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パネルディスカッション

司会:河村宏
(特定非営利活動法人 支援技術開発機構 副理事長、DAISYコンソーシアム会長)

パネリスト:
鈴木昌和 (九州大学大学院数理学研究所 名誉教授)
井上剛伸 (国立障害者リハビリテーションセンター 福祉機器開発部 部長)

河村:それでは最初に、お二人の日本のパネリストから感想とコメントをまず短めにいただきたいと思います。まず鈴木先生の方からお願いできますか?

鈴木:先生の講演を聞いていて、非常に考えさせられました。ありがとうございました。一つはロールモデルを作ることが非常に重要であるという考え方で、そのために強力に高校まで含めてやっていこうというやり方ですね、すばらしいと思いました。日本でできるかどうか非常に未知数ですけれども。欧米で見てもサポートセンターをしっかりさせて、そういうところに生徒さんたちに来てもらってしっかりした教育をするという考え方ですよね。それは韓国では非常に強力に先生の力で進めることができているというのはすごいなと思いました。
入試についてお聞きしたいのですが、先ほどの話では、専門の高校で何年か学習した学生さんはソウル大学に無条件で受け入れるのでしょうか?
それともう一つは、その高校に入れる学生さんたちはどういう人たちなんでしょうか? ソウルから通っているのか、あるいは韓国全体からその高校に入れるのか。あるいはそのための試験なり何なり、そういったものがあるのでしょうか? そういったところをお聞きしたいと思いました。

河村:ありがとうございました。今、二つ質問がありましたね。高校について。サンムクさん、回答していただけますか?

イ・サンムク:まず先生にお願いしたいのは、先生が九州大学でやっていらっしゃる通学のプログラムについて私の方が教えていただきたいくらいであります。私どもは数学を教えなければいけないということがわかっているんですけれども、まだ立ち上げておりませんので、始めたばかりでありますので、ぜひ九州大学の方で先生がどのようにして数学をお教えになったのかということを教えていただきたいと思います。そこから多くを学ぶことができると思っております。
それから先生のご質問でありますが、韓国では確かにおっしゃるとおり文科省の方で障害者のためには実際の定員に加えてその人たちのために枠をとるということを許しています。しかしながらその枠でありますとまず承認が必要ですし、それはまた非常にお金がかかってしまいます。ですから国立ソウル大学ではそれに頼ることなしにやっています。しかし無条件で入学できるということではありません。以前であれば国立ソウル大学に入学するためには、全科目でAプラスを取っていなければ、そもそも入学できませんでした。しかし現在ではその状態が少し変わってきています。アメリカの大学でやっているシステムと似ているんですけれども、その人たちのポテンシャルを見て入学を許可するということが行われるようになってきています。つまり、障害のある学生で、例えば聞き取りがうまくできないために英語でAプラスが取れない学生がいるとします。その場合にはすべての科目にAを要求しないというわけです。そういう新しい入学のための考え方が出てきています。ポテンシャルを考えて入学を許そうというわけです。
例えば法学部の入試は非常に大変で、本当にエリートが入ってくるわけでありますが、そういうところに入学するためにはポテンシャルを加味した入学条件というものが大切になってくると思います。 しかしながらこのポテンシャルを加味して入学を許可するという考え方は、別に我々のために考えられたものではありません。もともと大学の方でこのような教科制度に改めて、そしてそれを始めたばかりだというところです。つまり我々が特別扱いをお願いしたわけではない。大学の方から、やはり今後、多様な人材が大学にも必要であるということで、学業に秀でている学生ではなく、いろいろな質の学生をとらなくてはいけないということで、大学自体は別に障害のある学生のためではなく、一般の学生のために新しい評価制度を導入したことが始まりです。つまり我々にとって本当によいタイミングだったと言えます。
この高校との提携ということですが、実際にこの高校は本当に社会の一番上にいる人たちしか入れないというので、かえって評判が悪いという問題を抱えていました。つまり、自分自身の高校としてもPR上よくないと思っていたわけです。つまり政治的に高校としても正しくなければいけないということで、実際に障害のある生徒を受け入れるだけではなく、例えば経済的にあまりそれほどお金持ちでない人たちの子弟も受け入れるということで、韓国社会の中で正しい位置を占めることが高校としても大切であると考え、むしろ彼らの方で喜んで私の方の申し出を受け入れてくれたと言えます。
別に特別枠で受け入れるわけではありません。通常の入学で入ってくるわけです。しかしこの高校できちんとした新しい教育を受け、準備が整えばソウル大学にも入れるかもしれないし、またその他の大学にも入学のチャンスが高くなると思います。

