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意見交換

寺島:今日はいろいろな話を聞かしていただきまた。どなたかご質問ありましたら挙手を。はい。どうぞ。

会場:はい。今日はどうも貴重なお話ありがとうございました。私は障害がある人たちの働く場をつくるために、研修や事業開発・事業支援を行っている者です。今日は大変興味深くお話を伺いました。ソーシャル・ファームの担い手になる人材というのはヨーロッパにおいてどのように確保されているのかということをお伺いできればと思います。担い手になる方々の確保に対して何かヨーロッパでは困難なことはないんでしょうか。一般の企業に比べ、大変難しい企業だと思いますのでなかなか誰もがなるということは難しいと思います。そのへんのところをお聞かせ願えればと思いです。

シュワルツ氏:そうですね。確かにおっしゃるとおり適切な人材を見つけてそしてその方たちをサポートしていくというのは大切なことだと思います。ソーシャル・ファームがヨーロッパで生まれてきたときにもやはり主にソーシャル・セクター、例えば社会福祉とかあるいは社会企業などについてバックグラウンドを持っている人とか、何かトレーニングを受けたことのある人。そういう分野に何か携わっていたことのある人。それから人材開発をやったことのある人。あるいは心理学とかソーシャル・ワークなどを大学などで学んだような方たちというのは多いと思います。そして時間をかけてそういう方たちもまた次の人たちを育てて、仕事をして経験を積んで少しずつ広げてきたというところがあると思います。
 ただソーシャル・ファームはソーシャル・ワークだけを知っていればいいかというとそうじゃない。ビジネスですからちゃんと利益を生んでいかなければいけません。そこでニーズやビジネスを運営していくためにはどうしたらいいかということがあり、そのようなことに対してサポートシステムを早期につくりました。実際に経営とかビジネス、利益を生むということはどういうことかとトレーニングもしました。それはやはり必要な一つのステップでした。ヨーロッパでは幸いこういった経験とかこれまでにいろんな例がありますのでその前例から学ぶということができます。それから私2年ほどアメリカに働いたことがありますが、このときは障害のある方自身がそういう方たちへのトレーニングなども行いました。そういうこともできます。ですから企業家としての精神があるかどうかというところが基本じゃないかと思うんです。あとはいろいろな技術的なことは学んでいけると思います。

 最近ここ10年ほどの傾向といたしましては皆さまのような団体がビジネススクールから人を採用するようなことも始まっております。というのはビジネススクールの人たちがこういった社会的な問題に関心をいだいているということの表れでもあります。また同時にそのソーシャル・セクターもいわゆるプロを雇おうというような考え方になってきているということがあります。

寺島:今ご質問いただいた問題は非常に皆関心持っているところで、実態を見ると働ける障害者は相当働いているんです。例えば特例子会社という特殊な企業があるんですけどもそこに行って働く障害者の人をリクルートするのがむしろ大変なんですよ。ですからそういう意味では働ける障害のある方というのは日本では相当働いているんじゃないかというふうなところがありまして。例えば肢体不自由の方は働いているんだと思います。そういう中でソーシャル・ファームで働く人材はいったいどこから持ってくればいいのかというところがぼくもやっぱり疑問に思っておりまして、そんなところはいかがでしょうか。何かご意見あるかもしれません。

ジェイコブ氏:私たちの場合は実際にビジネススクールの方がソーシャル・セクターに入ってくるようになって常に新しい世代の経営というものをやってくれるような実際に具体的な成果というのが出ているということであります。これまではソーシャル・セクターの人たちによって運営されてきたわけですけれども、たくさんのビジネススクール出身の人たちというのか絡んでくれるようになったのでより目に見える形での成果が出てきています。

寺島:パービスさんどうぞ。

パービス氏:イギリスでも非常にジレンマがありまして、やはりソーシャル・セクターの中でも起業して運営していくためにはビジネス上のスキルが必要なわけです。日本でも組織によってはそのような社会的な情熱を持つ人たちに対してビジネス上のテクニックを取得できるようなトレーニングをしようとそういうようなことがあると思います。ですから各国によってそれぞれいろいろなアプローチがあると思いますけど、ビジネス・セクターとソーシャル・セクターとの2つをいかに橋をかけていくのかというところでございます。

