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フォーラム 今野 浩美

(株)ラビット/全国視覚障害者情報提供施設協会 情報アクセシビリティ委員

デジタル時代のテレビ放送の楽しみ方
視覚障害者だと楽しめること、楽しめないこと

はじめに

技術革新や各方面のテレビに携わる人々がそれぞれの分野で手を繋ぎ合って連携し、徐々に視覚障害者でも楽しめる便利なテレビが出始めてきていることは、視覚障害者の情報のアクセシビリティを円滑化する役目を担った私どもなどにおいては、画期的な時代の潮流を少しずつ感じることができるようになって参りました。大変喜ばしいことです。

私は普段、視覚障害者のパソコンを通しての情報アクセス方法をより多くの方に知っていただき、その便利さをお伝えするような仕事をしております。どのように工夫したら視覚障害者の方が「便利だなあ」と思って機器を利用できるようになるのか、これが私の毎日の生活であり、生業であり、課題であり、命題であります。それは、みなさんという私以外の視覚障害者の方々への工夫であると同時に、自身が同じ障害者であるが故に自分への工夫でもあるわけです。

地デジの前にBS、CSといった衛星放送波を利用したデジタル放送の幕開けから、私はその便利なデジタル、楽しいデジタルの恩恵を受けたくて受けたくて、どうやって工夫すれば楽しくなるのか、そのことばかりを考えて後先考えずに有料チャンネルに加入してみるなど、無謀きわまりないデジタルライフに足を突っ込みデジタル放送開始当初からそうしたテレビメディアを利用し始めることにいたしました。

そこで、この発表の機会を使って、今視覚障害者のデジタルライフはどのような現状なのか、これからどこを変えれば今よりもっと楽しくデジタルライフを過ごしていけるようになるのか、テレビ放送に着目してその現状と今後についてのお話を私の体験を通した独断の中からみなさんにご紹介してみたいと思います。

ここで取り上げるテレビ放送は、地上波デジタル放送と限定するものではなく、公共情報メディアたる有料無料全てのデジタルテレビ放送を意味します。そして、視覚障害者がどのようにアクセスできていたか、できなかったのか、そして、今後どのようになるのかを考えてみました。

地デジ放送と騒がれるようになる前のBSデジタル放送

この時利用し始めた放送波は衛星放送です。衛星放送は、比較的早い時期からデジタル化されており、その多彩な専門性から一部のテレビ愛好家に魅力的な放送を提供していました。別紙の衛星放送に関する年表を参考資料としてご覧ください。

現在の地デジ放送の仕組みの基礎となる技術は、この衛星放送の歴史そのものです。無視するわけにはいかず、もしこの時期からバリアフリーを意識した様々な分野の技術使用が考慮されていたとしたら、今のような地デジに移行する上での障害者を巡る問題点は状況が違っていたに違いありません。

私はNHKのハイビジョン実験放送以外のBS放送の頃に受信機を購入し、テレビや手持ちのオーディオ機器に増設して楽しみ始めました。そして、有料放送であるWOWOWにも契約しています。なぜ、そのような準備を進めたのかというと、衛星アナログ放送であっても、音声はデジタルで送られていたこと。PCM32kHz、PCM48kHzのデジタル音声は、当時のデジタル録音テープであるDATでそのまま録音することのできる大変クオリティーの高い音質です。私の趣味である音楽鑑賞に衛星デジタルエアチェックというジャンルを加えてくれました。この内、サンプリング周波数のきめ細かな音楽向け衛星放送がBモードステレオ放送です。同時期、このBモード放送をデジタルで録音してジャズやクラシック、ライヴ中継を楽しんでいた同じ視覚障害者のマニアの方にも多く出会って、このデジタル化された仕組みに大いに感動しあったものでした。「目の保養」という言葉がありますが、この体験は「耳の保養」、「命の洗濯」とも言うべき楽しみです。ここで注目すべきは、テレビは映像が主たる伝達情報であるにもかかわらず、音のよい、FM放送に取って代わるべく音にこだわる視覚障害者のマニアに取って、次なるラジオとしての魅力ある放送としてのニーズが確実に生まれていたということです。紛れもなく忠実度の高い高音質の放送は、ラジオ放送ではなく、テレビ放送から改革されていくことになったわけです。このように、見たい(聴きたい)音楽番組は、衛星波を通してどんどん地上に降り注がれるようになっていったのです。

