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国際セミナー報告書「各国のソーシャル・ファームに対する支援」

講演3「その他EUにおけるソーシャル・ファームの状況」

フィリーダ・パービス
(リンクス・ジャパン代表)

講演を行なうバービス氏の写真

お招きいただき、本当にありがとうございます。

今日は、ヨーロッパの実例ということで、特にイギリスの実例に焦点を当ててお話をしたいと思っています。すでに、他の方々からドイツとイタリアの状況についてお話がありました。そして、ゲーロルドさんの方からは、ヨーロッパ全体、EUのモデルについてのお話もありました。ヨーロッパ連合、そして、その加盟国におきましては、障害を持つ人たちの権利を保障するような法律がもうできております。

ESF、ヨーロピアン・ソーシャル・ファームというのは、EUの中でソーシャル・ファームを促進するための組織となっています。もう一つ、CEFEC、セフェックというものがあります。これは1994年に設立された、ソーシャル・ファーム、雇用政策、そして社会的協同組合連合です。こちらは、EUレベルでの代表機関となっています。ヨーロッパにおけるネットワークづくりは、1980年代の初めに始まりました。ESFは、就労、仕事の維持、再就労の面で最大の困難を持つ人たちの状況を改善するという目的を掲げております。1994年から1999年にかけ、ESFは、EUの予算の10%を用いて加盟国に就労の可能性を高めるためのさまざまなプログラムを実施してきました。そのうちの一つがホライズンです。

ESFは、特別な政策により雇用主や障害を持つ従業員を支援しなければ、労働市場からの社会的排除の問題はなくならないということを認識しました。そして、ESFを立ち上げるにあたってEUは、不利な人たちが労働市場に参加するのに、たいへん困難な状況に立たされているということを認識しました。そして、加盟国においてボランティア活動等の伝統があり、社会的協同組合の伝統があるという、ソーシャル・エコノミーを育てる土壌があると考えたわけです。

ただ、ESFの運営には欠陥もあります。それは、小さなNGOはなかなか参加できないということです。これまでは、大きな組織、あるいは公共機関に焦点が置かれていました。というのは、認知度が高く、プログラムの影響力も非常に高いからです。小さなNGOが、ホライズンのようなコミュニティ・イニシアティブであれば参加することができるのですけれど、これはもう終わってしまいました。

さて、UKの現状ですが、ある統計によりますと現在1千万人以上の障害者がイギリスで暮らしており、全世帯の4分の1以上に成人の障害者が1人以上いるということになります。そして、その所得は、全国平均の60%以下です。障害の基準をいろいろな国のもので比較するというのは、たいへん興味深いものであります。これがなければ、国際比較はできないのですが、なかなかこの基準というものがはっきりしません。イギリスでの一般的な失業率は、政府の政策によってずいぶん下がったのですが、障害者の失業率は急増しています。こういう人たちは、福祉に頼らざるを得ないという状況になってしまっています。

障害者、あるいは何らかの理由で能力が低下した人たちは、貧困に陥るリスクが最も高い人たちです。これまで障害者差別禁止法が導入されたことによって、サービスや雇用機会の面での差別は禁止されました。ですから、サービスの利用、雇用機会というのは、障害を理由に制限されるということはなくなりました。しかし、法律はできたのですが、まだまだやらなければならないことがたくさんあるのです。なぜなら、もっとこのプラスのエンパワーメントを図っていかなければならず、そのためには、雇用機会を拡大しなければならないと考えるからです。それこそが、福祉に頼らずに生活していく能力を身につけることになるのではないか、と考えるからであります。

そして、2006年10月、新しいベネフィット・リンキング・ルールというものができました。このルールにより、これまで仕事がうまくいかないと手当てが貰えないという恐れがあったのですが、医師の証明書があれば、保護期間が2年間延長されことになりました。政府とEUは、先ほども申し上げましたけれども、障害を持つ人たちのために現実的な雇用を提供しようということで力を入れています。それは、社会福祉作業所ではないということです。このソーシャル・ファームのモデルにたいへん注目しています。非常にこれはタイムリーであり、歓迎すべきことであります。ただ、イギリスの場合はいささか遅きに失したという感じがいたします。やはりそれは、福祉が充実していたからだと思います。

