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報告書「明日のデジタル放送に期待するもの」

基調報告

河村 宏 
(日本障害者リハビリテーション協会 情報センター長)

皆さんおはようございます。今ご紹介いただきました河村です。松友さん、八代先生から十分アジア太平洋障害者の十年ということについてお話しをいただきました。私はその中のひとコマであります、IT、情報技術と申しますか、ITキャンペーンの中で今日どういうことをやろうとするのか。それについて若干申し述べまして、この後の講演とパネルディスカッションの導入とさせていただきたいと思います。

最初に、何故ITなのかということから一緒に考え方を整理させていただきたいと思います。昨年九州沖縄サミットがございまして、その中で非常に大きな問題になりましたのは、デジタルディバイドと呼ばれることです。つまり、ITが世界中に浸透する中で、そのITから取り残される人々が色んな意味で出てきていると。その問題が大きく取り上げられました。もちろん南北の地域格差というのは大きなものがありますが、同時にそのサミットで取り上げられましたのは、障害があるなしによってこのITを活用できるできないが大きく分けられている。これが非常に重大な問題であるという認識が示されたということです。情報とか知識というものは誰もが日常生活をする上でかかすことのできないものです。ITは特に知識と情報を蓄積し、伝達し、交換していきコミュニケーションを図っていく、そういうことに欠かせないものになってきています。

例えば先程八代先生のお話しでもありましたが、マンハッタンで起きたあの攻撃を皆さんがそれぞれいつどういう形で知ったか、これを振り返るだけでもデジタルディバイドの様々な表れというものが出てくると思います。生死を賭けた非常に極限的な状況の中で、どのように情報を得られるのか、発信するのか。これが問われたと思います。飛んでいる飛行機の中で携帯電話で今何が起こっているのか知り、行動に出た人たちもいたと聞いています。また、貿易センタービルが攻撃を受けた時に、階段を駆け上っていって救援に向かった人たち。その中にはおそらく自分の部下を気遣う管理職の人たちもいたと思います。そして多くの日本企業の管理職の人たちは、全員が退避してその後撤収するための作業をするために残って最後に命を失った人もいたと聞いています。そういう極限的な状況の中でどのように情報を得るか、得られないかこれがまさに生死を分けると言うことを如実に表したケースだと思います。

またそこまで極限的でなくても、日常的に仕事をする、学習をする、或いはこうしてみんなで集まって意見を交換し社会的な活動をする、そういった時にも情報は必要ですし、様々な形でのITによるサポートが必要になります。また生活を日常的に楽しむ場面、この中にはテレビを見るというのも非常に大きな位置を占めると思います。一家団欒のはずのテレビを見ながら、字幕が無いために聴こえなくて一人ギャグがわからない。それで皆が一斉に吹き出しているところに一人寂しい思いをするという聴覚障害の方の現実があります。また画面にテロップで、様々な情報が今回のマンハッタンのケースで出ていましたが、テロップで出ている部分はアナウンスとして読み上げられていない。従って、そこに非常に重要なことが文字として画面に出ているけれども、それを知ることができないで重要な情報を得ることができない視覚障害の方たちも日常的にいらっしゃいます。またアナウンサーが読み上げるのは非常に早い、或いはニュースは画面がどんどんどんどん十分に理解できないうちに次に進んでいってしまう、そういうことに悩んでおられる難聴の方々、或いは知的障害の方々、学習障害の方々、こういった深刻な現在のテレビでは十分に情報を得られないと言う方々もいます。こういったことに私達はITという技術はどういう風に現在答え、またどういう可能性を持っているのか、そのことを今日一日十分に様々な角度から話し合いたいと思います。

情報と知識と言うものは本来皆で分かち合えるものであるはずです。これが例えば食べ物であるとか、自動車であるとか、そういう“もの”であれば皆で分けると言うのは大変難しいわけであります。これが情報であれば、手段さえあれば、皆が分かち持っても、自分の持っているものが減るということはありません。つまり今日私たちが問題とする情報というのは、本来皆で分かち合えるものであります。それを最も効率的に支える技術、それがITに望まれるところではないでしょうか。そのように考えますと、現在のITには様々な可能性とあってはならない制約というものが交錯しているように思われます。先程テレビの例を挙げましたが、これからデジタルテレビになる。その時にデジタルテレビの中核となる技術であるITというのは何を私たちに示してくれるのだろうか。それが今日の焦点であります。