寺島:今お話を聞いてますと、それは経営者の側の訓練というようなことだと思うんです。そうすると今もうほとんど社会福祉法人だとかそういう施設の人たちに対するビジネス感覚をつけるような訓練が重要だというふうに言われていると思うんですけども、そういうやり方はもちろん大切だと思うんですけど、働く障害のある方が果たしているかなというとさっき申し上げましたようにたぶんあんまりいないんですよね。ですから日本でどんなふうにしていくかというところはちょっと課題です。はい。どうぞ。

菊池:私は北海道から来てるんですが、寺島先生がおっしゃられたのは首都圏の大都市圏においてはそういうことはいえるのかなと思って大変うらやましく思うんですが、もともと日本の田舎では人口がいないので市場自体を形成しにくい。だから今ヨーロッパからのお話があったようにおそらく本当に障害者施設といえども中小企業としてのきちっとしたビジネス的な取り組みがなければおそらく日本中に商品が流通しないというふうに思われます。炭谷先生にいろいろ教えてもらって2006年ぐらいから、私今まで全然畑が違うんですけど、そういうところにかかわらせてもらった印象では、やっぱりビジネスを提案をする人方々というのが地方には圧倒的に少ないんだなということを思います。つい過日もそういうようなことでお話をする機会があったんですけども、ちっちゃな作業所でこういうものを作っているんだけどどうやったら売れるんだろう、というようなことに大変いっぱい意見を頂いて、まだまだやれることがいっぱいあるなというふうな印象を私自身の中では思っています。

上野:東京家政大学の上野と申します。私も今菊池さんのおっしゃったことはすごくよく分かります。やっぱり地方に行かせていただくと働きたいと思っている障害者の方たちが果たして今働けているという状況ではないなというのをいつも見てきております。それからあと精神障害者の方々の中にはまだまだこういうところで働きたいとか、こういうことで仕事をしたいと思っていても、なかなかご自分にマッチングする働き方ができているとはやはり言い難い状況があるかなというふうに思っています。
 ソーシャル・ファームは企業というふうにおっしゃいましたけれども、日本の場合だともう少しゆるやかな枠組がむしろソーシャル・ビジネスを障害者の方々も含めて展開していくチャンスをつくっていけるのではないかなというふうに私個人としては考えております。今の段階では障害者の方もそれからその他の社会的に仕事をしたいと思っていても仕事が見つからないとか、それから仕事につけないと思う立場の人たちがとにかく一緒に働く場、今までだと社会福祉の活動の枠組の中でしか発想できなかったものがビジネス手法を使って働いている人たちの収入をアップさせていく、生活を保障していくということが目指せるものとして私はソーシャル・ファームは非常に意味があるところではないかなというふうには思っております。

寺島:はい。こちらの方、どうぞ。

会場:ワーカーズコープに勤めております。日本で労使協定の運動を進めて今おります。そこで実は障害をかかえる人の数が今日本では潜在的に増えているという実感を持っています。特に就労に困難をかかえる若者たちが非常に増えてきています。ある統計によると非常に困難をかかえる若者の約半数に何らかの精神疾患があるという評価もされています。私たちも職業訓練の講座を自治体から受託し、そこで彼らとともに訓練をして就労に結びつけようとしていますが、地域の民間企業が彼らを雇用するということは非常に難しい。70社80社まわってようやく地元の銭湯が、この若者たちの訓練を受け入れるという。これは東京の新宿であった事例ですがそんな状態で、一人前になってから若者をよこしなさいと言う。その一人前になる前にその訓練をお願いしたかったんですが、そんな状況もあるということでなかなか非常に厳しい状態の中にあってこの人たちをどうするのかというときに、訓練と就労をセットにしたような公的な就労の場が特に若い世代、障害のある世代の人たちに必要ではないか、そういう意味でいうとまだ我が国には社会的な制度がない。社会的企業の制度もなければ、社会的協同組合の法律もなければ、ワーカーズコープの法律もない、という中で今この状態でどんなことが私たちに可能なのか、30年前に運動を始められて、社会の制度になってきたと伺い、私たちもそこから始めないといけないという覚悟があるんですが、そのあたりでいいヒントがあれば教えてください。

寺島:今のはちょっとあとでお話いただくことにして、ご意見をだいたいまとめますと、社会的な企業を作っていく人材がまず必要だというのが共通の意見じゃないかなというふうに思います。日本ではその核になるところがどこかというのは、例えば社会福祉施設でもいいし、新たに起業する人でもいいですが、そういったビジネス手法を福祉に導入する必要が日本の雇用にはあるのではないかというご意見いただきました。これについて何かほかにご意見ありますでしょうか。 パービスさんどうぞ。