CS有料放送で不満たっぷり

年表にもあるように、CS放送が様々な変遷を繰り返す中、音楽はもとより不滅の名作映画や懐かしのアニメなど、どんどん楽しみの対象が増えていきます。

ディレクTVがスカパーと統合された頃、たくさんの有料チャンネルがワンパックでお得な割引の言葉に誘われて、スカパー専用チューナー、CSアンテナを戸建てに設置、夜遅くまで懐かしの番組を堪能するようになりました。

ところが、この頃から疑問に思い始めて不条理な境遇にいらだちを感じ始めたのも事実でした。それは、一般の方が何の不思議も感じずにデジタルの恩恵として利用していた録画予約システムへのいらだちです。 同じ加入料、利用料を払っているのにもかかわらず、見たい番組を次から次へと予約し、自宅にあるビデオに録画を取りだめることが自分の意志ではできなかったことです。

既にその頃のスカパー専用チューナーのリモコンには「番組表」というボタンやその表の中を上下左右に移動し、希望の番組を録画予約する仕組みにアクセスするためのボタンが付けられていました。チューナーに専用の装置をコードで接続しビデオのリモコン受光部近くにその装置を設置しておくと、予めチューナーに予約した時間になると、自動的にビデオがチューナーと連動し録画が開始されるというシステムは、実に使えれば画期的なものだと感心させられたものです。

結局は予約をするにもいちいち全て家族に手伝ってもらわなければならず、興味のない第3者を犠牲にしてまで番組をとり続けることはできず、スカパー視聴から徐々に離れていくことになりました。

このデジタル機能失敗談をちょっと大げさに考察してみたいと思います。実はさらに過去に遡り、この番組の予約といった一般の方にはいとも簡単な番組愛好家にとって基本的とも言える録音・録画手法に潜在的な問題があったことにも触れておきたいと思います。

音の良いFMラジオの番組をたくさん予約録音する時、ある時間から時間までレコーダーが録音動作をするように仕掛けておくには少し高価なオーディオタイマーが必要だったはずです。それを視覚障害者のマニアが完全に自分の時間、自分の意志で取り扱えたことはありません。タイマーへの録音時間の設定は、全てその機器の表示を頼りに行わなければならなかったからです。仲間の中では、指定したい時間に電源をオン、オフすることのできる簡単な電源タイマーを複数繋ぎ合わせ、この機能を実現させていたというマニアもいました。

その後、この手のタイマー予約機能がFMチューナーに内蔵されたり、ミニコンポに搭載されてきたりしても、はたして、私達視覚障害者がその機能をフルに活用することができていたのか、この命題がずうっと頭の片隅に未解決のまま置き去りになっていたことが、このスカパー予約問題でよみがえってきたのでした。

しゃべるテレビが解決したこと

デジタル衛星放送チューナーを手に入れ、WOWOWもデジタル契約に変更し、大容量のHDD、DVDレコーダーまで購入してみましたが、番組表で予約システムがすぐ身近なところにまで来ているにもかかわらず、予約タイマーの命題が解決されないうちに、世間ではハイビジョンテレビと地デジ移行でデジタル化に拍車がかかります。

そんな最中、三菱電機のしゃべるテレビが密かに世に出されました。

「実は番組表を音声で読んでくれるんです」

このメーカーの技術担当の方の一言が

「音質の良いデジタル放送」

以外の新しいデジタルの恩恵

「番組の自動予約録画(録音)」

だったわけです。これで、タイマー予約の命題を一挙に解決してくれるのだなあ、と思いました。

予約済みの番組や既に録画した番組をブルーレイにダビングしたり、削除したり、編集したりと、これからのデジタルテレビに期待することは視覚障害者にとっての1番目のデジタルの恩恵にプラスして、2番目のデジタルの恩恵の進化した形、デジタル録画情報革命だと確信した瞬間でした。

録画済み番組を視覚障害者が自力で利用できるための合理的環境への配慮

現在、パナソニックのブルーレイレコーダーのようにインターネットで録画予約ができたり、携帯電話で録画予約できたりするシステムもお目見えしていますから、きっと近い将来ブルーレイの装置の中で本当のバリアフリーが実現できるのも間近ではないかと思っています。

合わせて、IBMが行っている動画の音声ガイドテキスト読み上げシステムや人力による音声解説付き放送の充実、NHK技研のデータ放送変換プロジェクトと、今後も私の生業である「便利にするにはどうしたらよいか」という世界の変化には、予断を許さないめまぐるしい動きが続くことでしょう。

