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報告1−2 JICAにおけるCBR支援について

次に、現在、JICAでCBRを標題として行っている事業の紹介です。技術協力プロジェクトでは中東のエジプトで、個別専門家案件は、これも中東のシリアで、研修では日本で中東地域を対象とした研修を、プロジェクトの中の研修ではタイのアジア太平洋障害者センターでの東・東南・中央アジアを中心とした研修を、草の根技術協力では中央アジアのウズベキスタンで行っています。

 

技術協力プロジェクトであるエジプトを例にして、JICAプロジェクトをご説明いたします。技術協力プロジェクトは目標やアウトプット、活動により計画が立てられ、それに基づいて管理・運営されます。それをひと目で分かりやすくしたのが、この(図2)ロジカルフレームワークと言われるものです。JICAプロジェクトのすべては、このロジカルフレームワークを作成しています。

技術協力プロジェクトのロジカルフレームワーク(図2)

エジプトですと目標は、CBRが、村の障害者が地域の一員として地域活動に積極的に参加するようになる、ですが、これを各活動や、複数の専門家の派遣、機材投入、研修が行われて、それによって成果を出し、いくつかの成果が達成することにより、目標が達成されるように計画します。

いくつか紹介しますと、活動内容では、ご覧のように、これだけではないのですが、ちょっと長いので割愛させていただきますと、このように(図3)活動内容がありまして、それによってアウトプット、成果が出るというふうにして、このいくつかの成果が達成されると、目標が達成されるというふうになっています(図4)。

エジプトCBRプロジェクトの活動内容(例)(図3)

エジプトCBRプロジェクトのアプトプット(成果)(例)(図4)

いくつかのエジプトの活動風景をご覧いただきます(写真1)。エジプトではCBRセミナーや障害児をお持ちの両親、ボランティアに対し各ワークショップを行っています。

エジプトの活動風景:CBRセミナーとワークショップ(ベビーマッサージ、プレイセラピー、おもちゃ作り)の様子(写真1)

JICAではすべてのプロジェクトは経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)の評価5項目(図5)で判断されています。エジプトでのプロジェクトも終了時にはこの5項目によって評価されることになります。これもちょっと難しいので詳しくはここでは割愛させていただきます。ご興味がある方は後で個別に聞いてもらえればと思います。

図5(テキストデータ)

(テキストデータ)(図5)

 

次にシリアで行われているCBR事業促進をご紹介いたします。先ほどご紹介もありましたように、私は5年前シリアに青年海外協力隊で理学療法士として派遣されていました。そこでこの個別専門家案件に関わることができ、当時の活動を具体的に知っていますので、皆さまが一番知りたいと思われるCBRの活動の具体的な内容をご紹介いたします。

CBR実施期間は2003年10月から3年間。ただいまフェーズⅡという第2部が開始されています。

JICAの援助としては、省庁やその省庁で働く方を対象としており、一緒に技術移転や技術普及を行っていくことが特徴となります。シリアの場合、障害者問題を担当しているのは社会労働省でしたので、そこがカウンターパートナーとなりました。そこをパートナーとしてCBRを促進するモデルとなるように、まずは5村でCBRを行いました。

シリアでは、初めにパートナーである省庁がモデルになりそうな村を選択し、その後、専門家とともに村の障害者の実態を調査しています。そしてCBR概念を伝えたり、CBRを担う村のボランティアを募ったりしました。ボランティアとしてCBRに関わっていただくボランティアには、「PLA=主体的参加による学習と行動」と呼ばれる手法で、どのようにCBRを村で行っていくのか、村の人と考え、決定し、ボランティア導入研修をして、実際ボランティアに活動していただくこととしました。

具体的なPLAの内容として、「マッピング」といわれる、村でCBRの活動で使用可能な施設や場所を村の人とともに見つける作業をし、「ベン図」といわれる村人の関係図を作成し、地域で誰がどのようにCBRに関わりを持つか話し合い、そしてみんなで障害者に対し、どのように具体的な活動ができるのかを村の人と話し合い、アクションプランとして今できること、今から行うこと、将来はどのようにするのかなど、活動計画を作成しました。

ボランティア導入研修では、ボランティアとして実際活動される方を対象に、導入研修をそれぞれ村の事情に合わせて3日間から7日間行っていました。主に医療的なことが中心ですが、ボランティアが障害のある方・子どもと初めて触れ合うエントリーポイントとなっていました。ある程度機能障害の知識を知って、家庭訪問で実際に機能障害のある方と会っていただきました。ここまでが村で最初にCBRを行うための活動です。

