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講演会「スウェーデンにおけるDAISYの認知・知的障害者への応用」

講演会資料 ”スウェーデン・ディスレクシア(読み書き障害)協会(FMLS)提供”

未来の学習教材
仕様書要求事項とその背景にある必要に応じた調査記録
作者:トールビョーン・ルンドグレン

作者前書き

私が知る限りでは、これまで読み書きに困難がある人々を対象とした文書の製作時に留意されるべき点が列挙されたことはありませんでした。つまりこの論文で述べられている仕様書要求事項や必要条項(の列挙)は始めての試みなのです。私、トールビョーン・ルンドグレンは、読み書きに困難を持つ機能障害者協会FMLSから要請を受けました。またこの計画が実現いたしましたのは、補助具学会のプロジェクト”ウンガ イ フォーカス”と公的遺産基金からの助成金がおりた為であります。

この作業の間に私は数名からなるレファレンスグループにご支援いただきました。そのメンバーは補助具学会(Hjälpmedelinstitute:HI) のハンス・ハンマルンド氏、録音-点字図書館(Talbok och punktskriftsbiblioteket: TPB ) のアンネ・スティーゲル氏とトーマス・ヨハンソン氏、特殊教育学会(Specialpedagogiska Institute:SI)のビョーン・ニィグヴィスト氏とラーシュ・カールソン氏です。ラビリンテン株式会社のアンダーシュ・フランケンベリィ氏、ヤン・リンドホルム氏、ディアーナ・ヨート氏はスクリーンリーダーをいかに使い易くデザインするか、それを実現する為にはどのような技術的可能性があるかという設計会議にご参加くださいました。録音奉仕株式会社のトーマス・レンダール氏は最新の録音機器の状況に関して情報を補足することで貢献をしてくださいました。PISA調査の計画者の一人、研究者のカーリン・タウベ氏、またコンピューターを土台とした授業の研究を行ったエーヴァ・スヴェルデーモ氏はそれぞれの研究の総論をご教授くださいました。

この仕様書要求事項と必要条項の始めの概要はFMLS協会役員会において紹介され、検討されました。そこに集まった人々のほとんどは、ご自身も読み書きに困難を持っておられましたが、FMLSの相談事業スクリーブクニューテン(書字支援センター)で働く(読み書きに)大きな困難を持つソーシャルワーカー志望のインゲル・ローレニウス氏、特殊教育教諭のエヴァ・ヴィークランデル氏、FMLSの事務局で働くマーリン・スコーグルンド氏は時間をかけて筆者と共に一点一点を検討してくださいました。また簡単に読める文書団体の中心にある『簡単に読める本』財団の理事長ブロール・トロンバッケ氏及び編集者のリスベス・ローゼンシェルド氏には夏の暑い最中、筆者が最終校正において、特に配慮しなければならない貴重なご指摘を頂きました。KK財団の特殊教育教諭カーリン・オーリス氏、ストックホルム大学の北欧語学学科教授ラーシュ・メリーン氏、ストックホルム教育大学教授マッツ・ミィベリィ氏、ヴェクシェーのクロノヴェリィ読書発達研究所のクリストファー・ヤコブソン心理学博士、言語療法士のウッラ・フォーレル氏、作家のスヴェン・レーヴェベリィ氏、FMLSの事務局長スヴェン・エークレーフ氏にはそれぞれコメントをいただき、エリザベス・オッテルスタッド氏には誤りがないように査読をしていただきました。

言語機能開発学校、医療機関、職業訓練センター、児童の為のコンピューターセンター、障害者協会FMLS、ディスレクシア協会等様々な活動分野で読み書きの困難な人々の為に活躍される、このスプローカロスプロジェクトにおける筆者の親しい仕事仲間、ボーディル・アンダション氏は最終的な部分においてディスレクシアに関する法規と、その概念に関する専門用語を調査し、読み書きが困難な障害に対して取るべき立場を打ち出してくれました。

文章に関してアンダション氏は、マルメー大学の特殊教育教諭メレーテ・ヘルストレーム氏、イェーブレ-サンドヴィーケン県立病院言語療法士ブリジッタ・ヨーンセン氏、イェーテボリィ大学教授イングヴァール・ルンドベリィ氏、イギリスのイアン・スミス心理学博士及び言語療法士EA・ドラファン氏、イェーテボリィ大学の特殊教育教諭ウルリーカ・ウォルフ博士、ルンド大学の障害者専門コーディネータークリステル・ベリィ氏、スタヴァンゲル読書研究センター教授ステファン・サミュエルソン氏、ルンドのSKED(ディスレクシアの生徒の為のスコーネ情報センター)の公認心理学士グンネル・インゲソン氏、スタッドハーゲン失語症リハビリテーションホームのクリステル・オースリン氏、厚生省職員の方々にご助力及びご指摘を頂きました。