さて、このソーシャル・ファームの発達ですが、イギリスにおいてはソーシャル・エンタープライズの発達というふうに見るべきでしょう。これは、まさに新しい政策のトップに位置づけられているのです。つまり、我々の健康、福祉、福利というのは、コミュニティの関係やネットワーク、協力と結びついているということが、認識されたからです。つまり、この社会的に不利な人たちが、企業で一人前の従業員として働くことによって、私たちは古い問題に対する新たな解決策を見いだすことができ、そして、地域社会の再生も図ることができる。また、このことによって、障害を持つ人たちを含めた人的資源を、今まで十分に使われていないというリソースがあることに気がつくのではないでしょうか。そして、それを新たなる社会的ニーズのために使うことができるようになるのではないかと考えられているわけです。

イギリス政府は、これまでのトップダウンの手当ての支給制度等は、非常に官僚的であるだけでなく、本質的に非民主的であると考えるようになってきました。何年にもわたって行われてきた改革は、あまりにも供給サイドのコスト削減に焦点が置かれてきたわけです。そして、今こそ人々に対して自分の生活のコントロールができるような能力をつけることが重要であり、そうすることで人々の地位向上を図ることができると政府は考えるようになったわけです。つまり、不利な人たちが、ソーシャル・エンタープライズに参加するということを、推奨するようになってきました。

このソーシャル・エンタープライズの本質は、ボランティアの活動の側面、政府の規律とダイナミックな運営を組み合わせたものというふうに考えられると思います。このソーシャル・エンタープライズのコンセプトは、最初にイギリス大使館の方がお話になったように、政府によって非常にきちんと受け止められており、実際に政府の政策、そして政府の各レベルにおける政策の中にも入れられています。そして、昨年(2006年)、首相府の中にNPO担当室という新しい省ができました。この首相府というのは、日本の内閣府に当たるのですが、2002年にできた通商産業省ソーシャル・エンタープライズ局の部門を統合したものです。また、イギリス政府は、このような整理統合の結果、幅広いサポートをNPOセクターに提供できるようになりました。たとえば、優遇税制、公共支出に関する優遇、能力開発、その他公共サービスに参入できるような機会を増やしたということです。

コンパクトというのを聞いたことがあるかと思いますが、これは、政府とNPOを結ぶものであり、1998年に導入されました。つまり、このNPO部門と政府が話し合って仕事の仕方を決めるというものです。そして、2000年に新しいイニシアティブができました。これは、ゲッティング・ブリテン・ギビング・パッケージといい、社会的福祉政策の一環です。つまり、NPOに対する寄付を促進しようというものです。そのことによって税控除の制度もずいぶん拡充されました。

そして、二つの重要な政策があります。2002年と2004年のクロス・カッティング・レビューというものが出ました。これは、NPOの部門がさらに公共サービスに参加できるように、という精神で出されたものです。そして、フューチャー・ビルダーズ・アンド・チェンジアップというイニシアティブもできました。2005年、この年は、世界ボランティア年だったのですが、ラッセル委員会の勧告実施が支援されました。このように、NPO部門に対しては、政府が様々な形で助成をしているわけです。特に、社会的不利な人たちのための自立を促進するという活動が行われており、その経済的自立を図るためにソーシャル・エンタープライズの概念が使われています。政府はその中で、ソーシャル・ファームのモデルに注目しています。ドイツ、イタリアのモデル、そして、それらの経験からずいぶん学ぶところは多いと考えています。現在のところ、イギリスにおいて、およそ50のソーシャル・ファームがあります。そして、今70の萌芽期にあるソーシャル・ファームがあります。そして、最新の統計では1,550人が雇われており、そのうちの55人が障害者であります。

そして、運営、持続可能なソーシャル・ファームを実現するためには、ビジネスと障害者への支援的雇用のバランスをとらなければなりません。三つの中心的な価値観をかかげておりまして、「企業」、「雇用」、そして「エンパワーメント」の3つです。

