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国際セミナー報告書「各国のソーシャル・ファームに対する支援」

シュタットハウス・ホテルホームページより抜粋

http://www.stadthaushotel.de/

シュタットハウス・ホテルで働く障害を持つ従業員の写真

シュッタットハウス・ホテル協会設立に向けた障害者の親たちの思い

彼らの名は、ブリッタ、アナレーナ、ディルク、ミルコ、イェンスという。この5人の子供たちの年は12歳から15歳で、フリードリッヒ・ロッベ・インスティテュートという、精神障害者のための州認可特殊学校に通っている。もう10年以上、彼らはこの庇護された雰囲気の中で学び、暮らしている。彼らは、ルドルフ・シュタイナーの人智学的人間学の精神のもとで育った。シュタイナーは、こうした子供たちにおいては、生来備わった個性と、しばしば重い障害を有する身体との間を、魂が仲介すると考え、障害のある子供を「魂の保護を必要とする者」と見なしていた。

年がたつにつれて、子供たちの間には特別な結びつきと愛情が生まれた。ひとりひとりが何を必要とし、何を望んでいるかを知り、そしてそれを尊重しながら、このグループは大きな満足と調和と生きる喜びを特徴としていた。

この雰囲気と共同生活を、子供たちが大人になっても保つことはできないものだろうか。教育学の学生とともに、子供の親たちは、巣立ちの時を迎えつつある子供たちの人生構想をたてた。この構想は、重度障害者にとってはしばしば優しいものとは言い難い世界の中でただ生き延びるため、という以上のものであった…。

シュタットハウス・ホテルのこれまでの歩み

ハンブルク・ヴェルクシュタットハウス協会は、さまざまな障害をもつ8人の若者の親たちが、1987年に設立した団体です。若者たちは現在、協会の職員を務めており、今では26歳から31歳になりました。親たちが何より大切に考えたのは、子供たちが大人になってもずっと、仕事と私生活が一体となって暮らせるようにすることでした。子供たちは、特殊学校の同級生として、何年にもわたって調和をはぐくみながら成長してきました。親たちは、こうした子供たちの共同体を学校を卒業した後も、生活と仕事の共同体としてさらに維持していけることが、重要なことと考えたのです。

協会の設立(1987年)から、ホテルの開業(1993年)まで、合わせて8年かかりました。計画されたのは、ランドリー付きのホテルを経営することでした。損失が出た場合でもわずかですむように、ベッド数11、部屋数7という小さな規模にしました。財政面では、協会が集めた資金(寄付や、親たちの個人資金)と、さまざまな公的助成措置とを合わせて、多額の資金がつぎ込まれました。ホテルと住居は、「住宅建設助成制度」を利用し、ライヒスブント・ヴォーヌングスバウ社によって、一体のものとして新築されました(定礎1991年)。

若者たちは、将来職員になるために、2年にわたって全日制の職業学校で学びました。彼らのために特別にあつらえた職業準備クラスが設けられました。特筆すべきは、それ以来毎年、この職業学校に障害者が入学するようになったことです。また、若者たちのうち2人は重度多重障害者であったため、この2人の世話をするために、社会教育学者が2人、採用されました。

シュタットハウス・ホテルは、顧客の好評を得ることができました。それでも経済的な問題が生じました。親たちは助成金にありがちな罠にはまってしまったのです。3年間の助成期間が過ぎてしまうと、資金源が尽き、固定費をまかなうだけの収益をあげることができませんでした。ホテルの収容力をもっと大きくしなければならなくなりました。そこで「青年支援協会」との連携した活動が始まりました。