パービス:イギリスの背景を少しご紹介したいんですけども、皆さんご存じのように非常に景気が停滞しております。それでここ何年かはイギリス政府も大幅にこの社会システムの運営を変えようという方向に動いています。景気が悪いので福祉手当て等を払うだけの十分な財源がないのです。一方、人々はあまりにも福祉に頼りすぎているという傾向も出てきてしまっているということがありまして、授産施設は今ほとんど閉鎖されているというふうにいっていいかと思います。
 ですから今まで障害者を支えてきたシステム自体が見直されていて、あなたはどんな仕事ができるのか、という考え方に変わっていっているわけです。
このような背景の中で、イギリス政府もソーシャル・イノベーションに寄与している企業や組織を大きく支援していこうというふうにシフトしつつあります。つまり新しいタイプの雇用を考えています。政府は個々の企業を支援するのではなく、今は社会的な革新を促進していくソーシャル・エンタープライズやソーシャル・ファームなどの組織を支援しています。そのような組織が、障害を持つ方あるいは仕事がなかなかなくていつも苦労してる方たちにスキルを提供するし、ビジネスに関連したトレーニングを行うという流れになっています。アイデアとしてはどんなものでもいいと思うんです。
 先ほどゲロルドさんのプレゼンテもありましたけれども、いろんないいアイデアというのはあちこちで生まれています。その中で成功例というのもあります。そこでぜひ皆さまに提案したいのは、成功したアイデアはどのように生まれたのか、なぜそれが成功裡に運営されているのか、今度はヨーロッパと日本との間でお互いに学び合えるのではないかと思います。

 皆さまの中からやはり地方と都市の組織では違いがあるんですよということをおっしゃっている方がいらっしゃいました。それはそうだと思います。もちろんやはり人と人が対面して話をし、ネットワーキングといいますけれども、同様の関心を持ってる人たちが一堂に会して意見交換をするのはとても大切なことだとは思いますが、同時に今インターネットがこれだけ発達をしている時代ですので、情報とか様々なアイデアとかいろんなビジネスプランは必ずしもその場にいなくても、あるいは物理的に人と人が会わなくても共有することはできると思います。だからそれは都市であろうと地方であろうと情報の共有は可能だと考えています。

 ただコストを考えるとやはりソーシャル・ファームが非常に発達しているイギリスとかEUなどと比べると日本の皆さんはちょっとまだご苦労もあると思います。いろいろなサービスを提供するための組織をつくりあげるにはコストがかかります。その資金はどこから得るのか。例えば直接助成や寄付などの資金やインターネット使って資金を集めたり、そのような機会はイギリスやEUのほうが大きいのかもしれません。非常に幅広くファンドを提供する人たちや組織がありますから。だから日本の皆さんそこはちょっと大変かもしれませんね。

菊池:バーナードさんがおっしゃった提案とすごく似たことをやりましたので、ちょっとパワーポイントで上映してもよろしいですか。

 九州の方々の障害者施設でつくった焼酎を居酒屋さんで出しました。これが焼酎で飲めば飲むほどお役に立てるという、そういうようなキーワードで、お酒が1杯500円で売ったんですね。500円で売ってそのうちの100円を寄付する。北の屋台と地域づくりの居酒屋さんとしてはすごく成功事例になるんですけれどもここの全店で21店舗ですね。全店でこれを展開しました。どちらかというと夜飲みにいける方はお金を持ってる方が多いですよね。そういう人からお金の少ない人のところに供給できるのでお酒が一番いいということで考えました。居酒屋さんのところにこういうソーシャル・ファームのマークがあります。
 この3本が九州の宗像でつくられている焼酎なんです。1本1,280円で売られてます。九州のほうはどちらかというと酒蔵いっぱいあって売りにくいんだそうです。北海道は焼酎の酒蔵が実は十勝に1個しかないんですね。だからそ焼酎を売ってあげて彼らのお役に立とうと思います。
 それと炭谷先生のところにデザインを管理する仲間が集まってきて、様々なプロフェッショナルな人が今ソーシャルファームジャパンに集まり、先ほどご指摘のあったようなコンサルティングをするようなチームができました。ソーシャルファームジャパンの総会にも来られて無事に終了しました。そういうようなことでビールのやりとりを実はもうできそうだなと思ってうれしいなと思っておりました。ありがとうございました。

