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障害者放送協議会 放送・通信バリアフリーセミナー
障害者と放送・通信

第1部 
ファシリテーター報告

ファシリテーター 高岡 正
全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長

みなさん、こんにちは。ご紹介いただきました障害者放送協議会の高岡です。今、ご紹介いただきましたように、全日本難聴者中途失聴者団体連合会という難聴者の団体の理事長も務めております。宜しくお願いします。

今日は障害者放送協議会の立場で、全ての障害者のための放送のアクセスの実現を目指す立場で話をしたいと思います。1980年に、アメリカで最初の字幕放送が行われてから丸25年経過しました。日本でもパターン方式という文字放送による字幕放送が行われたのが1985年ですから、丸20 年経過したというところです。日本の最初のリアルタイムの字幕放送は、今でも忘れることができませんが、2000年の3 月27 日に、NHKのニュース7で実施されました。それから非常に多く広がってきました。先日終わりましたトリノオリンピックでも、様々な種目の競技に生放送の字幕が付いて、聴覚障害者は大変楽しむことができました。これは少し前までは夢物語だったのです。それが家族と一緒にオリンピックを見て同じ感動が味わえるというのは、とても嬉しいことでした。今後もますます普及してほしいと思っています。

現在は、2011年に今のアナログ放送が終わってデジタル放送に切り替わろうとしている時期です。2011年というと後4、5年しかないわけです。そういった時に、全ての障害者のアクセスが出来る放送の拡充を実現するための課題を提起したいと思います。お手元に資料がありますが、私の資料提出が遅かったために点字版がご用意できていません。申しわけございません。出来るだけお話いたします。

私が提起する課題は全部で3つあります。1つは、障害者向け放送の普及の指針の確定をすべきだということです。2007年までに、全ての番組に字幕放送を実施するという総務省の字幕放送普及の指針は、現在の字幕放送の普及に非常に大きな役割を果たしました。かつては、同じ時間に他の局の字幕番組が重ならないように字幕を付ける番組を選んでいました。今は、どのチャンネルを見ても字幕放送が見られるというふうになっています。本当に多くの字幕放送が広がってきていました。ただし、この指針はすべての番組にとなっていますが、生放送とか音楽・スポーツ番組など一部の番組が除外されています。特にわが国の放送は生放送が非常に多いですから、生放送は普及の指針の対象になっていないということは大きな問題です。また、地方局ですとかBS放送などは出来るだけ多く付けることということで数値目標がありません。この指針は聴覚障害者向けの字幕放送だけであって、視覚障害者やその他の障害者の放送へのアクセスについての指針がありません。2007年が目標年度ですから、それがどこまで到達したのか、普及にどういう課題が出てきたのか、そういった検討を行ない、視覚障害者やその他の障害者のアクセスを含めた指針を必ず作る必要があります。

2つ目の課題です。放送の各分野に障害者自身の参画を保障することです。とても今日の短い時間では語りつくせないくらい障害者向け放送の課題は多くあります。受信機のバリアフリーの問題もありますし、デジタル放送のコンテンツの開発の問題、放送と通信の融合の問題、放送の公共的使命など非常に多くの課題があります。字幕制作者あるいは解説放送の解説を作る人たちなどの人材育成の問題など、まだまだ多くの問題があります。放送に関わるいくつかの分野で障害者自身が関われるような仕組み、あるいは機関、委員会、そういったものを作る必要があります。それは1年限りの委員会とか、そういう形ではなくて、障害者がそこでいつも継続的に放送問題について議論・討議することが出来る場所です。