河村:ありがとうございました。 それでは鈴木さんへの数学についての質問も逆にありましたが、その前に井上さんの方からまずコメントをいただいて、それからということにさせてください。

井上:韓国でもイ先生の講演を聞かせていただいて、そのときからすごく忙しい、ご自身のご経験と、それから今日はかなりQOLTという形で、技術開発と教育がうまくマッチングされた形で進められているというのにすごく感銘を受けました。
聞きながら、日本の状況を少し振り返ってみると、1997年に日本で福祉用具法というのができまして、実は今の経産省、通産省が言い出しているんです。通産省と厚生省でジョイントで法律を作った。だから日本もそう考えると、通産省が言い始めたんだなというのを少し思い出しました。それから13年になってどうなったかなと思うと、福祉用具の世界というのはいろいろな技術開発が確かにできて、ただ、今、少しフラットになっていて。新しい技術はどうなんだろう。ロボットとかいろんなキーワードがありますけれども、それをどこにどうとらえて使えばいいのか。それが現状であります。そこにもってきて、今日、講演会の名前で、「理工学分野における高等教育の障害者入学支援プログラム」と、すごく狭いところに技術開発を入れるんだなと、少しびっくりしたところがあります。
ご講演を聞くまでイメージがわかなかったんですけれども、今日のご講演を聞いて、なるほどなと。シミュレーションなり何なりで今までの観察と実験という世界をコンピュータでやっちゃうんだなという、そういう技術開発と教育に関わる技術というのをしっかりと重点を置いてやるという、これは日本でも、こういった重点を持ったアプリケーションというのがすごく求められている中で、すばらしいなと感じたところです。
私の感想はおいておき、イ先生は6ヶ月で職場復帰したと伺いましたが、内輪で申し訳ないんですがうちのスタッフで、後ろにいるんですけれども、彼も頸損で5番、6番なのでイ先生よりも状態はいいんですけど、1年で博士論文を書いてうちの研究所に就職してきて、今、こういう福祉機器の研究をやり始めています。もともとは脳活動を測るとても小さいセンサーを作るという、本当の工学のど真ん中をやっていたのが、恐らく何か感想なり何なり、あるんじゃないかと思って。ちょっと振ってみようかと。どうでしょうか?

会場:今ご紹介いただいたとおり、工学の分野の研究をしていて、博士論文をちょうど書こうかというところでケガをして、病院の中で仕上げたという経験をしました。 今お話があったように、確かに非常に分野としてはピンポイントの分野なんですが、私がもしこのケガをするのがもうちょっと早く、大学に入る前だったらということを仮定したら、確かにここにどうやって教育をしてもらうかというのと、どうやって入試で戦うかというのが一番ネックになるんじゃないかなと思いながら伺っていました。
日本の入試の状況も、受験戦争という言葉があるくらいで非常に厳しい。そういうところで、工学の方に進むとなったときに、ペンも持てない、何もできないという人間が、どうやってエンジニアリングのセンスを身につけていくかというのは、確かに日本ではまだ全然解決されていない問題なんだなというのがありました。
もう一つ、おっしゃっている中で、コンピュータのシミュレーションとかそういった方法で研究をやっていけばいいんじゃないかというのは、私ももともと実験屋さんでしたので、自分の手を動かしてやるというのがメインの仕事でした。それができなくなって、今はどうしているかというと、一つは技術補助員さんの力を借りて実験系を作って人に指示をしてやってもらいます。でもやっぱり全部自分で手を動かしてやりたいとなると、私も上肢に損傷があるんですが、コンピュータの中だけである程度自分で手を動かして完結できる研究というのを一つテーマとして持ちたいなという話をしております。そういう方向性で進められていくというのは、当事者としても違和感なく受け入れられると思いました。

河村:ありがとうございました。何か今の発言についてコメント、いいですか?

