音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

デジタル放送の技術と取り組み
「世界のデジタル放送とアクセス・サービスの現状」

NHK 放送文化研究所  主任研究員 中村 美子

 

NHK放送文化研究所の中村美子と申します。本日はこうしたすばらしい大会、セミナーにお招きいただきましてまことにありがとうございます。私はNHKの組織にあります放送文化研究所のメディア研究部で海外メディアの制度と動向の調査・研究をしております。

本日は2つのテーマについてお話ししたいと思っております。

まず前半では、世界のデジタル放送の最新動向についてお話しいたします。二番目に、視聴覚障害者の皆さんがテレビを楽しむために必要な字幕、手話、解説放送、これらを総称して「アクセスサービス」と言わせていただきますが、この現状についてドイツとイギリスの事例をご紹介したいと思います。

私どものグループの調査では、現在世界の地上デジタル放送が始まっている国は38カ国1地域に上ります。その内訳は地域別に見ますと、南北アメリカは4カ国、アジア・大洋州8カ国1地域、ヨーロッパ・中東25カ国、アフリカは1カ国です。また、アナログ放送をすでに終了している国もあります。それはドイツ、スウェーデン、フィンランド、オランダ、スイス、ルクセンブルク、アンドラの7カ国と把握しております。

これは、3億人もこえるようなアメリカからスウェーデンのように1千万人を下回る小規模な国々についてデジタル放送の開始、アナログ放送の終了、現在一番わかっているデータでデジタルテレビの普及率を一覧表にいたしました。ご覧のように、ドイツを除いてアナログ放送を終了できました国の特徴は非常に人口が少ないということ。そしてケーブルテレビがテレビを受信するための主要なプラットフォームになっているという特徴があります。

幾つか先進各国のデジタル状況についてご説明しますと、既に終了しましたドイツは、地上デジタル放送を直接受信している方々は、全世帯の6%という非常に少ない割合であったことが、アナログ放送終了の助けとなっています。ただ、ケーブルデジタルに関しましては、最大のプラットフォームのケーブルテレビ事業者がデジタルサービスに転換しているのは全体で 21%というほどで、あまり進んではいません。

また、世界で最初に地上デジタル放送を始めたイギリスは、全国を14の地域に分け、順次アナログ放送を終了するという政策がとられています。最初に指定されましたイングランド北部、スコットランドと領域が重なっているボーダー地域で今年初めて6月に完全移行いたします。

フランスは実は先進国では最も地上デジタル放送の開始が遅い国でしたが、開始から3年で、全世帯の58%に普及しているという状況です。

ここで一つ皆さんにお話ししておきたいのは、ヨーロッパでは地上デジタル放送はすべての国で多チャンネルサービスが行われていることです。日本の場合はハイビジョンを主流としますが、こうした国は、アメリカ、韓国、オーストラリアという少数な国です。デジタル放送は周波数で伝送可能な情報量をどのように分散して利用するのかによってサービスのありかたが異なります。日本は高画質を選択しましたので、ハイビジョンが1チャンネル放送されるということになりますが、他の国々では、その周波数帯を分割して標準画質で多チャンネルを行っています。例えばフランスの場合ですと、全国ネットワークによって無料・有料の21のチャンネルが地上放送でもデジタルで行われています。また、フランスの特徴としましては、実は開始当初から、ハイビジョン、いわゆるHDTV放送も行っています。ただしこれには圧縮技術を向上させた違う受信機が必要となります。また、ローカルテレビが各地域ごとに、1チャンネルずつ開始しているというのもフランスならではの特徴です。

また、イタリアにつきましては2003年12月に地上デジタル放送を開始しました。これは日本と全く同じ時期だと言えます。アナログ放送終了時期につきましては、これまで2回の延期を行い、今のところ2012年末に完全移行することになっています。こうしたイタリアでも、デジタルテレビは53.6%に普及しています。

今日のテーマにありますように、2011年7月に日本はアナログ放送を完全終了いたします。しかし、それまでには幾つかのハードルがあると思い、今日はその点について3つの項目でお話ししようと思います。まず、どのように終了作業を行っていくことがよいのか。また、どういう協力体制でアナログ放送を終了できるのか。そして最後に3点目ですが、受信者の皆さんに直接的な支援はどうあるべきかという3点です。