私共はここに挙げた方々に感謝を表すると共にこの仕様書要求事項へのさらなるご意見をお願いしたく存じます。これは最終文書ではないのですから。新しい情報が得られた時にはこの文書は更新されます。また最新ヴァージョンはインターネットにてご覧いただけます。
URL:www.fmls.nu/

トールビョーン・ルンドグレン

第一部

概論
まず始めに、もしある文書の書体とレイアウトが経験豊かな優れた印刷業者によって印刷された、一般の読者にとって良いものならば、読み書きに困難はあっても晴眼であり、通常の能力を持った人々にとっても良い文章とレイアウトということになると申し上げます。読むことに慣れていない人々は、話し言葉による会話にはついていけますが、書き言葉の構造や形成-接頭辞、接尾辞、結合した言葉、主節と従属節の区別等には困難を覚えているものです。なぜならば複雑な文章を理解する為には文章に慣れていることが不可欠であり、一つの仕様書要求事項の中で細かな要素を定義することは困難です。それらは各対象読者層に合わせて論議されるべきだからです。このグループに関していえば、このグループが根本的に抱えている問題は知的能力ではなく、書き言葉に対する言語能力のレベルなのです。

  • 読書経験豊かな読者にとっては特に理解しづらいわけではない文章とレイアウトでも、本誌で対象とされている人々にとっては理解できないような障害となりえます。
  • 文章によって成り立つ情報もCD-ROM、インターネット、データベース化された文書ファイルなどなんらかのデジタルフォームを用いれば利用可能なものとなります。
  • 様々な読書媒体は国際規格に従うべきです。現在許容しうるのはデイジーフォーマットです。
  • 興味のある文書をどのように閲覧するのかは、個々の読者が自分で決められるようにするべきです。利用者が従来の印刷された文書で読む、ウォークマンで文章を聴く、またはコンピューターで読むなど自由に変えられるようにするべきです。(今日ではMP3フォーマットが取り上げられており、将来的には3G携帯電話が媒体の一つとなるでしょう)
  • 学習教材によっては個々の生徒が作文を要求されることもあります。その際文字を書くことの困難を軽くし、良い結果を得る助けになるようなコンピューターベースの補助具を利用できるようにするべきです。

印刷形態の学習書-文章
通常の図書は、読書に対する困難のない人々にとっては利用価値のある良いものです。また映画字幕、パンフレット、インターネットの画面など多くのメディアが文書によって情報を伝達しています。
しかし例えばマルチメディアのような他の媒体においては、文字の書体や内容の明確さが大変重要な要素になります。
その利用者が機能障害を持ち、読書に慣れていない場合等は、文書の作成には様々な注意が必要です。
 例:

  • 具体的に書く。抽象的な言葉は避ける。
  • 論理的にする。話の展開は論理的一貫性をもたせるようにする。
  • 登場人物は多すぎないようにする。
  • 略語の多様は避ける。
  • 綴りの似たような長い単語を続けて用いることは避ける。
  • 対象となる人々が視覚的に文字同士の区別をつけられるように、大文字と小文字を併用する。

印刷形態の学習書-レイアウト
レイアウトは明確で魅力的なものが望まれます。また絵は文章と合致していなくてはなりません。

留意点:

  • 読書が困難な人々はだらしのない粗雑な絵に対する慣用度が読書経験豊かな人々よりも相当低い。
  • ある情報に対してこのような人々が慣れ親しんでいるレイアウトを  用いることは大変重要である(例:新聞のテレビ欄等)
  • 挿絵には2つの役割がある。何が書かれているのか理解を助け、メッセージを明確にする。また読者がその本の内容を記憶する助けとなる。
  • 句読点の後(つまり節の区切れの後)に行が変わることは、読書経験が乏しい読者にとっては理解の助けとなる。しかし少しでも慣れている読者はそれよりも変化があることを望む。
  • 読書に困難がある人々にとって、行から行へ正確に視点を移すことは難しいものである。行間を広く取るなどの対処が必要である。

デジタル形態の学習書-文章と内容
授業で用いられる全てのレベルの、全教科の学習書が印刷形態とデジタル形態の双方で利用できるようにならなければなりません。それは読み書きが困難な/ディスレクシアの生徒達、DAMPやADHD等様々な種類の集中が困難な生徒達、またその他視覚障害や行動障害を持つ生徒達が受けやすいとされる授業の前提条件です。

