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講演会「スウェーデンにおけるDAISYの認知・知的障害者への応用」

ハンス・ハンマランド氏講演

ハンス・ハンマランド氏の写真

 みなさん、こんばんは。本日は、皆様にお会いするため、東京にご招待いただきまして、大変光栄に思っております。今宵、私はいくつか画像を使いながら、皆さまにスウェーデン語、あるいは英語で講演したいと思っています。それは、皆様のためのみならず、自分が何を話したらいいかということを自分が思い出すためにこういった画像が必要なわけです。

私はスウェーデンのハンディキャップ・インスティテュートというところのテクノロジー・アクセシビリティの部門で仕事をしています。
このインスティテュートはストックホルムにあり、私はそこに住んでいます。私はこのインスティテュートでの仕事を大変楽しんでいます。ここでお見せする絵はスウェーデンのストックホルム、夏の朝の写真です。
さきほどお見せしたものはストックホルムの中でももっとも有名なものの一つの市庁舎です。あと数週間すると2人のノーベル賞受賞者が、この市庁舎でノーベル賞を受けることになります。

このインスティテュートは3つの組織で運営されています。それはスウェーデン政府、スウェーデンコミューン議会連合、スウェーデン地方自治体連合です。つまりこのインスティテュートは社会によってまかなわれています。

今まで話したのは、私のひとつの役割ですが、もうひとつは、スウェーデンのディスレクシア協会の副会長という役割をしております。

私はこの協会の中で12年間、特にIT関係の課題に責任をもって仕事をしてまいりましたが、詳しく話す前に、ディスレクシア、日本ではLDと呼ばれていますが、それは何かについて、話したいと思います。

私がここでお話するものは一般的な知的障害、視覚障害、聴覚障害というものではありません。また外国語を勉強する際の困難についてでもありません。失語症というような、後天的にあらわれるようなものでもありません。
まず最初にお話しするのは、知的障害ということではなく、読書する、本を読むという習慣をかいている、そういった人たちのことです。
もうひとつのグループは、いわゆるラーニング・ディスアビリティ、ディスレクシアとよばれる、書いてある言葉をシグナルとして読み込めない、そういったグループの方々です。

2番目に話した方々に関して、まず、核となる問題は、文字を読めない、判読できないこと、早く読めないということ、そして正確にスウェーデン語の場合はスペリングができないということです。
学校に入ると使われる教材は、すべて「読む」ということを基本にして作られています。
そうなりますと授業を聞いて書き取るということ、メモを取るということ、それを同時にすることは大変難しくなります。
ということは、読む頻度がますます少なくなり、むしろ読むことをさけようとする傾向があります。
そういったことが重なると、どんどん、自分は読めないという悪循環に入り、結果的には、学校で価値がない、出来ないという自分にとってネガティブな自画像を描くようになります。

ここで私は、自分について話します。
私は、他の子どもと同じように7歳の時に学校に行き始め、非常に期待していました。
けれど学校をはじめてから、3年たっても、十分に本が読めないことに、自分で気づきました。
どうしてそれが自分にできないのか、全く理解できませんでした。
両親も心配して、いくつか、検査を受けました。
その結果、スウェーデン語では「文字に対して目が見えない」という言い方をしますが、読み書きができないという部類にはいると判断されました。
そのときに、私の母は、医師にたいへんいいアドバイスを受けました。とにかく学校で出る宿題は、全部大きな声で読んであげなさい、と。母は教科書を全部読んでくれました。
というわけで、私が大学レベルの学位を取るまで母は私にとってのDAISYでした。
母は、本を読みながら、同時にどこを読んでいるか指さしてくれました。母は、ディスレクシアではありませんでしたが、母の二人の姉妹はこの困難を抱えていました。
私には2人の姉妹と1人の弟がいて、全員がディスレクシアであります。
私には子供がおりますが、やはり、子どもたちもおなじ障害があります。
私の1人の娘の息子、私にとっては孫ですが、5歳です。話し言葉を聞いていると少し遅れているように判断されるので、もしかすると彼もディスレクシアではないかと思います。
研究者の間では、ディスレクシアというのは遺伝的要素がたいへん高いと言われています。

