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報告書「明日のデジタル放送に期待するもの」

「アメリカにおけるデジタル放送の展望」

マーク・ハッキネン(W3C WAI 研究開発グループ議長)

本日はようこそお越し下さいました。私は日本語を少しはがんばって勉強してみたのですが、なかなか理解できません。話すことができないので、申し訳ありませんが、英語でお話しさせていただきます。また今日はスクリーンを使ってお話ししていきます。

今日のトピックはデジタルテレビのアクセシビリティについてで、アクセシブルな番組や放送内容を作るために、他の分野で開発された公開標準規格をどのように使えばいいかについてもお話します。たくさんのトピックを取り上げたいので、まず大急ぎでざっとご紹介しましょう。はじめに、デジタルテレビのアクセシビリティに関するキーポイントをいくつかまとめてご紹介します。それから現在テレビの世界ではアクセシビリティをどのように扱っているのか、またそのアクセシビリティがどんな風に発達してきたのかをお話しします。更に、標準規格について、つまりテレビに関してどんな規則や標準規格のタイプがあるのかということも説明したうえで、WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)とテレビとがいかに似通った形の情報提供をするようになってきているか、そしてこれら二つの世界がまとまり始めている現状を見ていきたいと思います。それから具体例としてSMIL2.0という標準規格を取り上げ、これが実際どのように使われているかを見てみます。合わせて、将来についても考えてみましょう。もし私たちがデジタルテレビのアクセシビリティを正しく扱っていくことができたなら、どのような未来が待っているのでしょうか?最後に、このようなことを宣伝していくためにはどんな手段をとっていけばよいのかも検討しましょう。

既に他の方々も話されたと思いますが、テレビは大変ありふれた物です。今やどこにでもあります。先進国では、一家に一台、場合によっては一家に何台もテレビがあります。そしてテレビは私たちに大変多くの情報と、娯楽を提供してくれます。ここ何週間かは、合衆国に住む私たちの多くはそれこそテレビに釘付けでした。私たちは過去何週間かに起こった出来事を知るため、絶え間なくテレビを見続けていました。今日では、聴覚障害者や視覚障害者も、テレビ番組を楽しむことができます。ただ、全てではありませんが。たとえば字幕のような、或る程度の内容を説明する技術が発達してきましたが、私はまだその性能は特に優れた十分な物ではないと考えています。テレビは本当に驚くほどの速さで進化し続けていますが、この新しい技術によって障害者のニーズが満たされているかどうかを、私たちは問いかけてみなければなりません。これは非常に重要だと私は感じています。だからこそ今日このシンポジウムの場が設けられたのだと思います。デジタルテレビ業界はアクセシビリティの問題について理解し、学ばなければなりません。デジタルテレビの世界にとって、私たちがウェブのアクセシビリティの問題について研究してきたことから学ぶ点は大いにあると、私はみなさんに申し上げたいのです。

ここ4,5年の傾向として、新しいウェブの標準規格には最初からアクセシビリティが組み込まれており、この点をとてもはっきりと表示しています。ですからまずアクセシビリティの問題を解決しなければ、W3C(ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム)の中で新しい標準規格を提唱するのは不可能です。そしてアクセシビリティを備えたウェブ標準規格モデルの適用範囲内で、内容作成に関する標準規格とガイドラインの開発も行われてきたのです。たとえば、ページやプレゼンテーションをアクセシブルなものにするにはどうしたらよいか、また、ブラウザや閲覧システムをアクセシブルなものとして作るのはどうしたらよいかなどです。このようにウェブの世界では、デジタルテレビが学ぶことができる点がいくつか既に大変よく発達しています。

今日のプレゼンテーションでは、私が開発に少し関わったあるウェブ標準規格に焦点を当てて、そのアクセシビリティがどのように作られていったかを見てみたいと思います。この標準規格はSMILと呼ばれていますが、これからこのSMILやその他の開発によっていかにデジタルテレビを誰にとっても更によいものとしていけるかをお話ししましょう。テレビは1950年代に発明され、以来、大変一般的な消費者向け家電製品となっています。既にお話ししたとおり、先進国のほとんど全ての家庭には1つかそれ以上のテレビがあります。先進国の人里離れた村でさえも、衛星テレビは一般的なものとなりました。つまりテレビは普及しており、役に立ち、そして費用も比較的かからないのです。しかし人々がテレビに関してアクセシビリティを非常に慎重に考慮するようになるまでにはおよそ20年の年月がかかりました。そして最初のアクセシビリティ獲得への努力は、聴覚障害者のための字幕作成という分野において、実現されました。テレビの字幕について興味深かったのは、放送シグナルの作成に関わった技師達が、他の情報が追加できるように、放送シグナルの中に、一定の空白を残して置いたということです。これを利用して1971年に合衆国のボストンにあるWGBHが、テレビ番組の字幕のデモンストレーションを初めて作成しました。いったんスライドを止めて、この最初の字幕デモンストレーションのビデオをお見せしましょう。