ソーシャル・ファームの定義について(講演3 資料P72『ソーシャルファームの説明』)ここでお見せしていますが、このスピーチの中では詳しくは述べません。この伝統的な支援雇用とは違って、ソーシャル・ファームは、現実的な雇用、仕事を提供します。これが大きな違いです。単なるシンボル的なものではないということです。ですから、最低賃金以上で雇ってもらえ、それを超える場合も多いのです。そして、きちんとした雇用契約を結んで雇用されます。ソーシャル・コーポラティブ、社会的協同組合のように、雇用契約がしっかりしているということです。

1999年ソーシャル・ファームUKというものができました。6つの中心的な要素から成る、全国ネットワーク組織です。支援的な労働環境を整備するための活動をしているのですが、そこに雇われた人たちは、仕事に慣れていませんから、やはりサポートは必要です。ですから、計画調整が必要であるというふうに考えられています。すべての従業員に、きちんと仕事のやり方を覚えてもらうということが重要であり、チームワーク精神を育てるということも重要です。また、ジョブ・コーチングにより技能の習得をしていただく。そして、トレーニング・マニュアルの使用ということも掲げられています。また、社会的協同組合のように当事者意識を育てるということ、従業員の価値を認めるということ、そのために現実的な仕事を提供するということが重要です。そしてまた、回復、リハビリテーション等の個人の向上が強調され、仲介的なアプローチをとって他に応用可能な技能を身につけ、地元の労働市場での仕事を見つけることができるようにすることが目的です。

ソーシャル・ファームUKは、2005年と2006年に調査を行いました。その調査結果を見ますと、ほとんどの組織が小さな組織であるということです。上部組織からは、独立しているのですが、始めたばかりの時にはいろいろな支援が必要です。社会的な志のある、革新的な起業家精神の人が立ち上げるというのが普通です。そして、その多くがいわゆる隙間市場に集中しています。たとえば、旅行、印刷、梱包、出張クリーニング、民宿、健康食品店、ガーデニング、グラフィック・デザイン、ケータリング、リサイクルビジネス等です。これらが主な事業種であると考えられます。

この調査の結果、ソーシャル・ファームは、持続可能な経営ができなければならず、そのためには、良い製品とサービスを提供していかなければなりません。同時に、スタート時には、非常にリスクも高いということです。ですから、最初の頃はお金もかかるわけです。また、長期的な関与が必要になるでしょう。少なくとも立ち上げるのに3年から5年くらいはかかると言われています。ビジネスという面から考えれば支援が必要であるということです。このイタリアの社会的な協同組合の場合には、ケアを提供するというビジネスが多いようですが、やはりきちんとしたビジネスができるということが必要になってくると思います。

さて、ソーシャル・ファームUKでは、いろいろな支援のためのツールを用意しています。ビジネスプランガイド、雇用プラン、職務規定を書いたカード、トレーニング・マニュアル、契約サンプル書、インターネットのマーケティング、さまざまなタイプのソーシャル・ファームのケーススタディ、どのような組織体にすればよいのかというアイディア等です。それから評価ツールも提供しております。

他のツールとしては、バリュー・ベースド・チェックリストというものがあります。これは、自己評価ツールです。その中には、成績計測ボードというものがあり、これは自らの進歩が一目で見られる表のようなもので、これを障害者が使えるわけです。

それから、ソーシャル・ファームUKは、ロビー活動もしております。そして、優先契約が得られるようになっています。10万ポンド以下の公共通達入札の場合には、そのお知らせが来ますし、また入札登録もすることができるようになっています。

また、社会的な影響力を与えるための基準づくりも行っています。

また、ソーシャル・ファーム賞も作っています。これまで試験的に10のファームが受賞しました。つまり、純粋な意味でのソーシャル・ファームであるか、健全な経営ができているか、質の高いサービスを行っているか、非常にきちんと地域社会に貢献しているか、また評判を高めるような活動をしているか、といったことです。多くのソーシャル・ファームのメンバーたちが協力して製品・サービスの販売を促進し、そこから新しいソーシャル・ファームが生まれ、フランチャイズ企業のできる可能性があると考えられています。つまり、よい活動をしているソーシャル・ファームを見つけ、いろいろなところで協力が得られるようにしています。

