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日英セミナー「障害者のための社会的な仕事と雇用の創出」

主催者挨拶

鴨下重彦
日英高齢者・障害者ケア開発協力機構日本委員会委員長代理
社会福祉法人賛育会病院長

ご紹介にあずかりました鴨下です。本日は、まだお正月気分も抜けきらない時期でございますし、大変お天気が芳しくない日曜日でございますが、日英セミナーにこのように大勢お集まりいただきまして本当にありがとうございます。

この会のシンポジウムは既に5年の歴史を持っていますが、私自身は実はこれまで全く関わって参りませんでした。ただ、ただいま皆さんで黙祷させていただきました国立身体障害者リハビリテーションセンターの元総長でありました初山先生を委員長としてこれまで引っ張ってこられたところです。発会にあたりましては、本日メインスピーカーとしてお話しいただく環境省の炭谷事務次官のお力が大変に大きかったと思います。

初山先生が昨年10月にお亡くなりになりましたので、私がピンチヒッターとしてかり出されたと申しますか、あるいはリリーフ投手としてマウンドに上がったということでございます。従いまして、まだウォーミングアップ不足の状態にあります。本日の主題でもありますソーシャル・ファームについても、私には耳新しい言葉でありまして、これから勉強しなくてはならないと思っております。

私自身は、今もそうですが元々小児科の医者でございまして、長年にわたり大学で小児科学の教育、研究、診療に従事してまいりました。小児神経学という領域を専門にしておりましたので、若い頃から重症の脳性小児まひ、知的障害、昔は精神薄弱と言いましたがこれは今は使ってはいけない言葉になっています。あるいはてんかんを合併している、そういう患者さんばかりを診ておりました。

40年前になりますが、初めて教壇に立って学生たちを教育する立場になりまして、実習の指導をしているときに、一人の学生が私に向かって、「先生はこういう子どもの治療にどういう意味を感じていらっしゃるんですか?」と質問いたしました。一瞬、返答に窮したのでありますが、子どもを大切にするという根拠、病気の子どもを診る根拠はどこにあるのか、そのとき以来考えさせられた次第です。

18世紀のイギリスの有名な詩人にワーズワースという人がいます。ワーズワースの詩には子どもを歌った歌がたくさんあります。その中の一節で今も覚えておりますのは、「子どもは大人の父である」。要するに子どもというのは非常に弱い存在であって、しかしだからこそ大切にしなければいけないということだと思うのです。その子どもの中でも最も弱いのは、病気、それも慢性の障害を背負って生きなければならない子どもたちではないか。だからこういう子どもたちを最も大切にしなければいけない。このように私は当時考えました。おそらくそのことは、今日言われていますソーシャル・インクルージョンの思想につながるものではないかと思います。

これもスウェーデンの女性教育者ですが、1999年、つまり21世紀を迎える直前に「子どもの世紀」という本を出しました。「Century of the child」。その中で彼女は、「次の世紀――-つまり21世紀は子どもの世紀となるであろう、子どもの権利が確立されるときに道徳は完成する」と言っています。つまり、この「子ども」というのを本日の主題である障害者、高齢の障害者、ホームレスといった虐げられた社会の弱者として置き換えますと、そういう人たちに対する配慮、これは道徳につながる、モラル。ソーシャル・インクルージョンというのは要するにその基盤は道徳であるというのが、私の個人的な考えでございます。

抽象的でプリミティブなことばかり申し上げましたけれども、この炭谷次官の発意で始まった会が既に5年の歴史を持っています。その中で英国は非常にソーシャル・ウェルフェアでは先進国でありますが、日本もそれを学びながら、世界の福祉の先進国になっていかなければいけない。それが21世紀の私どもの課題ではないか。そういうふうに考えまして、本日、この具体的な「障害者のための社会的な仕事と雇用の創出」ということで、イギリスからお二人のエキスパートのお話、あるいはそれに関係する方々のディスカッションを伺えることは大変意義の深いことだと思います。

ぜひこの会が、新しい1年の出発点として、これからこの問題に対する皆様方の意識高揚に役立つことを祈念いたしまして、簡単ではございますがご挨拶とさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。