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講演1−3 CBRガイドラインと地域に根ざしたインクルーシブ開発

松井 20分ばかり質疑応答のお時間がございますので、どなたでも質問がございましたらどうぞ。

 

質問者 CBRについての貴重なご講演ありがとうございました。大阪大学から来ました。私はネパールでCBRの経験があります。カスナビスさんのお話を伺って質問が1つございます。

ネパールもインドと同じように、ジェンダーやカーストなど、開発における社会的な課題を抱えています。そのような状況で、CBRを行うときに、障害者だけの自助グループをつくるのがいいのか、あるいは非障害者も含めていくようなプロジェクトがいいのか、立ち止まって考えたいと思います。自立生活センターですと、半数を超えない人数で非障害者を入れて活動しているようですけれども、カスナビス先生のご経験から、地域における障害者と非障害者がどのように関わっていくことができるのか、ということについて、お考えを伺えたらありがたいのですが。

 

チャパル ご質問ありがとうございました。私もネパールで働いたことがありますのでネパールはよく知っています。ネパール語も話せますよ。

1つ例を申し上げましょうか。世界銀行はインドの南部、ウッタル・プラデッシュ州で大規模なプログラムを支援しました。まず、障害者の自助グループの貯蓄と融資プログラムを始めました。次に障害をもたない女性のグループと統合したのです。これが古典的な例だと思います。障害者のグループと非障害者のグループが一緒になって、障害者も非障害者も参加したというわけです。

多くの国でたくさんの経験を積んできた私の個人的な経験から申し上げます。私たちの最終的な目的は何なのか。非障害者と障害者が一緒になって安寧、幸福になることです。私たちはインクルーシブのグループが正しいと信じているからです。

しかし、インクルーシブグループをつくる場合は、障害者のグループが足がかりにならなければいけないと思います。と言いますのも、非障害者のグループの中に障害者を統合すると、障害者は片隅に置き去りにされます。彼らは平等な力や発言権がないことが多いのです。これは適者生存になってしまいます。エンパワーせずに、あるいは能力開発をせずに障害者を非障害者のグループに加えることになると、彼らは圧力を感じてしまいます。「障害のない人たちの中に入って行きなさい」、これではダメだと思います。

ですから非常に強いパワーを持つ障害者、エンパワーされている障害者がいる国では、すぐにグループに連れて行けると思いますが、そうでない国であったら、まずは障害者のグループを作って、能力を強化し、十分な力を与えて、それからインクルーシブなグループにして行く。そのほうが持続可能になると思います。バングラデシュにもインドにもいい例があります。

 

松井 どうもありがとうございました。他にいかがですか?

 

質問者 今のお話を伺っていて、障害当事者とのつき合い方で、やはり特化して当事者同士がまず集まってというアプローチについて述べていらっしゃいましたが、CBRではずっとインクルーシブ開発とか、インクルーシブなアプローチを提唱していて、それが目的になりつつあります。しかし、それはCBRの中で目的ではなくて、成果として出てくるものではないかと思っているのですが。

やはりCBRはそこに行く前に、まだまだ置き去りにされている障害者がいるので、それを言う以前の問題として、もう少し障害に特化して、例えば当事者グループの育成等、力を入れていくべきではないでしょうか。そうしないとCBRというのは、結局、障害のない人が運営する今までの医療モデルから、あまり変わらないものに落ち着いてしまうのではないかという危惧感を持っています。いかがお考えになりますか。ご意見伺わせていただけたらと思います。

 

チャパル 確かにおっしゃる通りだと思います。今現在それが現実である国がたくさんあります。しかし変化を見せている国も多くあります。先ほど事例をご紹介したCBRプログラムは、障害者の方たちが運営をしています。例えばマラウィ。国のCBRプログラムは、マラウィの障害者団体が運営者となっています。すなわち、既に受動的な被益者ではないわけです。20年前はそうでした。CBRマネージャーで優れた人を実際に知っていますが、彼自身も障害者です。そういう意味では、世界は随分変わってきたのではないでしょうか。特にここ10年間の変化は目覚ましいものがありましたが、それは権利条約ができ、人権アプローチが導入されたことによります。私たちが目的としているもの、CBRというのは実は進化する戦略だと思います。すなわち世界が変わる、社会経済が変わる、障害者の人口動態も変わる、それに合わせてCBRも変わっていかなくてはなりません。