青年支援協会に統合

「青年支援協会」という団体がホテルの隣地に新館を建設(2000年完成)したことが、ホテル事業を拡大し改善する大きなチャンスとなりました。この新館に6つのダブル・ルームを備えることによって、小さかったホテルをついに拡大することができたのです。この増築によって、これまでよりも大規模なグループを迎えられるようになりました。同じ建物に、青年支援協会は「カフェ、マックス・ベー」というカフェも作りました。こうして、ホテル客や研修グループに対して総合的なサービスを提供できる共同事業が実現したのです。共同事業はさらに進展して、ハンブルク・ヴェルクシュタットハウス協会は青年支援協会に統合されました。両協会の合併により、ホテルはさらに多くの資金を用いることができるようになりました。経済面でのノウハウ、あたらしいつながりのある大きな輪、また青年支援協会という定評ある機関による管理体制のおかげで、ホテルは大きな利益を得ています。

シュッタットハウス・ホテルの理念1

職員をハンディキャップに従って選ぶのではなく、他の企業でも当たり前に行われているように職務上の必要事項に従って選ぶと決めたこと、これが私たちのコンセプトの大切な出発点です。さらにまた、社内の仕事のプロセスを、できる限り職員の能力に応じて設定することも、決定的とは言わないまでも重要な側面です。一方ではテクノロジーの進歩、他方では障害をもつ職員が仕事のプロセスを習得するには長い時間がかかるという経験、この両者を掛け合わせて労働条件が決まります。当ホテルの目的は障害者の雇用です。したがって、企業理念に合致するためには、能力に合わせた労働条件を従業員に提供することが必要です。これはわずかな仕事しか要求しないこととは違います。

当社の成果は、何よりもまず、通常の労働市場においては職を見つけられない人々を雇用することにあります。(当然のことながら、これは均衡のとれた会社財政のもとでおこなわれなければなりません)

職員たちとの経験は好ましいものです。皆、仕事をしようという心構えと意欲をもっています。仕事が生じて彼らに委ねられると、たいていの場合、彼らは責任感と喜びに満たされます。たまにうまくいかないことが生じた場合には、ホテル専門職員が補助しなければならないこともあります。

もちろん、障害をもつ職員をどの分野でも採用するというわけにいかないことは、申し上げておかなければなりません。しかし、ホテル経営が障害者雇用に特に適しているのは明らかです。広範囲にわたって繰り返しおこなわれる清掃業務は、よく習い覚えることができます。朝食ビュッフェの分野(ここではお金を扱いません)も、職員を大いに楽しませ、彼らの能力に合致しています。

障害者の親切さは、顧客相手の仕事では利点となります。自分は心から歓迎されているのだと、どの顧客も感じてくれるのです。

さらにまた、統合型ホテルは、職員のためにバリヤフリーに作らなければなりません。このことが、ハンディキャップをもっていたり、あるいは移動に困難があったりする顧客には特に歓迎されます。今の時代は、ますます多くの障害者が空港を利用するようになっており、ハンブルク空港では2000年から2002年までに67,600人という多くの障害者が乗客となっています。これを見れば、ハンディキャップをもつ人々も、ますます意欲をもって旅行しているのがわかります。

シュタットハウス・ホテルの目的は、ハンディキャップをもつ人々に、サービス業分野における雇用可能性を創出することであり、障害者のために職業上・人格上のさまざまな展望を開くことであり、統合を促進すること、つまり、こうして障害者と健常者の生活環境を同化し、ノーマライズすることです。

同時に、市場経済に根ざすことによって、持続的・継続的で確実な職場の創出が達成されなければなりません。

したがって、根本的に企業経営上の必要条件を考慮することが重要です。つまり、シュタットハウス・ホテルが、ハンディキャップをもつ人々の統合と受容のために長期にわたる展望を可能とするためには、専門的な指導を取り入れることが必要なのです。

シュッタットハウス・ホテルの理念2

シュタットハウス・ホテルの10年にわたる経験は、適切な職業訓練とケアがいかにして実現できるか、そして設定されたターゲット・グループの受容度をいかに評価すればよいかを示しています。

