音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

平成20年度 国際セミナー報告書
障害者の一般就労を成功に導くパートナーシップ

Report on International Seminar
Success through partnership to promote open employment of persons with disabilities

2部パネルディスカッション 話題提供2:「ソーシャル・ファームにおける連携の重要性」

寺島 彰 浦和大学総合福祉学部学部長・教授

寺島 彰氏の写真

要旨

近年のわが国の状況をみれば、アメリカ型の新保守主義を無批判に受け入れ、国際競争力を高め景気回復を図るという目的で、セーフティネットを考慮せずに、派遣社員を野放図に拡大し労働力の流動化を推し進めた結果、非正規労働者の増加と生活の不安定さが問題になってきた。昨年来の金融不況のもとでは、その不安定さがすぐに露呈し、派遣ぎりなどのために、働きたくとも働けない、しかも、社宅を追い出されて住む家もないという生きることさえままならない労働者が巷にあふれるという事態を引き起こした。

働きたい者が働けない、働く者を大切にしないこの国の状態は憂うばかりであるが、このような状況を打開するために、大切なことは、セーフティネットを考慮しながら、労働者個人に着目した労働政策を行うことと、新しい産業を育成していくことであろう。このことは、すでに、ソーシャル・ファームで求めてきたことと同じである。

我が国には、NPO法人、社会福祉法人、特例子会社、企業など、ソーシャル・ファームに関心をもつ組織が数多く存在する。このような組織が、連携することで労働者個人に着目した新しい産業の育成が可能になることが期待される。


講演

ソーシャル・ファームについてですが、実は私たちがソーシャル・ファームに関心を持ちましたのはだいたい8年くらい前で、本日ここに来ていただいていますソーシャル・ファームUKを訪問したときからです。その時のソーシャル・ファームUKは、煉瓦づくりの小さな家で二人の男女が、ご夫婦かなと思っていたら今日聞いたらご夫婦ではなかったのですが、そのカップルでやっておられました。それがブレア政権の第三の道の政策が進展していく中でどんどん大きくなってきました。

ソーシャル・ファーム・ジャパンが炭谷先生のご指導で立ち上がりましたので、日本としてもソーシャル・ファームはどんな形で進んでいくのかというのを考えなければならないということで、少し問題提起だけをさせていただきます。

ソーシャル・ファームの特徴として一番大切なところは、社会的な目的を実現するための企業であるということです。社会的ということと企業というのが大切なキーワードです。それから、障害者雇用が主なターゲットになっているという特徴があると思います。

スライド1

(スライド1の内容)

私たちは福祉の従事者なので、どうもそこから抜け出せていないという感じがします。最初訪問したときに、ソーシャル・ファームはどんな公的な支援が得られるのですかなどと聞いてしまったりしたのですが、税金の控除や銀行での優先的な融資くらいしかありませんと言われて、本当にそんなことでやっていけるのかなあと考えました。どうもこのような発想に陥ってしまうわけです。しかし、ソーシャル・ファームはあくまで企業なのだという認識が必要で我々の意識変革が必要なのだと思います。

市場競争、ビジネス手法、そして採算性が重要です。また、新参の企業ですのでニッチな産業を選んでいかなければ当然成立しません。

スライド2

(スライド2の内容)

次に、ソーシャル・ファームはどういう位置に存在するかということを少し考えてみますと、企業があってソーシャル・ファームがあるのだろうと思います。特例子会社、福祉企業、授産施設、作業所などが日本にはありますが、すごく企業寄りの存在なのだろうということです。

日本でどういうところがソーシャル・ファームに移行するかということについてはいろいろなパターンがあると思いますが、特例子会社から移行することもあるかと思いますし、社会福祉法人から移行することもあると思います。イギリスのチャリティがソーシャル・ファームに移行している。それは、政策的な理由のためです。またドイツもやはり同じような社会福祉の組織がソーシャル・ファームに移行しつつある。そういったパターンです。それから、イタリアはもともとソーシャル・コーポラティズムから始まっていますので、生協などから移行するというパターンもあると思います。あるいは単独に企業がソーシャル・ファームを設置していただく、そういうパターンがあると思います。イギリスの例を聞いてみますと、企業に働きかけているということですので、一番最後のパターンがどうも現在の方向性のようです。

スライド3

(スライド3の内容)

スライド4は、我が国ではソーシャル・ファームをどんなふうに作っていくかというときの留意点です。

スライド4

(スライド4の内容)

スライド5

(スライド5の内容)

障害者の雇用率をどう考えるかということなのですが、障害者の雇用率の比較でいいますと、特例子会社は20%以上の障害者の雇用率でなければならないのですが、一般企業は1.8%なので、ソーシャル・ファームは、その間に入るのだろうと思うのですが、あまり雇用率にこだわることはないのではないかという気がしています。障害のある方だけではなくて、例えばホームレスの方だとか、いろいろな方を含めたうえで雇用して、全体として障害者の方の雇用率がたぶん20%より少ない、1.8%より多いという、そのあたりで線を引かないときっと企業としては難しいのではないかという気がしています。また、公的支援を受け入れるかどうかというのは、先ほど炭谷先生も言われましたけれど、受け入れられるなら受け入れたほうがいいだろうと思います。イギリスでは公的資金をぜんぜん受けてないよというようなことを最初に言われたのですが、後からよく聞いたら50%くらい公的支援を受けていたり、ドイツでもやはり受けていたりしますので、これは軌道に乗るまでは支援を受けるとか、特に必要な場合は受ける必要もある。むしろ、公的な支援のシステム作りのほうが大切なのではないか、という気がしています。

それから、ボランティアセクターを受け入れるかということですが、受け入れることもあり得るのではないかと思います。例えば英国のソーシャル・ファームはボランティアを受け入れているのですね。

そうすると、今の福祉施設とどう違うのかということにもなります。このようなソーシャル・ファームの形態はもう企業ではないのではないかという感じもしますが、あまりそんなことは気にせず、こういうふうなものを活用する、むしろ企業としての生き残りとか、企業としてのやり方を大切にしたほうがいいのではないかと思います。

それから、障害種別は単一障害でいいのだろうかという事も問題です。例えば精神障害の方であれば単一障害でも可能かもしれませんけれども、肢体不自由の方なども含めるとすると、例えば福祉機器なども準備しないとやっていけない。それは企業の競争の中ではなかなか厳しいところがあるのではないかと思われます。また、社会的な組織の連携、例えばホームレスの方たちなどとの連携をする中で作っていったほうがいいのではないかと思います。そして新しい産業の育成をしていく。レジュメに書いておきましたけれども、最近の、労働者個人に着目しない我が国の非常に厳しい労働環境を考えますと、こういった、それぞれの労働者個人に着目した新しい産業を育成していくということが今後の日本の未来を少しでも明るいものにしていくのではないかと考えられます。そういう意味で、ソーシャル・ファームに対する期待は大きいものがあります。

スライド6

(スライド6の内容)