その後、けっきょく便利な音声化技術の恩恵を受けてブルーレイレコーダーに録画予約ができ、番組を取りだめることが叶っても、それを1枚1枚ブルーレイディスクにダビングすることが自力ではできず、私のデジタルライフはまたもや課題を抱えて足踏みを始めました。人の欲求というものはとどまることを知りません。

仕方がないので自宅のデスクトップパソコンに内蔵ブルーレイドライブを増設し、音声化ソフトと相性のよいデジタルテレビチューナーボードを取り付け、パソコンで録画予約、ブルーレイディスクには、そのチューナーボードソフトに備わっているダビング機能を使ってハイビジョン放送をやっと1枚のディスクに収めることができたのは、つい2週間ほど前のことでした。

この自分自身への工夫を、これからも様々な形で同じ興味を持ち課題を抱えている人々に案内しつづけていきたいと思っております。

でも、障害者の権利条約たる環境への合理的配慮の実現には、技術提供者側に当事者が参加しない、参加できない現状では、ほんとうに実現できるようになるのでしょうか。ジェット機があまり墜落しないで飛べるのは、操縦士が乗客と同じ人間だからです。

同じ不便さを共有せずに、その不便さを想像の世界だけでなくそうとする努力の困難さに、先端技術を持つメーカーが気付けない理由は、意外と単純なものなのだと思います。

形のある成果物は必ず環境に配慮された機能的成果物としても成り立っていなければならないことが当然の社会になるよう、これからも努力し続けなければなりません。

<参考資料>

1985年
2月18日 日本通信衛星(株)(JCSAT)設立
3月22日 宇宙通信(株)(SCC)設立
4月5日 (株)サテライトジャパン(SAJAC)設立
1986年
2月12日 BS-2b(ゆり2号b)打ち上げ
12月25日 NHK-BS放送の試験放送開始
1987年
7月4日 NHK-BS1が24時間放送開始<●日本初の衛星(BS)放送>
1988年
2月19日 CS-3a(さくら3号a )打ち上げ
9月16日 CS-3b(さくら3号b )打ち上げ
1989年
3月7日 JCSAT-1打ち上げ<●日本初の民間通信衛星(CS)>
6月3日 NHK-BS2が24時間放送、ハイビジョン実験放送開始
6月6日 スーパーバードA(旧)打ち上げ
7月4日 スカイポートセンター設立<●日本初の個人向けCS通信>
1990年
1月1日 JCSAT-2打ち上げ
2月23日 BS-2X、スーパーバードB(旧)打ち上げ失敗
8月28日 BS-3a打ち上げ
11月30日 WOWOWサービス放送開始、St.GIGAテストプログラム開始
12月23日 スーパーバードA(旧)運用停止
<スーパーバード利用のサプライヤーは一時、JCSATに移行>
1991年
2月19日 CS-PCM放送4社が放送免許を取得
<●日本初のCS(音声)放送/PCMジパング、ラジオ・スカイ、サテライトミュージック、ミュージックバード>
3月30日 St.GIGA本放送開始
4月1日 WOWOW本放送開始<●日本初のペイテレビ>
8月25日 BS-3b打ち上げ
9月   CS-PCM放送2社が放送免許を取得<PCMジャパン、PCMセントラル>
1992年
1月22日 (株)サテライト放送センター(CSバーン)設立
2月4日 CS放送(委託放送事業者)6社が認定
<●日本初のCS(テレビ)放送/CNN、スターチャンネル、スポーツ・アイ、MTV、スペースシャワーTV、衛星劇場>
2月27日 スーパーバードB打ち上げ
3月25日 (株)CSサービスセンター(スカイポートTV)設立
4月~ 2月 4日に認定されたCS放送6チャンネルが、4月以降順次放送開始
6月~ CS-PCM放送6社18チャンネルが、6月以降順次放送開始
10月~ CSチューナー/デコーダー内蔵型テレビ発売開始(松下、東芝)
12月2日 スーパーバードA打ち上げ
1993年
4月   NHK衛星放送受信者が500万世帯を突破
6月4日 PCMジャパン、PCMセントラルが事業を廃止/中止
7月20日 CS放送(委託放送事業者)4社が認定<LET's TRY、GAORA、朝日ニュースター、チャネルオー>
8月17日 日本通信衛星とサテライトジャパンが合併。新会社は(株)日本サテライトシステムズ(JSAT)
10月1日 7月20日に認定されたCS放送4チャンネルが放送開始。計10チャンネル体制に
11月15日 CS放送普及促進会議(のちにCS放送協議会を経て、現・衛星放送協会に)設立
