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第22回総合リハビリテーション研究大会
「地域におけるリハビリテーションの実践」-総合リハビリテーションを問い直す-報告書

【 分科会 2 】:生活の定着と求められる支援

報告者 池末 美穂子
(日本福祉大学) 

 第2分科会の報告をします。資料集の20頁です。
 この分科会は、精神障害者の生活支援をしている報告が多かったので、参加者は30人ちょっとと小じんまりとしていました。進めやすい分科会でした。

 沖縄の有限会社「ふれあいセンター」

 沖縄のふれあいセンターという作業所から発展した有限会社です。グループホームを抱え込み、自分たちで計画を立てたクリニックも準備中です。形の上では法にもとづく、地域生活支援センターの出先のような内容です。きわめて自由な発想の実践です。さまざまなことがありますが、結果的に精神の方が多く、なかには知的障害などの方もおられます。有限会社の作業項目は40種類くらいもあり、まずは入院していた病院の移動販売、スーパーをひらいたり、知的障害、視力障害の方の送迎を行うとか、仲間のなかで生まれた赤ちゃんを、保母の資格をもってる人が当事者同士で保育班を作り育てる、というユニークな活動でした。
 そして、経済的、精神的親からの自立と、納得のいく社会参加の試みということを、共通のテーマに活動を進めています。  職員の関わりとして(レジュメ21頁7番)、伴走者として、当事者の体力の把握もし、ときには論争もしながら自己決定を練習する場を作りながら伴走する。それが職員の定義ではないかという提起でした。

 「麦の郷」から

 麦の郷の江上さんからの報告も続きます。昨日のチャンピオン・レポートで、たくさんのスライドを見せていただきました知的障害者の作業所活動が出発点となり、20年間、知的障害者だけでなく、いろいろな障害者の方、高齢者、児童の分野まで広がった多様な活動という報告でした。しかし江上さんには次々と課題があります。
 この活動を通して、生活の定着に必要なものを三つあげるとすれば、①住まい、②日中の活動、③仲間と交流できる場 ですが、限界があります。
 具体的な例として、お母さんが亡くなった男性が、日中の活動に参加できない。仲間との交流もなかなかできない。この方を通して、自分で決めていくことに弱さを持ちながら生きている一人ひとりに、麦の郷の今の受け皿では足りない。何と何が必要なのか深刻に考えているというお話でした。
 ホームヘルプサービスが、精神のほうはこれから始まる予定ですが、残念なことに地方自治体にお金がなく、介護保険が目の前でもあり、障害者、高齢者などより約30年遅れて始まる精神のホームヘルプ事業は、平成14年まで待たされます。それに向けてのモデル事業を国が指導していますが、まだ1/2しか進んでいません。福祉の理念、方向性は三障害横並びということですが、精神障害者の実態は遅れている、そのような報告でした。

 都立精神保健福祉センター

 3人目が、川関さんです。東京の精神保健福祉センターの仕事をしておられます。専門は医者です。精神科の医療が、ご存じのとおり遅れていますが、少しづつ改善されています。地域での生活をする人が増えるにしたがい、医療の改革も進んでおり、地域生活を支えるひとつの核としての医療活動、その方向に一歩一歩進んでいる。つまり、地域生活のサポートに重点をおいているクリニックが増えている。訪問看護が進んでいる。入院がしやすくなった。ショートステイで1週間程度援護寮などで過ごせる。救急医療、地域での生活のかなめといわれていますが、これについても各県ともに努力しています。このようなお話がありました。
 そして、後半いくつかの大切なことが出されています。全部お話することにはなりませんが、まずひとつは、地域生活支援事業は三障害別にスタートしましたが、実際に麦の郷の活動も、沖縄の活動も、障害種別を越えた活動に徐々に移っています。こういう変化を行政のほうが評価し、制度を使いやすくする、ということがありました。