シュタットハウス・ホテルが受容されるかどうかは、サービスのクオリティ、プロフェッショナルなマネジメント、適格な訓練を受けた職員に決定的に依存します。従業員は、調整的な任務を引き受けて、問題が生じた際には迅速に反応できなければなりません。また、顧客に受容され、さらに顧客を獲得するためには、「適切なコミュニケーション戦略」がきわめて重要です。良好で適切なサービスを提供することによって、私たちは他のホテルに対して優位に立つことができました。シュタットハウス・ホテルの特徴は、何よりもまず、顧客対応のクオリティにあります。ただし、それは「障害者だから特別」という点から出発しているのではいけません。

統合型ホテルだからこそ、顧客から批判的な目で見られるのです。サービス面でいろいろな制限があるからです。

さまざまな統合プロジェクト、あるいはシュタットハウス・ホテルにおけるこれまでの経験から、次のようにまとめることができます。

顧客から帰ってくる反応は、総じて肯定的です。顧客の多くは特に、非常に家庭的な雰囲気と、職員の抱く責任感と喜びの中で快適と感じています。接客に関する制限が明らかにされることがあっても、とりわけ障害のある職員と直に接することによって、しばしば相殺されます。接客はきわめて誠意があって直接的で自発的であると感じてもらえるのです。

グループの構成が通常とは異なることのほか、シュタットハウス・ホテルという施設のさらに特殊な点は、従業員の大部分が生活共同体を形成して、共に生活し、働いていることにあります。いかなる人間生活においても労働や生産活動が、中心になります。障害をもち、その結果として制限された生活を送る人々にとっても、これがあてはまらなければなりません。そのためには、そうした条件を考慮した職務や労働分野を拡大することが大切です。適切に組織され、効果的に設定された活動は、人格の発展と調和と安定にも役立ちます。

住民共同体

ホテルの上にある住居共同体では、重度多重障害をもつ2人の若い女性、ブリッタとアナレーナがケアを受けています。彼女たちは、いつも広範囲にわたって生活のあらゆる領域でケアを必要としています。ケルスティン、イェンス、ディルク、クレメンスも、ブリッタとアナレーナと一緒に住居共同体に住み、シュタットハウス・ホテルで働いています。彼らは、長年にわたって共に成長し、特別な共同体を作り上げてきました。誰もが、他の者が何を必要とし、何を望んでいるかを知っており、それを尊重しているのです。この5人は、職業学校に通ってホテルでの活動の準備をした仲間でもあります。クラウディア・ペーターゼンとゼンケ・ペーターゼンのふたりも、シュタットハウス・ホテルで働いています。この夫婦は、住居グループとは別に、ホテルの隣にある自分たちの住まいにふたりで暮らしています。

住居共同体では、ソーシャルワーカーと教師が働いています。ホテルでは、2人のホテル専門職員が、仕事のプロセスと、障害をもつ職員の活動支援を担当しています。すべての職員は、無期限の労働契約を結んでいます。当然のことながら、彼らは労働契約にもとづく賃金体系に従って賃金を得ています。このチームの特徴は、不動のメンバーを組んでいることです。過去10年で新しいメンバーが入った職は、1つだけです。

青年支援協会

青年支援協会は、ドラッグや中毒の問題を抱えた人々に対して、広範囲にわたるきめ細かな支援システムを提供しています。さまざまな在宅ケアや施設ケア、部分施設ケアを通して、協会はそうした人々が依存症を克服するのを支援しているのです。

活動範囲は、治療活動のほか、生活実践上の問題を克服する指南や助言に及んでいます(たとえば借金に関する助言、法的問題に際しての支援、健康上の問題に関する啓発と支援など)。さらにまた、労働・雇用分野と住居提供に関するプロジェクトの支援にも、協会は重点をおいています。

多岐にわたるこの支援システムには、個別分野として、次のものがあります。

◇アルトナとベルゲドルフとヴィルヘルムスブルクのふれあい、相談施設(Kodrobs)