寺島:それでは、先ほど精神障害者の方たちに対する支援として社会的な企業をつくりたいという場合、訓練や立ち上げについて助言があれば、というご質問がありました。

ジェイコブ氏:訓練は非常に重要だ思います。一つ、一つ積み重ね、段階をふむことが重要です。トレーニングとプログラムは継続してやっていくということが非常に重要だと思うんです。精神障害者の方たちの能力を継続してスキルアップし、そして継続して仕事としてやっていくことを支援するとことが大事だと思います。
 また現実の状況とか新しい課題に対処するためにもこのトレーニングを1回きりではなくて継続してやっていくということが重要じゃないかと思います。毎週のようにソーシャル・ファームにどんどん新しい人が増えていっても、継続性がないとまたドロップアウトしてしまうということにもなりかねません。

寺島:何か他にご質問は。

会場:私はソーシャル・ファームということを農業の分野で何とかできないかなということで実践的にやっている立場でもあります。先ほどのお話の中で生産能力を問わず平等な賃金ということをおっしゃっていたと思うんですけども。例えば健常者と障害者人が本当に平等な賃金ということが先進的なヨーロッパの国々には可能になっているのか、という点が一つ。そして、賃金の水準がいったいどの程度なのかという、要するにソーシャル・ファームと一般労働、簡単に言えば僕は中間労働だというふうに考えているので、一般労働との格差がどの程度になっているのかということを知りたいと思ってます。
 そしてもしその一般労働とその中間労働としてのソーシャル・ファームと差がある場合、一般労働の基準に持っていくために例えば政府的にどうにかしていこうと考えているのかもしくは、市場の中でチャレンジとおっしゃっていますけれども、やはりそこは経済的合理性をその組織の中に求めていかないといけないのか、ということについて質問させていただきました。

寺島:これは生産能力が違う人たちが同じ賃金でいいのかという質問ですね。これはシュワルツさんはよくご存じだと思いますので答えていただこうと思います。

シュワルツ氏:平等の賃金というのは、同じ額の賃金という意味ではありません。同じレベルの仕事をしていれば同じ額になるということです。
 国によっては最低賃金を設定している国もあれば、設定してない国もあります。私がプレゼンの中で申し上げたソーシャル・ファームに共通していえること、これはセルビアなども同じですが、一般の民間企業のレベルに十分匹敵できるということです。
 なぜソーシャル・ファームなのかということですけども、もう福祉システムに頼っていきるのではなくて経済的に自立した生活を送りたい、それを実現するというのがソーシャル・ファームの目的なのです。

 もちろん会社に来て1日目から市場の賃金と全く同じ額がもらえるような仕事ができるわけでもありませんので、まずそういった方たちに対しては訓練をします。最初の1年目はトレーニングをし、十分生産性があがってくるのを待ちます。ソーシャル・ファームは助成金を得て、トレーニングをします。だいたい3年ぐらいしますと十分技能があがってきますので会社にとって収益をもたらすということもできるようになります。そうすれば通常の賃金と同等のお金を支払うことができます。

寺島:少し解説させていただきますと基本的に会社なので最低賃金を満たしてないといけないんですよ。あとは能力給です。ですから福祉的就労ではないので、ランクがあったり中間的な就労ではありません。通常の会社の従業員と同じです。ほかに何かご質問はありませんか。どうぞ。

会場:松本そえ木の会から参りました。今日の出席者の皆さん方に更正保護の関連の方々が何人かおられますので、その方々にも参考になると考えましてご質問させていただきます。ヨーロッパからのおいでいただいた先生方にまずお尋ねいたします。社会的に不利な立場にあって就職困難な人たちの中に刑務所出所者あるいそういったハンディを持って社会に出てこられた方の就職もあると思いますが、ヨーロッパのソーシャル・ファームの中に障害を持つ方々と一緒に行動といいますか、ある種の刑務所出所者みたいなそういう経歴を持った方々も一緒にこの組織の中に働いておられるのかどうか、あるいは特化して刑務所出所同士者だけを対象としてそういうソーシャル・ファームができているのかどうかということをまずお伺いさせていただきたいと思います。
 それから二つめは私いろいろ調べますと、障害を持つ方々の政府の支援といいますか制度の設置費だとか運営費だとか経常的なそういう国の支援制度はあるんですけれども、どうも刑務所出所者のそういう組織についてのソーシャル・ファーム設立の制度的な支援が現在のところないというふうには感じています。そのへんのことについてヨーロッパの事情をお聞かせいただきいと思います。