まだ欠点はあるかも知れません。でもCBRそのものは多くの地域で変わってきましたし、今や私たちは、障害者が積極的にすべてのレベル、すなわち計画、実施、モニター等で参加するものになってきているのです。ガイドラインの中でもCBRワーカーの多数は障害者であるべきで、彼らこそがロールモデルになるべきであると謳っています。

障害者の雇用創出という支援ばかりではなく、彼らが行動することによって、障害に対して肯定的なイメージを打ち出せるようになります。マイナスのイメージが強い国が多いですが、もっと肯定的なイメージを推し進めなければなりません。CBRによって彼らの能力を示すことができるし、そうすることができればCBRの信頼性も高まっていくでしょう。

多くの実例が積み上げられつつあります。障害者主導で開始されるCBRプログラムが多くなっています。そういう意味では世界中で多くの変化が起こっていると、私は感じています。

もちろん国と国ばかりではなく、同じ国の中でも違いはあります。インドの南部では障害者がCBRの前面に立っていますが、北部ではそうではないという場合もあるのです。しかし、もちろん地域によって違いはありますが、多くの障害者がCBRに関与し、それが認められつつあると思います。

CBRガイドライン作成については、その初日から、私たちは常にすべての障害者団体が積極的にガイドラインの開発に関わることを確保してきました。ですから、どのような懸念があったとしても、将来的にはそうした懸念が払拭されるように、ガイドラインの中で是正していかなければなりません。危惧をもたれるいろいろなやりかたについてはCBRガイドラインが必ず克服できるようにします。

 

質問者 日本財団で途上国の障害者支援を担当しております。今日はすばらしい講演、ありがとうございました。

CBRについて、コンセプトと事例をお聞きして、「地域におけるリハビリテーション」という名前ながら、なかなかコンセプトは社会開発全体にあたるような大きなコンセプトなんだなということ、あとそういったコンセプトに障害者をきちんとインクルーシブしていく、というようなところが非常に印象に残りました。ただ、これを実現していくのは、なかなか難しいのかなという思いとやはり自助団体、障害者団体のエンパワメントが非常に大事なのかな、と思っております。

それで質問です。今日のプレゼンテーションを聞いて、コンセプトも発展してきて、また幾つかのグッドケーススタディも出てきているのがわかりました。そんな中、600人とか700人の方が集まった先日のバンコクのCBR会議で、今後に向けてどのような取り組みが必要と話し合われたのか、お聞きしたいと思いました。

というのは、おっしゃったように、障害者の権利条約等もあって、法律の整備ということが今後各国で行われていくわけです。また、インクルーシブ開発が大事と言いながらも、おそらく開発問題をやっている方には、障害者問題の認識はまだ低いかと思っております。そこでバンコクでは今後何が必要と話されたのか、例えばケーススタディを今後もアジア全体で広げていくことが大切だというようなことが話されたとか、そのようなことについてお聞きできればと思います。

 

チャパル 質問をありがとうございました。バンコク会議についてのご質問ですね。会議を主催するというのは、お金もかかりますし、生易しいことではありません。そこでバンコクでは一時に様々な問題に対処しようと、マルチトラック戦略をとりました。おっしゃるように、私たちは「開発機構」に光明を当てなければいけないのです。今回はCBRの大会としては初めて開発機関あるいは民間から、またはメディア、NGO、DPOからの発表がありました。これは、CBRはすべての人によるすべての人のためのもの、というイメージを植え付けたかったからです。CBRとは「私たち抜きに私たちのことを決めないで」といわれるものですが、「私たち全員を抜きにして私たちのことを決めないで」と伝えたかったのです。CBRとはインクルーシブなグループが行うインクルーシブな活動であるということを訴えたかったのです。インクルーシブな社会を排他的なグループが作ることは不可能です。そんなことはできないということは歴史が教えています。ですから私たちはインクルーシブな活動をするわけです。

 