  • 印刷形態で既に存在する学習書は、デジタル形態でも存在するようにしなくてはなりません。そのデジタル図書の文章、章区分、頁番号は、利用者が自分の用いる形態の図書を友人のものと平行して使えるように。印刷形態の図書と一致していなくてはなりません。
  • デジタル形態の学習書は利用者が自らの障害に合わせて自分で読書媒体を選べるようにしなくてはなりません。CD-ROMプレイヤー、またはスクリーンリーダーのついたコンピューターなど。
  • デジタル形態の学習書は、利用できるウェブ製品に用いられているような規格に合わせる。それには利用者が言葉の説明書きがついた絵や図表を見るかどうかを選べるような、”alttexter"(画面上の絵の意味を述べたり、意味の無い時にはそれを伝えるソフト)と呼ばれるものが付属している必要があります。

デジタル形態の学習書-技術
デジタル形態の学習書とスクリーンリーダーに留意するべき点

  • ディスプレイ上の文書は読みやすくなくてはなりません。読み上げられるその文章の行、単語、または段落には印がつけられていて、読み上げの間は矢印がそれを追うようにするべきです。
  • 読み上げの速度は通常より早く、遅くなど調整可能であるべきです。また速度は声のトーンが変わることなく調整できるようにするべきです。
    スクリーンリーダーはマウスによってもキーボードからでも操作できなくてはなりません。
  • 章(そのレベルに関わらず)、頁、文章の場所やその時系列を操作できるようにするべきです(つまり文章と音声双方を進めたり戻したりなど同時に移動できること)
  • 目次も含めた全文書内で、何か特定の言葉を探すことが可能であるようにするべきです。またその時利用者が見ている場所から前の部分をも後の部分をも探せるようにすることが必要です。もし見つかったら、連続して次の言葉を探せるようにするべきです。
  • 全文書中の特定の頁が簡単に探せるようにするべきです。
  • 脚注、枠外文書共に簡単に操作できるようにしなくてはなりません。
  • ブックマークは数に制限なくつけられるようにすべきです。そのブックマークは視覚的にディスプレイにも音声ファイルの中にもつけられるようにするべきです。
  • ブックマークは再編集や削除が可能であるようにするべきです。
  • ブックマークは文書の注記によっても、音声的な注記によってもつけられるようにするべきです。
  • 文書または音声による注記は他のコンピューターに転送できるようにするべきです(例えば担当教諭のコンピューターなど)。同様にこれらの注記を他の媒体からダウンロードできるようにするべきです。これによって生徒達が自分の学習課題を仕上げ、彼または彼女にとって最適の方法で指導教諭に答えを提出することができます。
  • 背景色、文字色、太字やイタリック体などの文字スタイル、記号の型や大きさ、また行の長さなどは個々の必要や希望に応じて変えられるようにするべきです。
  • 単語リストはスクリーンリーダーに含まれているか、または付けられるようになっているべきです。それによって文章中の様々な言葉がどのような意味なのか簡単に解答を得ることができます。
  • ディスレクシアの人々がどのような間違いをよく冒すのかを留意して、開発された校正ツールがスクリーンリーダーに内包されているか、簡単に付けられるようにするべきです。
  • 検索機能によって正しい言葉を見つけることができるような(もし検索段階で綴り間違いをしたとしても)辞書が内包されているか、簡単に付けられるようになっているべきです。
  • 文章読み上げ機器(text-to-speech)はスクリーンリーダーに取り付けられるようにするか、SMAかSAPI-kompatible(互換機)文章読み上げ機器が利用者のコンピューターに使用可能な状態で備えられているべきです。
  • スクリーンリーダーはプラットフォーム独立であるべきです。つまりオペレーティングシステムからは独立して機能するようになっているべきです。
  • スクリーンリーダーは、家からの持ち込み、ウェブからのダウンロード、CD-ROMによる利用に関わらず学習教材として扱われなくてはなりません。
  • スクリーンリーダーは撮影された映像にも用いることができるようにするべきです。
  • コンピューターベースではない媒体、例えばウォークマンに関してはCDばかりではなく、図書が一冊記録できるような容量のCD-ROMも読み込めるようにするべきです。DAISYフォーマットの再生ができるようにならなくてはなりません。また一度止めて、後でまたその部分から聴き直すことができるように、ブックマークをつけられるようにするべきです。できれば操作によって個々の頁へいけるようにするべきです。

