国際セミナー報告書「各国のソーシャル・ファームに対する支援」
ソーシャル・ファーム概要
ヨーロッパでのソーシャル・ファームの歴史
1970年代
イタリアでの精神病院の開放
トリエステ(イタリア)で初めての社会的協同組合(social co-operative) 設立
1980年代
ドイツでのソーシャル・ファーム設立
Leros島の精神病院の脱施設化活動開始後ギリシャのソーシャル・ファーム設立
欧州連合プログラムがソーシャル・ファームに注目
ソーシャル・ファームの全国組織設立(ドイツ)
1990年代
イギリスのソーシャル・ファーム設立
ソーシャル・ファームの全国組織設立(イギリス)
1991年
イタリア;社会的協同組合関連法制定
"Italian Law on social cooperatives: Law 381/91"
2000年
ドイツ;ソーシャル・ファーム関連法制定
"SGB IX(Sozialgesetzbuch IX)"
2002年
ギリシャ;社会的協同組合関連法制定
"LAW 2716/99(SCLR)"
2004年
フィンランド;ソーシャル・ファーム関連法制定
"Finish Act on Social Firms 1/1/2004"
ソーシャル・ファームの始まり
ソーシャル・ファームは、1980年代にオランダ、ドイツおよびイタリアで始まった。仕事を通じてのリハビリテーション、つまり職業リハビリテーションの延長として出現した。福祉作業所との違いは、作業所は、社会的に保護された環境の中で仕事を提供するが、ソーシャル・ファームは、それより更に進んで、市場の相場にあった賃金を得るために仕事を提供することにある。
ソーシャル・ファームの法的な立場
1997年のソーシャル・ファーム・ハンドブックによれば、英国においてはソーシャル・ファームの法的な仕組みに言及すると選択肢がある。法的には慈善事業法人の商業部門としてあるいは公認慈善団体として有限会社を設立することができる。あるいは公認の協同組合を設立することができる。
ソーシャル・ファームの定義:(ヨーロッパ)
ソーシャル・ファームとは、障害者或いは労働市場で不利な立場にある人々のために、仕事を生み出し、また支援付き雇用の機会を提供することに焦点をおいたソーシャル・エンタープライズの一種である。
- ソーシャル・ファームとは、障害者或いは労働市場で不利な立場にある人々の雇用のために作られたビジネスである。
- ソーシャル・ファームは、その社会的任務を遂行するために市場志向の商品の製造及びサービスを提供するビジネスである。
- ソーシャル・ファームに雇用されているかなりの数の人々は、障害者或いはその他の労働市場において不利な立場にある人々である。
- 各労働者は、各自の生産能力に関わらず、仕事に応じた賃金や給料を、市場の相場によって支払われる。
- 労働の機会は、不利な立場にある従業員と、不利な立場にはない従業員とに、平等に与えられる。すべての従業員は同じ権利と義務を持つ。
出典:CEFEC*定義(1997年)
*CEFEC:Confederation of European Firms,Employment Initiatives and Co-operatives
ソーシャル・エンタープライズの定義:(英国)
ソーシャル・エンタープライズとは、基本的に社会的な目的を持ったビジネスで、事業で得られた利益は、株主や事業主の利益を最大限に増やすためではなく、主にその社会的な目的のために、ビジネス或いはコミュニティーに再投資される。
ソーシャル・エンタープライズは、幅広い社会問題及び環境問題に取り組むことで、あらゆる経済分野に影響を及ぼす。ソーシャル・エンタープライズは、強力かつ持続可能な、そしてソーシャルインクルージョンを実現する経済の創造において明確かつ重要な役割を果たす。
社会企業は、多種多様であり、地方のコミュニティ・ビジネス、ソーシャルファーム、共同組合のような共済団体、国内および国外で活動する大規模な団体を含んでいる。社会企業に法的な基準はなく、有限会社、産業節約組合、株式会社を含み、非営利または公認慈善事業の団体もある。
出典:英国貿易産業省「社会企業―成功への戦略」(2002年)
社会的協同組合の定義:(イタリア)
a)社会サービス、保健医療サービス、教育サービスを提供する協同組合(A型社会的協同組合と呼ばれ、一般的に労働者はソーシャル・ワーカー、医療労働者、専門家である);
b)深刻な障碍を持った人たち、精神疾患を持った人たち、薬物依存、受刑者など、なかなか雇用されないいわゆる社会的に不利な立場の人々の労働統合を達成する目的をもって、民間の顧客や公共機関のために社会サービスとは異なる財の生産、サービスの提供(農業、工業、商業、その他のサービス活動)を行う協同組合(B型社会的協同組合と呼ばれる)。法的にその人たちの数は従事労働者の最低30%と決められている。
(中略)
381号法律はいくつかの種類の組合員資格、さまざまな種類のステークホルダーを認めている。
a)当該協同組合で活動を遂行し、そこから金銭的報酬を得る組合員(労働者、管理者、B型の場合には社会的に不利な立場の組合員と労働者)
b)当該協同組合が提供するサービスから直接恩恵を受ける組合員(高齢者、障碍者)
c)「個人的で内発的であり、いかなる収益目的もない自由な方法によって」当該協同組合のために自発的に仕事をする組合員。この組合員の構成比率は全労働人口の50%を超えてはならない。
d)資金提供組合員および公共団体
出典:『イタリアの社会的協同組合:その発展と「社会的フランチャイジング・ネットワーク」の挑戦』
~協同組合と就労に関する国連専門家会議へのレナーテさんの報告~
Renate Goergen著 訳:岡安喜三郎(協同総研)