCBRを始めるのは非常に難しいです。

このような状況でどうやってCBRを開始したらいいのか、アチェの人たち、そしてCBRセンターのスタッフとかなり長い間ディスカッションを行い、実践に向けて多くの様々なアプローチを設定しました。1つだけではなく複数のアプローチを設定したのです。

 

最初のアプローチはCBRではありませんでした。通常は、リハビリテーション施設を作って障害者のためのサービス提供を行うのですが、津波の後では、多くのリハビリテーション施設は破壊されて機能できない状況でした。我々が最初に必要としたアプローチは、地域社会指向型と呼んでいるアプローチでした。まず地域社会や障害者に対して、自分自身の問題を解決するためのサービスを提供するのです。専門家はテントや、仮設住宅、バラックを訪問してサービスを届けます。巡回訪問プログラムの移動式リハビリテーション設備のようなものです。CBRではないとおっしゃる方もあるでしょう。しかし災害直後のこのような状況ではこうしたアプローチが非常に重要となります。ということで、私たちのフィールドワーカーや地元のNGOパートナーとともに一生懸命努力をして、すべてのバラック、テント、仮設住宅を訪問して、サービスを提供したのです。このような活動は、実際は救援活動のようなもので、地域社会にサービスを提供することが中心となります。地域社会指向型のアプローチです。

 

地域社会の状況が改善して、もう少し受け入れの準備ができてきたら、第2のアプローチに移ります。それは地域社会拠点型アプローチです。地域社会と障害者に対して、自分たちの問題を分析して、ニーズを定義して明確化し、どのような地域社会のリソースが使えるかを確認し、優先順位をつけ、行動計画を作成し、実際の行動をモニタリング及び評価できるようにする、そのような分野での支援を提供します。もし地域社会にこの準備態勢ができているとしたら、この地域社会拠点型アプローチを開始します。

 

そして最後のアプローチは地域社会自治型アプローチです。ここでは、CBRプログラムを実際に所有して責任を持つオーナーとなるのは、地域社会と障害者です。地域社会と障害者は自分たちのリソースを利用して、自分たち自身でCBRを計画し、実施することができます。外部のリソースが必要な場合は、外部のリソースを要求していくか、または可能な場合は、その必要とするリソースを自分たちで作り出していきます。

 

最初のアプローチから第2のアプローチまでは時間がかかります。そして今申し上げた最後のアプローチも、やはり移行には時間がかかります。つまり、地域社会指向型から地域社会拠点型へ、そして地域社会自治型のアプローチへ、という流れがありますが、この地域社会自治型というのはCBRの未来像です。障害者および地域社会自身がCBRを自治的に管理していくのです。私たちNGOにとっては、地域社会を促進し、障害者を手助けし、地域社会および障害者が自身で自治型のアプローチができるところまで支援する、ということが大切になります。

さて、一番目の地域社会指向型アプローチが実施されるのは、緊急事態が起きた直後の段階です。そして次の地域社会拠点型アプローチは復興再建の段階で実施されます。最後は地域社会自治型アプローチですが、これはエンパワメントのために実施されます。こうした3つのアプローチを組み合わせて災害後のCBRのアプローチを実践していきます。

 

次の図(図2参照)をご覧下さい。地域社会と障害者が、どのような形で段階別にその役割を果たすのか比較したものです。左から右の横軸には、施設中心型、地域社会指向型、地域社会拠点型、地域社会自治型があります。施設中心型サービスではこの縦軸のCBRイニシエーターの役割が大きいのですが、地域社会自治型では、障害者と地域社会の役割が増大していきます。反対ですね。

地域社会と障害者の役割:CBRイニシエーターの役割との比較(施設中心型、地域社会指向型、地域社会拠点型、地域社会自治型の順に、CBRイニシエーターの役割が小さくなり、地域社会と障害者の果たす役割が大きくなる(図2)