(ビデオ供覧)

スクリーンで見るのにはとても小さくて申し訳ありません。見えた方にはおわかりになったと思いますが、このデモンストレーションは、白黒の画面で女性のシェフがキッチンにいて、料理方法や食べ物について説明しているところです。シェフが話している言葉が字幕になっていて、キッチンにいるシェフの上に白い文字で表されています。ところが、画面上の文字の質がきちんとコントロールされていないため、この字幕自体を見ることさえも大変難しくなっています。私たちはこれに現代の技術を少し加え、日本語を話す人にとってもう少しおもしろい物を作ってみました。つまり現代の字幕作成技術を使ってプレゼンテーションの下に日本語の字幕を加えました。この現代の字幕作成方法を使うと、他にもたくさんのおもしろいことができます。たとえば、一つのプレゼンテーションについて複数の言語の字幕をつけることができます。これから、もっと進んだ現代の技術を使った字幕の例をいくつかお見せしましょう。みなさんにももっと意味のあるものだと思います。最初はスミソニアン研究所の作成による、障害者の権利問題に関するビデオです。

(ビデオ供覧)

ご覧になっておわかりになったかと思いますが、字幕によってはとても早く消えてしまっています。今日の技術を使えば、プレゼンテーションの中で決まった位置に字幕を置いてしばらく停止させ、字幕を読む時間をとれるように、すぐに画面から字幕が消えてしまわないようにすることができます。これはとても興味深く、かつ重要な機能です。特に学習障害を持つ人々や知的障害者と関わる場合には、字幕を読み続けるためにプレゼンテーションの速度を遅くしたり、止めたりしなければならないのでこの機能が必要になってきます。というわけで、これはもともとは字幕のプレゼンテーション用に作られたビデオではありません。最後にもう一つ、ボストンのWGBHがデモンストレーション用に作成したビデオをご紹介します。これは少しタイミングが遅れているように感じるかもしれません。が、私たちが日本語に翻訳した際に多少改善されたと思います。

(ビデオ供覧)

このビデオのおもしろい特徴の一つは、これが大変視覚に訴えるものであるということです。画面上、グラフィックによる表現が多用されており、視覚障害者にとっては、ナレーションを聞くことができても実際何が起こっているのかはわからないでしょう。そこでテレビ用に別のタイプのアクセシビリティ技術を開発することになるわけですが、ここでまたスライドに戻りましょう。