私が検査を受けたのは、12歳のときでしたが、その後母が教科書を読んでくれたこともあり、突然、クラスのなかで、ある教科については、クラスで一番になれました。
もちろんそうなると私は自分でも出来るんだというたいへんな自信をもてるようになれました。けれども、今私は60歳ですが、普通の方々が必要な時間の2倍かけないと同じ量の読書ができません。
スペリングも、ずいぶん間違いがまだあります。
たとえば、数字をよく間違えますが、電話で間違えたときは「ごめんなさい」ですみますが、小切手に数字を書くときに0をたくさんつけすぎると大変な問題になります。
これが私どもディスレクシアの抱えている日常的な問題です。

また学校の話に戻りますが、他の生徒たちよりも2倍の時間がかかったので、本当に努力して勉強する必要がありました。
成人になってからは、時間がかかるので、読むものを選んで読む必要があります。そういう意味で、いまは専門書を読むことがほとんどになっています。
学校時代はほんとうに大変でしたが、自分でやり通したという、そういう意味での自分に対する自信・誇りはもっていました。

社会人となったのは、1958年でしたが、私の想像に反して、とてもうまく、今まできています。私はもともと、技術的なほうにたけているのだと思いますが、それに加えて組織する力もあったようです。言葉で話すという能力もあったと思います。
私の職業生活で困難にぶちあたったのは、実は、昇進したときに、部下がレポートを書いてくる、といったところから始まりました。
けれど幸いなことに、私のポジションは大変優秀なセクレタリーがいて自分で書かなくても優秀なセクレタリーが書いてくれるという幸運に恵まれました。
彼女が私の2番目のDAISYになってくれたわけです。

それが1985年にまた、事件がおこりました。優秀なセクレタリーが私から取り除かれ、そのかわり、自分の前にコンピューターがどんと置かれました。コンピューターは私のために読み上げてくれたりもしませんし、間違えて書いても、そのまましか書いてくれません。そのときに私は私たちのような読み書きに障害のある人間が使えるようなコンピューターのシステムはどうしたらよいかと、考え始めた起点になりました。

そこで私はスウェーデンのディスレクシア協会に連絡しました。
そして私はそのうちに大変アクティブなメンバーとなり、協会の中で私たちの将来をどのように切り開いていったらよいか、どのような援助を必要としているか議論しはじめました。

では、スウェーデンのディスレクシア協会の歴史を少しお話しします。
1979年にお互いに自分たちは読み書きの障害があるのではと、発見した何人かの成人学校の生徒が集まりました。そして、そういった小さな集まりがいろいろな地方にでき、いくつか支部ができました。1986年にはじめて助成金を得て、こういう読み書き障害者にいろいろな情報を提供するセンターができました。

このインフォメーションセンターの目的は、まずそういう困難をもっているお子さんたち、そしてそのご両親、そういう子供を学校で教える教師に、どのような支援をしたらいいかということに関して助言を与えるものです。
これもまた徐々に大きくなり、1999年にはスウェーデンの中でこの団体が、障害者の団体であると認められ、国からも助成金を受けられるようになりました。
スウェーデンでは国の助成金を得るためには、こういった団体は障害を実際にもつ方たちがそのメンバーの大多数をしめ、しかも理事会の中で半数以上が実際に障害を持つ人であるべきとなっています。
メンバーには自分自身ではそういう意見を発することができない方の親族の方たちもメンバーになります。

そして1990年には私ども、数人専門家が集まり、数週間をかけ、行動計画を練りました。それは私どもだけでなく、社会全体をふくみ、障害をもつお子さんが生まれて、学校に行って、社会に出て年を取るという全部を含んだ社会の中での行動計画でした。
そして1996年から97年にかけては全国的な大キャンペーンをはることになりました。そして、プレスに対するアピール、いろいろな会議、いろいろな演劇を使った情報活動も致しました。印刷されたものとしても、文字だけではなくポスターなどもたくさん作りました。

