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デジタル放送の技術と取り組み 指定発言(大阪会場)

(特)CS障害者放送統一機構 理事長 高田 英一

(特)全国視覚障害者情報提供施設協会 理事長 岩井 和彦

 

高田●今、紹介をいただきました高田です。今日は大阪で画面を見ていますが、さすがにデジタルテレビで美しく大きくはっきり見えます。こういうテレビを家で見られたらいいなと思いました。これは東京と大阪会場でやりとりというやり方で開かれていますが、今でも各家庭でテレビでいろいろ勉強ができるわけです。このような放送が技術的にできるということを証明していると思います。私は「目で聴くテレビ」を担当しておりますけれども、我々にとって技術的な障害というのはあまり感じないのです。問題となる一つ目は、法律、制度の壁です。法律、制度、これを改正することができれば、もっと我々の放送範囲は広がります。

二つ目は資金の問題です。さきほどイギリスから報告がありましたように、イギリスではテレビは公共放送という考え方が定着しています。これを日本に当てはめれば、私たちの「目で聴くテレビ」も公的な性格を持ち、公的な助成金を受けて運営できる。こういった問題が解決できれば、恐らく我々聴覚障害者の放送に関わる問題は解決できるだろうと思っています。

もう少し法制度の問題を具体的に言いますと、著作権法です。

一般のテレビ放送の全てに「字幕と手話」付加して放送するということは無理です。特に日本映画の DVDなどに字幕のないものは多いのですね。ですから我々が「字幕と手話」を付加したその DVDを「目で聴くテレビ」で放送すれば、聴覚障害者も「字幕と手話」を付加したテレビを自宅で見ることができるわけです。でもそういうことは法律、制度に阻まれて禁止されています。そういう問題があるわけです。

我々の目標としては二つあります。一つは、すべてのテレビ番組に「字幕と手話」を付加することです。もう一つは、「目で聴くテレビ」で障害者全体を対象とした放送を行うことです。この二つが基本的な目標です。

一番目の問題については、一般のテレビ放送の手話付加は今、5%もありません。実際はもっと少ないと思います。一般テレビ放送ではなかなか実現しない問題があるので当面は、「目で聴くテレビ」を補完放送として認められる方向に力を注ぎたいと思っています。

それとは別に「目で聴くテレビ」には、補完放送と同時に、また別の機能があります。一つは緊急災害放送です。緊急災害放送というのは、例えば地震、震災などは、いつ起こるかわかりません。起こったとき、即座に字幕・手話をつけるという仕組みは、どのテレビ局にもありません。ですから「目で聴くテレビ」はその役割を担っているわけです。

もう一つは障害者の問題を障害者が放送する。障害者という特定の層を対象にした放送です。私たちは耳が聞こえない、また目が見えない人、ほかにもいろいろな障害を持った人に対して必要な情報を提供したいと思います。そういった障害者を特定の対象としたテレビ放送はありません。それは「目で聴くテレビ」がやるべきだと考えています。

もう一つは、ローカル放送についての問題です。「字幕と手話」付加は NHKやキー局に今、限定されています。ローカル局になると「字幕と手話」付加はありません。資金がない、設備がない、手話通訳者がいないということでできないことになっています。でも、地方に住む人間にとってやはりローカル局の充実、ローカル局の放送もきちんと見られるようにする必要があるかと思います。そういったところ、一般のテレビ放送ではどうしてもできない放送を、我々障害者自身がやりたいと思っています。また、実際にやっているわけです。今のところ聴覚障害者が対象になっていますけれども、これは将来、障害者全体に広げていきたいと思っています。

障害者を対象とした放送はなかなか広がらない。これはどうしてかと言いますと、一つには障害者の数が少ない。少数者ということです。ですから企業としても何のために援助をするのか意義を見つけにくい、商品開発しても大量に売ることができない、対象者が少ないから利益が少ない。そういう面で消極的になってしまいます。

でも障害者が少数ということは逆の意味でプラスの面もあります。それは少数者に対する配慮というのは資金などがそんなに高くならないことがあります。政府予算など本当に一部を支払うだけで解決できる問題がたくさんあると思います。

先ほどお話ししましたように、「字幕と手話」付加・解説放送は、技術的な問題はほとんどありません。我々が求めているのは、「目で聴くテレビ」の放送時間を増やしてほしいということです。今、週に3日間しか放送できていません。これを毎日放送にしたいということです。そして番組内容を充実したいということです。この2つとも政府の助成を少し強化することで解決できるのです。

「障害者権利条約」は、表現の自由、放送に対するアクセシビリティ、こういった問題を解決するのは政府責任と言っています。本当にやる気持ちさえあれば、いつでもやることができます。こういうことについて政府の理解を求めながら、また国民の皆様に我々のニーズといったものを理解していただいて支援していただければありがたいと思っています。以上です。

 

 

岩井●どうも皆さん、こんにちは。全視情協の岩井でございます。今日こうしてこれからの地上波デジタル放送への期待というテーマでシンポジウムが開催されること、その前提として、視覚障害者もテレビを見てるんだと、当たり前にテレビを見てるんだということを前提として、今後への期待ということへのお話ができることになったということ自体、私は非常にうれしく思っているんですね。というのも、本当につい最近まで視覚障害者がテレビを見るということは、放送事業者やあるいはその他行政関係の皆さんにも非常に意識が薄かったのではないかなというふうに思っております。