ボランティア導入研修が終わると、それぞれの村の事情に合った様々な活動が、ボランティアや村のキーパーソンによりできてきます。シリアのCBRでは家庭レベル、地域レベル、国レベル、それぞれのレベルでの活動を行っていました。

家庭レベルではボランティアによる家庭訪問を中心に、兄弟姉妹の巻き込み、母親教室などを行い、地域レベルではボランティアを中心とした啓蒙活動・グループスタディ・学校での活動・ホーティカルチャー(園芸)・生計活動などを行っていました。ここは午前中チャパルさんに言ってもらったCBRマトリックスなどにも関わるかと思います。国レベルでは全国レベルで障害者を集めたキャンプ、毎年夏休みに行われる全国の子どもたちのキャンプに障害児が参加したり、リファーラル(照会)システムを作ったりしていました。また国レベルということで、高等評議会等の障害者問題への政策ができる会議へ直接働きかけも行っていました。

JICAの案件では、省庁間での仕組みをつくっていくことができるのが強みです。シリアの場合は省庁所管のCBR事務所を置くことを決定した他、障害者問題を扱うカウンターパートである省庁の他に、保健や教育など省庁横断的な決定機関である高等評議会を置くようになりました。

 

具体的な活動事例はここまでとしまして、次に現在までのJICAのCBR実践の中から、CBRにおける課題点を述べたいと思います。JICAでは2003年からCBRを標題とした案件を始めました。まだこの分野では歴史が浅いのですが、いくつかの課題点が出ています。

それは、トップダウン的で地域社会が主体となっていない。障害者のユーザー・貢献者としての参加が少ない。医療・機能障害中心のアプローチで、障害者の自立のための多様性のある生活支援となっていない、などです。

1つ目の課題に対する1つの答として、CBRは継続することが重要で、地域住民の主体的な活動が、成功するためには必要であることがあります。外部からの援助で始まるCBRは、どうしても自分たちのものであるという関心が持ちにくいものです。自分たちが問題を見つけ、目標を設定し、解決法を考え実行し、評価するというプロセスを、地域の人々とともに行っていくことが重要と考えています。

次に2つ目、3つ目の問題につながる、障害者の参加が進まない理由と、その対応について考えてみます。まず、リハビリテーションや福祉の専門家、行政担当者から、障害者はサービス受益者と見られてしまうこと。これに対しては、障害者は主体的に開発に参加できると、専門家に対する啓発を行っていかなければなりません。

また、CBRは社会参加を目的としていても、CBRの初期では医療に対する要望が強いため、リハビリテーション専門家による技術譲渡が中心になりやすいということがあります。障害者のみが対象ではなく、障害者を含む地域社会全体の環境改善が目的であることを、関係者が合意していくことが必要だと考えています。また障害者自身がサービスを提供する側として、障害者の参加を促進していくことが重要です。

 

最後にもう1つ、障害者団体育成のための知識・情報が欠如していることが課題として挙げられます。これに対して障害者の当事者団体・自助グループの形成が進まない理由としましては、障害者が自分たちの可能性や組織化の重要性を理解していない段階で第三者がCBRを推進しても、自助団体の育成は進まない。障害者同士が集まる機会を設け、共通の問題点や課題を話し合う場をつくり、自助団体育成のきっかけとし、自発的な団体育成を促す。障害者団体を通して、障害者がCBRの立案、政策決定に積極的に貢献していく、などの対応が考えられます。が、いずれも午前中にもあったように難しい課題であります。

そこで、これらは「言うは易し、行うは難し」で、国や地域で様々な活動があります。異なるCBRに、実際的には具体的に何が有効で何が必要か、多くの難しい課題は残されています。

そこでCBRに関わる私たち、関係する人たちは、それらの問題解決をするために、具体的にどの時期に、どの場面で、どのような人たちと、どのように行動すればいいのでしょうか。それらの課題解決のために、具体的にどのような活動が必要か、皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。

また、この図が出てきますが(図6:図1の再掲)。その答の1つとして、JICAではCBRでしかできないこと、その他のアプローチで効果的にできる部分との相乗効果があるのではないかと考えています。CBRのためのCBRになってしまうと、障害者の社会における完全参加と平等に結びつかなくなってしまうかもしれません。

図1の再掲(障害者支援分野のアプローチ:障害者の社会における完全参加と平等)(図6)

JICAではご紹介させていただいたCBR案件の他にも、多くの障害者支援の事業を行っています。障害者の社会における完全参加と平等のために、これからも最善のアプローチを模索していきます。

本日は、今まで述べた問題提起を、JICAと皆さんの共通の課題としたいと思います。そしてこれらを解決するためには、皆さまの協力を必要としています。引き続きご助言・ご指導をお願いします。ご清聴ありがとうございました。