このキャンペーン中にスウェーデンでの作家、俳優、音楽家、他のいろいろな芸術家の方々で同じような問題を抱える大変有名な方々にお願いして、自分たちもこういう問題を抱えているということを社会にアピールしてもらいました。そしてこの中でスウェーデン人にもっとも知られている方は、スウェーデン国王でした。
もちろん王室の、しかも国王が、社会に対して自分もこういう障害があると話すことは大きな一歩でした。そして、最近では、国王のお子さま方の中にもそういう障害を持つ方がいらして、その方も社会に対してこういう問題があると宣言しました。
スウェーデンでは、ディスレクシアのある方の中には、自分の企業を立ち上げ、雇用主となるケースがあります。
どうも、企業のトップに立つということは、自分の障害をうまく生かしてそれを使うという、大きなチャンスがあるようです。
現在スウェーデンでは、80の支部に5千人の会員をかかえていますが、、ほんとうはこの
10倍はいると思います。
スウェーデン国内には、長期的には、もっと困難を抱えている人がいるので、こういった方々も会員になってくれることを望んでいます。
スウェーデンの生徒の中には、約4~8%が、こういった障害を抱えていると思われます。
では少し、技術面の話をしたいと思います。私はディスレクシア協会のなかで主にIT戦略というか、どのようにITを活用するかということに従事しています。
私どもは、協会のWebサイトを立ち上げ、これは、最も最近のスウェーデンのガイドラインに沿ってつくられました。その意味では、技術的にも科学的にもどこがいいか、どこがよくないか、明らかに評価してもらえるようなサイトになっています。
いま、押したスピーカーのアイコンを押すとホームページを読み上げるページにいきつきます。
もし時間があったら、実際にどう機能するかをお見せしたいと思います。
これは、ストリーミング・オーディオと呼ばれています。
このシステムは、私どもの協会のWebサイトにあるのではなく、外にあるものを私どものサイトに引っ張ってきて、それに音をつけています。
ここ1年、スウェーデンの自治体とか公的機関が、音をのせたものを採用するようになっています。
それはもちろんとてもいいことですが、私どもはまだ満足していません。
というのは、いろいろな公的機関の文書というのは、一般の人には難しすぎる。つまり、難しく書きすぎるという難点があります。
そこで私どもの協会は政府から助成金をもらい、こういった障害をもっている人が簡単に理解できる文章にするには、どうしたらいいか、研究しています。
けれど私たちが目指しているのは、いわゆる知的障害者でもわかるような、簡単な言葉にかえるという意味ではなく、「読む」のが簡単になるにはどうしたらいいかということです。

これはスウェーデン語では「……」といいますが、英語では、印刷された言葉に、どのように近づいていったらいいか、ということになります。
私どもは世界中の専門的な研究者の論文を集めて、どのようにしたら、知的な障害があるのではないが、読み書きに障害のある人間が、より簡単に読めるようになるかということを研究しました。
そのなかの私の役割は、知識をどのようにわかりやすくこういったウェブサイトに載せるかということです。どのように単語を組み合わせて読みやすくするかということです。
今まではスウェーデンではDAISYだけが入手可能でした。それは、音声だけのものです。
そこで私どもは、音声だけではなく、テキストもマーキングをして読みやすいようにと。音とテキスト、文字を同期(一緒にした)、そういったものがほしいと主張しました。
ここで私はそれがどういうふうになっているか、例をお見せします。
(パソコンから声がでています)
いまご覧になったのは読み上げている音声を、同時に黄色い色でマーキングしているものです。
いま見たものは書いたものを同時に見て、聞くということですが、私たちはそれ以上のものが欲しいと思いました。
いまご覧いただいたのは映像ですが、先ほどからテキストに出ていたものを読んで、音声が出て、見ることができましたが、これはただ読み上げるのではなく、語りかけるという映像です。
DAISYのスタンダードでは聞いてみることはできますが、こういったアニメーションというか動く画像はまだ入っていません。ですからそれを私たちは達成したいと思っています。
というわけで私たちがいま開発しようとしているのは、デジタル図書(電子図書)です。
それは一つのほんの中に画像、(動かない図)動いている画像、アニメーション、テキスト、というものを全部統合して一つのCDにまとめたものです。
いまお見せしたものはDAISYのフォーマットにのせたものですが、これにテキストと音と画像も入っています。こういったものを、将来ほしいと言いかけましたが、いま欲しいと思っています。

私たちがのぞんでいるのはテキストを読んで、聞くだけではなく、それに自分自身の印というかメモを書き込んだり、読んだところに、しおりをつけるようなブックマークもいれられるように。マーキングの色も変えて、文字の大きさも自在に変えられる、そういったものを作りたいと思っています。
実は前に座っている私の妻が、声が大きすぎるというようにシグナルを出していますが、私は熱が入ってくるとどうしても大きな声になってしまいますので、あらかじめ、申し訳ございませんと、申しておきたいと思います。

