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第22回総合リハビリテーション研究大会
「地域におけるリハビリテーションの実践」-総合リハビリテーションを問い直す-報告書

【 分科会 3 】自立生活に向けたピアサポートの実践:リハビリテーションサービスの提供とピアサポート

埼玉県立大学
丸山 一郎

 リハビリテーション・プロセスにおける「ピアサポート」を、障害のある人によって提供される専門的(他の人にはできない)サービスや支援とするならば、我が国においても、その歴史は古いといえる。
 身体障害者福祉法の制定(1949年)当初から、障害をもつ人自身を身体障害者福祉司や相談担当者として採用することが勧められていた。更生相談所や更生援護施設には多くの障害をもつ人々が専門職員として採用されている。  制度的には1967年からの身体障害者相談員制度が発足して、身体障害をもつ人による相談体制が整備された。現在強調されている「ピアカウンセリング」もここからあったといえよう。
 また、盲・ろう・リウマチ・低肺機能・喉頭摘出・オストミーなどの障害団体は、自ら相談事業やリハビリテーション事業を実施しており、政府や地方公共団体の委託や助成をうけている「ピアサポート」の実践である。
 リハビリテーションサービスにおいて、現在強調されている「ピアカウンセリング」の重要性が認識されて、「ピアサポート」が専門的サービスとして位置づけられたのは、1960年代の順天堂大学病院リハビリーテション科における盲人自身の松井新二郎氏の起用が最初ではないかと考える。
 氏は自らのリハビリテーションサービスを受けた体験ももとにして、失明を受容する事や新たに生きるカウンセリングを行ったのみに止まらず、リハビリテーションサービスの改善や新たなサービスの開発に大きな業績を残している。 さらに、氏の活動は運動を組織して制度改善などを実現させている。
 長年の積極的なリハビリテーションサービスの結果ともいえる米国の障害者運動が、リハビリテーション法を改正して「自立生活サービス」を規定しピアサポートを明確にした。そこでは、従来のリハ・サービスの概念の転換を求めたのである。
 この分科会では、我が国でも長年行われてきた障害のある人自身の活動の役割とリハビリテーションサービスにおける「ピアサポート」の現状において、特に自立生活をめざしているピアサポートの考え方を以下のように明らかにした。

○障害のある人々同士には、障害のないものとの間には持ちえない、いわば激変や破局的な状況に陥った体験の共有と共感がある。
 その状況を積極的に切り開いてきた自らの経験と現在も障害のある人として直面する課題を、ピアカウンセラーは提供し共有しようとするものであろう。
 こうした同士による相談・支援活動は前述したとおり以前から、また現在も多くの団体やグループによって実施されてきた。こうした活動のいわゆる専門職によるものとの違いは、前述した松井新二郎氏の例のように明らかに実証されている。(会場からも実際に氏のカウンセリングを受けた障害のある女性の強調した発言がなされた。)
 また、喉頭摘出やオストミーなどの人々の相談活動の実際には専門職の出る幕は全くないのである。

○日本の自立生活運動において特別強調されているピア・カウンセラーが、こうした他団体の同士支援(ピア・サポート)とは区別をしている理由について、堤愛子氏の考えを聞いた。その違いは、氏の報告にもあるが端的に言えば「"障害"を肯定するか、否定するかである。」であった。「障害をもつ自分たちをそのまま好きであることと、障害を良くないことと否定すること」との違いでもある。また、あえて言えば「障害のある人自身が仲間の相談に応じるときに、行政の側に立つのか障害者の側に立つのかの違い」とも表現した。
 氏の強調されたのは相談・支援の本質であり目標のことである。同士である障害をもつ人自身であっても、問題となるのは人生と障害に関する考え方にある。
 リハビリテーションにおけるピア・カウンセリング、ピアサポートは、ピア(同士・仲間)の形でなくその本質(障害観や価値観)が問われることである。

〔分科会を終えて〕問題としたいのは、「リハビリテーション」が我が国ではますます医学的範疇にとらえられ、あたかも機能訓練の如くに狭く考えられてしまったことである。リハビリテーションはそもそもが、自由やプライバシーを含め人権の回復をめざす社会的な活動である。ことであるのを忘れている。あえて言えば、障害のある人々の権利回復や社会参加を目指さないものはリハビリテーションサービスとは言えないのである。
 重度障害のある人々に対するリハビリテーション・サービスの不在を批判され、半世紀を経過した米国の「職業リハビリテーション法」は約30年前に「リハビリテーション法」に改められ自立生活を規定した。この法律をもとにした我が国初のハビリテーション(更生)法である身体障害者福祉法は施行50周年を迎えているが、リハビリテーションの社会的意義は逆に薄れつつある。
 リハビリテーションは、障害があるための不本意な生活を我慢するためのものでもなく、非障害者の平均的な生き方を敗北的に追従することでもない。リハビリテーションは心身に障害のある個人の最大限の自立(自律)を達成し社会的不利を予防して、(消極的に元に戻るのではなく)新たに生きることを支援することである。
 だれもが人生において程度の差はあれ自分のまわりの環境の喪失を経験する。その点からはリハビリテーションは、すべての人にとって必要なことなのである。ピアサポートで強調される積極的な障害観は、すべての人に必要なことである。
 リハビリテーションを体験した(障害のある)人は、障害のある人々のみならずすべての人々のピア・カウンセラーとして期待されていることを意識して欲しいと考えるものである。


日本障害者リハビリテーション協会
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