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国際セミナー「障害者権利条約制定への国際NGOコーカスの活動について」

報告講演 「障害者権利条約制定へ向けた日本の取り組み」

JDF権利条約委員会委員長 金 政玉 

 私は1997年にDPI日本会議の事務局のメンバーとして仕事をすることになったのですが、その後、先ほどラガウォールさんからの報告にもあった1993年の 国連で採択された「障害者の機会均等化の基準規則」に関する資料で、国連・障害者の十年の中間年である80年代の中頃に、すでに権利条約についての議論が 国際的な専門家会議で行われていたことを知りました。私は10年以上、その事実を知らなかったことがわかり、ショックでした。

 条約に関する最初の動きを知らないままに障害者問題に関わっていた自分は、国際的な動きから遅れていることになりますが、それは自分だけなのだろうか と見てみると、研究者の方も含めて私の周辺でもあまり認識していない人がかなりいたようでした。日本の障害者運動が、国際的な人権に関する動き、 特に障害者の人権状況に関する動きにまだ追いついていない現状があることを、その時感じたのを覚えています。

 障害者権利条約の策定に向けた日本国内における取り組みに参加することで、国際的な議論の水準の中に私たちも参加できているのだという実感を改めてもって いるところです。

国連・障害者権利条約特別委員会への派遣団の参加

 JDFには課題ごとの4つの専門委員会があって、その1つが条約推進に関する専門委員会です。

 2001年12月に国連の総会で障害者の権利条約の策定、必要性も含めて検討を行う特別委員会の設置が決議されて、2002年の第1回特別委員会が開かれました。 JDFに参加している構成団体の関係者で派遣団をつくって、2002年の第1回特別委員会から、現在まで委員会があるたびに派遣団を組織して参加しています。

 2003年6月の第2回特別委員会から私は参加しています。私は英語ができないので、通訳がいないとコミュニケーションがとれず、 通訳の方も一緒に派遣団に入ってもらって特別委員会に参加しました。その中でさまざまな人たちと出会い、イベントにも参加しました。 障害関係のNGOの人たちが一緒に特別委員会に参加して、それぞれの障害のある立場から条約の各重要な論点について、忌憚なく自由に、 積極的に発言をされて、非常に刺激を受けました。かけがえのない経験をさせてもらっています。

政府・国会議員・NGOとの連携

 特に第2回特別委員会から日本の外務省の人権人道課を窓口にして、特別委員会の参加前と後にそれぞれ意見交換を行う場をもつようになりました。 それを特別委員会があるたびに重ねています。NGOの推薦で、障害を持つ当事者であり、障害者の人権問題に精通している東俊裕弁護士にも特別委員会 に参加する日本政府代表団に入っていただいて、一緒に参加することができています。

 昨年(2004年)8月の第4回特別委員会には国会議員が5人ほど私たちの呼びかけに応えてくれて、一緒に参加することができました。 2週間の会期の中で特別委員会が行われる合間を縫って、JDFと国連の日本政府代表団と共催でサイドイベントも開催しました。そこに日本からの国会議員 も参加しました。テーマは、1回目は条約の議論の中で重要な論点になっている合理的配慮に関して、特に教育と雇用の問題を中心に、 2回目は条約の一般的意義についてでした。

 サイドイベントには70人から多い時で100人近くの参加者を得たのですが、日本政府とNGOと国会議員が連携して積極的な取り組みを行っているということが 国際的にも注目されてきたと言えると思います。

国連障害者の権利条約推進議員連盟の発足

 去年の第4回特別委員会で国会議員が5名ほど参加されたことを契機に、今年の2月、123名の衆参両院の議員が入会をして超党派で議員連盟を発足すること ができました。事務局長に八代英太議員、副会長に各政党の責任者の議員が入っています。JDFの条約委員会としても、議員連盟との連携を今後積極的に進め、 条約の内容に関わる重要なテーマについてのセミナーなども適宜開催できればと思っています。8月にある第6回特別委員会に一緒に参加することも呼びかけて いきたいと思っています。

 条約の作業部会草案が去年の1月にでき、 条約委員会で学習会なども積み重ね、それをもとにJDFとしての意見をとりまとめて、昨年4月に外務大臣に提出 しました。

 その後5月にも各条文ごとの重要な条項について意見をまとめた要望事項を、第3回特別委員会に提出をして、国連のホームページにも掲載されました。

 本日のセミナー資料には、要望事項が全部で9項目ありますが、これまでの政府との意見交換会で議論になっている点であると理解していただきたいと思います。 今、内閣府では省庁横断的に条約対応推進チームが設置されています。JDFとの意見交換会には内閣府に設置された条約対応推進チームとして対応してもらって います。

要望事項のポイント

 ポイントを絞って4点ほど要望事項を簡単にご紹介させていただきます。

 1つは草案第3条に関わる「言語」の定義についてです。政府との意見交換会の際に、まず前提として手話を言語として認めるべきだという意見が 全日本ろうあ連盟の高田さんをはじめ、担当者の方から出ています。その後、全難聴の皆さんからも積極的に意見が出て、「文字による表示」、 「文字によるコミュニケーション」を言語の定義の中に明記することを要望しました。第3条の草案には現在のところ「文字による表記」、 「文字によるコミュニケーション」という文言は明記されていません。今後の条約の内容に関する議論で、特別委員会でも日本政府にこの点はぜひ 提案をしてほしい、と意見交換会では議論をしているところです。

 2番目に作業部会草案の第7条にある「差別」の定義に関することです。作業部会草案では類型として4つの差別の形態があるとされています。 1つ目は直接差別、2つ目に間接差別、3つ目が体系的な差別、4つ目が認識された障害による差別です。