私は12年間、スウェーデン・ディスレクシア協会だけでなく、他の協会とともに、力を合わせて教材といいますか、いろいろな素材を開発してきましたが、それは、ただ単に音とか図を合わせるだけでなく社会の中で使うにあたり、オールマイティにどんな分野でも使える総合的なものを作り上げたいとずっと望んできました。
これは、未来の教材というタイトルをつけた小さな冊子ですが、私どもがどういったテキストを作ったらよいか、箇条書きにしてあげたものですが、皆さまのお手元にもこの日本語訳がわたっていると思います。

私どもは私どもの経験をスウェーデンの中だけで活用するだけでなく、国境をこえて他の国の方々にも共有していただきたいと望んでいます。
そしてちょうど今週はヨーロッパのディスレクシア協会が、ディスレクシアに関する啓蒙活動の週として活動しています。
各国のディスレクシア協会、メンバーの方々に、今週を政治家の方やプレスの方、メディアの方に対し、問題をアピ-ルするように働きかけています。
昨日、スウェーデンでは大きな記者発表がありました。その席で、今のいろいろな要求条項を書いた仕様書を正式発表しました。その場で要求したものは、政治家の方々、きれいな言葉で議論するだけではなく、「今、DAISYを実現させてください」ということです。
それは私の、自分自身の言葉で、乱暴な言葉かもしれませんが、もちろん要求書ではもっときれいな言葉で書かれているはずです。

現在では、技術的には、私どもの要求は十分に可能ですし、財政的にも実現可能なはずです。ですからDAISYのフォーマットにのっとった教材をどの学校にも配布できるように、私どもは要求していますし、それは十分に可能だと思います。

ヨーロッパでは、この週が毎年、「ディスレクシア週間」と決められています。
このヨーロッパの協会にはもちろん日本からでもどうぞメンバーになっていただきたいと思います。私が記憶しているところによると、ニュージーランドやオーストラリアもこの協会のメンバーです。

スウェーデンでは、政府からの助成金で私ども独自のDAISYのリーダーを開発することになっています。
私どもが目指しているDAISYのシステムでは、DAISY以外の外からのテキストも自由に選択して自動的に音声とテキスト、そしてハイライトができるように作り替えることが可能にしたいと思っています。
このリーダーができたら、学校の中では、どんなテキストでもすべてがリーダーにかけられるような、作り替えられ、障害者が読めないテキストがないように、要求をしています。
たとえば、先生がクラスの中で自分のコンピュータに何か書きこんだとしても、障害のある子供たちが自分のコンピューターに取り込んで、すぐに自動的にDAISYのフォーマットに書き換える、技術的にそうできるようにしたいと思います。

DAISYリーダーを考えると、次にくるのは、DAISYのプリンターです。
そして単語帳というか、プログラムの中に辞書が入っていたり、スペリングチェック機能、そういったものを含めていきたいと思います。
スウェーデンではすでに読み書き障害のあるひとのために、スペリングチェックプログラムが独自にできあがっています。
すでに存在するそのプログラムをDAISYの中でも活用できるようにしたいと思います。
それが実現すると、学校で勉強する生徒だけではなく、私のように成人になって社会にでているものにも活用できるものになると思います。

これからひとつ、デモンストレーションをします。
では、ひとつの文章を選択します。
これは、ある記者発表なんですが、「リードランナー」というプログラムですが、音声がなくて、どんどん読み込んでいくものです。それをDAISYに取り込みます。
これは、ひとつの例です。もちろんこれは、速さを変えたり色を変えたりが可能です。
人間の目というのはこういった流れの動きについていけるので、ごらんのように、自分の速さで、どこを読むか、流れに沿って見ていくことができます。
同じ速さだけでなく、自分のその時の状況に応じて、速めにしたりゆっくりにしたり、自分で早さをかえることができます。
ではまた、さっきのところに戻ってみます。

いま、スウェーデンで開発しつつあるのは、インターネットのためのDAISYです。
この出発点となったのは、DAISYのコンソーシアムからきた、音声図書です。
これは、スウェーデンのラビリンテンという会社が商業的な使用のためにつくったものです。
これは、オンラインリーダーで、普通のテキストを、普通のウェブサイトの中で読めるようにしています。
これは自分でもある道具を買って、自分で選んだテキストがインターネットで読めるということです。これを普通の一般的な市民の方々も実際にテキストにマーキングして読むというように、普及させようとしているものです。
今のプロジェクトではスウェーデンでは来年実現するように今進めています。
ストリーミングオーディオというものが今までありましたが、それはただ音だけでテキストはないものでした。
来週私はスウェーデンに帰ったらDAISYをストリーミング・オーディオに合体させて、なにかうまいものができないか、とそういう研究にかかります。
このプロジェクトではウェブを制作する人は、別に自分たちで何かをするんではなくDAISYのフォーマットにのっとったプログラムを買い取ってするということになると思います。