次に、災害後のCBRの実施戦略のほうはどうでしょうか。たくさんの戦略がありますが、その最初は研修です。そして2番目が、地元の人たちとの協働で進める段階。次に自助グループの育成。現地の政府機関、NGOおよび住民組織との協働。そして、インクルーシブなパッチワーク戦略が挙げられます。ひとつひとつご説明いたしましょう。

まず最初の戦略は「研修」です。指導者研修とユーザー研修、両方必要です。ユーザーだけではなくて、指導者たちの研修が大切です。と言いますのも、指導者を訓練しておきますと、NGOが立ち去った後も指導者がいることになりますので、そのような指導者をあらかじめ訓練しておかなければならないのです。指導者研修が成功すれば、多くの指導者が現地に残ることになり、活動を続けてくれます。

次が参加型の研修方法の開発です。状況も文化も違うので研修は参加型でなければいけません。アチェはイスラム文化が主流で、非常に強いイスラム教グループがおり、インドネシアの他の地区とは異なっています。だからこそ、アチェの事はアチェの状況で考えなければいけないのです。そのためにも参加型の研修方法が正に必要になるわけです。もちろんトレーニング・マニュアルも開発しました。

2番目の戦略は地元の人々との協力です。地域社会と障害者がCBR実施の責任を負う主役だと考えています。NGOではありません。政府の機関でもありません。地域社会と障害者自身です。またCBRの中核要員を養成します。地域社会に住んでいる人たちで、CBRの活動に参加したいという意識の高い人たちです。これはボランティアです。お金は払いません。中核要員とは、つまり、時間があって、CBRの支援に努力を惜しまない人たちです。

また、地域社会とその潜在能力がプログラム実施のための重要なリソースです。プログラムは、地域社会および障害者のニーズに関連し、地域社会のリソース、文化、価値観に基づいたものでなければなりません。だからこそ地元の人たちと一緒に働く必要があるのです。

3番目の戦略は障害者の自助グループの育成です。障害の種類を越えた自助グループの設立を支援します。そしてグループリーダーのリーダーシップ能力の向上を図ります。自助グループが主役になるわけです。障害者がCBRの計画、実施、モニタリング及び評価の主人公となるのです。これについては、主人公は障害のある人たちか、あるいは地域社会かという討論をしたことがありました。CBRはエンパワーするだけではなくて、自助グループの育成にも関わるべきだと思っております。障害者グループがまだまだ弱い地域が多いので、NGO、あるいは、障害者グループがCBRを共有したらどうかと考えます。CBRを進展させるということはつまり、自助グループを育成するために努力するということです。なぜなら、NGOがその地域から出ていった後も、この自助グループは残ってプログラムを続けられるからです。

4番目の戦略は現地の政府機関、NGOおよび住民組織との協力です。もちろん地元政府や関連各機関とも協調します。災害復興、再建に関わる特別機関とも協調し、地域ヘルスポスト(保健所)、女性団体、宗教団体などの住民組織とも協力関係があります。インドネシアはラッキーです。と言いますのも地元組織がたくさんあって、協力しあえるからです。また地元のNGOパートナーとの協力もあります。CBRセンターはアチェから遠いところにありますので、アチェにはNGOパートナーがぜひとも必要でした。

次に、パッチワーク戦略、つまりインクルーシブ戦略についてお話します。CBRプログラムは、地域社会の既存のプログラムと統合し、付属プログラムとするべきです。私たちはこれをインクルーシブ、あるいはパッチワーク戦略と呼んでいます。新たなインフラストラクチャーの確立は不要ですので、プログラムの費用対効果を上げることを目的としています。また、障害者問題の主流プログラムへのインクルージョンを促進します。たくさんのプログラムを既存の地域のプログラムに統合しなければいけません。例えば早期発見、早期介入のプログラムは、地域ヘルスポストプログラムと統合します。地域ヘルスポストは住民組織で、地元の住民が運営しています。その活動対象は障害児だけではなく、すべての人です。早期発見、早期介入をヘルスポスト自体の活動と組み合わせていかなければいけません。

これがCBRの実施の5つの戦略です。