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講演2−2 災害後のCBRの実施

では実施に移りましょう。どういうステップで実施していけばいいのでしょうか。まずCBRチームを立ち上げます。もちろん障害者と家族が中心になります。次に地域住民、研修を受けた地域住民つまり中核要員、そして現地政府と住民組織のNGOパートナー、障害者グループ、さらにCBRセンター自体も含まれます。これが一丸となって協力し合いながら災害後CBRを進める実施チームです。

いよいよその実施のステップ(図3参照)ですが、まず、現地ジョグジャカルタとアチェのNGOパートナーの能力構築を行います。その後、現地のNGOパートナーがCBRセンターとの協働で地域社会の意識向上を実施します。地域社会の啓発については、フィールドワーカーが、仮設住宅やテントを訪れて情報を提供することによって意識向上を行います。住民との話し合いを通して災害後の本当の問題は何かを聞いていきます。フィールドワーカーの中には娯楽活動をしたり、一緒に歌を歌ったりするなどの活動を主催したりする者もいます。これも啓発プログラムの一部となっています。

その後には、地域社会、障害者、NGOパートナーによる状況分析です。今、状況がどうなっているのかを見極めます。参加型農村調査法(PRA)などたくさんの状況分析の方法論があります。そしてニーズの定義です。地域社会、障害者、現地NGOパートナーが一緒になって実際のニーズがどこにあるのか定義して問題解決につなぐのです。次は地域社会の組織作りです。住民を招いてCBR中核要員になってもらったり、チームに参加してもらいます。それと平行して障害者の自助グループを立ち上げます。

地域社会には研修が必要ですので、CBRボランティアと自助グループに研修を実施してエンパワーを図ります。協力してCBRの計画を立てます。続いてプログラムの実施があって、モニタリングと評価をします。

すべての関係者をすべての実施ステップに計画段階から参加させなければいけません。CBRのサービスを受けるだけではなくて、最初の計画段階から実施、モニタリング、評価にいたるまでの段階のすべてに携わることが必要です。

CBR:実施へのステップ(図3)

最後は行動についてお話ししたいと思います。最初の行動として、栄養のある食べ物、新鮮できれいな水、衣類、薬、台所用品、仮設住宅、学用品、本などの基本的な生活必需品を支給して支援します。日本の皆さんには、アジア保健研修所(AHI)を通してアチェの人たち、特にアチェの子どもたちのために支援物資を提供してくださいましたこと、お礼申し上げます。

CBRの次の行動は、障害に対する地域社会の意識と感受性の向上です。このプログラムは障害者問題に対する地域社会の意識と配慮の向上を目的とします。そして地域社会の住民の障害者に対する前向きな態度を育て上げることです。このように(写真1)若者の組織などが啓発活動をしています。

若者の組織による啓発活動(写真1)

3番目が研修ワークショップです。全国レベルでは、CBRセンターとUNESCAPが、アチェ及び北スマトラ島などの政府機関、NGO、国際NGO、住民組織を対象に、弱者グループや女性への津波の影響に関するワークショップを開催しました。地域での研修ワークショップを開催し、地元NGOパートナーの能力構築、CBRの運営に関わる研修、CBR実施のためのアプローチと戦略に関する研修、早期発見・介入に関する研修、遊戯療法、トラウマ治療に関する研修、リーダーシップと自助グループに関する研修、そして所得創出と起業に関する研修を実施しました。

行動計画の4番目は、障害者の自助グループが対象です。自助グループのリーダーシップ、運営能力の構築、ピア・カウンセリング・プログラムの開発、キャンペーンと権利擁護運動、所得創出などがあります。CBRにとっては、やはり自助グループが非常に重要です。CBRセンターは、以前は自助グループは重要な役割を果たしているとは考えていなかったのですが、今は障害者の自助グループの役割がどんどん大きくなってきています。

CBRセンターには本当にすばらしい経験があります。1995年、自助グループを初めて立ち上げたとき、グループのリーダーは、CBRセンターのフィールドワーカーと共に活動しました。また、10年ほど前、CBRセンターのスタッフと協力した自助グループのリーダーがいましたが、その後、そのリーダーがCBRセンターの所長になったのです。これこそ自助グループとCBRセンターとのいい協働関係です。このあとは、自助グループのリーダーはCBRセンターからの誘いを受け入れるようになりました。このように協働するということは、やはり自助グループにとってはいいことだと思います。

