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「障害者のための情報保障」セミナー報告書
デジタルテレビ放送の情報アクセス

講演5

高岡 正
全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長

みなさんこんにちは。全難聴の高岡です。最初に、はるばるイギリスから、マーク・ダウンズさんとマーク・ホダさんがこのセミナーで、大変素晴らしい内容の報告をして頂いたことに、お礼を申し上げたいと思います。どうもありがとうございます。

私は、日本の聴覚障害者の放送と通信のバリアフリーにおける課題を説明したいと思います。ただ、時間の関係で放送の分野だけになるかもしれません。

私は、日頃はこのような会議にパソコン要約筆記をつけて参加したり、あるいは昨年の7月フィンランドの国際難聴聴者会議に参加した時には、ホテルからビデオチャットで日本の人たちと話をしていました。このように、放送と通信の技術を使えば、私たちはいつでもどこでも社会参加が可能になります。

最初に、日本の聴覚障害者の状況ですけれども、厚生労働省の身体障害者実態調査2001年の時には30万5千人という数字です。しかしその他全国社会福祉協議会の調査によりますと、コミュニケーションに支障のある難聴者人口は600万人、約人口の5%といわれています。

しかし、わが国でも高齢化社会を迎えて、65歳以上の方は2400万人、70歳を超えると2人に1人は難聴になります。65歳では7割、80歳以上では8割という説もありますので、1千万人近いか、1千万人を超えるというのは、あながち外れていないのではないかと思います。

実際に、日常生活の中で聞こえに不自由を感じる音は何かという調査があります。65歳以上のデイサービスの利用者を対象にした場合、補聴器を使っている人の55%の方は電話が聞きにくいと言っております。家族との対話に困っている方が53%、テレビやラジオのアクセスに支障のある方が49%と、なんと半分くらいの方が、こんなにも身近な生活に困っています。全国の老人クラブ連合会の会員を対象にした調査でも、家族との対話が58%、電話が52%、病院での呼び出しなどが51%、テレビやラジオが44%というように、同じような結果が出ています。

これはまた別の調査ですけれども、日常生活で聞こえにくいと感じる程度の音ですが、1番大きいのがテレビです。テレビが49%、電話が41%、遠くから呼ばれる声が40%、電車やバスの車内放送が37%、公衆電話が36%というように、私たちの生活に密着した音が聞こえないということが分かります。

国の聴覚障害者の実態調査では、聴覚障害者のコミュニケーション手段がどうなっているかという表があります。補聴器や人工内耳を使っている方が79%、8割の方です。筆談や要約筆記を使っている方が24%、4分の1です。それから読話を使っている方が6%、手話や手話通訳を使う方が15%、というような状況です。補聴器や文字を使うコミュニケーションが多いのは、高齢者が多いからだと思われます。

ここで私たち聴覚障害者の運動とアメリカの影響についてお話しします。

1990年にアメリカで、13インチ以上のテレビに、字幕を表示させる回路の内蔵を義務づける法律が成立しました。それを受けて私たちは、日本でも、同じように字幕放送を見られるテレビを作るべきだという目標をもとに、シンポジウムを開催しました。

またアメリカでは、翌年「障害を持つアメリカ人法」ADAが成立しています。それらの影響もあって、1993年には通信放送円滑化法、いわゆる通信のバリアフリーを目的にした法律が初めてできました。その翌年には、障害者基本法にも情報通信について、通信放送事業者が障害者のために便宜を図る役務を提供するということが、法律的に義務づけられています。それまでの字幕放送の拡充の壁は何かと言いますと、文字放送の免許料が高いこと、2つ目に制作コストが高かった、3つ目に字幕放送を見られるテレビがなかった、この3つです。そこで私たちは国会請願署名を40万人集めて国会議員に要求しました。またスポンサーに対してはがき作戦を1万枚の規模で行いました。先程のダウンズさんのお話しにもありましたから、どこでも同じような作戦を考えるものだなと思いました。イギリスでも日本でも成功していますので、また再びやりたいと思います。

こういった運動の結果、1997年には放送法が改定されて、字幕放送については免許が不要になりました。それから、字幕制作をする補助金が一般財源化されて、政府が毎年予算を確保しています。それから、字幕放送普及目標を政府が決めまして、2007年までに字幕付与可能な番組の全て100%に字幕を付けることを決めました。字幕付与可能な番組というのは、生放送とか音楽番組などが除かれています。ですからすべての放送ではないのです。

