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基調講演1

リハビリテーションと障害者の権利促進への世界的取り組みにおけるRIの指導的役割

ヴィーナス・イラガン

(国際リハビリテーション協会(RI)事務総長/RI財団最高経営責任者)

プロフィール

2008年より、国際リハビリテーション協会(RI)事務総長、ならびにRI財団最高経営責任者を務める。

障害者インターナショナル(DPI)前議長(2002-2007)。

 

また現在、WHO「途上国におけるCBR実施ガイドライン」作成のコア・グループメンバー(2005年-)を務めるとともに、WHO・国際義肢装具協会(ISPO)・米国国際開発庁(USAID)による「国際車いすガイドライン」レビューチームメンバー(2006-)も務めている。

 

日本ともなじみが深く、第5回糸賀一雄記念賞(2002)を受賞。また現・国際協力機構(JICA)による「障害者リーダーコース」の研修員として、1994年に来日している。

はじめに/あいさつ

皆さまこんにちは。この日本障害者リハビリテーション協会主催の第32回総合リハビリテー ション研究大会に参加する貴重な機会を得ることができて、大変うれしく思います。

ここで、皆さまに、RI(国際リハビリテーション協会)の執行委員会およびRI財団の理事会を代表してごあいさつ申し上げます。 

JSRPD(日本障害者リハビリテーション協会)は、高い評価を得ているRIの重要なメンバーで

あり、長きにわたって、素晴らしい取り組みを続けて来られました。その結果、日本やアジア・太平洋地域の障害者が社会に参加する機会を生み出し、彼らがコミュニティの発展に寄与する能力や可能性を発展させてきたのです。

ご存じのように、私はアジア(フィリピン)出身です。従って、これまでに多くのJSRPDが主催した活動に参加してまいりました。その多くが、第一次および第二次アジア太平洋障害者の十年に関わる活動でした。本日、東京に舞い戻り、皆さまの前でお話ししていると、まるで私の故郷に帰ってきたかのような気がいたします。その素晴らしい歳月の記憶の糸を辿ると、私やアジアの障害者の仲間たちが、皆さまとともにリハビリテーションや障害者の権利の促進に取り組んできたことが思い出されます。

私やアジアにおける障害者団体の多くのリーダーたちが、何十年もかけて障害者の生活を改善することに尽力してきたことは、まさに生きた証となっているのです。私は現在、RIの事務総長でありますが、障害者の人権を実現するツールであり、またその方法論でもあるリハビリテーションを促進させたいと願う私の旅路で、皆さまとともに再び活動する機会を得たことを、たいへんうれしく思います。

 

◇ここでビデオ上映:障害者のアクセシビリティの向上、障害者権利条約の成立、アジア・アフ リカを含む世界各地において障害当事者の権利擁護への関わりなど、RIの世界的規模による障害者の権利を守り、インクルージョンを実現するための活動が紹介された。

1.RIの歴史

RIは、障害者や障害と関わる様々な問題に言及する戦略としてのリハビリテーションを促進する、という世界的な活動の先駆的役割を担っています。RIは1922年に設立され、国際的なリハビリテーションの促進や障害者のアドボカシー活動に力を注いできました。RIは、エドガー・F・アレン氏によって87年前にアメリカ合衆国のオハイオ州エリリアで創設されました。それ以来、障害種別や専門領域を越えて、様々な分野の専門的知見を結集した交流の場を提供し、障害者の能力の向上、インクルージョンの促進、地域参加の促進を目的とする、唯一の世界的な組織であり続けています。RIは、地域に根ざしたサービスの推進、障害に関するデータを収集する調査機関の設置の呼びかけ、「2000年代憲章」の宣言、そして障害者権利条約の推進活動など、数十年にわたって国内外の障害関係領域において、重要かつ先駆的な役割を担ってきました。そして、今後も、そのような役割を将来においても担い続けるでしょう。

2.RIの活動

RIは、障害者の様々な理想や目標を実現するためにこれまで、技術・アクセシビリティ・教育・健康と心身機能・労働と雇用・政策と諸サービスの運用・社会問題など、7つの専門委員会を通じて目的を同じくする仲間たちとともに活動を展開してきました。

その顕著な例として、ICTA(イクタ:テクノロジーとアクセシビリティに関する専門委員会)の提唱による「国際シンボルマーク(ISA)」(車いすのマーク)の作成が挙げられます。国際シンボルマークは、今日、施設・設備や環境のアクセシビリティを表すシンボルマークとして、文化や言葉の壁を越えて世界的に認知されています。これは、わずかな期間のうちに世界中に広がりました。遙か遠いアフリカの地でも、あるいはラトビアでも、説明なしにこのマークを理解することができるのです。車いすの標示は、言葉を越えて誰もがアクセスできるということを意味しています。RIは、このことを、障害の領域で貢献し、成し遂げてきたことの一つとして、たいへん誇りに思っています。