文章を書くため、そして情報を得る為の学習教材/補助具
学習教材によっては、文章による答え及び(または)きちんと調べた上での長いレポートの提出が要求されることがあります。そのため私達は学習教材として文字を書く為の媒体を視野に入れなくてはなりません。

  • 単語リストや同意語リストを内蔵したワードプロセッサーの支給は、対象となる生徒達が様々な科目において文章を書き上げる為の前提条件です。
  • 特殊単語リスト、語彙の豊かな辞書、校正ツールが生徒の必要に応じて利用できるようになっているべきです。
  • 生徒が書いた文章を人工音声が読み上げる、文章読み上げ機器(text-to-speech)がワードプロセッサープログラムに接続できるようになっていなければなりません。この支援機能は生徒の必要に応じて支給されるようになっているべきです。
  • このような生徒達の為に授業計画を立てる上で、文書作成を容易にし、彼らが情報を入手できるようなその他重要な技術的補助具は、真っ先に考慮されるべき事項です。(例:ペン型翻訳機器、ヴォイストレック(小型録音機器)、小型計算機、ホワイトボードホルダー )

授業
授業、中でも”生徒による自発的活動”を行う授業にあたっては、特別なサポートが必要な生徒に対する差別が発生することがないように留意しなくてはなりません。その為にはなんらかの対処が必要です。その為には(他の子ども達に比べて)未熟な生徒達が公平な条件で参加できるという点から出発した対応策を、準備段階から盛り込まなくてはなりません。

  • 各小児医療センター(小児科病院)は、親族の中に読み書きに困難な人がいるかどうか尋ねることを任務の一つとするべきです。それによって早期段階で各児童の注意すべき兆候をとらえる前提を把握できるからです。
  • 全小学校で音韻認識の体系的なトレーニングを取り入れるべきです。これは言語の様々な面を訓練するカリキュラムに沿って、ゲームの形で行われなくてはなりません。このトレーニングはボーンホルムスモデルと呼ばれるもので、このトレーニングを用いた現場では、読み書きが困難な子ども達が現れる割合が他の教育施設よりも相当低くなりました。
  • 特別なサポートを必要とする生徒への対応プログラムを作成する教育案作成者の義務は、学校教育法で明言されているべきです。またそれらのプログラムは学校職員、生徒、その生徒の親達が協力して作り上げなくてはなりません。この義務は地域ごとに実行され、またこのような業務形態がより効果を発するように、継続的に査定を受けるべきです。
  • 対応プログラムの目的は生徒達が各々の課題を遂行し、授業に参加できるように(他の生徒と)公平な条件を与えることです。その為教育案作成者は各生徒の言語的発達状況と、各生徒独自の必要を考慮した上での、総合的授業状況への適応性を把握していなくてはなりません。

各生徒達の言語的を継続的にサポートする上で要求されること。
1. 生徒が読み書きが困難な可能性がある場合の兆候を、早期に真剣に取り上げること。
2. 各教諭が一般的な、そして単語理解能力及び(または)読書理解力において特有の問題を持っているかどうかに関して、判断する能力があること。
3. 推理力や文章読解が必要とされる高レベルな段階において生徒の発達状況を観察できること。それによって始めて生徒が洞察力において問題があることに気がつくことができるからである。
4. 生徒が授業についていくための生徒達の文章を読む速度とその他の能力の完成度が判断でき、それを補う指導ができること
5. 様々な困難を持つ児童を早期に把握し、授業に参加できるように彼らが必要とするサポートができるように、学校は幅広い分野の専門家と連絡が取れる構成になっていること。

特別なサポートを必要としている児童が考慮に入れられている、つまり総合的な授業状況が民主的である為に要求されること。
1. 教諭陣は、各生徒が独自の必要性を抱えており、その必要性が満たされることは視力が低下している生徒による眼鏡の使用と同じように当然のことだと基本的な理解を持つこと。
2. 教師達が自分の授業を計画し、生徒が(個人の必要に応じて)適切な学習教材や補助具を利用するべきと判断した時には、それを尋ね調べる能力を持っていること。
3. 教育案作成者は予算の中では補足的学習教材と補助具の経費を真っ先に組むこと。
4. 個々の生徒達に適切な学習教材と補助具の必要性が発達に関する面談の中で話し合われ、生徒一人一人の総合対応プログラムの中で必要が満たされること。
5. 全授業を通して、全教諭は自分の授業中に自然な形で生徒達が適切な学習教材を使えるように配慮すること。

