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国際セミナー「障害者権利条約制定への国際NGOコーカスの活動について」

■質疑応答

コーディネーター JDF幹事会 議長 藤井克徳

藤井 トーマス・ラガウォールさんからは包括的なお話がありました。特に印象に残ったのは、「採択されることは ほぼ確定的だけれども、問題はそのレベル、その水準、そしてその内容である」というご発言と、最後に言われた4つのメッセージです。 条約の採択は必要である。モニタリングメカニズムを強力にしていく必要がある。子どもの権利条約同様、いかに批准する国を増やしていくのか、 批准にとどまらず、その国において実施、実際の効果をあげていくことが必要であるという4つです。

 金さんからは、わが国の障害者の権利条約をめぐる動向をお話ししてもらったのですが、中身については3点ありました。 1つは差別の定義、2つ目には合理的配慮ということ、3つ目にはモニタリングメカニズムをどうするのかということです。 特に2つ目の合理的配慮については、今の草案では教育と雇用に強く言われていますが、実は条約全体に関わってくる問題ではないか。 つまり障害問題の根幹にふれる部分で、合理的配慮を今後どう考えていくのか。自由権という非常に強い中身をもつだけに、 それをあまり主張すると逆に条約の制定を難しくしてしまうということもありますが、これは雇用・教育だけでいいのだろうかという提起 もありました。

 各省庁横断的に条約の対応の推進チームをつくっている内閣府の依田参事官が今日はいらっしゃっています。 少しそのあたりの状況を初めに補足的にお話ししていただき、質疑応答に入っていこうと思います。

条約対応推進チームの動き

内閣府 障害担当参事官 依田晶男

 ラガウォールさんには昨日も内閣府においでいただき、有益な意見交換をさせていただきました。今日また新しいRIの取り組み、 権利条約の動きについて、これまで私どもが把握していた以外の話も含めてお話をうかがわせていただきました。

 日本政府でも障害者の権利条約の制定は大変重要な課題と考えて、各省庁横断的に取り組む体制をとっているところです。 政府には総理大臣を本部長とした障害者施策推進本部があり、すべての国務大臣がメンバーになっています。

 本部は、閣僚級のメンバーのみではフットワークが悪くなる部分もあるので、その下に省庁が横断的に取り組む課題について 関係省庁が集まって、会議ではなくてチームとして取り組む体制をつくっています。現在、6つの分野においてチームを動かしているのですが、 そのうちの1つに昨年6月に設置された、障害者権利条約への対応について検討するチームがあります。

 これは条約ですので、対外的には外務省を窓口にして取り組んでいます。通常国際的な条約をつくる時には、国連などの国際機関で 議論をして原案がつくられて、それが外務省ルートを通じて、各省に送られ、これで大丈夫かどうかを、どちらかというとネガティブに チェックしていくというつくり方が通常です。

 ただ今回の条約については、通常の条約とは違い、国連の場でもNGOが幅広く参加して政府機関と一緒になって議論をしていく 体制がとられています。日本政府もJDFなどのNGOとも連携を密にしながら、国内でもどのような対応をしていくのかを一緒になって 考えていく体制をつくってきています。

 チームとNGOで意見交換をしながら、また、チームメンバーは各省横断的にそれぞれ問題を抱えているわけですが、認識を共通にしながら 取り組んでいます。合理的配慮に関しても一緒に勉強しながら取り組んでいます。

 先ほどモニタリングの話もありましたが、条約には通常、国際的なモニタリングがありますが、条約を受けてどう対応していくのかと なると、国内の法制度の話になってきます。これは障害者に関わる施策の話ですので、障害者施策推進本部を中心にして各省で共通の認識 のもとに取り組んでいく必要があると思います。また、当然のことながら実際にどのように取り組まれているのかについては、国内でのモニタ リング的なことも障害者施策推進本部が担っていくべきだろうと思っています。

