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平成20年度 国際セミナー報告書
障害者の一般就労を成功に導くパートナーシップ

Report on International Seminar
Success through partnership to promote open employment of persons with disabilities

話題提供4

河村 宏 国立障害者リハビリテーションセンター研究所 特別研究員

河村 宏氏の写真

要旨

ソーシャルエンタープライズにおいても、仕事の品質の確保は必須である。認知や理解の障害、あるいは注意と集中の困難を抱える障害がある人々の特性に合わせて多感覚を活用できるDAISYマニュアルの浦河べてるの家等での活用事例を紹介しながら、障害の特性をプラスに転じるための取り組みという角度から討論に参加する。


講演

山内先生、ご紹介どうもありがとうございました。河村でございます。イギリス、ドイツのお二人から今日大変貴重なプレゼンテーションをいただきまして、それについての感想をまず申し上げたいと思います。

キャシーさんのプレゼンテーションは非常に個々の障害に即した、どういう特徴のある取り組みが行われているかということを丁寧に辿っていただきまして、本当に胸にすとんと落ちる説明がいただけたと思います。特に印象に残っておりますのは、enabling environment、つまりその人の能力を伸ばしていく環境、それが実際にそこで働いておられる方の満足度の鍵であるとうかがっておりまして、私なりに理解をいたしました。つまり、質の高い仕事をしないと立ち遅れていって、実際に企業として成り立たなくなっていくのですが、でもだからといって尻を叩くばかりではそれは難しい。というよりも、目標を高く置いて、それを達成するための手だてを講ずる。そして自分自身の能力も進んでいくし、そしてその中で高い目標を実現するという達成感がある。そして回りのみんなからも「よくできたね」と言われる満足感が得られるのだ、と。本当に自分自身の能力も向上しているわけですから、次の受注に向けての競争力もそこについていく。こういった環境をどう作るのかというところで、特に私は今山内先生からご紹介がありましたDAISYという、特にイギリスの英国盲人協会とこの十数年、一緒に国際的に共同開発を進めております、誰でもがアクセスできる知識・情報のための技術ですが、その技術が生かせる場所がそこにあるな、と思った次第です。

特にeasy to readという形でわかりやすい本、あるいはDVD、ビデオなどを使いまして、見てわかりやすい、聞いてわかりやすい、そういった知識のアクセシビリティを向上させるということに特にキャシーさんが触れておられましたところに、私も大いに共感をしたところであります。

そうすることによって、知的に障害があったり、あるいは集中することが難しかったり、そういういろいろな人がわかりやすいマニュアル、あるいは参考資料が得られて、それによって自ら学んでいくという、自分が主体的に学んでいくための環境が作られる、そういった点が、特に注目をいたしました。

ゲロルドさんのほうは、私はネットワーキングという形で経営者が緊密に連携し合って進めていく、そういうことの大事さというものを学びました。ともすると、同じような企業であるとすれば競合しがちなところを、どういうふうにうまく連携し合ってそれを強みにしていくのか、というところがやはり専門的な経営の視点というものが必要なところであると思いました。

さらにゲロルドさんにこの後ご説明いただきたいなと思いましたのは、今コソボにいらして、戦争の傷跡をどのように癒して、新しい共同体を作るのかという、大変難しい状況のところにそれまでのソーシャル・ファームのノウハウがどういうふうに生かされているのか、ぜひうかがいたいと思う次第です。それは、一つ私が身近に聞き取りをしている、ある、フィリーダさんがおっしゃいましたリンクス・ジャパンのおかげで、英国に半年ほどスラム地域の再開発、これは草の根の再開発のNPOですが、そこにインターンで出かけた大学院生のその後もよく存じておりまして、彼女はそこのスコットランドのある地域で、そこには半年いただけなのだけれども、第二の故郷であると言っておりまして、そこでたくさんのことを教わった。その中に、いくつかある中に今日も出ていましたグッド・ガバナンスとか、アカウンタビリティということもよくたたき込まれたと言っておりました。さらに、トランスペアレンシー、いくつかそういう基本的な、草の根から築き上げていくための基本的なノウハウ、それから原則といったものを学んで、今現在は開発途上国を舞台に、環境にやさしいコミュニティをベースにした新しい開発のモデルのコンサルティングをしているということで、おそらく常にスコットランドでの思い出を持ちながら、それをさらに途上国の中で日本のさまざまな環境関係の技術とともにどうやったら生かせるのか、という活動をしている毎日であります。

ここに、私は、今私どもは日本とイギリス、あるいはドイツということでソーシャル・ファームの基本的なことを学んで交換しているわけですが、実はそこにさらに、仕事がない、資源がない、そしてキャシーさんの絵の中にありました坂道を転がり落ちてくる丸いボールを一所懸命上り坂に向かって押し上げている、そういったものは、これが多く途上国の人が下りエスカレーターを上っていく絵、という形で私は何度か見たことがあります。下りのエスカレーターを上っていくのだ、というたとえとオーバーラップしてまいりました。ここで私たちは、お互いに学び、さらに途上国にイギリスや日本の数倍の比率で障害のある人たちがいるわけです。その人たちも共に社会参加できるし、人として自尊心を持って社会の一員として仕事を持っていける、そういうノウハウにつなげていき、それを実現していくための共同事業といったものも考えてみる必要があるのではないかと思う次第です。