生徒達に公正な条件を与えるような授業を“(余計な)支出”と捉えてはなりません。これは支援を必要とする生徒達が自信を得て、より強い興味を持つことができ、また彼らに強い動機と忍耐強さを与える為の研究なのです。
補助的学習教材と補助具はこれらの生徒達にとって、単なる自分の困難を楽にする道具ではありません。彼らの完成度を高めるものなのです。しかし彼ら自身の達成感より大きな助けはありません。生徒達は学校の科目をこなす為に、民主的な可能性を与えられるにすぎません。

総括的まとめ
特別なサポートを必要とする生徒達が公平な条件で教育を受けるためには、授業、学習教材、補助具などを総括的に見直すことが要求されます。それは行政組織、公的機関から教材製作者から一人一人の生徒に到るまで教育界全体に関わることです。
学習教材を製作する出版社の計画には生徒達の言語的、技術的可能性が考慮されています。
現在では印刷形態の学習教材をDAISYフォーマットでCD-ROMの形態で表示できるような技術的可能性もあります。
それらの製作コストに関しては教育案製作者によって調査され、学校教育法の中で整備されなくてはなりません。
またこれらのサポートを申請するためには、教育案製作者と個々の生徒が協力して対応プログラムを考え、必要とされる学習教材と補助具を見極めることが重要です。

第二部

必要とされる調査
スウェーデンにおける15歳の若者達の読書能力
2001年12月、学校教育庁はPISA(Program for internatilnal Student Assessment)と呼ばれる国際的調査の結果を発表しました。
これは15歳児達に対して読解リテラシー(読解力)を中心分野とし、数学的リテラシー、科学的リテラシーをあわせた3分野を調査するものです。

読解力
PISA調査は、義務教育修了段階の15歳児の生徒が持っている知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかどうかを評価します。
学校において生徒達が要求される読書能力は、継続する文章とそうではない文章を区別すること、一般的な理解を身につけること、情報を検索すること、文章を解釈すること、内容や文章形態を熟慮すること等です。
この調査の出発点は、彼らが達するべき能力を1.情報検索、2.解釈、3.熟慮の3段階に分けることです。この3段階はそれぞれ5つのレベルに分けられます。個々の能力に応じて与えられる課題もそれぞれ5つのレベルに分けられます。例えばレベル1以下の生徒達は基本的な知識を表現することができずPISAが調査を行う前提となる、基本的知識と能力が欠けています。彼らは読書能力が欠如しているのではなく、効果的に知識を伸ばしていくために読書能力を用いることが困難なのです。
この段階評価に従うと、スウェーデンでは男子生徒のうち40.1%女子生徒のうち24.9%がレベル3に達していません。彼らは文書の一箇所、または複数の箇所を拾い上げて総論を導き出すことや、ある文章から得た情報を他の情報源から得た知識と結びつけることが困難です。

社会的背景
スウェーデンでは生徒達の到達しているレベルは学校間の格差はほとんどありませんが、各学校の生徒間の到達レベルには大きな格差があります。それは文章読解、数学、自然科学の3分野において見られます。到達度が最も高いのはスウェーデン語を母国語とする生徒、2番目がスウェーデン語とその他の言語両方を母国語とする生徒、最も低いのはスウェーデン語以外の言語を母国語としている者という結果が出ています。
また家庭にある図書の冊数が多いほど学校における成果は高く、読書に対する親の姿勢が子どもに大きく影響するという明らかなデータが出ています。

単語の意味の認識
単語の意味が自動的に認識できる能力は高いレベルにおける読書能力に書かせない要素です。この能力が未成熟であることは、読解力に対する重大な障害となります。もちろん語彙数の少なさ、(知識の受け入れに対する)受動的な姿勢など他にも多くの障害があるのですが。