このバンコク会議でCBRアジア太平洋ネットワークをつくりました。これからは、このネットワークがいかに機能するか、どういう協力が可能なのかということ次第になると思います。目的は、すべての国、この地域のすべての国がそれぞれの国家のCBRプログラムを持つべきだということです。たくさんの小さなCBRのプログラムがあちこちにありますが、それらの持続可能性が問題になっています。特に海外からの財政支援に強く依存しているCBRプログラムが問題になっています。ですからCBRは国家開発計画の一部になるべきなのです。またミレニアム開発目標の一部にもなるべきでしょう。国連機関の中にさえ、CBRについて認識不足のところもあります。このような背景があったので、国連からも政府からも、障害当事者団体、NGOからも代表を招いて、どのように力を合わせることができるのかを理解しようとしたのです。

バンコク会議で私たちは、団結すれば多くのことを達成できる、ということを証明できたと思います。バンコク会議というのは、そのようなパートナーシップの一例でした。バンコク会議には1つのドナー団体だけがお金をどっさり出してくれたわけではなく、24の機関が協賛してくれました。これら24の機関が少しずつ資金を出し合いましたし、結果を共有することも確認されました。つまりCBRアジア太平洋ネットワークがどのように台頭していくのか、将来の活動計画をどうするかなど、これらの機関が見守ることになりました。今年2009年の12月3日、CBRのガイドラインを出版します。これはWHO、ILO、UNESCO、国際的な障害者団体、およびNGOとの共同出版になります。また、来年は能力開発についての国際・国内・地域内のトレーニング・ワークショップを開催しますが、そのほとんどをこのネットワークが主催することになります。

 

WHOは、他の国連の機関とも協力して、CBRアフリカネットワーク、CBRアジア太平洋ネットワーク、CBRアメリカネットワークをつくろうとしています。CBRのグローバルな運動を展開して、いずれはインクルーシブな社会、インクルーシブ開発の達成を確保したいと思っています。多くの主要機関、財団などが、CBRとは何であるかを初めて分かってくださったばかりですから、簡単なことではありません。私も多くの人から「CBRがこういうこととは知りませんでした」と言われました。団結すればいろいろなものを共有できます。人はリソースをたくさん持っています。このリソースを合わせれば、知識や経験を合わせれば、多くを得ることが出来ます。失うものはありません。これがバンコク大会の成果でした。

アジア太平洋ネットワークのメンバーの能力開発およびチーム育成についてのワークショップを今年の10月に計画しています。すでに30か国が代表を推薦して来ました。また、来年はもっと地域的な研修プログラムにしていきます。先ほどの質問に出ていたようなギャップがこれからは無くなると思います。

新しいCBRの専門家の世代、あるいは世話役の世代を作り出したいと思っています。まだほんの一握りの人たちがCBRの世界を支配していると言っていいと思います。言葉も大きな問題です。言葉、あるいは文化、宗教などに配慮しなければいけません。だからこそこの地域全体の新しい世代のCBR推進者を育てたいのです。また、APCD(アジア太平洋障害者センター)にCBRアジア太平洋ネットワークの事務局を引き受けてほしいと話をしています。さらに将来はこの地域のCBRリソースセンターを設立したいと思っています。このように目的も計画も夢もたくさんあります。でもみな団結して一緒になればできると思います。そうでなければ無理です。

 

松井 先ほどおっしゃったAPCDというのは、アジア太平洋障害者センターといって、これはJICAが協力してやっていて、先ほど発言された方が、つい最近までそこにいらっしゃいました。

 

質問者 ワールドビジョン・ジャパンで働いています。今のお話で、CBR、あるいは障害に対して開発がどういうふうに取り組むかという面で、今話されたのは、いわゆる上のレベルから、いわゆるアドボカシー活動的なところで、このCBRをメインストリームにしなければいけないということだったと思います。最初の方の質問と重なるかもしれませんが…。私たちのようなNGOが実際フィールドレベルで開発の活動をする際に、先ほどの話であった例で行きますと、例えば所得創出とか、教育、保健というのは、障害のある人たち、障害のない人たちにほとんど同じことをやるのだと私は感じました。ただ、そこでどのように障害をメインストリーミング化していくかというのが今後のポイントではないかと思っています。