現在、デジタルテレビ、或いはデジタル放送と呼ばれるものは既に日本でもその他の国でも存在しております。先程話しがありました、BSデジタル、CS放送、これらはデジタル放送です。そしてケーブルテレビもいくつかのデジタル放送が入ってきています。いよいよ今殆どの家庭が日常的に見ているアナログのテレビ、これは地上波のテレビと言ったらいいと思いますが、これにデジタルテレビの導入が始まる。そういう時期を今私たちは迎えているわけです。ここでうまく準備ができるといいのですが、総務省が提案しておりますこれからのデジタルテレビ導入のスケジュール、またその機能をスクリーンに出し、それを説明しながら、これからのデジタル放送について述べたいと思うのですが、機械の方がうまく動けばそのようにさせていただきたいと思います。そこらへんがデジタル技術の落とし穴でして、いくら調整しても時々うまく動かないことがございましてちょっと調整をさせていただきます。―なんとかうまく動き出すようです。

私がこれから皆さんにお見せしようと思っているのは総務省がインターネットのウェブ、ホームページの上で公表しておりますデジタルテレビに関する機能、有用性、そしてスケジュールであります。画面に出て参りました。総務省のホームページにはこのように書いてございます。「もうすぐすべての放送がデジタル化されます。2003年地上デジタルテレビジョン放送スタート」。女の子と犬の絵が出てきました。犬のところに「待ち遠しいデジ」と書いてあります。ここにいくつかの報告書が引用されております。現在は字幕に絞りまして、次世代字幕に関する懇談会というものが発足したようであります。デジタルテレビ放送がどんな特色を持っていると公表されているのか、それを見てみたいと思います。別のホームページ、これも同じ総務省のホームページですが、このように書いてあります。「デジタル放送の特徴は、見たい番組を簡単に選んで見ることができます」そして若干の解説があります。「画面の番組案内に従って、見たい番組を簡単に選んだり、豊富な情報番組の中から関心のある情報を簡単に検索できます」。このように紹介されております。二つ目。画面で言いますと二段目の下の方にある、そういう部分にもう一つの見出しがあります。「お年寄りや目や耳の不自由な方に優しい情報サービスが充実します」そのあと説明が続きます。「字幕放送、解説放送がより充実します。音声が聞き取りにくい時に音声の速度を遅くしたり、点字操作が可能な受信機の開発により、目や耳の不自由な方でも放送サービスにより親しんでいただくことも夢ではありません」。これは今日今現在掲げられているホームページです。つまりここで重要なことは「夢ではありません」と書いてある部分だと思います。

夢ではない、それではどう現実化するのか。そのためには実際に様々な普通の放送では十分な情報を得られない人々と話し合い、そのニーズを反映してこの夢を実現しなければいけないはずです。残念ながら私の知るところでは、デジタル放送に関する様々な委員会、懇談会といったものが、政府或いは業界で設けられておりますけれども、これまでのところそういう有効な対話を実現する様々な障害を持つ人たちのニーズをキチンと吸収し、それを反映してこういった夢を実現するためのチャンネル、経路というものが確立されていないと思われます。

本日この後主に3つの立場からご意見を述べていただく、パネルディスカッションを午後に行います。視覚障害の立場から、或いは聴覚障害の立場から、そして知的障害がある人々の立場から、それぞれの角度からデジタル放送に必要とする機能とサービス、しくみについて幅広いご意見をいただく予定であります。おそらくその中で、これまでどのような接点が、デジタル放送の夢の実現のために、行われたか、持たれたか、或いは持たれなかったのか、そういったことが議論できるかと思います。この問題は、非常にわかりにくいという要素を持っていると思います。デジタル放送と私たちの日常の生活とがどうかかわるのか。よく言われるデジタル放送は、3倍も画面が綺麗です。音が素晴らしくいいです。或いは立体的な音を聞くことができます。そのようなものです。劇場にいるような臨場感が得られます。それぞれの機能について私は何も依存はございません。しかし、情報がきちんと得られていない、そこに注目しないで、そしてハイクオリティの画質、音質、臨場感、そこでデジタルテレビの優位性を説明するというのは私には本末転倒であるように思われます。

今日私たちは午前中に2つの講演をいただきます。最初のマーク・ハッキネンさんの講演では、現在可能な技術、この技術によってどんなことが可能なのかをできるだけ私たちの要求に即して紹介をしてほしいと思います。