読み書きの困難/ディスレクシア
1994年の教育計画では、『特別なサポートを必要とする生徒達』に関する項目が採択され、これらの生徒達が対応プログラムによってリハビリテーションを受けることが明言化されました。その後政府の公式報告書『胸をはって学校を卒業しよう』から『特別なサポートを必要とする生徒達』の中で、その文章に変更が加えられましたが。
『読み書きの困難/ディスレクシア』の名称は障害者団体FMLSによる教育計画案と共に導入されました。FMLSとはこの分野の研究者とこの問題に取り組む様々な業種の人々によって成り立つスウェーデンディスレクシア財団です。FMLS によってスウェーデンの対応策『将来への投資』が出版されています。
読み書きの困難を持つ/ディスレクシアの人々は程度の違いこそあれ、文章を読むことができます。しかし他者が彼らに要求する能力のレベルには到達していないのです。彼らは印刷形態の図書を読み、挿絵や表題を助けに文章を正しく判断することはできます。しかし多くの場合自分自身で文章を構成すること、他の図書からの引用をすることは困難です。しかしそれは情報検索に関していえば、大きな問題ではありません。ディスレクシアの人々の多くが、未成熟な読書能力を、質問をしたり論議をするような社会的能力で補うことによって自分の能力を発達させることができたと証言しています。
現在ディスレクシアの人々の多くが、視聴覚的なサポートを得ています。単に文章を聴くだけの場合もあれば、ある図書の文章を聴きながら同時に目で追うこともあります。この後半のサポートは教育現場で用いられており、『図書と録音テープ方式』と呼ばれています。利用者は自分に適した速度を選んで録音図書を聞きながら印刷された本の文章を目で追うのです。

録音図書による読書訓練の方法
1. 録音図書を最後まで、または第一章のみ通常の速度で聴く。
2. 普通よりもゆっくりとした速度、または非常に遅い速度で聴きながら本の文章を目で追ってみる。
3. 同じ文章を何度も読む。
4. 本を読み上げて自分のテープに吹き込む。
5. 教師と生徒とがその吹込みを一緒に聞き、生徒が読み間違えた個所を見なおし、理解のできていない言葉を学ぶ。
6. 同じ文章をもう一度吹き込んで最初の吹き込みと比較し、進歩した点について話し合う。

一部には2つの事柄を同時にはできない生徒もいます。視覚的に文章を追っていくか、耳で聴き取ることに全神経を集中させなければついていけないのです。
しかしこのような生徒も文章一つ一つを追うのではなく、例えばページや章だけを目でとらえることにすれば、その図書の構成を知ることができます。またその生徒も毎回同じ方法を取る必要はなく、その時によって方法を変えてみることができるのです。

出発点
 それでは適切な補助具が設計される為にはどのような手順が必要となるでしょう?

  • 文章のどのような点が読書に対する困難をもたらし、どのような点が容易にするのか、すでに知られている項目をピックアップすること。
  • 知識、学習教材、補助具、またこれらを用いる授業環境といった言葉を定義付けすること。
  • 機能障害を持つ人々にも文学が楽しめるように公共機関が行ってきた業績を調査すること。
  • 今日市場は何を提供しているのか、またどのような技術が完成されているのかを調査すること。
  • 上記の事項を調査し、結果をまとめること。

書き言葉
どんな授業においても、中核をなすのは書き言葉であり、様々な見地から書き言葉と話し言葉とは違いがあります。その違いに関する研究は進められていますが、研究対象となるのは多くの場合能力的に正常な人々です。

そこでFMLSは2000年に3年計画のプロジェクト、『スプロ‐カロス』を開始しました。それはこの問題に関してすでに得られている知識を取り上げて、広報していくプロジェクトであり、www.fmls.nuでそれを紹介しています。

『コンピューター媒体と印刷形態』
この名称を用いるにあたり、ウェブサイトを国際規格に合わせる必要性に迫られました。FMLSのウェブサイトでは、情報媒体が印刷形態からITベースに移行する際の、文書の役割変化に関する全情報を見ることができます。印刷された図書のサイズに合致するA4フォーマットという規格の視覚資料は、ディスプレイに収まらない為変化を余儀なくされました。目次はアイコンへと取って変えられるか、アイコンによって目次が補足されるようになりました。これを含めたその他の研究結果はスプローカロスのウェブサイトで見ることができます。
しかし印刷形態の文書を見る以上にディスプレイ上の文書を読む方が難しいという指摘も出ており、またインターネット利用をする上での取り扱いの煩雑さに、読み書きが困難な人々や集中能力障害を持つ人々が耐えられるかという問題もあります。これらの問題に関してはまだ研究が進められておりません。