実は私たちテレビを見るということにつきましても、例えば昭和 45年に日本点字図書館の創立 30周年の記念事業として、テレビサウンドレシーバーというのを日本点字図書館の館長さんのお気持ちをソニーの社長さんの方にお伝えされて、それが実現して、ようやく音声でテレビが聞けるとか。あるいはまた当時、八木アンテナさんのテレビサウンドボイスというような商品開発があるとか、我々関係者のトップの方と、企業の若干の社会貢献のお気持ち、そういうことがあって、何となくテレビが我々も見える、聞けるというような状況で、この地上デジタル放送の話を聞いたときも、いろいろすばらしい機能があるというのは承知をしておりましたけれども、何とかなるのかなという気持ちを実は持っておりました。また総務省さんの方でも U-Japan構想ということで、このUはあなたのUですよ、ユビキタスのUですよ、ユニークのUですよということで、高齢者・障害者の IT戦略について、存分の行政施策を展開いただけるような、そういう期待感も非常にあったもので、合わせて我々視覚障害者関係の動きは、非常に鈍かったのかなという感じを持っております。

しかし聴覚障害者の皆さんがいろんな働きかけをされる中で、 97年に行政指針ができて、やはり放送のバリアフリーということでの活動を展開される中で、果たして我々目が見えない、見えにくい者にとって、この地上デジタルテレビが本当に政府や放送事業者が言っているように、障害者にやさしい地デジというふうに本当にいけるの? という不安感が出てきた。我々視覚障害者への情報周知というのは本当になされていなかったというふうに思っております。

ようやく平成16年度から、日本盲人会連合さんと私ども情報提供施設協会との連携で、視覚障害者がどの程度テレビを見ているのかという調査に始まり、そしてテレビを見るための手段として、楽しむための方法として、解説放送がどうあるべきなのか、あるいはまたつけてほしいという気持ちをどういうふうに放送事業者や行政の皆さんにお伝えするかという活動が、ようやく始まってきたわけです。

前半においては、そういうテーマでもって私たち社会の皆さんのご理解をいただくべく啓発活動をしてきたわけですけれども、今、改めてこのテレビが、本当に我々スイッチを入れられるのか、リモコンが触れるのか、あるいは画面が本当にどの程度音声を出して我々をナビゲートしてくれるのかというような、ハードの問題、テレビジョンの問題そのものについては、正直検討が遅れていたわけですけれども、この後、私ども視覚障害の仲間からも、そういったテレビへのアクセスの問題そのもので幾つか発表あるいは報告、意見等があると思いますので、そのことについては後のプログラムに期待します。とにかく今日、私の方からぜひ関係の皆さんにお願いしたいのは、本当に、周知。今、現状どうなっているのか、地上波テレビとは何なのか、そして視覚障害者がどんなふうにその問題に対応したらいいのかというのを、ぜひともきちっとお知らせいただきたいと思っているわけです。

前半の総務省様のご報告の中でも、今後地デジ広報センターを中心に周知していくと、リーフレットも作ります、あるいは訪問指導もしていきますというお話がありました。ぜひともそのリーフレットが、そして訪問指導が、視覚障害者一人ひとりの当事者に伝わるような手段で広報していただきたいと思います。リーフレットについても、点字、拡大、その他あらゆる手段を通じて、現状をお知らせいただきたいと思っております。

そしてまた、そういう広報等につきましても、私ども視覚障害者情報提供施設も含めて、当事者団体やその他関係機関を十分ご利用いただきたい。私ども、日々、そういう情報提供をやっているわけで、そういう行政や放送事業者からの情報を伝える役割として、我々も地デジ対策についても、お手伝いできるところはお手伝いしていきたいと思っています。

そして次に、行政指針でもって視覚障害者向けの地デジ対応も、一定の方針は出してはいただいておりますけれども、この方針が本当に実現するための手だてをきちっと考えていただきたいと思います。一番私たちがお願いしたいのは、この指針、目標達成のきちっとしたモニタリングです。監視機関を当事者参加のもと、位置づけていただきたいということです。

先ほど来、海外の状況報告がございました。 RNIBからのビデオプレゼンもございました。私どももこの調査・研究事業を通して、EUあるいはアメリカでの障害者対応の状況を調査し、情報収集もしてまいりました。EU諸国においても、EUの行政と当事者団体全体でもって情報のアクセシビリティについての言及、そしてガイドラインというものが作成され、あるいは英国においても例えばOFCOMという監視機関が作られており、あるいはアメリカにおいても AFNというきちんとした法的手段も講じられるような監視機関が設置される中で、指針の達成がなされてきているのではないかと思うわけです。

我々、イギリスからも二度日本においでいただいて情報をいただきました。その中でも96年に放送通信法ができて10%の目標を設置されて以降、着実に目標がクリアされながら、現在では2008年末の報告を見ましても、ある分野においては10%が20になり30に近いところまで目標達成されていると。RNIBでも、イギリスの視覚障害者団体としても、既に30%の目標を設定までいっておられるという報告を聞いております。

ぜひとも監視機関の設置ということで、この権利条約等でうたわれているように、とりわけ第 30条の中で、放送へのアクセスも含めて、芸術、文化、スポーツへのアクセスがうたわれています。視覚障害者もテレビを見るんだということがきちんと文言として書かれている辺り、これまで我々はどちらかというと企業等への社会貢献としてお願いしてきて、何となく見てきたテレビも、きちんとした法制度と行政からの支援も含めて、権利としてのテレビ鑑賞が保障できるような仕組みづくりをぜひともお願いしたい。

また、その仕組みづくりの中に我々自身も、当事者として、情報提供者として参加していきたい。これは例えば、番組づくりの一過程として、解説放送そのものに我々のこれまでのノウハウも含めて関与していくというようなことも含めて、我々も放送と文化アクセシビリティに貢献していきたいと思っております。私たちのそういった力をぜひ使っていただければと思います。

以上、視覚障害者の文化・芸術鑑賞の一つとしてテレビへのアクセスが保障されんことを大いに期待して、私の発表を終わりたいと思います。ありがとうございました。