これは解説ビデオといわれているものです。解説ビデオもまたアクセシビリティそのものを提供する目的で開発されたわけではなく、一種の副産物でした。テレビにステレオの機能が追加され、テレビ放送で複数の音声チャンネルを使用できるよう開発が進みました。これは本来「副音声プログラム」と呼ばれており、どんなテレビ放送でも自由にスイッチを入れたり切ったりすることができる別の音声チャンネルを備えることができる仕組みです。解説ビデオもまたボストンのWGBHによって開発され、視覚障害者向けの音声プログラムとして役立っています。先ほどの例は重力に関する議論をしている場面でしたが、ナレーターがしゃべる言葉と言葉の間に、画面で起こっていることを説明する別のナレーションが付け加えられていました。つまり、球体が平面上のくぼみの周りを、円を描いて回っているという解説を加えることで、画面で何が起こっているのかを知りたい視覚障害者に、より有意義なプレゼンテーションをすることができるのです。解説ビデオは合衆国においてドキュメンタリー番組やドラマにますます使われるようになってきています。ですから視覚障害者が放送番組を理解するために大変役立っています。副音声プログラムはまた別の方法でも使われています。私が住んでいるところではラジオで視覚障害者向けの朗読サービスがあり、ラジオを通じて新聞の朗読を行っています。そしてこのサービスは同じ内容がテレビを通じてでも入手できるように、放送局との提携のもとに提供されており、視覚障害者はどのテレビを使っても新聞の朗読を聞くことができるようになっています。ここでも、副音声プログラムが活用されているのです。これは、今日のテレビの性能を利用した非常に興味深い、また効果的な例だといえます。しかしここで皆さんは、アクセシブルなテレビを作ったといっても、そのアクセシビリティは明らかにおまけで付いてきた物ではないかと思われるのではないでしょうか。放送シグナル中の余っている部分を使っていたり、本来は障害者向け、また、アクセシビリティ獲得のためではなかった機能を使っていたりと。そこで私はこんな風に考えるのです。アクセシビリティのためにどこか利用できそうなところをいつも探し回るのではなく、むしろ、将来のテレビ技術開発においては最初の段階からアクセシビリティを考慮しなくてはならないと。テレビとその標準規格を理解しようとした場合、それはきわめて専門的で、おもに情報を効果的かつ正確に伝達する方法に重点が置かれており、これまでのアナログ方式ではそれは大変複雑であったと思われます。現在、アナログ方式からデジタル方式へと移ってゆく中で、消費者のテレビへ提供できる内容は更に複雑になっています。世界中で数多くの多様な標準規格が使われており、放送のフォーマットや内容のフォーマットもさまざまですし、伝達方法の定義自体にも違いがあります。デジタルテレビの発展を語る際に、非常によく使われているのはMPEGという言葉で、更にMPEGにも1,2,4,11や21のようないろいろな番号がつけられています。これらは全てMotion Pictures Experts Groupが作成したビデオと音声の標準規格で、この7や21などのあとからできた標準規格には放送される内容に関する情報がそれ以前の物より多く含まれるようになってきています。専門的にはこれをセマンティクス(意味/意味を示す情報)と呼びますが、MPEGの開発においてはこの点に注目したいと思います。既にウェブのアクセシビリティの世界で経験済みですが、わずかな内容により多くの情報やセマンティクスを付け加えられれば、それだけ、アクセシブルな内容をつくることがより簡単になるのです。本来字幕作成においては、標準規格といえば、字幕テキストという情報のかけらをアナログシグナルにどうやって圧縮するかという大変技術的な内容でした。しかし今では字幕を明示できるもっと様式化された標準規格となっています。もともとはマイクロソフトがSAMI(Synchronized Accessible Media Interchange)と呼んでいたものですが、その後ウェブの団体によってSMILという標準規格が開発されました。

SMILはSynchronized Multimedia Integration Languageのことで、W3Cによって開発され、1999年に初めて推薦標準規格となりました。SMILはマルチメディア用のプログラミング言語として使われています。マルチメディアプレゼンテーションというのは、実際今日ここで行われているようなプレゼンテーションのことです。私自身は音声で、英語を使って話しています。視覚的なプレゼンテーションもあり、手話による通訳、それから日本語の通訳もいます。これは大変マルチメディア的なプレゼンテーションということができます。そしてSMILはこのようなプレゼンテーションを非常にきちんとした方法で明示する理想的な方法であるといえるのです。SMILはXMLのアプリケーションソフトとして開発されました。皆さんの中にもお聞きになったことがあるかたがいらっしゃるかもしれません。XMLはウェブの内容や、その他の情報用の言語を作成する際に使われる言語です。SMILは最初のリリース以来、改良が重ねられ、現在バージョン2.0で、機能も拡大しています。

SMILの一部は、WWWとテレビとが歩み寄ってきた結果、開発が進められたものです。テレビは明らかにWWWの内容に影響されて進歩しましたし、逆に、テレビスタイルのプログラムがウェブにも見られるようになりました。ですからSMILに関わっている人達は、ウェブのブラウザとテレビの両方で効果的に使用できるマルチメディアプレゼンテーションを作成できるように、公開標準規格を設定しようとすることは大変重要であると考えたのです。

私たちが初めてSMIL1.0を製作したとき、それをアクセシビリティのために使うことができるという例として、マルチメディアプレゼンテーション用の字幕作成をあげていました。当時は大変効果的で、英語、日本語、ドイツ語、そしてイタリア語の複数の字幕を作成し、ユーザーがプレゼンテーションを聞いたり見たりしながら、いくつでも見たい字幕を見られるようにすることができました。この他にも興味深い使用法があり、それについては河村さんがだいぶ関わっていらっしゃいますが、デジタル録音図書への応用があげられます。SMILはごく初期の段階から、障害者用録音図書のプレゼンテーションをコントロールする仕組みとして採用されてきました。私たちが常に重要視している商業的な立場から見ても、SMILはReal Networksのような大きな団体や、オランダのOratrix社のような小さな技術会社をはじめ、主なコンソーシアムに所属する複数の団体によって採用されています。SMIL2.0はシンクロ化されたマルチメディア用の次世代言語で、最初のバージョンの長所を全て備え、更にそれに大変おもしろい機能が加えられました。つまり、言語のプログラミングにモジュール式のアプローチをとり、マルチメディアアプリケーションソフトの開発者がプレゼンテーションや再生システムの構築のためにどの要素を使うかを選べるようになったのです。そしてこの点が、視覚障害者向けのNISO(全米情報標準機構)/DAISY(Digital Accessible Information System)録音図書にとってきわめて役に立つのです。最新のDAISY3.0バージョンはSMIL2.0を利用しています。