では、ここで一つ、イギリスで成功しているソーシャル・ファーム、Pack-ITの例を申し上げたいと思います。なぜこれを選んだかといいますと、ここは欧州のソーシャル・ファーム・オブ・ザ・イヤーという賞を2005年、2006年に受賞しています。ここは、梱包、流通、倉庫保管サービスを世界各地のお客様を対象に提供しています。2万平方フィートの倉庫面積があり、ウェールズのカーディフに位置しています。また、インターネットを使ったリアルタイムの在庫管理施設を持っています。梱包に加えて、様々な印刷、折り込み等を行っていますし、また、郵便宅配サービスも提供しています。

Pack-ITは、1988年に作られ、ここでは訓練を提供し、定職を知的障害者、その他の障害者に提供することを目指しました。従業員の半分はダウン症です。そして、彼らは、特に郵便の仕事を手がけています。重度の聴覚障害者もいますが、いずれも仕事に就き、賃金を貰い、そして、このような労働環境に置かれることによって多くのことを得ています。中にはたいへん成功し、他の仕事に就いた人たちもいます。会社で自信をつけ、転職した人たちもいます。Pack-ITは、イギリスの地方自治体が行った社会サービスプロジェクトの中で、ビジネスとして成功した唯一の例です。売り上げは、9年間で20倍になり、今現在140万ポンドとなっています。累積利益は、12万1,000ポンドです。これらの利益は、ソーシャル・ファームはどこでもそうですが、事業、人、機械へと再投資されています。そして、慎重な経営を進めています。昨年の成長は、5%を超えると見込まれています。

Pack-ITが台頭したのは、1994年、カーディフ郡の郡議会が助成金を廃止すると発表したことがきっかけでした。当時Pack-ITのトップにいたのが、ジョン・ベネットでした。彼らは、ここで助成金に頼る体質を捨てなければ、この先、生き残ることはできないと考えました。振り返ってみると当時、そういったことがあったことが、この会社の歴史の中で一番よかったと言えますが、当時は破産寸前であったともいえます。ベネット氏は印刷、マーケティングの経験がありましたので、それを生かして仕事を探しました。そこで一つ学んだことは、お客さんはいい仕事をしてほしいのであって、障害者が作った、作らないは関係がないのだ、ということがわかりました。Pack-ITは、他の事業と同様市場で競争することを身につけました。この会社は、今、拡張し、間もなく石鹸事業を始め、長期的には一般の人たちにセラミック、陶器を売るための工場直販店を作ろうとしています。今現在、ウェールズ州議会に働きかけ、立ち上げのための資金を求めています。これは、イギリスでの一つの成功例です。

では、次に、フィンランドの話をしたいと思います。フィンランド有数の組織からこの情報をいただきました。ベイツ・ファウンデーション、財団です。フィンランドでは、ソーシャル・エンタープライズという言葉をソーシャル・ファームに代わって使うことが多いのですが、やはりこの狙いも障害者の雇用、長期失業者といった不利な立場に立たされた人たちの雇用がメインですので、ここでは敢えてソーシャル・ファームという言葉を使います。

フィンランドには71のソーシャル・ファームがあり、約400人が雇用されています。そのうち半分が、今申し上げた障害者ないしは長期失業者です。平均しますとこれらのソーシャル・ファームの従業員数は7.5人、うち2.4人は障害者、1.1人が長期失業者です。NPO、またビジネス界のさまざまな方々と相談した結果、ソーシャル・エンタープライズのための法律が、2004年1月1日に施行されました。そして、ソーシャル・ファームが、新たな法人組織として、営利団体として認められるようになりました。少なくとも30%の従業員は障害者、そして長期失業者も加わることがあります。フィンランドのソーシャル・ファームは、イギリス同様、一般市場で競争、運営し、そして労働省に登録されます。労働省の基準に満たないものは登録されません。約半分の登録されたソーシャル・エンタープライズは、従来の正規の企業であり、そして、ソーシャル・エンタープライズの法律の基準を満たしています。いずれも小さな規模の企業です。