1994年
6月20日 CS放送(委託放送事業者)1社が認定<BBCワールド>
6月22日 放送法の改正案が成立。外国衛星TVの受信解禁の動き
10月1日 グリーンチャンネルが個人向け試験配信開始。本放送は95年1月1日より
<●日本初の個人向けCS通信チャンネル>
10月1日 PCMジパングとラジオスカイが合併。新会社はジパング・アンド・スカイコミュニケーションズ(PCMZ-SKY)
11月10日 (株)DMC企画が設立
<●日本初のCSデジタル放送会社。スカイパーフェクTV!の前身>
11月25日 BSハイビジョンが実用化実験放送に
1995年
2月3日 JSATが国際電気通信事業の免許を取得
4月3日 NHKが米国向けと欧州向けに国際衛星放送を開始
4月19日 TNT&カートゥーンネットワーク(PAS-2)、スターTV(ASIASAT-1)が「放送」に認定
<●日本初の外国衛星TV正式解禁>
4月28日 SCCが国際電気通信事業の免許を取得
7月1日 ミュージックバードとサテライトミュージックが合併。新会社はミュージックバード
8月29日 JCSAT-3打ち上げ
8月29日 N-STARa打ち上げ<●NTT初の自社衛星>
9月28日 ディレクTVジャパン(株)設立<●第2のCSデジタル放送会社>
10月24日 (株)DMCが日本デジタル放送サービス(株)に社名変更
11月17日 CS放送(委託放送事業者)2社が認定<スーパーチャンネル、ファミリー劇場>
1996年
2月2日 日本デジタル放送サービス(株)のステーションネーム「パーフェクTV!」発表
2月5日 N-STARb打ち上げ
4月3日 パーフェクTV!(CSデジタル放送の委託放送事業者)テレビ34社57ch、音声3社103chが認定。この後も随時追加認定があり、本放送開始時にはテレビ70チャンネルに。
7月22日 CS放送(委託放送事業者)1社が認定<ザ・ゴルフ・チャンネル>
10月1日 パーフェクTV!本放送開始(無料放送は6/30開始)<●日本初のCSデジタル放送スタート>
10月1日 ミュージックバードとPCMZ-SKYが合併。新会社はミュージックバード
12月17日 ジェイ・スカイ・ビー(株)設立<●第3のCSデジタル放送会社>
1997年
2月17日 JCSAT-4(1A)打ち上げ
7月28日 スーパーバードC打ち上げ
10月31日 ディレクTV(CSデジタル放送の委託放送事業者)テレビ18社90チャンネル、ラジオ1社29チャンネル、データ放送1社6チャンネルが認定
12月1日 ディレクTV本放送開始<●第2のCSデジタル放送スタート>
12月3日 JCSAT-5(1B)打ち上げ
1998年
3月31日 CSバーンが放送終了
5月1日 パーフェクTV!とJスカイBが正式に合併。スカイパーフェクTV!誕生
7月1日 スカイパーフェクTV!本放送開始
9月30日 スカイポートが放送終了
10月27日 BSデジタル放送の委託放送事業者が認定
<●日本初のBSデジタル放送会社/民放5社、WOWOW、スターチャンネル>
12月27日 スカイパーフェクTV!の加入世帯数が100万件突破
1999年
1月14日 JCSAT-6(4A)打ち上げ
2000年
2月18日 スーパーバード4号機打ち上げ
3月2日 スカイパーフェクTV!とディレクTVが事業統合を発表
4月1日 日本サテライトシステムズが社名を「JSAT(株)」に変更
6月13日 スカパー!を運営する日本デジタル放送サービスが、
社名を「(株)スカイパーフェクト・コミュニケーションズ」に変更
8月25日 BSデジタル用放送衛星、BSAT-2aの打ち上げ延期が決定。
打ち上げ会社や衛星メーカーのスケジュールの遅れが原因
9月30日 ディレクTVが放送終了。2年10カ月の歴史に幕を閉じる
10月7日 N-SAT-110打ち上げ
12月1日 BSデジタル放送開始110度CSデジタル放送サービス開始
12月18日 CS110度放送事業者18社認定
2002年
3月1日 110度CSプラットワン放送開始
4月1日 110度CS蓄積型双方向サービスep放送開始
7月1日 110度CSスカイパーフェクトTV!2 本放送 開始
2004年
3月1日 110度CS「スカイパーフェクTV!2」と「プラットワン」統合。
サービス名称は 「スカイパーフェクTV!110」に決定。
2007年
2月1日 「スカイパーフェクTV!110」のサービス名称が「e2 by スカパー! 」に変更。