こういったプロジェクトを進めている間に、来年中に実現したいのは、インターネットに私どものような障害のある人がどういうふうにしたら、簡単にアクセスできるかということ、そういう議論を展開したいと思います。
私どもが一番大きい要求として抱えているものは社会にあるすべての公的なインフォメーションというのはDAISYのフォーマットにのっとり、誰にでも入手可能になる、そういった社会にするということです。技術的には可能ですから、ただ、実現に向け、動き出すだけだと私は考えています。
スウェーデンはヨーロッパの諸国の中のEU諸国の小さな一国です。そして数年のうちには25カ国が、EUに加盟することになっています。ということは、現在から考えるとEU内の人口も莫大に増えることになります。EUの国内に読み書き障害を抱える人が、数百万人もいるということになると思います。
そして昨年度EU諸国の中では、EUプランという、中身はディスレクシアに関する障害者プランですが、そういうプランができています。その目指すところはすべての公的資料は、いろいろな形の障害のある人、すべてに入手可能になるべきということです。そして私ども読み書き障害を抱えている協会でも、そういった要求の中に自分たちが含まれていることを強く確認していきたいと思います。

私は話し出すと止まらないほうで、話を限定させていただきます。その前にもう一枚だけ絵をお見せしたいと思います。それは、アイスホテルと呼ばれるもので北極圏の更に上にあり、ユッカスヤロビイという地方にあります。ホテルというものが備えているべきもの、すべてを備えていて、毎年9月に建て始められます。このホテルではもちろん氷のベッドに寝て、氷のバーでは氷のグラスで飲み物をいただきます。そして毎年5月にホテルは自然にとけてしまいます。そしてまた秋になったら建てるわけです。たくさんの日本人の方がこのホテルをすでに訪れているそうですので、皆さまもどうぞいらしてください。ということで私はここで終わりにさせていただきたいと思います。

(拍手)

河村/ありがとうございました。そして本日、流暢な通訳をしてくださったスウェーデン大使館の津金さん、ありがとうございました。
まだ時間が20分ほどあります。ご質問があると思います。
まずは質問を受けたいと思います。どうぞ、遠慮なく挙手を。

会場/川上正信と言います。横浜市の中央図書館につとめ、障害のある方の仕事をしています。
ほんとうに、聞いていて、日本は30年くらい遅れているという印象を受け、うらやましく、興味深い話で、ありがとうございました。

日本では、著作権法を勉強すると、著作権法そのものが著者の権利を守る法律で、障害者の情報アクセスの視点から見ると、今のお話だと、もし日本で講演された人の話のようにすばらしいDAISY図書をつくろうとすると、たとえば動画だと、映画の関係で著作権法にひっかかるし、わかりやすいテキストにする場合は、同一保持権というのが著作権法にあり、ともかく、いくつでも著作権法が、我が国では障害になっているが、障害者のアクセスする権利を広めていくために私たち日本人に、むけて、どういうような行動をおこせばいいのかアドバイスをいただきたい。そして、EU諸国を含め、誰でも利用できるDAISY図書をつくるために、著作権法というのは、まったく障害にならないのか、教えて下さい。
ハンス・ハンマルンド氏/いまの問題、よくわかります。EUのなかでもたいへん難しい問題ではあるのですが。一つには、作家あるいは出版社が、出版するときに、同時にいろいろな障害のある方にも入手可能なアクセシブルな形で出版するということ。それが重要だと思います。
そして、もう一つは社会が、作家、出版社に対して保障を必要としないような、入手可能な本をつくれるように声を上げることが必要だと思います。

もちろんスウェーデンでも、EUのなかでも、障害を持っている方にも適用できるような形の出版物を作るという、特別な権利を取得するということは、まだ難しい状況にあります。
私どもの協会や他の国の協会も一緒に政府に対して、障害のある人に入手可能になる出版物、あるいは入手可能な情報を、新しい法律を作るように働きかけています。
これは私の個人的な意見でもありますが、スウェーデンの協会としては、作家、出版社は、すでにそういった出版の出発点から、どんな方にも入手可能なものを作る、そういう責任を負っているべきだと考えています。
そして私は、これはむしろ人権の問題だと思います。社会のなかにある情報は、どんな障害があっても入手可能であるべき、ということで、人権の問題だと、私は考えています。
社会のどんな領域でも、図書の問題だけでなく、障害のある人が普通に、自由に生きられるようにする。そういう権利を主張するのは当然のことだと思っています。