 現在は条約交渉の段階なので対外的には外務省を窓口にして、国内的には内閣府を中心に各省庁が連携して、 権利条約をよりよいものにするために、日本政府としてどういう貢献ができるかも含めて考えている状況です。以上、状況をご報告しました。

藤井 条約なので窓口は外交的には外務省で、一方で内閣府にある障害者施策推進本部の中に条約対応推進チームを つくったということですが、主導的な役割、関係性についてをもう少しお話ししていただけませんか。

依田 この条約に関する推進チームは、外務省が主任になっていて、それに私ども内閣府が副主任となり、関係省庁がメンバー で加わっているという体制です。ですから、条約の制定過程に向けては外務省が中心になって、取り組み体制をとっています。決して外交面と国内面を 切り離して考えているわけではなくて、一応外務省を中心に取り組んでいると理解していただければと思います。

藤井 政府の動きがよくわかったと思います。ではこれから先はフロアからご質問を受けます。

「ハビリテーションとリハビリテーション」に関するRIの考え方など

質問者 東京大学の長瀬と申します。障害分野では育成会の国際活動委員長、またJDFでは金さんと同じ権利条約の委員会に 属しています。

 ラガウォールさんの話は本当に参考になりました。私は90年代の初めに国連の事務局の障害者班におりました。ラガウォールさんの出身国である スウェーデンはパルメ首相、リンクビスト社会相の時代から、国連でも積極的に障害者分野をリードしてくださっています。その点について感謝を申し 上げたいと思います。

 また、ラガウォールさんのお話の中でRIはIDAのメンバーで唯一ニューヨークに事務所を構えているというお話がありましたが、 国際NGOコーカスの活動においても、ラガウォールさんの指導力のもと、RIからはIDA、JDFにも多くのサポートをしていただいています。 それはロジスティックス面だけではなくて、今日のお話にもありましたが、先週国連で何があった、どういった動きがあるといった点についても、 具体的で最新の情報をさまざまな形で発信していただいているという点について深く感謝を申し上げたいと思います。

 この条約の制定過程は結果と同じぐらいプロセスも重要だと考えています。そのプロセスを歴史的に残す英文サマリーの作成についても前回からRI がイニシアチブをとってやっていただいているということについても深く感謝を申し上げます。

 質問の第1点です。先ほどのお話の中で簡単にふれていただいた健康とリハビリテーションに関する点で、21条の[ヘルスケア]と21条bisの [ハビリテーションとリハビリテーション]、これに関してもう少し詳細にRIとしての立場をご説明願いたいと思います。

 第2点として、今年はアフリカの年、開発の年というように途上国の問題に脚光が当てられていて、非常にうれしく思います。 90年代を通じて日本は世界のメジャー・ドナーとしてODA(政府開発援助)は世界一でしたが、財政上のこともあり21世紀に入ってから続けられなく なってきています。しかし、国際的なテロの問題などの関連からODAを増やすことは絶対必要だと考えますし、また、この条約の議論の中では 第24条第2次案〔国際協力〕として取り上げられることになっていますが、これについてJDFとしても非常に重要な点だと考えています。

 開発援助での障害の配慮という点についてはJDFとしても重要なポイントだと考えていますが、ラガウォールさんのSida(スウェーデン 国際開発協力庁)での経験も含めて、具体的にどのような形で開発援助の中に障害を含めていくのかをお話しいただけますか。

 タイのモンティエンさんは「ディスアビリティ・インクルーシブ・ディベロップメント」という表現も使っていらっしゃいましたが、 Sidaは障害に関するガイドラインも80年代にすでに策定し、パイオニア的な役割をスウェーデンは果たしてきていると思いますので、そういった点を 含めて具体的なアドバイスをいただければ幸いです。

 最後に、次回の第6回特別委員会の具体的な作業の進め方はまだ出ていません。コーカスとしては後半の部分について第2読の作業は行わず、 すぐに非公式交渉を開始すべきだという点を、前回の特別委員会でも主張しましたが、もしそのあたりについて情報があれば教えていただきたいと思います。