また、障害者団体は、今現在の議会に対して法の改正を求めています。3月の総選挙前になんとか改正を実現してほしいと考えています。これは、昨年12月に法案が出され、今現在審議中です。労働省、貿易産業省、社会保健事業省、失業者全国協会、ベイツ財団等々の代表により協議がなされ、法案ができあがりました。今現在の法律は、期待に十分に応えておらず、障害者ならびに長期失業者のための実質的な雇用が十分にもたらされているとは言えません。そこで、今求められているのは、賃金、助成金の引き上げ、そして適用期間の延長です。現在長期失業者が受けられる賃金補助は2年間、障害者は3年間となっていますが、金額は505ユーロないしは960ユーロが、毎月支払われています。ソーシャル・エンタープライズは、障害者ないしは長期失業者を雇った場合には、賃金に応じて助成金が支払われます。これは、労働者の生産力が低いということを踏まえての助成金です。また、通常の企業の場合もそうですが、新規に誰かを雇用した場合、月430ユーロから770ユーロの助成金が受けられます。正規の事業の場合は6か月、そしてソーシャル・エンタープライズには2年間、長期失業者の場合は受けられますし、障害者の場合は3年間支給されます。労働市場の助成金は、また使用者に対し月あたり930ユーロ、最初の年に支払われ、そして長期失業者の場合には1年目930ユーロ、2年目500ユーロ、障害者の場合は1、2年目にいずれも930ユーロが支払われます。

障害者を雇う場合には、たとえば新しい機械とか、あるいは、アクセスのための設備を投入しなくてはならないということで、これらの施設のために月あたり最大2,500ユーロも合わせて支払われることになっています。

また、新しいソーシャル・ファームを作る場合には、最大3年間、全体のコストの50%まで支給されることがあります。また、精神障害者に対するさまざまな機会も不十分であると言われ、そのための法改正も試みられています。

最後に、政府はこの法律の中で、政府調達部門においてソーシャル・エンタープライズを優遇するための条項も検討しています。またソーシャル・エンタープライズを人材派遣事業に参加させ、これらの人々を一般の労働市場で雇用できるようにするという案も持ち上がっています。

労働省が提供しています全国支援制度が、2004年から2007年にかけ設けられています。これは、ベイツ財団が運営しているものです。ベイツ・ファウンデーションは、1999年からソーシャル・ファーム、ソーシャル・エンタープライズの調整、コーディネーションを行っています。ソーシャル・エンタープライズの発展を目指すと同時に、さまざまな経営に関するカウンセリング等を提供し、また、労働省の運営委員会に対し法律の効果がどのくらいあるのかという助言も行っています。

2005年、この財団は電話でキャンペーンを行い、1万5,000の小規模事業者に対し、ソーシャル・エンタープライズについての説明を行いました。現在ソーシャル・ファーム・ネットワークには200の会員がおり、そこで様々な経営、訓練のためのワークショップを行っています。

フィンランドには、EUによる13のEQUALプログラムのプロジェクトがあります。その一つがELWAREと呼ばれる2年半にわたるプロジェクトがありました。2004年6月に終わっています。ここでは、労働市場において特別に困難な状況にある人たちを助け、新たな雇用機会を、電子廃棄物のリサイクル分野でもたらすことを目指したものです。これは、新しいソーシャル・ファームを創立することを奨励する形で進められました。さまざまな資金源を特定し、長期失業者、障害者、新たな移民のための職業訓練を開発し、彼らの就労の可能性を高め、経営者の研修ニーズを満たしました。また、好事例を特定し、電子廃棄物リサイクル専門のソーシャル・ファームの国内ならびに欧州全域の協同組合ネットワークを創立しました。また、意思決定者などを対象にした活動も行いました。