3.RIの与えた影響と障害者権利条約に関する活動

RIは、今日、世界100カ国以上の障害当事者、サービス提供者、政府機関、各種専門領域に携わる人々など、1、000を超える会員・加盟団体により構成されています。

RIは、これまで、国連障害者権利条約の成立に向けた交渉に重要な役割を果たしてきました。今後は、各国の障害者権利条約の批准を推進し、締約国での実施状況の調査にも携わっていきたいと考えています。

さて、障害者権利条約を採択することは、障害者にとって新しい時代の幕開けとなるでしょう。それは、障害者の福祉の向上に寄与するものであり、重要な社会参加を促進するための何十年にもわたる闘いの大きな一歩なのです。このことはかつて、RIの創設者が最初に持った目標と同じものと言えるでしょう。なぜなら、RIは、障害者のよりよい生活を構築する第一歩としてのリハビリテーションを促進するグローバルな組織づくりを追い求めてきたからです。障害者権利条約は、様々な条項を網羅しています。それは、障害者を人権侵害から守り、人権そのものを促進します。

今日、58カ国が障害者権利条約を批准し、142カ国が署名しています(2009年8月29日現在)。この中にはアメリカ合衆国も入ります。アメリカは2009年7月30日に署名しました。 

この数は、国連の条約の中ではかつてない数字だと言われています。というのも、条約の署名を開始してからまだ2年5カ月しか経っていないからです。

RIのこの活動に携わる人々にとって、この経験は、彼らの人生を大きく変えることになりました。私たちのような発展途上国の人間がこの過程に関わることで、たくさんのことを学ぶことができました。また、私たちの障害とは、私たちが多様な能力をもつ人間としての一部分にすぎないということに、改めて気づく大きな機会となったのです。

4.将来に向けてRIが果たすべき役割

RIの会長であるアン・ホーカー氏によると、RIは大きく変わったといいます。なぜならば、RIの現会長および事務総長(ヴィーナス・イラガン)を、今回初めて、いずれもアジア太平洋地域出身の、障害のある女性が務めているからです。

このことは、皆さまが、これまで長きにわたり、女性のエンパワメント、とくに障害のある女性の エンパワメントに関わってこられた、その努力の証拠であると思います。アン・ホーカー氏はRIという船の船長として、力強く知的で、熱心な会長として、RIをより高く引き上げようと尽力してくれています。私は、RIの執行委員会と財団理事会と緊密に協力し合い、専門的で強い事務局をつくりアンを支えていきたいと考えています。

RIは、今後とも、国連、世界銀行、障害と開発に関するグローバル・パートナーシップ(GPDD)、国際障害同盟(IDA)等との相互交流を推進していきたいと考えています。

また、私たちは、情報提供を促進するために、会員向けのメールニュースやホームページを提供できるようにいたしました。私たちが今何をしているのか、情報提供できるようにし、皆さまの活動も常に知ることができるようにしました。また、マンデーメールというものを発行し、RIの一般の会員に配信するようにしました。

さらに、RIは、5カ年戦略計画を策定し、4つの目標、すなわち、(1)効果的なリハビリテーションとハビリテーション、(2)障害者権利条約の実施、(3)貧困削減、そして、(4)障害者と関わる人権問題への関与、を掲げています。

とりわけ、途上国におけるリーダーの育成を今後とも支援し、世界レベル、地域レベル、国レベルの意見交流を促進しながら、障害の種別や専門領域を越えたユニークな組織活動を行っていきたいと考えています。

リハビリテーションとは、すべての障害者が権利を完全に享受し、実現するために不可欠な手段であり、そのことは、RIの活動の中で非常に重要な位置を占めていると私たちは考えます。今後ともRIの持つネットワークの広範囲にわたる専門的な知見を活用しながら、障害者の生活の向上と権利実現に向けて指導的な役割を果たしていきたいと思います。

この会議に招待してくださったことに改めて感謝の意を表したいと思います。そして、障害者としての私の夢を実現するために力を貸してくださった私の古い友人たちと再び交流を温める素晴らしい機会を与えてくださったことにも、ささやかながら御礼を申し上げたいと思います。

ありがとうございました。

 

訳・要約:富永健太郎(田園調布学園大学助教)