例えば番組の評価です。字幕放送が非常に普及していますが、字幕の作り方は各放送事業者によってかなり違います。オフラインの字幕、事前に作る字幕でも、字幕の作り方、言葉の表現が疑問に思うものもたくさんあります。生放送の字幕は、各局とも制作方式が違います。NHKは音声認識やスピードワープロなどを使います。TBSは普通のキーボードによる入力者によって字幕が作られます。しかし、聴覚障害者が見る字幕はどれが見やすいのか、どういう字幕にしたらいいのかという評価を受けることなく現在も続いているわけです。これでは本当に読みやすい字幕、番組の内容がわかる字幕は出来ないと思います。2つ目に放送の施策の形成の場面です。1993年に出来た障害者基本法は、2004年に改正されましたけれども、国の施策形成には障害者団体・障害者の意見を聞くということを義務付けていました。しかし放送施策については、障害者の意見を取り入れるということは極めて弱いと思います。数年前に次世代字幕放送研究会が開かれましたが、そのメンバーは放送事業者、学識経験者、テレビメーカーの人たちばかりでした。聴覚障害者はオブザーバーとして1回だけ呼ばれただけです。これでは誰のための字幕放送なのか、誰が当事者を抜きにして施策を決めることが出来るのかと思います。現在、総務省に施策の提言しているのは障害者放送協議会、CS障害者放送統一機構など極めて限られた団体機関だけです。国民から広く障害者向け放送の要求について取り上げ、それを審議する場所がないのです。アメリカには連邦通信委員会、イギリスにはオフコムなど色々な機関、団体が放送事業者、障害者、行政、一般市民あるいは色々な専門家を交えて、今の放送にどういう問題があるのか、どうやったら広く普及することが出来るのか、そういったことを継続的に話し合う機関があります。日本にはまだ、そういった機関がありません。このことが障害者向け放送の本当に普及を妨げているのではないでしょうか。

3つ目に番組とシステムの開発の分野です。字幕放送の拡充について、今お話しましたように様々な字幕制作が行われています。これらのシステムの開発に、障害者が関わって進めるということが最近は少ないように思います。デジタル放送の受信機が、字幕受信回路が標準化されたのはとても良いことですが、この規格を決める際に聴覚障害者は関わっていません。実はその字幕は限られた機能しかないのです。本来デジタル放送の持っている機能としては、見る人が字幕放送の字幕の大きさを変えたり、色を変えたり、出す位置を変えたり、あるいはスクロールさせたり、いろいろあるのです。でも今、搭載されている受信回路は固定の字幕だけなのです。いかに当事者を除いた規格が当事者にとって使いにくいか、見難いかということを表していると思います。また字幕放送の取り組みは、放送事業者、テレビメーカーなどが個々に行っております。日本がIT大国の看板を掲げるならば、全ての障害者のための放送の拡充に向けて、国も放送事業者もメーカーも一丸となって取り組む体制が必要ではないかと思います。そのためのコンソーシアムを作ることを提案したいと思います。

大きな3つ目は、放送のアクセスの権利の保障の問題です。最近は、放送の公共的使命が強調されていますけれども、このことを障害者の放送アクセスに関わる権利を法律上明文化する必要があると思います。障害者基本法には、放送の役務、放送する事業者は社会連帯の理念を持ってその利用の配慮を行う、というようなことが書いてあります。義務ではないのです。罰則もありません。今、国内では障害者差別禁止法の議論が非常に沸き起こっています。日弁連や障害者団体がシンポジウム、提言を行っています。日本政府は、2001年に国連から障害者差別禁止法の制定について勧告を受けていますが、まだ実現していません。障害者の差別を禁止する法律は、世界で40カ国以上ありますが、その中に日本が入っていないということです。2003年に、国連の障害者権利条約特別委員会が始まり、これまで国際障害コーカスなど障害アクセスの権利が条約案に取り入れられたりしていますが、まだ議長案にはそうした条文は明文化されていません。障害者向け放送を義務付ける放送法の改正をおこない、障害者差別禁止法などに放送における差別を明文化する必要があります。また我が国が率先して、国連の障害者権利条約に放送通信のアクセス権の条文化に取り組む必要があると思います。

今日のシンポジウムで色々な立場の方々が、この3つの課題について真剣に討議していただくことを期待するものです。以上です。