スウェーデンでは来年大きなキャンペーンをします。それは、作家協会、出版社協会、新聞協会など、文字を使った職業のこういった団体にこういう権利を要求をしていきたいと思っています。
そしてこのキャンペーンをはるにあたって、どういう戦略をとればいいか、考え、いろいろな方々と話し合いをしていますが、今までのところ、かなり積極的なよい反応がかえってきています。
そしてとても重要なことはお互いのいろいろなセクターの方々が、一緒に話し合いをすることだと思います。作家協会、出版社協会の方々ともいろいろな議論を進めていて、いい反応がきています。

河村/ありがとうございました。もうひとかた、どうぞ。いまマイクがいきます。お待ちください。

/今日はどうもありがとうございました。僕は、特定非営利活動法人で、知的障害者の方々にパソコン講習会をおこなうことや東京理科大学で知的障害者が知的障害者が、インターネットを利用できる方法をサポートすることを研究しています。今回の話では、タイトルでは「スウェーデンにおけるDAISYの認知・知的障害者への応用」ということで、聞きましたが、特に本論の中では一般的な知的障害者を除外してお話されていましたが、知的障害者のかかえる障害の結果、つまりハンディキャップとして、読み書きが理解ができない部分に対しては適応できると思うのですが、知的障害者に関しては先ほどおっしゃられたように読みやすくするアプローチではなく、わかるようにする、というアプローチが必要だとおっしゃって、僕もそう思いますが、スウェーデンでは知的障害者を対象としたインターネットを用いたアプローチとして、どのようなことがされているのか、もしくは、技術的研究として、知的障害者のためにされているのか、教えていただければ、と思います。

河村/通訳をしている間に補則しますと、時間の都合で、残念ながら省いていたので、そのことを少しだけ補足します。

ハンス・ハマルンド氏/今ご指摘を受けたように今日は私は、特にLD障害の方を中心に話しましたが、技術的には知的障害者の方々にもテキストをわかりやすくした、簡単にした形でDAISYとして適応が十分可能と考えています。
そして、知的障害のある方々にはこういう今お見せしたテキストを、さらにもっと具体的にわかりやすくして提供する必要があると思います。

たとえばまったく文字を読めない人という人もいますから、その方には音声と画像を中心に素材を提供することがいいと思います。先ほどもお見せしたようにビデオ、アニメーション、動画を使うことはとても大事だと思います。そしてDAISYをもう少し拡大して、そういったことにも使えるようにすることがとても重要になると思います。

私どもにはひとつまたプロジェクトがありまして、携帯できるコンピューターを使い、たとえば自分のカレンダーを書き込む、スケジュールを書き込めたり、日々のメモをとるメモ帳があったり、自分の「お財布」という名前で、自分のもっているお金を自分で管理できるようなプログラムを備えているものです。

プロジェクターを使い説明するハンマランド氏の写真

これは知的障害者のための時計です。多くの知的障害者はふつうの腕時計では、時間がわからないということがあります。これは具体的に言うと金曜日の何時に、ダンスに出かけるか、ということがかかれているものです。上の曜日が書いてあるところは、今、黄色ですが、これはそれぞれの曜日によって色が違います。ですから、黄色を見ると金曜日だ、ということがわかります。
これでは見づらいんですが、この左側にあるディスプレイには8個の黒い点がかかれています。ひとつひとつの丸が15分を示しています。この場合は8個全部が黒くなっていますから、2時間です。あと2時間でダンスにいきましょう、ということを示しています。
そして一つだけ黒い丸があるということは、あと15分しかないということですから、いそいで洋服をきなくてはいけないということがわかります。そういう意味でこれを見るだけで、現実の生活を一目で見ることが出来るわけです。37歳のスウェーデン人の女性がいたとします。彼女はいつも、「お昼はいつだったっけ?」とか「休み時間はどのくらいだったかしら?」といつもいつも不安に思っている女性でした。お昼時間というのは楽しいですから、座って、周りの方々とおしゃべりしています。そのときに1個だけ黒い丸が残っているとボスが来て、「あと15分しかないから、そろそろ仕事の準備をしよう」と言います。けれども実際1個まるが残っているということは、あと15分あるということですから、「私にはあと15分あるのでもっとゆっくりしていきます」と自分から言えます。ということで彼女は時間の概念を得ることによって自分の人生も自分で制御することができるようになったわけです。