寺島:一つは出所された方もこういったソーシャル・ファームで働かれているのかということと、そういった方たちに対する政府の支援の制度はどんなものがありますかということですかというですね。

パービス氏:ご質問ありがとうございます。私からはイギリスについてどうなっているかをお伝えしたいと思います。やはり通常の障害を持つ方たちの雇用支援と刑務所から出所された方々に対する雇用支援は必要な知識が違いますので組織としては分かれています。そしてイギリスの政府も日本政府と同様でやはり出所された方々に対してのサポートというのは本当に微々たることしかやっていません。結局は慈善団体などに頼っているというのが今の状況です。
 その一方でイギリスでも新しい社会革新のアイデアの一つで、ソーシャル・インパクト・ボンドという債権が導入されました。これは慈善団体などを助ける債権で、 投資家を募り、支援が成功した場合、例えば再犯率を測って成功していれば、政府は投資家に配当金を払うというものです。 もしご興味あれば詳細をお話できます。

寺島:ではシュワルツ先生お願いします。

シュワルツ氏:そうですね。私も二つ例を紹介したいと思います。ソーシャル・ファームとは言っていませんが、これはソーシャル・エンタープライズで行われています。
 一つ目の例ですが、ドイツの刑務所3、4カ所で最初にスタートして今はもうちょっと広がっているんですけれども、洋服のデザインと製造販売をやるというプロジェクトが立ち上がりました。ドイツ語で「囚人」というロゴを入れて、ネット販売しています。これは十代の若い人たちにすごくかっこいいと思われているらしく非常に売れ行きがいいんです。ウエブサイトで紹介されているのであとでアドレスとかお教えできると思います。
 それからもう一つはイギリスの例ですが、やはり刑務所を出所した人たちが自分たちは社会に出てどういう仕事をしていけるのだろうかと考え、自分たちで映像製作の会社をつくったという例もあります。彼らの場合は社会的な問題やドキュメンタリーの映像を作っています。また、イギリスで行われたソーシャル・ファームの会議の映像を作りました。実際に彼らが仕事を立ち上げた例です。

寺島:ありがとうございました。

ジェイコブ氏:ベルギーにおいては特定の対象向けのソーシャル・エンタープライズというものをつくるというのは難しいと思います。これは平等という原則に基づいておりますので、例えば特定のグループの方々のためのソーシャル・ファームを作るのは非常に難しいのです。我々の場合、アプローチとしては一つのプロジェクトの中に異なるプログラムを持つというやり方です。このような差別の対象になっているグループに対するプログラムをソーシャル・ファームの中に入れること自体も難しいわけで、そのような問題はもちろん我が国だけではなくて他の国でもまだ存在しているかと思います。

寺島:そもそもソーシャル・ファームの対象者は就労困難な人たちですので障害者に限らずそういった刑務所から出られた方も基本的に含まれていると思われます。他にご質問ありますでしょうか。はい。どうぞ。

会場:今日は貴重な話どうもありがとうございました。私は精神障害の方たちの生活支援・就労支援している団体に属しております。シュワルツさんのお話の中でソーシャル・ファームを立ち上げて、他の企業よりも定着率というか失敗率が少ないというお話があったんですけども、理由の一つとして組織のしっかりしているところから発生したということでしょうか。具体的にお伺いできればと思います。

シュワルツ氏:そうですね。どうして定着率が高いのか、体系的な分析ができているわけではなく事実としてデータがあるということなんですけれども。考えられることは、ソーシャル・ファームが立ち上げられた環境が民間企業より開発されていたと言えると思います。多くのソーシャル・ファームは皆さま方のような組織が後ろ盾になって発展していっているというようなことを考えるとその後の立ち上げとそれからその後の発展ということについても非常にしっかりとした土台はあるということは考えられております。

 それからもう一つ考えられるのは、私の発表の中でもご紹介しました支援機構という存在で、何年も機能しています。経験も積んできていて各地方レベル、そして全国でこういったネットワークが様々あります。またEUからの協力というのもありますから、ソーシャル・ファームというのが立ち上がるとこのネットワークに入るということができますので、様々な段階あるいは方法で支援を受けることが可能になります。そういったことも企業としての存続に貢献していくと考えます。

