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日英シンポジウム2002「日英協同で進める地域における障害者・高齢者支援」

Seminar on Japan/UK Collaboration for Reinvention of an Inclusive Community

第二部 意見交換

寺島彰
国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所障害福祉研究部長

意見交換風景、右からジョン・スモーリー氏、炭谷茂氏、フィリーダ・パービス氏、左高彰氏、寺島彰氏、河村宏氏


寺島です。どうぞよろしくお願いします。

 平成12年に日本では社会福祉法が成立しまして、わが国の福祉制度は児童および低所得者向けサービスの一部を除きまして、措置制度が利用制度にかわりました。措置制度といいますのは、行政機関が行政処分としてサービスを提供する方式です。それが、サービス利用者がサービスを自ら選択できる制度に変わりました。その結果、すでに介護保険で実施されていますように、民間介護企業が高齢者にホームヘルプサービスを提供するなどの、民間事業者による福祉サービスが提供されるようになりました。今後は、障害者の領域においても、民間事業者の参入が予定されています。どのような利用制度を選択していくのかということが、現在のテーマになっております。

 たとえば、一つの選択肢として、民間サービスを中心として福祉サービスが提供されている米国の制度があります。米国には、国民健康保険のような制度はなく、民間の健康保険で医療をカバーしています。そのために、高額な健康保険に加入できる裕福な階層の人は、病気になったときに高度な医療を長期にわたって受けることができますけれども、貧しい層は安い保険料しか払えないために、最低限の医療しか受けられない。たとえば、まだ盲腸の手術の後跡、傷口が閉じていなくても、自宅に帰ってくるというようなこともあるわけです。 さらに、まったく健康保険に加入していない人も4千万人以上いると言われておりまして、その人々は病気になったとき、自費で病院にかかることになります。若者の場合は、あまり病気にかからないから医療費は安いということになりますが、障害者や高齢者の場合は、とても自費で医療費は支払えませんので、メディケアとかメディケイドという、日本でいう生活保護の医療扶助のような制度を活用することになります。ただし、それらの制度を活用するためには、資産や所得が一定額以下でなければならないので、家屋敷など、資産を処分しなければなりません。これは米国の例です。

 一方、英国はかなり違っておりまして、先ほどターナー先生の話のなかに、英国には1995年に成立した障害者差別禁止法――DDAと呼んでいるんですけど――がありますが、あまり裁判沙汰にはなっていないというお話がありました。その英国の障害者差別禁止法が見本としましたアメリカの1990年に成立した障害者差別禁止法--ADAですが--では、この法律を根拠にした裁判が盛んに行われております。
 たとえば、若干資料は古いですが、1992年7月26日から1996年9月30日までの間に、ADAに基づき、雇用差別に対して雇用主が支払った和解金は、1億1,698万3,166ドルというふうに報告されております。このように、英国のシステムは、米国とは違っているわけです。
 ご存じのように、英国のブレア首相は、第三の道、サード・ウェイということをよく言います。これは、公的なシステムのみではなく、民間のシステムのみでもなく、公的なシステムの信頼性と民間のシステムの効率性の両方を備えた新しいシステムをつくっていこうとするものです。

 本日、スモーリー先生にご紹介いただいたCANは、その第三の道を実現するためのシステムの一つであると考えられます。ソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)は、基本的には民間人でありますが、民間のシステムだけでなく、知恵を集めて公的な制度も含めて、使えるものは何でも使っていくという方法論で、インクルーシブな社会の実現という目標を達成しようとしていると考えられます。
 我々は、今後福祉サービスを利用者にとって利用しやすいように、また役に立つものにするために、どのようにしなければならないかを考えていかなければなりません。その意味で、CANは、我々が学ぶべきシステムの一つであると考えます。
 今日は、そのお話をしていただき、ありがとうございました。今後も、さらに勉強を深めていきたいというふうに考えています。

以上です。どうもありがとうございました。

寺島彰氏プロフィール

国立身体障害者リハビリテーション研究所 障害福祉研究部長
Director, Department of the Study of Welfare for the People with Disabilities Research Institute, National Rehabilitation Center for the Disabled
昭和29年生まれ。早稲田大学社会科学研究科前期課程修了。専門は障害者政策。平成5年厚生省身体障害者福祉専門官。平成7年厚生省障害者福祉専門官。平成10年国立身体障害者リハビリテーションセンター国際協力専門官。平成10年国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所社会適応システム開発室長。平成14年から現職。著書:障害者福祉論(共著)中央法規2002年、改訂ガイドヘルパー養成研修テキスト重度視覚障害者研修課程(共著)中央法規2001年、その他。訳書:ケアラーズハンドブック(共著)南江堂1999年、[米国]社会保障における障害評価(共著)厚生科学研究2001年、[英国]就労不能給付認定医のためのハンドブック(共著)厚生科学研究2002年、その他。