同じような機能が、こうしたコンピュータの中にも組み込まれています。
スピーカーのアイコンがありますが、押すといろいろなメッセージを聞くことが出来ます。
これは、DAISYがこういう小さいコンピュータに組み込まれています。
これは私から質問者にお答えできる、小さいお答えですが、2日くらい時間をいただければゆっくりお話できるんです。

河村/ありがとうございました。簡単に付け加えますと、実際にあるプロジェクトとしては、先ほどありました、DAISYのストリーミングをつかって、ニュースをわかりやすく、知的障害者向けのものを繰り返し流すという計画があります。それにハンスさんも関わっていると聞いています。
もともと私がハンスさんを共同研究者としておよびしようと思ったのは、DAISYを使って知的障害者のためにニュース番組をストリーミングでながそうという試みに関わっておられるということで最初にコンタクトしました。
そのなかでは、ニュースをゆっくり流せばわかりやすい、繰り返し、わかりにくいところを流すと分かる。
たとえば災害時に、いま避難しなくてはいけないか、どういうふうな災害が起こったか、それがニュースで流れたら、ということで使えるということで今回お招きしました。
間違いなく、その分野を相当深くやっておられますので、改めて機会を設けて、詳しくご紹介できればと思います。大変興味深く、いくらでも聞きたいですね。非常に残念ながら、ハンスさんは、ご自身の障害のために、論文をたくさん書くということをしません。ハンスさんの論文をインターネットで検索しても出てきません。今日は雄弁でわかりやすく、難しいこともていねいに説明してくださいましたが、それを論文にして発表することはなく、こうやって直接お話をうかがうのが一番なんです。そういう意味で今日は私ども貴重な体験をしました。
非常に正確な通訳を、技術的なことも含め、スウェーデン大使館の津金さんにしていただいたのですが、この会で感じたのは、いろんなところにいろんなアイデアがあり、あるいは、活動がある。それを合流するというのは本当に難しく、私、ずいぶんハンスさんとは同じ協会にいましたが、今日初めてきく話がいっぱいありました。その意味で、今日の時間は貴重な、ハンスさんの持っているものの一端を、わかりやすくご紹介頂きました。

日本は、どうしたらいいか、という問題がいつも最後にありますが、はっきりいって、そう捨てたものではない、と思いたいです。
というのは、一週間ほど前の文部科学省のLDを中心とした報告書、特別支援教育の今後のありかたについての報告書は、今までほとんどきちんと対応してこなかった、LD障害、ADHD、ディスレクシアについて、どのように学校教育の場で対応すべきか、示唆する大きなステップでした。これをどう生かすかは、これからの私たち次第だと思います。それから、DAISYに関しては、技術的には誇っていいことだと思いますが、スウェーデンより日本は一歩先をいっている。技術的にはです。残念ながら使い方が遅れています。さきほどスクリーンにあったPDA。あれはカシオの機械です。日本製です。それをうまく使って、知的障害者の日常の自立のためにつかっている。それがスウェーデンであります。

私たちは、自分たちが持っているものを生かして、どう使いこなすか、そのなかで世界の人と手をつないで障害の自立と完全参加を達成する。手元でできることがたくさんある。その意味で、今日を機会に、これから、先日、インガーさんにきていただいて、同じ会場でスウェーデンのDAISYはどうなっているという機会を持ちましたが、今日は違う角度からハンスさんからお話を聞きました。

これからも、いろんなチャンネルを通して、提携しながら、この日本で、完全参加のための情報アクセスについて、皆さんと一緒に模索したいので、今後ともよろしくお願いします。最後に本日の、ハンスさんご夫妻、わざわざスウェーデンからいらして、2週間も貴重な時間を私たちのために使って、ここと神戸で講演していただき、他にあちこちで一緒にやっていただきました。それから、本日の字幕、これは日本が世界に誇っていい字幕ですが、ずっとサポートしてくださったみなさん、それから、通訳の津金さん。これらの方々に盛大な拍手をお願いして、閉じさせていただきます。(拍手)

ありがとうございました。これをもちまして、閉会といたします。

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