 

次は所得創出ですが、ここでは障害者のビジネス能力の強化を図ります。また起業家グループの育成を図ります。資本金調達手段の提供、さらに回転ローン資金の開発、製品販売を支援することなど、これらが所得創出のために私たちが実施する支援活動です。また、銀行と交渉して、障害者が銀行から融資を受けやすくなるようにしました。以前の政府の政策では、銀行は融資に対しては誰であろうと担保を求めなければなりませんでした。しかし政府と討論を重ねた結果、新しい政策になり、すなわち障害者に対する融資が500万ルピア未満なら銀行は保証を求めなくてもいいということになったのです。これはだいたい500米ドルぐらいに相当しますが、それ以下であるならば担保はいらないということです。銀行から融資が受けられるのですから、本当に障害者は喜んでいるわけです。

(写真2)これはクランタン州に住んでいる障害者が作った製品の一部です。被災地ではありますが、昔ながらの運搬装置で動き回ったりして、彼は元気にしています。彼が作っているのは、イスとかテーブルなどの竹製の家具です。ここは竹の生産地です。

被災地の障害者が作った竹製品と運搬の様子(写真2)

 

(写真3)これも自助グループが作った製品です。所得創出ですね。

自助グループのメンバーと彼らが製作した手工芸品の写真(写真3)

 

(写真4)左の女性は知的障害をもっていますが、本当に幸せそうな顔をしていると思います。羊を育てているんですが。毎日羊の世話をして本当に幸せです。

右側は、電気修理工です。災害の後は、多くの家電製品が故障してしまったものですから、彼には、電化製品を修理してほしいという注文がたくさん入ることになりました。

右:電化製品を修理する障害のある若者、左:羊の世話をする知的障害を持った女性(写真4)

 

遊戯療法です(写真5)。子どもたちが戸外に出て活動したり遊んだりします。子どもたちを一緒に遊ばせることによってトラウマの治療をしたりしています。

屋内外での遊戯療法の様子(写真5)

他の活動もしました。障害原因の予防と早期発見及び介入です。障害原因の予防については、まず、地域保健所(ヘルスセンター)で子どもたちの障害を発見できる方法について支援します。段階が3つあります。第1番目は、例えば母親が子どもを産んだら、育児方法を教えるポスターを見せます。それを見て母親が自分の子どもに何か問題があると思ったら、CBRの中核要員・ボランティアに相談しますが、中核要員で問題が解決できないときは、地域保健所(ヘルスセンター)、あるいは病院まで連れて行って治療するというわけです。さらに、研修も実施します。例えば、妊婦の世話の仕方を学ぶことによって障害の予防もできるという研修をします。そうすれば妊娠した女性も、出産前に有益な保健の知識を得ることによって、障害を未然に防止することができます。プライマリー・リハビリテーション・セラピーについては皆さまがたはよくご存じだと思います。また、キャンペーンと権利擁護運動も行っています。これらの活動の大半は、自助グループと障害者が中心になってやっています。

私たちの最後の行動計画として、津波後のアチェのリハビリテーション・センター建築への支援があります。これ(写真6)がリハビリテーション・センターの建物です。すでにバンダ・アチェに完成しました。

アチェのリハビリテーション・センターの建物(写真6)

さて、最後になりますが、持続性のあるCBRのための教訓とは何でしょうか。

それらは次のようになります。

  1. 地域社会に存在する地元の文化、地元の見識、価値観に基づいたものでなければならない。
  2. CBRプログラムは地域社会の既存のプログラムと統合したものでなければならない。
  3. プログラムの継続のためには、現地のパートナーや現地の人々と協力する必要がある。
  4. すべてのCBRの関係者がすべてのCBRのすべてのプロセスに参加しなければならない。
  5. いろいろなアプローチと戦略を利用して地域社会の発展に尽くす。
  6. 指導者研修を行う。
  7. 自助グループを設立して育成する。
  8. CBRの中核要員・ボランティアを組織、育成する。

これらが私たちが災害後に実践したCBRから学んだことです。

どうもありがとうございました。