まず、どのように終了作業をするかということについてですが、これには全国一斉にシャットダウンする。日本はそういうことを現在考えています。また、地域ごとに順次シャットダウンするロールアウト型と言われるものもあります。これはドイツ、スウェーデン、イギリス、多くの国がそうした方法をとっています。その利点はどこにあるのかと言いますと、やはりなかなか難しい、シャットダウン中に起こってくる問題を、一つひとつ地域ごとに検証しながら、そこから学んだことを次の地域の終了に生かせるメリットがあると考えられます。

二点目のコーディネーションのあり方ですけれども、これにはどの国でもアナログ放送の終了計画、終了時期が決まると、政府からの意向を受けて、放送事業者、送信事業者、あるいは通信事業者が中核となった非営利団体が設立されています。日本でいえばDpaというところが該当すると思います。イギリスにおいてはBBCと民放が作ったデジタルUK、イタリアでは地上デジタル放送推進協議会というもの、フィンランドではTV2007グループ、フランスではフランステレニューメリックなどといった団体が作られています。それらが中核となりながらも、楕円で示しましたように、受信者側に関連する団体が、いかにして協力関係をとりながらアナログ放送をうまく終了していくかが重要です。

そこで、既に終了したフィンランドの経験、そして次に終了を予定していますイギリスのボーダー地域での経験から、次のようなことが導き出されています。

一つは、早期に地方自治体の参画を促すことです。これは日本でいう県単位という大きなものではなくて、もう少し小さな、東京なら23区、あるいは市といった行政と連絡を密にしながらアナログ放送終了の作業を進めるというものです。

また、障害者や福祉団体の方は、どこにどのような人がいらっしゃるのか、困っている方がどこにいらっしゃるのかをよくご存じですので、こういう方々との情報の共有を行うことはとても重要です。

また、家電販売店の強力なサポートというのも当然のことと言えます。

そして、一番大事なことは、受信者の皆さんにフェース・トゥ・フェースでデジタル受信をする方法について指導をする、あるいはアドバイスをするということです。例えば、これから設置されるような日本でも受信支援センターというのでしょうか、そうしたところにいらっしゃるお客様との個別の相談、そしてもう一方では自宅に出向いて、一人ひとりの方にアナログ放送からデジタル受信機設置へと直接的にサポートするのが重要だと考えられます。

また、ボランティア団体の参加ということも考えなくてはなりません。例えばフィンランドでは、ロータリークラブの会員の皆さんがデジタルテレビ設置の研修を受けた上で、全国で個別に訪問し、設置のサービスを行ったということもありましたし、あるいはルーテル教会の牧師さんがコールセンターで電話相談の役割を担ったという報告も受けております。

三つめの、受信者の皆さんに対するアナログ放送支援策。これについては、いろいろなタイプがあると思います。国、支援対象、そして受信機、支援費用について一覧表にまとめてみました。

アメリカの場合は、支援対象は条件がない、誰でも希望者には支援をいたしますということで、地上デジタル受信機の購入のために40ドル相当のクーポンを2枚、申請した方に配るという方法がとられています。ここで一覧表にしております地上デジタル受信機というのは、デジタルチューナーが内蔵されているものではなくて、外付けのセットトップボックス、あるいはチューナー、あるいはコンバーターといわれるものが対象です。

ヨーロッパに目を向けますと、イギリスが最も明確な受信支援策が決まっています。イギリスの場合はデジタルテレビというものが、運動能力が低下して在宅を余儀なくされている人々にとって、社会と個人をつなげる重要な装置である、あるいは生活の質の向上に寄与するものであるという考え方に基づきまして、75歳以上の高齢者、あるいは認定された障害者の方々を対象に支援を行っています。受信機に関しても、支援対象者の方は地上テレビがいいのか、ケーブルテレビがいいのか、あるいは衛星を受けたいのか、それは受信者の方が選択することができます。ただし、こうしたサービスには世帯ごとに40ポンド支払う必要がありまして、もしそれ以上かかるものを選択した場合には自己負担となります。なお地上デジタル放送のチューナーの値段は現在 25ポンド程度に低下しています。