◇AEV法(在宅療法の一つ)による在宅治療

◇刑務所における外部からの助言と心理社会的ケア

◇社会治療的な住居共同体施設

◇子供のいる薬物依存者のための社会治療的な住居共同体(Theki)

◇部分施設的な薬物長期治療

◇社会復帰のための施設(SO)

◇さまざまなケアをともなう(移行期の)住居の提供

◇アフターケア

◇クライネ・ラインシュトラーセの保育所

◇ハンブルク薬物・エイズ生涯教育インテスティテュート(HIDA)

◇補充療法を受ける患者のための心理社会的ケア(PSB)

◇ヴェルクシュタットハウス協会

◇労働ならびに全日ケア([agb)すなわち


○社会統合ワークショップ(SI-Werkstatt)

○カフェ「マックス・ベー」、ならびにその共同事業として、

○シュタットハウス・ホテル

○職業斡旋所「ツァイトフルス」

○ズューダーエルベのジョブ・ショップ


このように、青年支援協会では、状況に応じ、個々に応じて、施設・部分施設・在宅の形で、さまざまな支援機会の総合的なネットワークを提供しています。このネットワークは、種々の自助サービスと結びついて、市内各地に根をおろしています。こうしたネットワークによって、薬物依存者に最適なケアが提供されています。すでに多年にわたって活用され、成果をあげており、さらに発展し、多岐にわたるものとなっています。また、こうした活動を通して患者との連絡が保証されています(資料によれば、患者数は年間2500人)。

とりわけ、長年にわたって雇用分野の拡大が図られた結果、協会では、薬物支援施設と労働分野との間に密接な協力と連携が生まれました。

その結果、青年支援協会は、単なる薬物支援団体からさらに発展し、雇用分野においても、ハンディキャップをもつ人々の職業面での再統合にとっても重要な意義を有する協会になったのです。

総括と展望

当協会は、ハンディキャップをもつ人々、特に精神障害をもつ人々が社会に順応できる道を切り開いてきました。これは、今も依然として、道しるべとなるものでしょう。ホテルの職員たちが証明しているのは、彼らの活動が、社会的に有意義であり、市場の競争を勝ち抜くことができ、そして必要不可欠なものだということです(ちなみに、デトモルトの親たちのグループが、同様のプロジェクトを計画しており、その際、シュタットハウス・ホテルから得られた経験を重要な手がかりとしています)。また、カフェ「マックス・ベー」とのコンビネーションは、ヨーロッパでは他に類を見ないプロジェクトです。

こうした活動を通して示すことができたのは、理念は理念にとどまらず現実に機能する事業になり得るのだということ、そして、それはいかにして可能であるかということです。福祉的な考えと、経営経済学的な考えとは、互いに矛盾するものではありません。その際、中心的な役割を果たしているのは、次の2つの要素です。

◇人事の選択。必要なのは、職務を遂行する能力、負担に耐えられる体力、そして人付き合いに対する喜びです。

◇マーケティング構造。福祉という看板を掲げるだけでは、市場の競争を勝ち抜くことはできません。均衡のとれた価格サービス関係があってこそ、顧客は再びホテルを利用し、またホテルを推薦してくれるのです。

真の統合とは、能力が認められることであり、そのために必要な条件が整えられることです。

その上記の点において、このプロジェクトは、結局のところ、「ただひとつノーマルな」ホテルなのです。このホテルは誰に対しても、高齢者にも、障害者にも、健常者にも、子供のいる家族にも開かれたホテルです。この場合、統合とは、内に対する統合でもあり、また外に対する統合でもあります。しかし、このような困難なプロジェクトの費用を、継続的にカバーしていくのは難しく、そのため運営団体は事業の拡大を計画しています。市場の競争を勝ち抜くためには、少なくとも部屋数60という規模が必要です。青年支援協会では、そのためのコンセプトを立案し、目下、実現に向けた検証をおこなっています。