藤井 1点目は、健康とリハビリテーション、ハビリテーションについて、2点目は国際協力に関してで、具体的には 発展途上国支援と条約について、3点目は第6回の特別委員会の見通しについて、これらについて現段階でわかっている範囲でお話いただけますか。

ハビリテーションとリハビリテーションとの違い

ラガウォール ここ何年かにわたり、長瀬さんからはいつも大変重要で、興味深いEメールを送っていただきまして、 長瀬さんは私どもの非常に重要な支持者です。こちらがご質問に回答すると、またそれについてすぐにご質問のEメールをいただき、 大変貴重な意見交換をさせていただいています。

 まず1点目のご質問の第21条についてです。これはRIでポジションペーパーを作成しています。もし、お持ちでない場合はリハビリテーション 協会で入手できると思います。その中で、ハビリテーションとリハビリテーションの違いについて述べられています。 「ハビリテーション」といった場合には、一般的に障害をもって生まれた方へのサポートになり、また、「リハビリテーション」の場合は、 後天的に障害をもたれた方への施策と位置づけられています。長瀬さんが所属するIIのメンバー国のうち、特にスカンジナビア諸国においては、 すでにハビリテーションの施策がリハビリテーションは違った形で行われています。

 このポジションペーパーの中では、特に貧困を抱える国における障害者のうちの多くは、リハビリテーションを受けていないし、 受けたこともない人たちが非常に多いと述べています。

 リハビリテーションが医学的処置のみを意味する、という誤った考え方がある、ということなのですが、医学的リハビリテーションは多く のリハビリテーションの概念のうちの1つとして必要なアクションなのです。 2つ目の質問は、国連の言葉でLDC(Least Developed Countries)、 すなわち後発開発途上国へ向けての支援についてだったと思います。まず、この条約の実施責任は各国の政府にあるということを申し上げたいと思います。 つまり、たとえばベトナムならベトナム国内、ラオスであればラオス国内で起きていることに政府が責任をもつということです。しかし、非常に貧しい国、 資源が非常に限られた国においては障害者のニーズに応えることが難しく、それは優先度としてはかなり低いものとなり、 後回しにされてしまう可能性があります。

 比較的豊かな先進国で暮らすわれわれとしては、政府が国内の障害者のことだけを考えるのではなくて、同時に貧しい国にいる何百万人という 障害をもつ人たちに対しても責任を果たすべきではないかと考えます。

 スウェーデンの取り組みについてのご質問がありました。私はスウェーデン出身ですが、その前にもう1つあげたい国があります。 世界で、人口1人当たりで最も多くの障害者へのサポートをしている国はノルウェーです。

 ノルウェーには「アトラス連盟」という組織があり、これは障害者団体が運営する組織です。そして、ここに対しての資金は、日本のJICAに 相当するNoradという機関から出ています。他の資金調達の方法としては「テレソン(テレビマラソン)」と呼ばれているチャリティ・テレビ番組を 放送し、そこに電話をすることで寄付ができるといったルートももっています。

 スカンジナビア諸国4国各々にはそのような障害団体自ら開発協力をおこなう組織が必ずあります。それぞれの組織は各国政府および独自の 資金調達の方法によって賄われています。

 同時に、それらの団体は政府に働きかけて、開発協力のプログラムの中に障害を含めるように求めています。たとえば教育プログラムに子どもたち を学校に行かせるプログラムがあるとすると、その中に必ず障害児も学校に行かせることが含まれるわけです。

 3週間前、米州開発銀行とスウェーデン政府との共同のプログラムがあり、私はホンジュラスに行きました。そのとき私が大変驚き、 うれしかったのは、ホンジュラスに対して2番目に大きな貢献をしている国は日本だったことです。これに対しては本当に皆さまにお礼とお祝いを 申し上げます。年によっても異なりますが、大変遠い国であるホンジュラスへの日本の協力は大きく、特に障害分野では重要な貢献を果たしています。