前にもお話ししましたが、現在ウェブの世界で標準規格を作ろうとしたら、まず、アクセシビリティを備えなければならず、それはSMIL2.0言語においてもいえることでした。SMIL2.0はマルチメディアのフォーマットとプレゼンテーション用のアクセシビリティを備えています。そして音声及びビデオの再生だけでなく、視覚的なレイアウトも扱っています。ユーザーはプレゼンテーションを操作する事ができ、また、当然のことながら、プレゼンテーションの編集もする事ができます。これは2001年に公式な標準規格、すなわち推薦仕様となり、早くも多くの商品に取り入れられています。たとえば、マイクロソフトはSMIL2.0をインターネット・エクスプローラーのブラウザに使用しており、Real Networksなどの製品でもSMIL2.0が採用されています。SMIL2.0の長所は、たくさんの装置に適用できるという点です。モジュラー式なので、携帯電話にも使えますから、小さな携帯電話の画面上でテキストと音声をシンクロ化させたプレゼンテーションを見ることもできるのです。もちろん、パソコンの画面でも見られます。テレビの画面でも見られます。そのようにデザインされていますから、簡単にさまざまなハードウェアで使うことができるのです。

このようにSMILは大変な強みを持っているので、プレゼンテーションのシンクロ化が今後非常に重要となると思われるMPEG21などの他の標準規格を考えた場合、その開発においてSMILがおもしろい役割を果たすのではないかと考えられます。いろいろな種類のメディアのプレゼンテーションにおいて、何か新しい物を発明するよりも、むしろSMILがどのように応用できるかを考えた方が興味深いでしょう。新しい技術を開発するときには既にある物から何かを発見するということがよくあります。いわゆる再発明するということです。テレビを含め、マルチメディアの世界にいる人々がSMILに注目し、これが優れた土台として利用できると知ることは大変重要だと思います。

SMILのアクセシビリティや使用上の利点を理解していただくために具体例をあげてみましょう。SMILでは階層的なプレゼンテーションが可能です。つまり、たとえばビデオなら、単に早送りや一時停止ができるだけでなく、場面から場面へと移動することもできるのです。複数のトラックがあって、物事が順番に進んでいくこともできるし、並行して進んでいくこともできるというわけです。テキストがあり、映像があり、音声があり、ビデオがあり、そのうちのどれをユーザーに提供したいかを選んで決めることができるのです。視覚障害を持つユーザーの中には、テキストがほしい、そしてそれをとても大きいサイズにしてほしい、という人もいるでしょう。そのようなオプションもSMILを使えば可能なのです。もう一つ別のSMILの特徴は、その国際性、つまり多言語によるプレゼンテーション能力にあります。この点も、ウェブの世界では大変重要なポイントです。たとえばスペイン語を話す人がSMILによって送ってきたニュース放送があるとします。すると世界の各地でそれぞれの言語による字幕がつけられます。ここ東京では、スペイン語のニュースに日本語の字幕がつけられ、合衆国では英語の字幕がつけられるわけです。私はこのSMILのニュース放送を見たいと言って、英語の字幕にしてくれとか、日本語の字幕にしてくれとか、ソフトウェア上で選ぶことができるのです。これは大変おもしろい性能です。もし皆さんが複数の言語を学びたいと考えているなら、その学習手段として一度に全部の字幕を選んで見ることもできるでしょう。或いは、視覚などに障害を持つ人々がコンピューターソフトウェアを使う時、スクリーンリーダーのような装置を活用することがよくありますが、SMILを使えばプレゼンテーションに関する情報が大量に備わっているので、再生する際に一時停止をして、スクリーンリーダーなどの画面にアクセスする装置を使って実際にプレゼンテーションを調べ、画面のこの部分には写真があるとか、写真のキャプションはこれこれこういう内容だとか、写真のタイトルはこうだとかいうことを教えることができます。このような多くの情報の提供は、従来の放送のタイプによる連続的なプレゼンテーションでは決してできませんでした。