もう一つの活動分野、フィンランドの例ですが、HOTプロジェクトと呼ばれるものがあります。これは、ソーシャル・ファームの中でも高齢者の自立支援、在宅支援サービスを促進することを狙ったものです。HOTは、高齢者の在宅ケアの拡充を図り、新しいソーシャル・ファームの設立を目指しました。不利な立場にある人々に新たな雇用機会を提供することとともに、市のサービスを提供する流れの一部として活動するためのモデルとなっています。ソーシャル・ファームのための倫理ガイドラインを作成し、訓練プログラムを開発し、好事例、優良な事例の学習を促進し、ソーシャル・ファームの効果的な説明責任のモデルを作り、政府調達に自らを組み込むことを目指して活動していす。イタリアも含めて、スコットランド、ポーランドにおいても同様のことがなされています。

ギリシャにおいて、ソーシャル・エコノミーという概念は一般的に見て浸透していません。この言葉を知らない人たちはしばしば、これは、あたかも人道主義的なものであると考えがちです。新しい革新的なビジネス志向の企業を作り、不利な人に就労の機会を与えるイニシアティブは、まだまだ少ないというのがギリシャの現状であり、あったとしても、これはほんの僅かであり、また発達初期段階にあるものがほとんどであります。企業としてまだ運営方法も確立していませんし、非正規のものが中心です。

ギリシャのソーシャル・エコノミーには、組織の助けとなる一般的な枠組みがありません。多くのEU加盟国とは対照的に、ギリシャには、政府、金融機関からの資金援助のメカニズムも十分ではありません。あるものは、ミスを繰り返し、経験を分かち合う活動等をせず、資金を無駄遣いし短命に終わってしまうところがほとんどです。専門家の不足ということも障害の一つとなっていす。彼らはナショナル・セマンティック・ネットワークという専門別のネットワークがあるのですが、まずは、国にソーシャル・エンタープライズについて国民的対話を始めてほしいと要請しております。この中で彼ら自身もソーシャル・エコノミーを推進するための省庁横断的な委員会を創設し、ソーシャル・エコノミーを広め、国内全てのソーシャル・エコノミー事業のサポートをすることを目指しています。

さて、1999年には、社会協同組合に関する法律ができています。これによって社会的協同組合のための制度的組合ができました。狙いは精神障害者を地域に戻すというのがそもそもの考えでした。これらの社会的共同体のイニシアティブは、そもそも労働市場において精神障害者が不利な立場に立たされているということに端を発しています。非常に強い偏見があるという問題がありました。

1980年代までギリシャのメンタルヘルスの体系は、たとえば非常に狭いところにこれらの人々を詰め込むといった現状にありました。ギリシャ語でKOISPEと呼ばれる社会的協同組合ができましたが、これは、有限責任の非営利団体として登録された地域に根ざしたヘルスケアに統合化することを目指し、会員制の団体として誕生しました。メンタルヘルスの1セクターごとに一つの社会的協同組合を設けることを基本としています。会員のうち少なくとも35%は精神障害を持ち、最大45%がメンタルヘルスワーカーでなくてはなりません。これらは、専門家であり、政府により給与を支払われます。メンタルヘルスワーカーは、社会的協同組合に出向することがあります。

最後に申し上げたいことは、ソーシャル・ファームの中で成功しているところはどこであれ、非常に革新的な社会的起業家の指導者がいます。彼らがリーダーとなり障害者の生活を変えることに成功しております。物事の考え方を変えます。そして、ビジネスのこともわかっております。また、彼らは競争力のある品質の高い商品、サービスを提供することの重要性も認識していますし、社会資本を最大限に活用することの重要性を知っています。

この社会的資本というのは、いろいろなものを含みます。人とのつながり、協力、信頼感、障害者の持つ可能性を含んだ言葉であります。政府は、ソーシャル・ファーム、ソーシャル・エンタープライズのための法律、財源を提供しなくてはなりません。決してトップダウンの解決策では物事は解決されません。人が行動する必要があります。

ここにいらっしゃる多くの方々は、こういった変化をもたらそうという強い決意を持っていらっしゃると思います。皆様方は、必ずや日本で成功するモデルを作られると確信しています。それらの成功を祈念し、私の発表を終わりたいと思います。