イタリアについては、支援策がこれまで紆余曲折をたどっています。実は2004年に初めて支援策を行ったときは、誰でも1台買うのに 150ユーロの支援を行っていましたが、昨年、政府が発表した支援策によりますと、アナログ放送終了地域の地方自治体が支援を行うということになっています。そしてその条件は、公共放送 RAI(ライ)の運営財源である受信料を支払っていること。これまでこうした支援を受けたことがないということが条件になっています。また、地方自治体によっては高齢者あるいは障害者といった方たちに限定して行うやり方がとられています。例えば、既にアナログ放送を終了したサルデーニャ州では全住民を対象としたサービスを行っています。また、今年 11月にアナログ放送を終了する予定のローマでは、自治体は全住民の 10%に当たる社会的、経済的支援の必要な人々に対して、デジタル受信機を無料配付するということが発表されています。

フランスについてはまだ支援策は明確に決定していません。 2007年の段階で発表されたものでは、受信料免除世帯に対しての支援基金の設立を行うということがうたわれていましたが、昨年10月に発表されました政府行動計画によりますと、高齢者、障害者、あるいは何らかの弱者へ支援の拡大を行う必要があるとうたわれています。

こうしたそれぞれの国の取り組みを見てみますと、まず一つ言えることは、アナログ放送が終了される時期をさかのぼって3年前から、アナログ放送終了に対する計画が明確にされなくてはならないということ。そして、もう一つ政府がどのようにデジタル受信機購入支援を行うかについても決定しておく必要があります。

この二つがそろってアナログ放送終了のプログラムが開始できるというふうに読み取ることができます。

また、先ほど三つの項目で検討しましたが、アナログ放送終了にはロールアウト型、地域ごとに順次終了することにメリットがあります。もしそれがとれない場合でも、いつかのパイロット地区を選定して実験を重ねることが不可欠ではないでしょうか。

そしてとても大事なことですが、地方自治体が非営利団体との、例えばここに参加なさっている方々との緊密な連携によってフェース・トゥ・フェースの指導をすることも大切だと思います。

さらにもう一言加えさせていただければ、経済的に困窮している方に手を差し伸べるという考えももちろん必要ですけれど、デジタルテレビがすべての人にとって、先ほども申し上げましたが社会と個人をつなぐ重要な装置であるならば、そうしたサービスへのアクセスを完全に保障するという理念をもって、障害者、高齢者、社会的弱者の皆さんへの配慮が非常に求められるのではないかと思います。

それでは次にアクセスサービス、障害者の皆さんにとってテレビを見る助けとなる字幕、手話、解説サービスについて、ドイツとイギリスの事例からお話ししたいと思います。

今、ご覧のようにヨーロッパではすべての人がデジタルテレビを利用するようにするために高齢者や障害者の方々へ手厚いケアが行われています。

また、放送のデジタル化はアクセスサービスを拡充する技術的な進化でもあります。

その一つとして聴覚障害者の方々にとっての字幕放送はそれに当たると思います。これまでアナログ放送時代にテレビ電波の隙間を使ってテレビ番組と別個に放送する文字のデータ放送というようなものでしたが、デジタルでは、電波の隙間を使うのではなく、放送局側が文字や番組をまとめてデータで送り、受け取ったテレビ受信機が情報を映像化、あるいは文字化するという、パソコンのような状態に今やテレビが変化しているということです。ですからそうした情報さえできれば、受信機での再合成というのは非常に容易なことになっていると思います。

また、デジタル受信機には字幕、あるいは解説というのが標準搭載されているということも非常に進化したことだと思います。私も便利なものと思い自宅で試してみました。ただ、なかなか操作性の中で、障害者の方々にはまだ問題があるように聞いております。

では、ヨーロッパにおいてアクセスサービスが促進される背景についてですが、まず、アナログ放送の時代から文字放送が非常に普及していたということが挙げられます。例えばイギリスの場合、家庭の中で文字放送受信機を保有していた率は 2000年までに全世帯の 80%となり、ビデオ録画機の所有と肩を並べるくらい普及していました。またドイツの場合は文字放送受信機能のテレビが 95.7%普及しています。