概していえることは、SMILを使えば、障害に関わる問題であろうと、教育に関わる問題であろうと、或いは単に放送をよく聞いていなかったからもう一度戻って聞きたいとか、何を言っていたのかを実際読んでみたいとかというところであろうと、理由や目的は何であれ、誰にとってもさまざまな方法で利用できる放送やプレゼンテーションを制作することが大変やりやすいということです。しかし、アクセシビリティをうまくとりいれ、SMILをうまく活用するには、内容もまたアクセシブルになるようにしなければなりません。これが重要なポイントで、内容を制作する放送局にとっては、番組がアクセシブルで、必要な情報を含むよう確実にはからわなければならず、重荷となっています。更に、ウェブブラウザやメディア再生機器、デジタルテレビなど使用されるハードウェアについても、同様なアクセシビリティや情報提供ができるよう作られなければなりません。

それではSMILの利用によって可能となる将来の技術的動向について更に考えてみましょう。まずひとつ目はデジタル録音図書、DAISYの世界で実現してきたことなのですが、本の構造をもとに実際に本の中をあちこち移動することができるナビゲーションに重点を置くというものです。このようなナビゲーションの概念は、マルチメディアの世界においても非常に関心の高いものとなっていくと思われます。

次に、将来のデジタルテレビの世界を想像し、それがアクセシブルかどうかを考えてみましょう。或る学習障害を持つ若者、読書障害とか、その他の認知障害があるような人が、デジタルテレビでドキュメンタリー番組を見ようとしています。まずその人は、これは自分には速すぎるのでわかるようにプレゼンテーションを遅くしてほしいと言うでしょう。話し言葉を理解するのが難しいなら、字幕を利用できるでしょう。また字幕テキストを見るだけでなく、耳でも聞くことができ、おそらくは字幕が読まれると同時にそれぞれの言葉が実際にハイライトされることでしょう。もし言葉の意味が分からなければ、その時点で一時停止し、もっとはっきりとその言葉を見ることができるでしょう。内容がわからなければ、すぐに戻してわからないのでもう一度見たいと言えるはずです。これは従来のテレビ放送では不可能です。今日テレビでドキュメンタリーを見る際にはできないことです。

けれども、デジタルテレビの世界では可能なはずです。これらのことは今日WWWにおいては数多くの方法により可能になっています。そこでデジタルテレビの世界でも同じ機能が使えるようになると私たちは考えています。

その実現のため、私たちはデジタルテレビを、場合によってはテレビというよりはむしろパソコンとして考えていかなければなりません。デジタルテレビは心身障害者がテレビを効果的に使えるよう機能が開発されている点で非常に創造的だといえるでしょう。更に、巻き戻しや減速再生などができるように、記憶機能を備えたテレビを考えなければなりません。番組が放送されるときに、パソコン上で使えるような形で保存してしまうわけです。保存しているとはわからないかもしれませんが、たとえば番組をもっとゆっくりと再生できるように、ハードウェアが保存していることになるのです。この他にも、たとえば私が「究極のインターフェイス」とよんでいる機能を備えたテレビが考えられるでしょう。リモコンのボタンだけではなく、声によってテレビをコントロールする機能で、もし私が視覚障害者なら、テレビが私に話しかけるようにできる仕組みです。また、テレビ画面上にメニューを文字ではなくて、アイコンによって表示し、さまざまな障害を持つ人々がとても簡単にシステムを使うことができるようにすることもできます。このようにアクセシブルなテレビの世界の実現へと近づくためには、デジタルテレビ業界やMPEGの世界で働いている人々がSMILに注目して、それぞれの世界で応用できるモデルとして、ウェブのアクセシビリティに関する功績を詳しく研究することが非常に重要であると私は考えます。また、ハードウェアの製造業者自身も、もっとアクセシビリティや、どうしたら障害者が利用しやすい装置や機能をあらかじめ備えたテレビを作ることができるかを考慮しなければなりません。そして番組制作者や放送局は、番組内容がどうしたらアクセシブルなものにできるかを考え、余分なコストをかけることなく、作成しなければなりません。というのは、もしこれをしなければならないけれどもそれには大変コストがかかると言ったら、私たちが期待するような結果は得られないからです。以上のように、標準規格を設定する人や、装置を製造する人、そして放送番組自体を制作する人達に、焦点を当てていくことがこれから重要になるでしょう。