イ・サンムク:さて私がなぜ日本に来たのかと申し上げますと、私自身が答えを皆さんからもらおうと思って日本に来ました。何と言いましても日本はこの分野では韓国に大きく先んじています。したがって日本の皆さんに答えをもらいたいと思って、今回は参っております。日本の経験から学びたいと思って参りました。もちろん韓国はある意味ではいいポジションにいると言えます。
なぜいいのかと言うと、ゼロなのでいいわけです。何もやっていないからいい。つまり、何をやっても新しい、何をやってもいいと言われるということで、後からスタートするものの強みという意味ではいいわけです。
ですからそのように何か質問されましても、私としては恥ずかしながら答えを知らないということで、ぜひ皆さんから教えていただきたいと思っています。

河村:ありがとうございました。後発の強みということで謙遜を含めておっしゃっているわけですけれども。ここで、あまり時間はないんですけれども、これだけはどうしても聞きたい、この後はすぐどこかに行かなきゃいけないからここで聞きたい、短い答えでいいという質問がありましたら、手を挙げていただきたいんですが、いかがですか?

会場:一つ質問があるんですが、私の友人は14歳のときに重度障害になり、四肢マヒと視覚障害と言語障害を持っています。言語障害を持っていて発語ができないので私が代わりに通訳しています。今、立命館大学大学院の先端総合学術研究科の博士前期課程で研究をしています。自分がコミュニケーションで他者とバリアがあるということでそれをなくすために今、研究を続けています。
一つイ・サンムクさんに質問があるんですが、障害学生支援で、本人はスカイプ、テレビ電話を使って授業を受けているんですが、韓国で実際にスカイプを使って障害学生支援をなさっていますか?

イ・サンムク:いえ。私は詳しいことは存じあげません。というのもスカイプは知っていますけれども、プログラムも立ち上げたばかりだからです。そこでご質問された方にお伺いしたいんですがスカイプはどのように使いこなせるでしょうか?

会場:彼は今、自分の大学は京都にあって遠隔地にあるため、通学が困難ですので、テレビ電話を使って遠隔地の大学でも授業を実際に受けて、自分の質問ができたりプレゼンテーションができたりということで、そういうところで利用しています。

河村:ありがとうございました。それでは約束の時間にもう近くなってしまいました。パネリストのお二人から、それぞれ短いコメント、鈴木先生からは数学のことについても短くお答えをいただいて、それで最後にイ・サンムクさんから最後のコメントをいただきたいと思います。

鈴木:九州大学での取り組みについての質問だったんですが、実を言いますと九州大学ではうまく数学の教育が、その全盲の学生に対してできなかった。それで私はこの分野に入ってきたわけです。その後、私は晴眼者と視覚障害者の中で、視覚障害者が数学の勉強ができるようにするためのソフトウェア開発を10年ほど進めてきて、今やっと実用化されたところなんですね。目指しているのは晴眼者の先生が晴眼者の生徒に対して作ったプリント等を、その場で視覚障害者が読むことができる。視覚障害者がその場で書いたものを、その場ですぐに晴眼者の人も読めるという、そういう環境を実現したくて、そのためのソフトウェアを作ってきました。
それはある程度実用化に近いレベルまで来ているんですが、もう一つあります。私が非常にその生徒に対して教育していて、非常に大きな困難を感じたものが一つあります。数学では黒板を使います。いまだに黒板を使います。数学に限らず工学の分野でも数学的なコンテンツを授業するときは黒板で書きます。視覚障害者に対して黒板での数学の授業というのは本当に困難です。ただ視覚障害者の先生の方々に聞くと、数学の授業というのは黒板にコツコツと音がしているだけだというふうに言われました。日本では、特にアジアではみんなそうじゃないかと思いますけれども、韓国も同じだと思いますが、黒板に書くときに数式を読むという習慣がありません。数式を読む読み方も決まっていません。欧米では比較的正確に読み上げるルールが決まっていますけれども、それが日本にはないんですね。だから先生は数式を書いているときは黙っちゃうわけです。これが非常に大きな問題で、黒板に書いている文字をそのままで生徒がピンディスプレイで読めるシステムを作りたいということを思いまして、何度かチャレンジをしました。残念ながら予算的に問題があって、一度は大きな予算がつきそうだったんですけども、スタートした時点で予算がしぼんでしまってできなかったんです。
イ先生のところでは大きな予算が使えそうなので、ぜひ黒板、ホワイトボードや電子ボードで先生が書くと、普通に晴眼者に対して書くのと同じように書くと、それをそのままで認識をして、インターネットを使って生徒がリアルタイムで点字や音声で内容にアクセスするような、そういうシステムの開発をしていただけたら、日本でも使わせていただきたいと思います。