 皆さまの団体を通じての援助もそうですし、また、政府に働きかけをして、それらのプログラムの中に障害を含むことを推し進めることを続けていって いただきたいと思います。

 第3番目のご質問は、第6回特別委員会についてでしたが、NGOの積極的および強力な参加を可能にすることができるミーティングの 開催方法について、今、マッケイ大使が一生懸命考えられていると思います。現在の交渉は非公式な形で行われていますが、NGOの参加を促進する ための1つの方法としてそれを公式な交渉とすることも考えられています。でも、それには若干のリスクもあるわけです。つまり、中には閉鎖された 非公式なプロセスでおこなうべきであると言う国があるかもしれない。そうなれば、状況は今より悪くなってしまいます。 マッケイ大使の賢明さには敬意を表しますが、中には市民社会が交渉のプロセスに積極的に参加することに対して反発する国もあるのです。

条約における教育について

質問者 古川年明と申します。日頃よりRIの定めたインターナショナル・シンボル・オブ・アクセシビリティの正しい考え方 やリハビリテーションの仕組みなどを、リハビリテーションを実際に体験した者として学校や社会に伝える活動をしています。そこで質問します。

 条約のなかに教育の分野がありますが、そこには「障害をもって生活する人に対しての教育」について書かれています。それでは 「現在障害をもってはいないが、もしかしたらこれから障害をもって生活するかもしれない人たち」に向けての教育活動についての考え方は 条約にはあるのでしょうか。リハビリテーションという権利確立のためには、社会全体で条約の内容を理解して、その価値観を共有していく ことが必要だと思います。そういった活動についての取り組みもあるのでしょうか。

国連のミレニアム開発目標における障害者関連の要項

質問者 アジア経済研究所の森と申します。先ほど国連のミレニアム開発に向けた目標のお話がありました。国連のミレニア ム開発目標との関連で、現在議論されている障害者関連のことでおうかがいします。

 今年2月、国連のミレニアム開発目標の評価報告が国連に提出されましたが、その内容に障害者関連のことが一切なかったと聞いております。 将来国連で権利条約をつくっていく時、そこに障害者関係のことを入れていただくように要求する必要があると思いますがいかがでしょうか。 またNGOコーカスとしてこのあたりのことについて何か情報を聞いておられるでしょうか。

ラガウォール 一番最後のご質問からお答えしたいと思います。国連のミレニアム開発目標については、もちろんNGOとして、 RIにもコメントを求められてはいるのですが、より重要なのは政府ということになります。

 たとえば日本の首相や代表がプレゼンテーションの中で、障害ということを含めてメッセージを発したら、世界に対して非常に影響力を与えると いうことになります。

「人権教育及び人権啓発の促進に関する法律」の充実を

 古川さんの質問の趣旨は、障害者の人権に関する教育や啓発、一般市民に訴えるという内容が条約の草案にあるのか ということでいいですか。それに関連すると思われる部分が作業部会草案にあります。

 第5条に、「障害のある人に対する肯定的態度の促進」という条文があるのです。これが作業部会草案の段階ではどうなっているか要点だけお伝 えします。(a)項に「障害および障害のある人についての社会全体の意識向上」、(b)項に「障害のある人に対する固定的観念および偏見との闘い」 ということが示されています。これが作業部会草案で最初に示されて、昨年の第4回の特別委員会で審議されて、第4回特別委員会が終わった後に コーディネーターの報告書が出され、若干追加された文言があります。(a)項については「障害および障害のある人についての社会全体の意識向上」 の後に、「障害のある人の権利の尊重の育成」という文言を付け加えることが報告されています。(b)項は「障害のある人に対する固定観念および偏見 との闘い」の前に、「あらゆる生活領域における」という文言を付け加えるということが述べられています。そのようなことが第4回特別委員会では審議 され確認されています。