またこうしたインフラだけでなく、このセミナーの冒頭に紹介がありましたけれども、障害者差別禁止法や条約によって、国際的なレベルでアクセスサービスを保障するという動きが出ています。またヨーロッパでは欧州連合のレベルで 2007年11月に採択された、視聴覚メディアサービス指令という条文があるのですが、この第3条C項に、加盟国は適切な手段を用いてその管轄下にあるメディアサービス提供者に対して、視覚障害者または聴覚障害者にとってアクセス可能にするものにするよう奨励すると規定されています。

このように、幾重もの法律によってアクセスサービスの拡充が放送事業者、あるいは放送だけでなく今やインターネットを使った様々なメディアに対しても義務づけられているわけです。

とは言うものの、国によってその具体的な対応は異なります。今日取り上げます二つの国でいえば、ドイツは非常にサービスが低い現状。イギリスは非常にサービスが手厚いという特徴があります。

まず、ドイツのアクセスサービスを紹介しますが、その前に、ドイツの放送事情について少しお話ししておきたいと思います。

ドイツは、公共放送の独占放送が長い間、続きました。 ARD、ZDFという二つの公共放送が行われています。また利用できる地上放送の周波数がアナログ時代に少なかったために、商業テレビはケーブルテレビで発達してきました。そして完全デジタル移行したドイツにおいては、地上、ケーブル、衛星の各プラットフォームで多チャンネルが行われています。またドイツの大きな特徴は、表現の自由が憲法で保障されていることです。なぜ表現の自由、あるいは放送の編集の自由といったものが非常に強く守られているかを一言で言えば、ドイツはナチの時代に、ラジオ放送がプロタガンダとして大いに利用されたという苦い経験によっています。したがって放送サービスも、組織的には全国一律の組織を作るのではなく、各州ごとに公共放送が設立されその連合体としてARDという公共放送が設立されています。

アクセスサービスを何パーセント義務づけるかというのは、放送編集の自由に関わることであるということで、実のところそうした義務づけはされていません。ドイツの場合、聴覚障害の方々は 1,300万人。字幕あるいは手話サービスがなければテレビ放送を享受できない方は、その中の30万人と言われています。また全盲の方は 15万5,000人で、合わせて視覚障害者と言われている方々は65 万人に上ります。しかし先ほど言いましたような理由により、具体的な数値目標を定める法的な規定がありません。そういう意味で、公共放送の場合、他の諸国に比べると、アクセスサービスについては発展途上国と言えます。

公共放送で一番大きな ARDは、ご覧のような自主目標を定めています。プライムタイムの全ドラマ番組の字幕に、パワーポイントにあるような目標を定めています。

字幕放送だけをとってみますと、これは2007年8月20日~ 27日の1週間の結果です。横軸が放送局、縦軸は何パーセント達成しているかの数値です。右側のピンクの棒は、再放送を含めた割合です。これを見ますと ARDの場合、再放送を含めても3割以下という状態で、実に全ドイツの中で平均 10.2%しか字幕放送が達成されていないという状況です。また、手話番組については、 Phoenixというチャンネルがありますが、これはドイツの公共放送のARDとZDFが共同で作っているドキュメンタリー・報道チャンネルで、ここで一部、手話サービスが行われています。またドイツの州放送の一つであるバイエルン放送協会は、「聞くより見る」という番組で、完全手話による番組、いわゆる聴覚障害の方々の専門番組を30年にわたって放送しているという実績があります。

次に、イギリスのアクセスサービスに移らせていただきます。イギリスの放送事情についてここで少しお話しさせていただきます。イギリスでは、先ほどのドイツと違い、全国放送を単一組織で行っています。 NHKと同様なもので、BBCという皆さんも耳にしたことのある放送局で行っています。 BBCはラジオ、テレビ、インターネットを使ったオンラインという総合サービスを行っていまして、現在、デジタル化で8チャンネルという多様なチャンネルを行っています。また、これもドイツと異なるのですが、 1955年というヨーロッパでは非常に早い時期に、地上テレビ放送に広告放送を財源とする民放局を誕生させました。その第一号が ITVというもので、次に 1982年にチャンネル4、そして 97年にファイブという新しいチャンネルができ、こうした BBCと商業チャンネルの二元体制がとられています。これも、日本と非常によく似た放送システムですが、大きく違うのは、これらのチャンネルをすべて、公共サービステレビと呼び、広告が財源であろうと受信料が財源であろうと、その内容について厳しい規制がかけられてきたという歴史があります。