河村:ありがとうございました。それでは井上さん、お願いします。

井上:今の話とも少し関係してくるんですけれども。今、国立のリハビリテーションセンターというのは日本に我々のところがございまして、韓国にも国立リハビリテーションセンターというのがございます。あと中国にも国立のリハビリテーション研究センターというのがあります。三つのセンターで共用してこういったリハビリテーションの研究リハで協定を結びましょうという話をしているところでございます。そのセミナーでイ先生とは実はお会いしたんですけれども。そういう形で韓国、日本、中国という形でこういう分野の連携をもう少し進めて。お金もあるかもしれませんけれども。
もくろみとしては、東アジアでうまく連携を作って、EUみたいな国際的なパワーを持てる、そんな存在に、東アジアがなっていけるといいんじゃないかなということも考えています。ぜひこれからもいろいろ連携と協力というのをぜひお願いしたいと思っています。

イ・サンムク:私は科学者ではありますが、数学はあまり得意ではありません。ただ、理工学系で数学がいかに重要かはよく認識しております。その意味で、このような全盲の学生さんに数学の教育を行うというのは非常に大きな問題であるという認識があります。
したがって、河村さんが韓国に来られたときにもどのようにすればこの教育ができるかということについてお伺いし、幾つか提案を受けています。その他にもいい考えがあれば、ぜひ学ばせていただきたいと思います。
そして視覚障害のある学生さんに数学を教えるというのは、別に韓国だけの問題ではないわけで、全国共通のユニバーサルな問題であると思いますし、非常に深刻な問題だと思いますので、私のできることであれば何でもしたいと思っています。

河村:ありがとうございました。非常に具体的なお話で盛り上がってきたんですけれども、残念ながら時間切れになってしまいました。実は国立ソウル大学で先ほど来ご紹介がありましたプロジェクトを立ち上げるときの、立ち上げのセミナーがありまして、私が招かれまして、そのときにDAISYという国際的な共同プロジェクトについての講演をさせていただきました。今お話がありましたように、世界中で共通する問題、特に情報と知識へのアクセスをさまざまな障害がある中で、どういうふうに得て、高等教育あるいは職業的な自立の道を作っていくか。これはグローバルに共通する課題だと思います。もちろん東アジアでの協力というのも、言語圏という点で大事ですし、同時に数学というのは世界中で数式は同じであります。ほかにも楽譜とか、世界中で共通して使えるもの、あるいは化学式なんかもそうだと思います。すべて知識、それから情報のアクセス。そしてそれを実際に最後の接点のところは支援機器、支援技術というものがそれぞれの障害について必要になっていきます。 今日、非常に狭いというふうに皆さんおっしゃっていました、理科系の高等教育に進路を作るための支援という、本当に狭いんですけれども、実はずっとそこからたどっていくと、ものすごく広いことをやらないと実現できない。最先端の技術開発も必要だし、同時にいわゆるローテクも必要になってくるということだと思います。
今日を機会に、これから、隣の国ですので、ますます交流を深めながら今後、一緒に進んでいけたらと思います。
これでパネルディスカッションを閉じさせていただきます。

司会:それではこれで終了させていただきます。最後のまとめは河村さんの方が言われましたので、私の方は省かせていただきまして、今後、アクセシビリティと言いますと、建物ならず情報のアクセス、そしてそれらが社会参加につながるというところで、韓国と日本が連携をして、発信ができればいいなというふうに思っております。
最後に情報保障に協力いただきました要約筆記の皆様、そして英語と日本語、両方やらなきゃいけなかった大変な工夫をしていただいた通訳の日高れい子さんに心からお礼を申し上げます。ありがとうございました。
それでは少し長くなりましたけれども、終了させていただきます。ありがとうございました。

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