 医療を生活のなかにとりこむ

 本質的な問題としては、精神の病気だけでなく、長期的に医療とかかわる、医療との関係を持ちながら、生活面で障害に取り組んでいく障害領域というのは他にもあります。特に精神は、医療は遠くにある病院に通うとか、当事者の方が言うように、病気になっただけで充分傷を負っているけれど、治そうと思った病院でも傷を負うというような特別なものにしないで、それを自分たちの生活のなかに持ち込もうという発想です。
 そういう方向を目指して、実態を作っていく準備を、沖縄で具体的に始めているという報告でした。
 このことは、大変心強いものです。地域の生活を支えるさまざまな形の支援がある。その支援のネットワークの核の一つに医療がある。自分たちの病気だから、自分たちが納得のいく医療活動をしてもらうために、できれば医療法人を作るときに当事者を入れて作っていただきたい。これはさきざきの理想ですが、そういう発想を持つ活動です。
 これも含めて、沖縄から新しい発信ができればいいと思います。

 自己決定を練習できる場

 もうひとつのテーマが、自分で決めていくことに今は弱さがあるという問題です。自己決定能力がないということではないです。さまざまな要素、長い入院や自分で確かめられない悩み、施設生活とか、親や施設の保護の中での生活。自分で決めていくことに弱さを持ち続けている。どう克服するかが後半のテーマのひとつになりました。自分で考えて決めていけるような、支える仲間、職員、そして選択できる社会資源。それが基本的に必要だということをあらためて再確認したような気がします。
 自分で決めていくことに関して、今のことと繰返しになりますが、大切なことを決定することに慣れていない状況にある人、という認識で、決定することに馴れるような活動と、決定の場に参加して意見を言えるような、そういう方向を私たちは目指したいと思います。
 当事者の方は、今はどうしても発言できる方に絞られますが、最後の一人まで自分の意見が言えるようになるまで、その方向を目指し見据えていきたいと思います。

 所得保障の問題を

 最後に、私の感想です。親からの精神的経済的自立に、私たち関係者は注目すべきだと思います。昨日からの話も含めて、方向性、理念は共有化されていると思います。しかし、地域生活の実現のための条件が、あまりにも整備されていないのが現実です。そのときに、医療を自分たちの側に持ち込もうという、発想ともう一つ基礎構造改革に欠けているのは、所得保障の問題です。障害をもつ人の所得保障の検討がまったくないまま構造改革が進んでいます。どんな仲間や活躍の場があっても一人ひとりの不安を解消することにはなっていないのです。また、所得保障があると仕事をしない、というのはウソです。計画的に自分の経済生活ができることで、プライドを持って自分の安心した働きができる人々を私たちは見てきました。現在約600万人に近い障害者のなかで、障害年金を受けている人は160万人前後です。しかも8割は障害基礎年金です。低額の定額です。1級で8万3000円、2級で6万7000円。無年金者が、3人に1人。さらに身体障害者・精神障害者・知的障害者では年金の趣は変わります。65才以上では老齢年金を受けながらという人も身体障害者には多い。身体障害者でも中途障害者になった人たちに無年金者が多い。また知的障害者は多く自活していますが、軽度の方は受給が難しい。障害認定基礎の問題です。精神も、271万人のなかで受給しているのは30万人と、多数が無年金状態です。
 認定基準の問題は、国会や内閣を通さなくてもいい。省令の問題だから厚生省だけで変えられる。生活の障害の評価基準をどう変えさせるかは、私たち障害者側の責任だと思います。私たちは自分の問題にすべきだと思います。8割が障害基礎年金ということは、低額で、生活保護以下の年金です。

 生活保護の問題について

 いま生活保護は90万人弱です。生活保護基準以下の人が受けたとしたら3倍になります。つまり必要な人の3割しか受けていない。それ以下でも歯をくいしばっているのが現実、特に障害者の中には多いと思います。90万人の9割が、障害者や高齢者や母子です。こういう現実を私たちはどう見るのか。最終的には生活保護があると職員が思っているとしたら、そこから変えないといけないと思います。つまり、生活保護は一時的な困窮に対してのものであってほしいのですが、長期的に受けるということは、長期的に資産調査をされ扶養義務を問われ続けるという問題があります。
 それから手当です。東京都は他県に比べてかなり高い介護手当などが支給されていますが、石原都知事になって大きくカットされてきています。現実にある県格差をどうしたらいいか。私は地域で生活を定着させる所得保障の確立をきちんとしなければ、組み立てを間違えるのではと思っています。


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