現在、デジタル時代に、このように地上では 40チャンネルと多チャンネルサービスが行われています。また、 BBCのチャンネルについては詳しく話しておきたいと思いますが、1と2は、アナログ放送時代から放送していましたメインのチャンネルで、総合編成で行われています。 BBC3以下は、デジタル化によって新たに加わったチャンネルで、若者向け、知的、文化芸術、子ども向け、 24時間ニュースチャンネル、議会中継、そしてスコットランド地域のゲール語を保存のための専門チャンネルも行っています。なお、議会中継とゲール語専門のチャンネルについてはアクセスサービスの義務づけは現在行われていません。

また、こうしたアクセスサービスの制度的な保障を歴史的に見てみますと次のようになります。もともと字幕放送が可能な文字放送は 1970年代から、実験・開発を重ねてきていますが、文字放送の一部として字幕放送サービスを定期的に始めましたのは 1980年のことです。これはまだ自主的なサービスでしたが、 1990年に発効された放送法で、初めて字幕放送についての量的な義務づけが行われました。また次の 1996年の放送法、これは地上デジタル放送を開始するために作られた法律ですが、この中で初めて字幕だけではなく解説と手話を合わせた視聴覚障害者向けサービスの提供が明確にされ、ご覧のような義務づけが行われています。

また次に、日本でも今、放送・通信融合放送体系について議論が進んでいますが、イギリスの場合、 2003年に放送通信法という法律ができました。この法律によって、これまでのアクセスサービスにつきまして、ケーブルテレビや衛星放送チャンネルにも義務づけが拡大しました。障害者の皆さんの中にも、有料放送に加入して映画、スポーツ、好きなチャンネルを見たいと思う方がたくさんいると思います。こうしたサービスにもアクセスサービスの義務づけができたということは、非常に大きな前進だったのではないかと思います。

ではそのアクセスサービスの現状について表を作ってみました。

イギリスでは、放送と通信分野を規制・監督するOFCOMという機関があります。ここがアクセスサービスの遵守コード、量的な目標の設定、そして四半期ごとのレビューを行います。これはOFCOMが発表しました2008年末の現在の表です。対象となっているBBCのチャンネルについてですが、ご覧のようにほぼ対象チャンネルについて字幕は2008年末の段階で達成しています。また、解説放送については 10%という目標についてかなり上回っているのではないでしょうか。ただ残念なことに、手話はなかなか進んではいません。

一方、アナログ放送時代から放送していました、先ほど言いました公共サービステレビと言われている地上商業チャンネルについて、ご覧のような目標が定められ達成しています。 BBCに比べ低く設定されていますが、これはやはり広告を財源としている放送事業者に対してコストのかかるアクセスサービスの制作をどこまでできるかを考慮しながら設定した結果だと思います。

また、その他の商業チャンネルも目標も設定されています。先ほど言いましたように2003年の放送通信法によって衛星やケーブルというチャンネルにも拡大しています。これはレベルを1、2、3と分けていますけれども、全チャンネルの中で0.05%の視聴シェアをとる専門チャンネルに対しては程度によってレベルづけが行われているということです。レベル1に該当しているのは地上商業事業者が多チャンネル化しているもの。例えば老舗のITVはITV2やITV3、あるいは子どもチャンネルといった多チャンネルを行っていますが、こういったチャンネルがレベル1に該当します。また、衛星ケーブルの映画やスポーツ、子ども、音楽等の専門チャンネルもレベル1に当てはめられています。

こうして見ますとイギリスにおけるアクセスサービスは、程度の差はあれ、82のチャンネルで行われているということ、BBCはすでに字幕を100%達成しているということ、そして手話についてはなかなか進まないのですが、小規模な60以上のチャンネルが一緒になって英国手話放送基金というものを設立し、コミュニティチャンネルに対して週3日、手話番組の放送の制作委託を行うという動きも最近出てきています。