ともすると、普通の開発の現場では、貧困というのが問題になります。これは両方に共通することです。そこでCBRを推進、実施する際に、どのようなところに気を付けなければいけないか、あるいは意識しなければいけないか、忘れてはいけないかというポイントをしっかりとつかんでいくことが必要だと思います。普通の開発の現場の活動をする際に、こうすれば障害問題をしっかりと捉えていくことができるというものがありましたら教えていただきたいと思います。

 

チャパル 様々なレベルでの活動が必要だと思いますし、様々な戦略が必要だと思います。単一の戦略は存在しません。例えば皆さまのような方はJICAなどのODA関係に対して、援助資金をインクルーシブな形で使うことを確保するようにというキャンペーン活動を行うことができます。これを確保できたなら、被援助国のメンバー、あるいはNGO、あるいは様々な組織が政府に圧力をかけて、そのプログラムのインクルーシブ化を確保することができます。多くの場合、好むと好まざるとに関わらず、人はドナーの声に耳を貸しますから。ということでドナーの方針そのものがインクルーシブになれば、実施当局もそれを実現しやすいというものです。

実施の段階ではやはり、2つ、3つのレベルのアプローチが必要です。障害セクターの人たちは政治には明るくありません。さて、誰が政策を決めるのか、政治家です。しかしそうした分野の専門家の障害者はいません。これまで障害は、開発の課題、政治の課題としではなく、むしろ保健・健康の問題として捉えられていましたが、最近では社会問題、人権問題として捉えられるようになりました。しかし、もっとこれらのすべてを包含した政治的な視点も必要です。国民の声に耳を傾ける政治家がなぜ障害者の声に耳を傾けないのか。それは、障害者たちは分散していて、組織化されておらず、発言力も弱く、チャンスも機会も与えられていないからです。だからこそCBRは、今、おっしゃったようなエンパワメントを行わなくてはいけない、能力開発(キャパシティ・ビルディング)を行わなくてはいけない、組織化を行わなくてはいけないのです。つまり圧力団体をつくらなくてはいけないのです。政策担当者や政府は圧力団体の声なら聞くのです。

村落でも町外れでも、子どもたちが学校に行けないという問題があります。都市部から離れて住んでいるので、遠くまで行かないと学校には行けない。一生懸命運動しても誰も耳を傾けてくれない。そこで100家族あるいは200家族が一緒になって地元選出の政治家のところに行きました。近くに学校をつくってくれ、さもなければここを動かない、と要求したのです。100人、200人の障害者や家族の団体やマスコミを目にした途端に、その政治家は慌てました。「学校ができるまで、明日から私の家を学校として開放しよう」と彼は言ったのです。このように、今までとは違うアプローチや考え方が必要だと思いますし、状況に合わせたやり方が必要だと思います。

これは決して誰かに挑戦しようとか対立しようとかするものではありません。いかにあるものを活用するかという考え方です。多くの国で権力の分散化が行われています。つまり地方の権限が大きくなってきているので、正にそういう流れの中でこそCBRを生かすことができると思います。

インドでは政府が何十億というお金をかけて、大規模な「万人のための教育」というプロジェクトを実施しています。NGOが特別な障害児教育を行うのかというと、そうではありません。政府のプログラムは、障害者も含めたインクルーシブなものです。しかしそのためにはキャパシティ・ビルディングが必要です。多くのNGOが政府との協働のもと、この大規模な「万人のための教育」プログラムに障害児も含まれることを確保しようとしています。いろいろな背景の中でいろいろな戦略が必要だと思います。権利条約もできたことですから、いまや政治的環境は整ったと思います。

この景気後退の今、実は多くの機会が生まれると思います。数年前と比べて、将来のための資金獲得が難しくなっていますが、チャンスが限定されると人は身の回りで多くの解決策を見出そうと努めるので、多くの機会が生まれると思います。また地方の分権化に乗ることによって、さらに多くの機会が生まれると思います。例えばイタリアでは、中央政府よりも地方政府のほうが資金に余裕がありますので、中央政府ではなくて地方政府に援助を求めることができます。中国では、実は省によっては政府より多く資金を持っているところもあるのです。CBRというのは非常に興味深い分岐点に来ていると思います。様々なチャンスを生かすことによって開発全体のインクルーシブ化を図ることができます。再度申し上げますが、パートナーシップが必要です。

 

松井 ありがとうございました。