現実に私自身がイギリスその他の国々の人たちと今、南アフリカでAIDSをどういうふうに障害者コミュニティから、予防と、すでに罹っておられる方が南アフリカですと20%以上おりますので、トリートメントですね、きちんと、AIDSではもう死なないという、本来的には死なない病気になっていますので、きちんと対処することによって生き続け、社会参加していく。そういった取り組みを南アフリカの人たちと、それと同時にイギリスの、あるいはスウェーデンその他の国々の人と取り組んでいるところです。

先ほどちょっと話にでましたDAISYというものを活用するとどういうふうなわかりやすいマニュアルができるのか、それについてせっかくこういう場をいただきましたので、2~3分ご紹介をして私のコメントを終わらせていただきたいと思います。

これからお見せするのは、北海道にあります精神障害者を中心としました浦河べてるの家の皆さんが、自分たちが津波の予想される被災地域にグループホームがたくさんございまして、心配だと。一回心配になると眠れなくなってますます心配になる。だから、むしろ積極的に避難訓練をして安心を手に入れよう。そのため、それぞれのグループホームごとに自分たちで手作りに作っているマニュアルです。これはデジタルカメラと簡単なパソコンの操作でできあがります。実は、これからお見せするマニュアルの手法を30年くらい入院していた方が、退院して地域生活に入るときに実はスーパーに行って買い物もできない、なにもできない。一つ一つ全部もう一回覚えなければならない。そのときのマニュアルに応用できるね、とか、あるいは昆布詰め作業をしておりますが、初めて昆布詰めする人に手順をわかりやすく教える、そういうことに使えるね、とか。あるいは今フィリピンでは自閉症協会の方たちが、自分たちのソーシャル・ストーリーと言っていますが、こういうときにどうするというノウハウ集をこれで作っているとか、タイではクッキー作りの、これもやはり自閉症関係の施設ですが、クッキー作りのマニュアルに使っている。そして先ほどの南アフリカではAIDSの対象マニュアルに使っている技術でございます。つまり、科学的な知識をわかりやすく、そしてあまり、思い切り集中しなくても見ていられるように、そして視覚に障害があっても、聴覚に障害があっても一緒に使えるマニュアル、そういうものを目指したものがDAISYの技術です。では、ちょっとご覧に入れます。電気を暗くしてください。

(DAISY再生)

国道に向かいます。セミナーハウスを出て、右手です。警察署の横を通ります。交差点、車がこないことを確認します。道路を渡る。横断歩道を渡ります。左手に曲がって、国道に沿って歩きます。日高支庁の青い看板を目印に歩きます。看板のところで右に曲がります。踏切の方向へ右に曲がります。車に注意して歩きます。

河村:ちょっとショートカットします。

日高支庁入り口のほうへ。左に曲がって進みます。右手に曲がって日高支庁に入ります。あと少しで到着。到着。きれいな景色が見えます。

(DAISY再生終了)

簡単に背景をご説明します。これは地震があると、最短時間ですと4分で津波が来るという地域での避難マニュアルです。地震を身体で感じてから4分しかありません。そして、その間にどれだけの高さに行ったらいいかということは、私たちは調査と議論の結果、10メートルと設定しました。10メートル以上に4分以内に逃げれば助かる。それを実際に実現するためには、正確に経路をたどらないと、4分以上かかってしまう。ここで、ことこまかに曲がるところを指示して、ここで曲がれば4分で行けるよということを示して、実際にストップウォッチでこの数分間のマニュアルを観た後、みんなで一斉にグループホームから避難の訓練をします。そのときに車椅子の方もいれば、一緒に避難します。それでみんなで揃って4分以内に10メートル以上のところに達しようという目標のもとに、各グループホームでこういうマニュアルを作っています。ですから、一見なにげなくここを曲がる、いちいちうるさいなという感じがするかもしれませんが、この通りにやると最短距離で、最短時間で10メートル以上の高さに行けて、安心できる。そういう作りになっております。

これは、大変手間ひまをかけて最初は作って、そのあとはそれぞれのグループホームごとに写真を入れ替える、あるいは曲がり角を入れ替える。そして夏と冬を、写真を入れ替えると夏バージョンにも冬バージョンにもなる。そういう細かな調整ができます。そういうふうにして、本当に自分がそこで避難できるというマニュアルを作っています。

避難が終わると、写真班が写真を撮っておいて、最後に写真を置き換えます。自分の写真にします。自分たちの写真にします。そうすると、自分たちの本当に自分が登場するマニュアルが登場します。それを繰り返し観ることによって、しっかり頭と身体に刻みつけて、大地震が起きて頭がいわゆる真っ白になったときにもきちんと避難ができる。だから安心だ、という仕組みのマニュアルになっております。

これは他のところにもたくさん応用ができると思いますし、グローバル・スタンダードのマルチメディアです。それがDAISYというものです。ぜひこの機会にご検討をいただいて、この後さらにいろいろなマニュアルで活用していただければうれしく思います。ありがとうございました。

参考URL

べてる防災プロジェクトについて
・べてるの家 http://18.ocn.ne.jp/~bethel/
DAISYについて
・DAISY 研究センター http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/