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第22回総合リハビリテーション研究大会
「地域におけるリハビリテーションの実践」-総合リハビリテーションを問い直す-報告書

【 分科会 1 】:地域生活の実現と支援ネットワーク

報告者 石渡 和実
(東洋英和女学院大学)

 伊達市における知的障害者の支援

「地域生活と支援ネットワーク」ということで、伊達の小林さん、滋賀県の信楽で生活支援センターで実践していらっしゃるコーディネーターの中島さん。障害児者支援の笠原さん、3人の方に発表いただき、いろいろな視点が出ました。まず小林さんの指摘で、知的障害の方に視点をあてました。地域生活をしている89%が、現実には親、兄弟との生活という実態を踏まえ、20歳を過ぎても親兄弟としている支援のあり方、家族支援、地域支援のあり方。本人支援を語れるような地域生活にならないといけないという指摘がありました。そしてあわせて、知的障害関係に福祉サービスの予算がどう配分されるかというと、施設に99.2%、地域生活支援では7.8%。このお金の流れは、地域にシフトしていくようなサービス体系を作らなければ、本当の意味で地域生活支援は語れないという指摘でした。
 そうなると、ここに来ていらっしゃる方の大半は、失業してしまうことになりかねませんが、現実にこういう状況を含めて、新しい支援システムをどう作っていくかというときに、やはりこれまでのサービスが、サービス提供側、施設機関の枠のなかで、本当の意味で利用者が地域で生きることのニーズには、応えていなかったということになります。

 滋賀県甲賀のケアマネージメント

 滋賀の中島さんから、いま実践でどう苦労しているかというと、地域で生きるということの、利用者のニーズの掘り起こしが現実に大きな課題になっている。いままでの施設・機関のサービスでは、こういうことしかできないですよ、あるいはそれには応えられませんよというサービスの提供を受けていた利用者は、自分のニーズが何かを明確にしきれない状況に、われわれが追いやってしまったこともあるのではないか。ニーズの掘り起こしをどうやるか。この辺については、滋賀の実践ではケアマネジメントという言葉で語られますが、まずニーズを掘り起こすときに、支援者が自分の福祉事務所、相談機関で待っているのではなく、支援者が利用者の日常生活に入り込み、いろいろな専門家がプライバシーを侵害しない範囲で、その方の生活に入り込むと、地域生活のニーズが見えてくるという話もありました。ニーズが把握されたときに、ニーズに応えられるサービス提供システムをどうするか。これが現実にはできていない。滋賀の場合、サービス調整会議など、関連機関が一同に会し、利用者のニーズに応えていこうというときに、少しずつ実現できるようになったという話でした。
 そしてそのような利用者の方のニーズがまずある。利用者ありきの視点にたって専門家が力を合わせるという形をとり、サービスのあり方を考えていったことで、甲賀郡の福祉力がアップしたということを中島さんが言われました。

 ニーズの共感

 また、サービス提供者である専門家、利用者に対する向き合い方も変わってきたとおっしゃっていました。そういうことで、まさに専門家の力も高まって、サービス調整会議の場をうまく使えたことで、専門家の間の情報共有化が、本当の意味でできた。
 ある方は、このような場がまさに福祉力のアップまで言えるようになるためには、たくさんのエネルギーと時間が必要とおっしゃいました。利用者のニーズを確認して、専門家が協力しあうところでニーズに応えていくための情報の共有化ができた。
 そしてもうひとつ、利用者のニーズへの共感を中島さんは強調されました。今まで、そんなことまでとてもやれないとか、そんなことをいうのはわがままだと、専門家が切ってきた部分が多分にあった。そうではなく、本当に地域で生きようという場合、そこをなんとかしなくてはというニーズへの共感性が、専門家の視点を変えていくことになっていったのではないかというお話。
 そんなふうに滋賀ではサービス調整会議が機能してきました。会議の結果、ケアプランを立てるときに、ニーズに応えるためには、すでにある社会資源をどうつないでいくかが求められるし、ないサービスをいかに新しく作るか、サービスの創出にも真剣に取り組んでいるというお話でした。