 この点について、日本国内の関連する法律はどうなのかということですが、「障害者白書」で障害者の人権に関する理解促進は重要な課題としてよく 取り上げられています。あと思いつくのは、「人権教育及び人権啓発の促進に関する法律」が2000年につくられています。これはあらゆる人権問題を対 象にした教育啓発促進のための法律です。その中に障害者問題についての項目があるので、今紹介した条約の趣旨に照らして、そこをもっと中身のある ものに見直すことが必要だと思います。

藤井 ラガウォールさん、森さんからミレニアム開発目標の中に障害分野が将来的に入っているかというご質問がありましたが、 お答えください。

国の代表がメッセージの発信を

ラガウォール 今後、ミレニアム開発目標の中に障害分野が入ってくるかどうか、ということに関しては、 国連の事務局で取り扱っている問題なので、私たちはわかりません。今、国連の事務局には見直しをするグループがありますが、 私たちはそこには直接的に関わることはできないことになっています。今後、このことについては、IDAから提言をしていけるのではないかと思います。

手話と音声言語の差別をなくすことが世界の言語間の差別解消につながる

質問者 全日本ろうあ連盟の高田です。これは直接条約に関わらない問題だと思いますが、ラガウォールさんのお話に 「プロセスの内容を日本語に訳すのは疲れてしまうのではないか」という内容がありました。私たちがこういった権利条約に期待することを冊子 にして配っているのは、障害者自身がこの条約の内容を知る必要がある、また、国民に条約の内容を理解してもらいたいという思いがあるからです。 私たちが一番困難を感じたのは、国連から発行される文書がすべて英語であるということです。だから、国内でまず日本語に翻訳しなければならず、 膨大なエネルギーが必要です。幸い日本の場合、いくつもの障害者団体が協力し合って翻訳して、条約に関する討議の内容を国内に広めています。

 でも、多くの発展途上国ではそういうことはほとんど不可能だと思います。権利条約の内容について発展途上国では障害者はもちろん、 一般の人たちも理解する機会がありません。私は聴覚に障害があり、だから手話は言語であると主張しています。音声言語と手話の間に差別がある、 それが問題だと主張しているのですが、それは手話と音声言語の間の問題だけではなくて、世界の各国語の間に大きな差別があると思うのです。

 国連の公用語は6か国語に定められています。それは第2次世界大戦の戦勝国の言語がそのまま採用されているわけです。 でも、こういった戦後は早く終わらせるべきだと思います。言語間の差別は各国間、南北間の差別を拡大している面があるかと思います。 私たちが手話と音声言語の間の差別をなくそうと主張していることが、今度は世界の言語間の差別をなくすということに結びついていけばよい と思っています。

藤井 最後にラガウォールさんと金さんから一言ずつ感想、メッセージをお願いできますか。

次回は条約の実施についての話を

ラガウォール 教育に関してRIの取り組みとして、障害児も含むすべての子どもたちを対象にしたインクルーシブ教育という取り組みがあります。それについて述べられているのが『ワン・イン・テン(10人に1人)』という出版物(RIとユニセフが共同で出版:http://www.rehab-international.org/publications/index.html)です。

 それからマスコミを通じての教育啓発に関しては、『メディアと障害』というタイトルのメディアと障害にスポットライトを当てる出版物 (http://www.rehab-international.org/publications/media_report/index.html)の中では、いかに新聞、映画などさまざまなメディアを通じて障害に 対する理解を深めていくことが重要であるかが触れられています。

 それからアクセスについてのご質問があったと思いますが、情報通信技術のアクセシビリティについては、世界的にこの運動を推進している河村宏 さんに聞いていただければすべてわかると思います。視覚、聴覚障害のある方が新しい情報技術やメディアにどうアクセスしたらいいのかということも含め、 お話しいただけるのではないかと思います。それに関して「世界情報社会サミット」が11月にチュニジアで行われることになっています。

 私が条約のプロセスについてお話をさせていただくのは今回で2回目になります。このような機会を与えていただけましたことに感謝申し上げるとと もに、次回私が参ります時には、「条約をどのように実施しましょうか」というお話ができることを願っております。