それでは、イギリス手話番組について、今日は DVDを持ってきておりますので、再生してもらいますが、その前に2つ説明しておきます。先ほどのドイツと同じパターンなんですが、一つは聴覚障害者の方々のサポートということで人気ドラマが中心となって再放送時に手話が画面上に出てくるという番組です。もう一つは、完全に聴覚障害者の方々の番組で、全編手話の番組が一つあります。「See Hear」という名前の番組は、BBC2の水曜日午後1時から放送される30分番組で27年の歴史があります。今日はご覧になるとちょっとびっくりするかもしれませんが、聴覚障害者の男性 3人がガールフレンドを獲得する方法といった内容のものです。ただしそういうものばかりでなく、もちろん、障害によって被害に遭ったことなど社会問題を取り上げる特集もあります。それではDVD再生、お願いいたします。

 

【DVD再生】

 

これは「Neighbors」という連続ドラマで、そこそこ人気のある番組です。オーストラリアが制作してイギリスで放送されているものです。

 

【DVD再生】

 

次が「See Hear」というBBCの番組です。

 

【DVD再生】

 

これ、バレンタイン特集だったのでデートに成功する方法というのを指導するというリアリティーショー的な番組だったと思います。

私の話が大分長くなりすぎていますので駆け足でまとめさせていただきたいと思います。イギリスでなぜこうしたアクセスサービスが拡充されるのかという背景を考えてみますと、まず放送電波は希少であるということと、放送は活字メディアよりも大きな社会的影響力を持つため、放送には何らかの規制が必要であるという考えがあります。また全国どこにいっても貧富の差がなく放送を利用できるようにする放送のユニバーサリティという原理もラジオの時代から続いています。このように放送は公共サービスとして提供されねばならないという理念が確立しているのが、イギリスあるいはヨーロッパの特徴です。

公共サービスとは、市場に委ねてしまうと実現できないサービスのことであり、あるいは市民の側が利用の権利を主張することができるサービスでもあります。このようにイギリスのアクセスサービスの拡充する背景には、こうした理念が確立しているということが一つあります。このため、受信料で運営されるBBCはもちろん、電波を割り当てられた広告を財源とする地上デジタルテレビにも内容規制あるいは義務づけが行われ、アクセスサービスを拡充する量的規制に対する抵抗も、他の国に比べて非常に低いと考えられます。また、英語という強さもイギリスの場合、見逃せません。世界の共通言語である地位を得ている英語は、国内だけでなく海外でも字幕制作を委託することができ、経費を削減し効率的な制作が行えるということがあります。また、今日午後にテレビ報告をなさる RNIBのような団体が障害者の権利を主張し、放送のデジタル化に際し、あるいはアクセスサービスの拡充に対し、政策決定者への影響力を発揮しているということもあると思います。

最後になりますが、まず今日私は、前半で世界のデジタル放送が始まっている国がいかにアナログ放送を放送するかということをお話ししましたが、これにはまずアクセスサービスを行うためにはまずはデジタル放送をすべての方に受信してもらうインフラをきちっと整備するための活動が必要ではないかと思っております。

また、ここ数年世界各国で、特に公共放送を中心としてですが、インターネットを利用したビデオ・オン・デマンドという、いわゆる放送後7日間キャッチアップサービスというものも行っています。NHKは昨年12月から「NHKオンデマンド」というサービスを始めましたが、このほかイギリスではBBCの「iPlayer」、あるいはドイツは「メディアテーク」などの名前で、パソコンから好きなときに好きな番組を引き出してみるというサービスが行われています。こうしたサービスにも、障害者が同じように受けられるような技術的な支援はどれだけあるのかということについて、まだ私は検証していませんが、恐らくまだまだ開発すべきことがたくさんあるのではないかと思います。

以上のように、字幕放送、文字放送、こうしたアクセスサービスは常に技術の進歩、開発によって支えられています。今後も技術開発にさらなる期待を持って、皆さんすべてがデジタルテレビあるいはインターネットのサービスを利用できるようにしてほしいと願っています。以上で私のお話を終わります。ご清聴ありがとうございました。