 制度をニーズに応えさせる

 このへん昨日あたりからの議論ですが、人生は待ってはくれません。今の貴重な時間をどう輝いた生活にしていくかということのために、ニーズに柔軟に応えるとともに、迅速性、いかに素早くそこに応えられるか、柔軟性をもったサービスを、中島さんは強調されました。ケアマネジメントという言葉で整理できると思いますが、新しいサービスのあり方を滋賀ではやっているということです。
 そして伊達の小林さんは、いろいろな問題提起のなかで、やはりこれからの新しい福祉サービスを考えるとき、従来のようなお金の流れも含めて、サービス提供ではなく、新しい制度をどう実現していくか。地域の暮らしを支えるとき、たとえば今、福祉に使われている財源を地域にまわすというだけでも、かなりのニーズに応えられる。地域生活のニーズに応えられるような制度をどう整理していくかというところが大事。
 小林さんも今までのサービスは、支援者中心でそちらに重きがあった。本人のニーズに応えるサービスが、どうあったらいいか問われてくる。

 すべての人のQOLとして

 こういうなかで今までのリハビリテーション、福祉サービスを考えると、営利中心の支援であったのではないか。本人をどう変えていくか、普通の人に近づけるか。そのような視点だった。そうではなく、これからは本人の生活、徹底してQOLを追求していきたいと。QOLというときに、障害のあるなしにかかわらず、あたりまえに自分が納得できる生き方を、障害のある人も普通の市民として暮らせる支援システムを作ることが大事だと強調され、そのなかでチャンピオン・レポートのレジュメでもありましたが、これからの高齢社会を考えるときに、すべての人が障害者になり得る社会だと考えて、いま障害をもった人が、本当に地域であたりまえに、普通の市民として暮らせるような支援システムができれば、高齢社会になっても恐くない。
 こう考えると、「障害者が未来を開く」という言葉を使われていましたが、障害者を支えていくシステムを考えるのは、21世紀の新しい未来を開いていくことにもなるという指摘をしてくださった。今までは障害者を特殊な人と考えて、特定の専門家だけで支援するような流れが現実にあったわけですが、これからリハビリテーションは、そういう普通の市民の暮らしのなかで、障害がある方も充分に暮らせるようなシステムを考えていかなければいけない。ですから人権が盛んにいわれるけれども、同じ人間なんだという共通認識に立って、リハビリテーションも特殊な人ではなく、障害ゆえの特殊なニーズにどう応えていくかという視点で考えなければならない。
 そうなったときに、総合リハビリテーションを問い直すのが、今回のテーマです。障害者を特別視するところからはじまったリハビリテーションを、市民として普通に生きてゆく支援のあり方を考えるという視点で、これからのリハビリテーションが問い直されなければならないだろう。
 この話をしてきたなかであらためて、重い障害をもつ人の地域生活は何か、という問いが発せられ、やはり重い障害者は施設で暮らすしかないのか、という現実がある。

 サービスの再構築を

 そこで、医師ということで話をいただいた笠原さんから、厳しい指摘がありました。
 施設か家庭かということを、私たちは何年議論したのか。ここでずっと停滞していて、まったく一歩も進んでいない。そうではなく、視点を変えて、施設か在宅かというのではなく、選択肢を増やすことも必要だし、たくさんの選択肢をどうつなぎ合せるかということで、サービスが再構築されなければならないだろう。いろいろな議論があって、21世紀に向かって基礎構造改革が行われていくなかで、よくいわれることですが、痛みを伴わない改革はないという言葉をあらためて考え、いま私たちが提供してきたようなサービスを、仕事を失うことを前提において、私たちが培ってきたノウハウは、新しいサービスのあり方に必ずつながっていくと思います。そのなかで利用者を中核においたニーズに応えるサービスを提供していく専門家に、どうしてなっていくか。ニーズに応えるときには、地域生活という、それぞれの暮らし方をどんな風に豊かにしていくか、となっていくだろう。
 そして、昨日のチャンピオン・レポートで小林さんが、「地域を紡ぐ」とおっしゃいました。地域で綱渡り的な人生を送っている障害者の方を、本当に支えられる網の目をどう張るか? これは中島さんが言っていましたが、保健医療福祉という専門家で、障害者自身、家族の力をどうネットワークの中に入れ込んでいくか。それが大事になっていくと。地域を紡ぐという小林さんの言葉をひねって、専門家が縦糸なら、その縦糸と本人や市民というような横糸とをどうつなぐか。そのうえで地域を紡ぐということになるのかなと。第3分科会の議論に見えてくればと思います。


日本障害者リハビリテーション協会
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