結論として、これまでお話ししてきたことを実現していこうと皆さんが思われるなら、SMILのようなものに注目し、内容に関するアクセシビリティガイドライン、いわゆるユーザー/エージェントアクセシビリティガイドラインに目を向けてみなくてはなりません。もし必要なら、こちらのスクリーン上にあげましたURLを読みあげますが、それよりも、まずはW3Cのウェブサイト上の、ウェブアクセシビリティに関する部分に、www.w3org/wai.というアドレスを使ってアクセスするのが一番簡単でしょう。そこから、こちらのスライドにリストアップした全てのサイトへ行くことができます。それからスライドに載せ忘れましたが、ボストンのWGBHもあります。WGBHはテレビの世界におけるアクセシビリティの真のパイオニアで、www.ncam.orgからそちらのウェブサイトへ行くことができます。これはWGBHのNCAM、National Center for Accessible Mediaのサイトです。以上を持ちまして、私のプレゼンテーションを終わらせていただきます。何かご質問等ございましたら、お受けいたします。

Q:奥山

リハビリテーション協会の奥山と申します。今SMILについては大変その有効性をお話しいただきまして、よくわかりました。もう一つ、MPEGという言葉が出てきましたが、これは河村さんに聞いた方がいいのかもわかりませんが、これの日本語名を教えていただきたいということと、将来のMPEGの方向と、SMILの方向があるのかどうか、或いは目指す方向が同じなのか違うのか、ということが第一点です。それから日本のNHKで開発しようとしているデジタル放送は、SMILにとっていいことなのか、或いはMPEGの方向と、NHKの開発しようとしているデジタル放送との関係をよろしくお願いします。

A:マーク・ハッキネン

私もちょっとお答えしたいと思います。MPEGというのは、英語では大変よくある頭文字をとった略語で、いまではどこででも見かけます。MPEGはデジタル音声だけを説明するのに使われるわけではありません。たとえば、MP3プレーヤーというのがありますが、これはデジタル音声を聞くための装置で、今日ではますます一般的になってきています。MP3プレーヤーはMPEGの標準規格の一部です。私はMPEGの標準規格設定団体にもっとアクセシビリティに配慮するよう、働きかけがなされるべきだと思います。そしてSMILのようなものを将来MPEGの標準規格にどのように適用できるか考えることは、MPEGの側にも得るところがあると思うのです。しかし、私たちにとってまずは向こうのドアをノックして、この問題について話をすることが大事でしょう。NHKのデジタル放送の制作に関しては、河村さんもうなずいていらっしゃいますが、今日の会議で彼らが何をやっているのかがわかりましたので、今後行動を起こすことになるでしょう。

A:河村:

補足できればいいのですけれども、実際にNHKでどういう風にSMILを見ているのかということについては私もよく知りません。この会場にいらっしゃれば、教えていただければ幸いかと思いますけれども。確かにNHKの中にも、SMILに関心を持っている技術者はいます。ただ方針としてSMILでいくのか、どうかということについては、まだ明確なものは示されたことはないと思います。それからMPEGは日本語でもエムペグと普通言っておりまして、これは動画を扱う技術者の、国際的な業界団体ということです。

Q:笹本

エルザの笹本と申します。最近のニュースで、SALTフォーラム、スピーチ・アプリケーション・ラングエージ・タグラスというフォーラムがシスコインテルマイクロソフトなどによって組織化されていると聞いているのですけども、これはW3Cの規格と何か繋がりがあるのでしょうか。それとも、それだけではやりにくいので、オープン・スタンダードから外れたところで業界団体が提携しようとしているのか、情報がありましたらお聞かせ願いたいのですが。

A:マーク・ハッキネン

SALT結成の裏話はここで短くお答えするのはとてもできないくらい長い話です。ただ、私の理解では、SALTフォーラムはW3Cと競合するために作られたわけではなく、W3Cのような組織に示すことができる標準規格を定義するために作られたのだといえます。SALT自身は標準規格設定団体にはならないでしょう。もう少し付け加えますと、W3Cは現在「ボイスブラウザ」といわれるものを研究しており、その基本はボイスXMLと呼ばれています。そしてこのボイスXMLによるアプローチが多少論議を引き起こしているようです。SALTの結成はおそらくいいことなのだと信じていますが、この時期に、というのはどうも政治的な意図も感じられます。この新しい標準規格がどのような形になっていくのか、興味深いです。もしあとでこの件についてお話ししたい方がいらっしゃれば、私も意見をたくさん持っていますので、どうぞいらして下さい。