NHKが字幕放送を行っている割合は、33%です。生放送などを除くと、92%です。日本テレビなど民放は約20%です。生放送を除く時間に対しては30%から40%台です。この数字からも、生放送に字幕を付けるという運動が、非常に大切なことがわかります。これは字幕が付けられる時間、生放送などを除いた字幕放送の割合ですが、NHKは平成13年に73%、平成14年には77%で増加率は6%です。一方民放キー5局は16%だったものが28%になりました。増加率は79.5%です。

こういった字幕放送が、普及がまだまだ遅れていることから、私たち聴覚障害者団体は自らの取り組みを始めました。リアルタイム字幕配信と言いまして、パソコン通信、あるいはインターネットのチャット機能を使って字幕を配信する活動を始めました。これまでは、放送事業者や作家団体の著作権上の許可が必要だったのですが、多くの団体と運動した結果、2000年に法律が改正され、2001年の4月1日から、リアルタイム字幕配信事業を行っています。これは日本障害者リハビリテーション協会がホームページで説明していますけれども、テレビの音声を、入力者が自宅で入力して、聴覚障害者は自宅でテレビとパソコンを両方並べて見る形式です。これは今後テレビの中で一体的に見られるようになっていきます。

もうひとつの取り組みがCS障害者放送統一機構です。今から10年前に、阪神淡路大震災が発生して、聴覚障害者に緊急情報が届けられなかった、という大きな問題が起きました。このことをきっかけに、1998年に設立されたのが「CS障害者放送統一機構」です。平成14年にはNPO法人が認可されまして、現在、緊急災害時情報提供システム、あるいはアイドラゴンという受信機の普及、それから「目で聴くテレビ」の番組制作を行っています。この統一機構で提供している番組は、「目で聴くテレビ」と言います。

聴覚障害者が中心になって制作しているもので、本日も「目で聴くテレビ」が取材をしています。専用受信機内ドラゴン2でBSデジタル通信を受信して見るものです。現在聴覚障害者の6千人および関連施設で受信できます。ケーブルテレビで約8万人、地上波では京都テレビ、UHFではテレビ神奈川、テレビ埼玉など約1630万世帯で見られるようになっております。現在申し込みを予約している人も含めて、アイドラゴンは今7千台まで普及が進んでいます。「目で聴くテレビ」は1週間に30時間放送されます。リアルタイムの字幕も手話を付けた放送も、1週間に2回放送しています。放送の仕組みはこれからご説明します。テレビ放送に対して、手話と字幕を画面上で合成する機能を持っています。BS通信で手話と字幕を配給するわけです。

ここで、今後の字幕放送の課題を提案したいと思います。それは、先程お二人のマークさんのお話にもありましたけれども、テレビへのアクセスは基本的人権の問題である、字幕放送の法的な義務付けを実施すべきだと思います。現在の法律で実施しない場合、あるいは目標を達成しない場合の罰則がありません。2007年のガイドラインが終わった場合はどうするのか、生放送も含めた新しい目標を設定することが必要だと思います。

2つ目に、生放送が字幕放送の普及に大きな役割を果たしてきますから、どのように生放送の字幕放送を行うのか、字幕の表示の方法、あるいはどのような番組から字幕を付けるのかということも、ガイドラインを作る必要があります。

3つ目に、テレビの受信機のガイドラインです。デジタル放送対応のテレビが発売されていますが、字幕が表示できるというだけであって、字幕の出る位置、大きさや色とかは変えられません。この規格は、私たち聴覚障害者が関わらないところで決められてしまったのです。

ですから今後さらに普及する前に、もう一度受信機の規格を作り直す必要があります。それは字幕だけではなくて、あるいは、解説放送も聴きやすい音を出す、アクセシビリティの高い受信機の開発を、日本が世界に先駆けて実現する必要があると思います。

もう一つの課題は、今後、地上波デジタル放送とインターネットが融合してきます。家庭のテレビに映るものが、地上波デジタルの番組なのか、インターネットの番組なのかは、見る人からは分からないようにいろんな形で情報が提供されるようになると思います。こういった時に、放送規格の改定に、今度は必ずや聴覚障害者あるいは他の障害者の感覚が必要です。

もう一つは、こうした新しい可能性を持った番組を作るときにも、当事者の感覚が必要だと思います。このことを提案して私の報告に変えたいと思います。どうもありがとうございました。