欠格条項へのさらなる取り組みが必要

 今日はどうもありがとうございました。私もニューヨークの特別委員会に行くたびにトーマス・ラガウォールさんをよくお見か けして、ゆっくりお話ができればいいと思いながら、機会がなかったのですが、今日、運よく日本で同席をさせていただいて、直接意見を交わし合うこと ができたことに感謝申し上げたいと思います。

 改めて最近思ったことですが、これはJDFの条約委員会でも今、議論をしているところですが、作業部会草案に基づいて特別委員会で審議をされた 報告が、特別委員会のコーディネーター報告として取りまとめられて各国に紹介されます。作業部会草案とコーディネーター報告の中で確認されている点が、 たとえば日本国内の障害者法制度にどのような影響をおよぼし、どのようなギャップがあるのかという点を、JDFの条約委員会、差別禁止等権利法制に 関係する専門委員会で一つひとつ条文に沿ってチェックしていくことが必要だと思います。そうしないと仮に首尾よく2年後ぐらいに条約が国連で採択 されて日本政府が批准したとしても、結局きちんとした見直しにはつながらないのではないかと思います。

 政府、関係省庁との意見交換でも、関係省庁は条約が採択された後は、法律の見直しはできるだけ抑える形で進めたいということを耳にします。 意見交換をしていてもいまひとつ積極的でないという部分も正直あるものですから、内閣府の依田さんもいろいろご苦労されているかとは思います。

 例えば、障害者の欠格条項についての見直しが2002年で一区切りつきました。資格試験を受ける時の欠格条項はなくなりましたが、 では実際に試験を受ける時の条件整備が、本当に障害ごとに行われているのでしょうか。これは合理的配慮にもつながる話です。大学などでの障害 をもっている学生の受け入れが、ノートテイクなどを含めてきちんと行われているのか。そういったことを話し合うために内閣府に間に入ってもらって、 各省庁との話し合いの場をもちました。

 その時に自動車運転免許に関する警察庁との話し合いをしましたが、欠格条項の見直しをされた結果、精神障害に関わる部分では、 「幻覚症状を伴う精神病」は認めないということが、法律の本則に残ってしまったのです。これは明らかに「精神病」という言葉を使っているわけです。 警察庁は、「幻覚症状を伴う精神病」という言い方をしているのであって、決して病名を特定しているわけではないと繰り返しおっしゃいました。 結局議論は平行線をたどりました。私たちは病名、障害名を特定して、こういう病名、障害をもっている人は一律にダメだということは欠格条項に当たり、 それが差別や偏見を助長することになるとずっと言ってきたわけです。そのあたりの認識で省庁との間にはまだギャップがあります。 運転をする場合に必要な認知や判断ができるかできないかで決めればいいはずなのですが、そこにどうしても「精神病」という言葉をつけてしまうのが 今の現状です。

 そういった例にも見られるように、国内的な法制の中で差別につながるような基準、規定がまだ残っているということをチェックしながら、 権利条約の策定の取り組みに積極的に参加していかなければいけないと改めて感じました。

藤井 先ほど「条約疲れ」という言葉が出ました。条約をつくっていくというのは非常に消耗することなのです。 考えてみると子どもの権利条約は、発議されて採択されるまで12年かかりました。障害者の権利条約は提唱があってからまだ4年足らずです。 「条約疲れ」などと言わないで、がんばっていこうではありませんか。私は、障害者問題は、ある面では体力が勝負だと思っています。 もちろん気力も知力もいりますが、ねばり強さがとても大事なような気がします。 ただつくるだけでは駄目なのです。ラガウォールさんがおっしゃるように、今の段階ではつくられることは確定的でしょう。 ですから、いかに国内の関連法制に影響をおよぼすかを考えるのならば、やはり高いレベルのものをつくることに向かって今は エネルギーを傾注すべきです。 体力は消耗しますが、一番エネルギーを増幅できるのはこういう学習の場だと思うのです。今後もたびたびこういう場をもちながらエネルギーを増幅 させていきたいと思います。ありがとうございました。