補助
クリステル・ヤコブソン心理学博士は内的また外的補助の相互作用を強調しています。内的には自分の能力の前提条件を受け入れる”対処行動”療法を行い、外的には技術的補助具を利用するのです。ヤコブソン氏は言語療法士のフェーレル氏と、『補助具を利用するには、自分の必要と能力的前提条件に対する内的な認識が不可欠である』という点で見解が一致しています。ヤコブソン氏は自分と他の研究者の論文を引証し、訓練を受けることと補助具を利用することは相反することではなく、むしろ補助具によって自信を高めてより前向きな動機を持つようになると主張しています。そのこと自体が読み書きに対する、積極的な取り組みへの効果があるでしょう。
リチャード・オルソン教授は文章を正確に読み上げるといった音韻学的な完成に焦点をしぼった集中的な個人的訓練を受けることにより、ディスレクシアの人々の読書能力が飛躍的に高まると述べています。しかしこのような個人授業は経費がかさむため、それを必要とする人々へ提供できることはまれです。そこでオルソン教授はコンピューターをベースにした治療教育も選択肢の一つではないかと問いかけています。それが単語の意味の認識能力欠如に対して効果があり、音韻的な完成度を高めることは明らかです。

学習環境
知識
学校の最も重要な任務の一つは(生徒達に読み書きを教える傍らで)、知識を伝達することです。
知識を吸収できるのは人間だけです。機械にはそれはできません。しかしその知識を得るには『学習』が必要ですし、またどんな学習過程にも何かしら、それを邪魔する壁がひそんでいます。その壁を乗り越えられたとしても、常に興味や注意深さを保って失敗を避けていられるでしょうか?言い換えればより強い積極性を持ちつつ、達成感を常に保っていられるかどうか、ということなのです。
学校のIT化は生徒達に情報を入手する大きな可能性を与えました。しかしそれに伴い生徒達はディスプレイに現れる情報をキーボード操作によって保存する方法を学ぶ必要に迫られました。”生徒の自発的活動”を行う授業においては生徒達自身が情報を検索し、知識へと変換させなくてはなりません。その為授業に対して新たな要求がつきつけられ、生徒自身の読書能力に焦点が当てられるようになりました。たとえ知性的条件を備えていたとしても、効果的な読書能力や得た情報を様々な方法で吸収する能力なしには、生徒達が自分の知識を発展させる可能性は低いでしょう。炎は燃料がなければ衰えてしまうように、情報がなければ知識が身に付くことはあり得ないのです。

DAISY(アクセシブルな情報システム)
TPB(録音-点字図書館)は、点字図書と録音図書の製作及び通常図書館業務の傍ら、読字障害用の新しい情報媒体を熱心に研究開発してきました。90年代、TPBはこの研究において大きな成功を収めました。以前はカセットテープに吹き込まれていた録音図書が、いわゆるデイジーフォーマットと呼ばれる形態のCD-ROMで制作されるようになったのです。これは国際規格フォーマットであり、TPBの注文により株式会社ラビリンテン出版社で開発されました。現在はカセットによる録音図書制作は終了され、以前に作られた録音図書はデイジーフォーマットにダビングされています。
このCD-ROMを聴くには、入念に配慮された様々な検索機能等を備えた特別なデイジープレイヤーが必要です。このプレイヤーは特に視覚障害者や弱視者の利用を考慮に入れて製作されているため、読書が困難な晴眼者にとっては必要以上に重い物となってしまいました。この機器は高額な為、授業においてこれを利用できる読書困難な/ディスレクシアの生徒はほんのわずかでした。
もしデイジープレイヤーがなければ、これらのCD-ROMはコンピューターで再生して聴くことができます。再生にはプレイバック2000という読み上げプログラムが必要ですが、無料でTPBのウェブサイトからダウンロードできます。またその際にデイジープレイヤーについている多くの機能も入手できます。ディスプレイには目次と章の番号が浮かび上がるので、カセットプレイヤーよりも素早く的確に希望の箇所を呼び出すことができます。しかし文章そのものを検索して読み出すことはできません。それは録音図書製作の際に著作権法で制限されている為です。

新しい技術的可能性
90年代、読み書き困難な/ディスレクシアの生徒達のグループを対象とした技術開発の為に、使命を負った研究機関があります。それが補助具学会です。FMLS協会と緊密な協力関係にあるこの機関は様々なプロジェクトを支援し、この問題に関係する各団体の連携に一役かってきました。
補助具学会は90年代初頭に『コンピューターとディスレクシア』という雑誌を発行しました。その後FMLS協会の公的遺産基金による3カ年計画を援助することになりました。このプロジェクトの目的はコンピューターの普及によってディスレクシアの人々のビジネスライフはどのような影響を受けるのかを調査し、また協会内にIT利用に関する知識を広めることでした。アクセスに関する国際法規にのっとって協会のウェブサイトが立ち上げられました。このウェブサイトは、研究所内の検査とインタビューによるノーモス社の査定を受け、協会の中枢機能がコンピューター化されました。これは対象グループが必要に応じて他の方向に興味を向けた場合、知識を提供するのに大変役立ちました。