 これはいろいろな議論があって、まだ整理をしている最中です。昨年の通常国会で障害者基本法の第3条の基本的理念に「障害を理由とする差別を禁止する」 という文言が入りました。しかしながらまだ抽象的な表現にとどまり、実際に起こる差別を具体的にそれぞれの状況に応じてどのように理解をする必要があるか 考えていく必要があると思います。一般的に差別はいけないといっても、ではどういうことが差別に当たるのかということがきちんと解釈できる物差しがやはり 必要だと思います。

 そういった意味では差別に4つの形態があると作業部会草案の段階で言われていることは、今後の日本での差別禁止の法制度を考える時に、 差別をどのように定義するかの参考にしていく必要があると思います。

 3番目の重要な要望は、合理的配慮に関することです。特に私が個人的にも注目している点について申し上げます。作業部会草案では、各条文との関係で、 教育と雇用の部分に合理的配慮が明記されています。

 しかし雇用と教育だけに合理的配慮をとどめていいものかどうなのか。障害者の生活のいろいろな場面でもっと合理的配慮の必要性があるのではないか と思います。どこまでの範囲で合理的配慮を考えていくのかはこれからの論点になるわけですが、基本的には、合理的配慮は自由権に関わる重要な考え方だと 思います。

 今の国際人権の考え方では自由権は市民的な権利として即時的に実施をしなければいけないとされています。その中で合理的配慮の考え方を位置づけていった 場合に、合理的配慮に当たるものはすべて即時的な実施義務が課せられてしまうのでしょうか。それはかなり大変で、無理ではないかということが、 教育や雇用の問題の中にも出てきます。それ以外にもたとえば政治参加は基本的市民権の重要な一部ですから、政見放送などの手話通訳は、 即時的な実施義務として扱わなければならないことは一般的な解釈だと思います。しかし、選挙があるたびにすべての点で手話通訳を義務づけることは 今の日本国内の状況で可能かとなると、やはりまだ多くの制約があります。

 政治参加が実現できるための条件整備を制度としてどのようにつくっていけばいいでしょうか。ただ抽象的に条件整備をしなければいけないということ をいくら確認し合っても、それはそのままでとどまってしまいます。ですから、たとえば年限を区切っていつまでにこういう計画で条件整備を図っていくと いうように、実効性のある計画をつくっていくことがこれから求められてくるのではないかと思います。

 最後に、先ほどのラガウォールさんからも指摘をされていたモニタリングについてです。作業部会草案では国際的なモニタリングの仕組みについては、 まだ草案の条文としては出されていません。次回の8月の第6回特別委員会でモニタリングが審議にかけられるのかどうかはわかりません。議事進行のプログラムが 1か月前でないと出ないのでまだはっきりしていませんが、次回の特別委員会で審議される可能性は十分にあるかと思います。

 既存の条約には「定期報告審査制度」があり、ジュネーブに人権委員会、それぞれの条約の委員会があります。そこで定期的に、たとえば3年に1回、 5年に1回、批准をした国が政府報告を出して、その政府報告に対してNGOからもカウンターレポートを出して、両方のレポートをモニタリングする委員会 で審査をします。それが定期報告審査制度です。障害者権利条約でもきちんと仕組みとして定期報告審査制度をつくっていくべきだと思います。

 国内におけるモニタリングの仕組みをどのようにつくるかも非常に大きな1つの論点になっているかと思います。政府とJDFとの間で意見交換会を積み重ねて、 政府に条約対応推進チームができて、今後の条約の策定、その後の実施状況についてもNGOと一緒に議論をしながら考えていくことになっています。 その仕組みづくりにおいては重要なステップができています。そういった状況を生かして、JDFの委員会としても取り組みをしていきたいと思います。

条約の早期制定を

 ラガウォールさんからは、条約策定に向けてさまざまな取り組みの積み重ねの結果、疲れている部分があるのではないかというお話がありましたが、 私もその言葉は身にしみるものがあります。JDFの条約の委員会で事務局を担当しているということもあって、特別委員会があるたびに、 派遣団のコーディネートも含めてさまざまなことをやっていかなければいけないので、そろそろ条約ができてほしいというのが率直な気持ちです。

 先ほど、2年ぐらいをめどにというお話がありました。私もぜひ2年以内には遅くてもできてほしいと思います。なぜかと言うと、皆さんもご存じのよう に昨年の通常国会で10年ぶりに改正された障害者基本法において、付帯決議ではなくて、法律の一部の附則に「改正障害者基本法の施行後、 5年をめどに改正障害者基本法の実施状況を検討して、その結果、必要な措置を講じる」と明記されました。これは法律の一部として言われていることに 意味があると思います。

 必要な措置は、国会でも確認されていることですが、当然法的な措置も求められるでしょう。

 権利条約ができた時点ですぐに批准をして、国内法の見直し作業、検討作業に具体的に入っていく中で、2008年か2009年あたりで 障害者基本法の実施状況を検討して必要な措置を講じるかどうかを考えましょうとなるわけですから、ちょうど時期的にいいと思います 。ですから、2年後にはぜひ権利条約ができて、その時にすぐ日本政府が批准できるように、今から日本政府と、JDFを中心としたNGOは 効果的な協議を積み重ねていくことが必要です。2年後に国連で権利条約が採択されたら、日本政府も同時に国会で批准をし、 1、2年かけて国内法の見直しを障害者団体との参画と協議のもとに行い、次の新しい差別禁止法と権利法制の国内の枠組みをつくっていけるように つなげていきたいと思います。