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フォーラム 上野 正彦

愛知盲ろう者友の会 副会長
*肩書きは、2010年2月27日講演当時のものです。

盲ろう者と放送バリアフリー

「盲ろう」という障害は目の障害(盲・弱視)と耳の障害(ろう・難聴)を組み合わせ、<1>全盲ろう、<2>全盲難聴、<3>弱視ろう、<4>弱視難聴の4タイプに分けられる。また盲ろう者は障害歴として盲ベース盲ろう、ろうベース盲ろう、中途盲ろう、先天性盲ろうに分けることもある。いずれもコミュニケーションや情報摂取、移動に大変な困難がある。単に見えにくい、聞こえにくいだけでなく、それに伴うストレスや社会制約が激しく、個人差の大きい障害である。

盲ろう者は情報障害ともいわれる。盲ろう者の立場からデジタル放送を考えてみたい。

字幕放送

テレビを視聴できる盲ろう者はデジタル放送をどう観ているだろう。ニュース、バラエティ、ドラマなどジャンルはいろいろだ。またデータ放送や双方向通信機能などもある。視聴機能が残っている盲ろう者はテレビまでの距離や音声の大きさを決めている。しかし一般の人が見聞きしている内容ではなく、多くは異なる受け止め方をしている。

現在のデジタル放送の字幕は番組によって画面の上や下に頻繁に移動したり、画面の真ん中に出たりしている。背景と重なって読みにくい時もある。

盲ろう者の中には視野の狭い人が多く、字幕を追いかけるのに苦労している。字幕の位置が全番組で固定され、またコントラストをはっきりさせてもらいたい。

コマーシャルは商品情報として流れているという認識がある。いろいろなタレントを起用して商品をPRしている。映像そのものはおもしろく、音声としてもたのしい。しかし盲ろう者の多くは映像音声と商品の関連をわかっていない。登場する人の会話にも字幕があると、宣伝文句や商品流行がわかって楽しいはず。

番組やコマーシャルに映像表現としてテロップを用いられることがある。番組やコマーシャルにインパクトがあると思われる。字幕とは違った映像効果が楽しめる。ポイントや主張したいことがわかる。テロップはそれ自体意味は掴めない。映像の補助や強調のために使われているようだ。

しかしテロップは文字フォンドやデザインが凝っていて、色がついていたり、文字の流れが早い。いわゆるロービジョンと呼ばれる人たちは文字を追うのに苦労している。文字の部分を統一して映像と分けると見やすくなる。また文字色は濃い色にしてほしい。

臨時ニュース・災害ニュース

臨時ニュース・災害ニュースでは背景の映像はそのままなので字幕は読みにくい。ニュース開始に音を鳴らすが、字幕の読み上げはない。

視野の狭い盲ろう者は画面全体が見えないので、ニュースが流れたことに気が付かない。音を鳴らすと同時に画面を点滅させたり、字幕部分にコントラストを出して注意を促すようにしてほしい。緊急性のある情報は背景を犠牲にしてでも字幕内容を強調すべきだと思う。

手話通訳

通常放送に手話通訳を挿入した番組がある。挿入位置はほとんどが画面の隅になっている。画面の小さなテレビでは、手話通訳はますます小さくなる。手話を読む盲ろう者には十分とは言えない。ヨーロッパやアメリカでは、縦3分の1に手話通訳を配した番組がある。正確に伝えるという観点から、手話通訳挿入は欧米並みに縦3分の1のスペースは必要だろう。

リアルタイムに字幕を

近年字幕放送が増えてきた。多くはドラマに挿入されている。盲ろう者は情報障害と言われるように、社会の動きを迅速に捉えられない。ニュースや報道は生活と結びつく大事な情報源である。しかしニュースには字幕がない。今現在起こっている事件事故、社会の動きをリアルタイムで伝えるのが報道番組だから、字幕もリアルタイムで挿入されるべきである。

今後

テレビ本体やリモコン操作などハード面について、まず説明書の文字が小さく読みにくい。説明の内容によってはさらに小さい文字がある。フォンドは全ページ同じ大きさにしてほしい。

全盲ろうの盲ろう者でも点字ディスプレィという機器を使ってインターネットやメールを楽しめるようになった。インターネットを通じてテレビ放送を点字で視聴することは技術的に可能と思われる。

NHK受信料について、障害者等級1級または2級の重度盲ろう者はテレビ視聴が著しく困難である。家族の収入に関わらず、受信料は全額免除としてほしい。