補助具学会とFMLS協会はデイジーフォーマットのさらなる可能性に気づきました。FMLSは株式会社ロセルヴォ社に協会規定に基づいたデイジー図書の製作をまかせ、文章も利用させました。製作に用いられた機材はラビリンテン社が開発したLP-studioです。ラビリンテン社はデイジー規格とLP-playerという名の読書機器(スクリーンリーダー)を設計した会社です。このLP-playerはplayback 2000よりも技術が進んでいますが、やはり第一に視覚障害者/弱視者の必要に合わせて製作されています。
読者及び聴き手は音声と文章と文章に従って移動する矢印を利用し、図書中の全ての単語を簡単に検索し、ブックマークを付け、文章または音声によって自分の望む書き込みができます。しかしこれらの機能には対象グループの必要から見れば明らかな欠落があることも否めません。

FMLSはメディアキューベン社と共にさらに進んだ製品を作りました。トレーニングCD『団体業務の中のIT』です。これはさし絵(写真)と映像も含まれている一種の学習資料です。文章と話し言葉による語りには、どう工夫をしようとも違いができます。ですから読解力問題は様々な登場人物が出てきて文章の内容を話すという映像を用いることによって解決されるだろうと考えられたのです。またこの読書機器は映像アイコンによって文章の読み上げを終了するように整備されています。つまり利用者が映像を見るのか、さらに文章を追っていくのかを選択できるのです。このように画面状況を選択できるような機能は、集中力欠損障害の治療にも効果があるかもしれません。利用者は自分から能動的に機器を操作しなければならないのですから。
 このような製品がコマーシャル市場に参入すれば、映像によって様々な現象や出来事を伝達するようなより能動的な、利用法もできるようになるでしょう。

作られつつある市場
本誌『未来の学習書』は製作と印刷経費に約110,000クローナかかります。音声、文章、さし絵を利用できるデイジーフォーマットのCD-ROMを前述の工程で制作すると、さらに20,000クローナかかります。全製品においてこのように経費がかさむと、膨大な金額になります。つまり経費問題が解決されて経済的条件が揃わないと、この方法で全ての学習教材を製作することはできないということになるのです。

デイジーは以前から図書フォーマットまたはCD-ROMフォーマットよりも取り上げられていました。これは現在すでにインターネット上で利用できる国際規格のフォーマットです。学習教材はいずれ様々な方法で配給されるようになり、目的に合わせて利用方法も変えることができるようになるでしょう。例えばデイジー図書を聴く為にあえてコンピューターを用いる必要はありません。デイジー専用プレイヤーがあるのですから。これは主にヴィクターが製作を担っており、価格は約8,000クローナです。しかし高額な為にデイジープレイヤーを利用できる、読書困難な/ディスレクシアの生徒はほんのわずかでした。現在ではフィリップス、サムスン、パナソニック、ソニーなど様々な会社がCDばかりでなくCD-ROM をも再生できるウォークマンを売り出しています。どれもMP3ファイルを再生することができます。これらは標準機器であり他のポケットサイズCDプレイヤーと同程度、2,000クローナ位の値段です。通常のCDを用いると10~11枚程度の枚数が必要となる図書一冊分も、デイジーフォーマットなら一枚に収まります。

このようなタイプのウォークマンはデイジープレイヤーに備えられているような多くの機能はありませんが、簡単な操作で章から章へ前後に移動できます。またブックマークもつけられます。2002年秋にはアメリカのテレックス社が同程度の価格でプレイヤーを発売します。この機器は従来のポータブルCDよりもわずかながら大きく厚さは2倍になりますが、ヴィクターの機器にある機能はほぼ備えており、利用者が選択した番号の頁へ移ることもできます。

このような機器が読み書きが困難なある生徒の前に、新しい世界を開きました。彼は音楽を聴くものと同じプレイヤーで宿題を聴くことができるのです。続いて同じ機器で図書を読み、さし絵やその他の視覚材料を用い、単語の説明を受けることもできます。ある部分を選択して自分のPCに情報を移すこともできます。
この例1つをとっても、学習教材はデイジーフォーマットで、国際規格に従って製作されるべきであるとお判りいただけるでしょう。
しかし粗末な文章が上記の方法で読み上げられたからといって、良い文章になるわけではありません。ですから学習教材は計画段階から読者の必要を考慮に入れて製作されなくてはならないのです。
またこのような読者層の必要性が反映されることにより、読書経験豊かな人々を対象とした文章も質が向上することになるのです。