そして2番目にご登壇いただく、ブロール・トロンバッケさんからは、スウェーデンでこれまで積み重ねられて来られました、わかりやすい出版、これは図書とマルチメディアなども含めます。わかりやすい情報を提供するというのはどういうことなのか。知的障害の方、或いは言語的に不自由が様々ある方々が必要とするわかりやすい情報提供についての経験と、これからの技術に架ける夢、そういったことをご紹介いただきます。そして午後冒頭に、日本の産業界の中で様々な取り組みがなされておりますが、その中でパソコンをベースにしたテレビ受信機を開発していらっしゃる澤野さんにご登壇いただきまして、その中で特に字幕についてどのような取り組みをされ、今後の展望をお持ちなのか、一つの例としてご紹介をいただきます。このようないくつかの技術的ノウハウといいますか、そういったご紹介をいただいた後に、先程申し上げました3つの角度から私たちは、どのようなデジタルテレビがほしいのか、技術的な可能性をふまえてご発表いただき、会場の皆さんとともにディスカッションをしたいと思います。そして本日の最後にはこの会場の参加された皆さんのコンセイサスとして、デジタルテレビはこうあってほしいというものがくっきりと浮き彫りになることを私は確信をしております。

また本日はこの中におそらく放送関係のデジタルテレビをどういうふうに構築していこうかということで様々に努力され悩んでおられる、或いは成果を挙げておられる方も参加いただいていることと思います。幸いというと変なんですが、災いを転じて福とするとしますか、時間も十分ございます。そして満員の会場というわけでもありませんので、自由に挙手をいただいて、ディスカッションできる雰囲気もあろうかと思います。是非会場にいらっしゃるすべての皆さんから午後のパネルディスカッションの際にはご発言の機会を積極的に設けていただければと思います。

最後にこのデジタル放送というのは、どのような時間的なスケジュールを持っているのか。それをご紹介して、私の締めくくりにさせていただきたいと思いますが、2003年に東京、名古屋、大阪では地上波デジタル放送がスタートすると言われております。今スクリーンに出しました。「放送のデジタル化スケジュールは」と画面には書いてございます。これはやはり総務省のホームページです。既にデジタル放送としてはBS、CS、ケーブルテレビがもう一部で始まっているということは先程申し上げましたが、これから2003から放送開始の予定で先程の3つの地域。その他の地域は2006年から放送開始の予定で漸次段段と2011年に全ての放送がデジタル放送に切り替わると言うスケジュールで総務省としてはデジタル化を達成したいという目標を公表しております。実際にもそのように動いていく可能性が高いと思われます。だとすれば、2003年にこの放送が開始される前にデジタル放送のしくみについての私たちの要求を含めた合意、規格化、そして技術の開発がなされなければなりません。つまりもし間に合うとすれば、今が最後のチャンスだと思います。ある部分手遅れと言われるかもしれません。しかし、まだ間に合わないということはないと私は確信します。ここで皆で要求を明確にし、それを実現する技術を明らかにすればそれは可能なはずです。そしてデジタルテレビは日本が国際的に見ても、非常に大きな影響力を持っている分野であります。

日本の私達がデジタルテレビがすべての人に使いやすい優しいものになるということを実現すればそれはアジア太平洋の障害者の十年の最後を飾るにふさわしい取り組みとしてアジア太平洋全域への広がりを持ち、やがてはアジア太平洋から世界にその全ての人が一緒に楽しめる、使えるデジタルテレビとして広がりを持っていく。最後には世界中全てで使うデジタルテレビは私たちが小さな旗揚げをここでして、最終年のITキャンペーンの中でアジアに広げると言うことを通じて21世紀のデジタルテレビはこういうものになったと後で語れるような大きなグローバルな取り組みに発展する可能性を十分持っていると考えます。このようなスケジュールで大変忙しいですが、来年の十月に最終年の締めくくりを迎えるITキャンペーンとしては、十分な時間的な広がりであります。そのような意味で、ITキャンペーンの中心にデジタルテレビを取り上げたのは、こういうタイムスケジュールということにも大きな理由がございます。

以上を持ちまして、私の本日のどのように会議を持ち、シンポジウムの最終的な成果物は何であるかについての主催者側の提案をさせていただきました。これを持ちまして、私の基調報告を終わらせていただきます。ご清聴有難うございました。