 それから最後にもう1点。このような支援機構がどうあるべきか、あるいはどういうふうにしたらうまく機能するのかというようことは、ヨーロッパにおいてもいろいろ議論されております。かかえている問題は非常に共通しており、重要な点かと思います。ですから皆さま方がソーシャル・ファーム、そして支援機構のネットワークを立ち上げていく際に例えば我々が経験してきているヨーロッパでのサービスや特長を採用してみて、これが日本でもうまく機能するのかどうかを見ていくというのも一つの方法ではないかというふうに思います。

寺島:どうもありがとうございました。 あと1問にしたいと思います。はい。どうぞ。

会場:精神障害者の方の生活支援・就労支援を行っております。やはりソーシャル・ファームを一つの企業とした捉えた場合、企業として競争力が必要であると同時に就業困難の人を訓練することも必要だと思います。一般企業と競争した場合、どうしても負けてしまうのではないかと単純に考えてしまいます。国からの補助金がなくてもうまく価格を抑えて、(就業困難の人に)ちゃんとした賃金を支払うことができるのでしょうか。リスクがあるのではないでしょうか。

寺島:まさに何度もこのような質問があると思いますが、ゲロルドさんに聞いてみますか。答えていただいていいでしょうか。

シュワルツ氏:お答えしたいと思います。リスクは当然あります。リスクをとることもプロセスの一部で、リスクに立ち向かうことは価値があると私は考えています。リスクをとってみましょう。たとえリスクがあっっても就労困難な方たちがうまく就労でき、仕事を続けていける成功例になれば、まさにその方たちの環境や全体の状況を一気に変えることになるのです。ですからリスクがあるなしというのは問題ではないと思います。リスクをどう管理するかポイントだと思います。先ほども申しましたように、リスクがあるからヨーロッパでは支援機構があると言いました。ですからリスクはあると考えて、それをどういうふうに管理していくかを考えていくほうが大切ではないでしょうか。リスクがあったほうがむしろ健全であると思います。

 もう一言付け加えます。これまでにソーシャル・ファームを立ち上げたケースをいろいろと見てきました。例えば大きな組織の中から志のある方たちが組織を後ろ盾にしてソーシャル・ファームを立ち上げようととても前向きな勢いをもってスタートします。例えば障害を持った方たちに対しても非常にいい影響を及ぼしているのを今まで見てきました。もしうまくいかなかったとしても元の傘に戻ることもできるというふうに考えると、ソーシャル・ファームがうまくいかなかったらまた路頭に迷ってしまうというふうなイメージではなく非常に安心感を感じていらっしゃるようです。今まで見てきた中でやはりソーシャル・ファームを立ち上げよう、これは新しいエンタープライズだ、というふうに立ち上げる人たちというのはとても勢いがあり、良い意味でポジティブなリスクも背負っていこうという覚悟を持っていらっしゃるという気がしますので、リスクはあるけれどもそれは決してネガティブではないということが言えます。

寺島:ありがとうございます。それでは炭谷先生、まとめをお願いします。

炭谷:本日は大変有意義な会合だったと思います。非常に具体的な討論が行われたと思います。特に最後に西根さんが質問されたことはソーシャルファームを起こす場合に常にある問題ですけれども私はゲロルドさんがおっしゃったようにソーシャルファームというのはけっして他の企業に比べて、むしろプラスの有利性がたくさんあるんですね。その有利なところを着目しなければいけないんじゃないかなと思います。
 例えば私もお話させていただきましたけれども東京のエコミラ江東は最初は6、7名の大学生と10人の知的障害者が一緒に働きました。しかし1年の間には、大学生よりも知的障害者のほうが効率良く働くようになって、大学生のアルバイトは全員辞めていただきました。知的障害者のほうが良い仕事をするということが1年の結果、実証されたわけです。理由は知的障害者のほうが我慢強く仕事に対して熱心に取り組む。大学生のアルバイトは手を抜いて仕事をする。全員解雇したわけでございます。けっしてマイナスではなく、やり方によるのではないかなというふうに思います。このような事例がかなり見られます。
 またこれからのソーシャルファームというのは新しい価値を見出す。まさにリスクに挑戦をするものだと思います。新しい価値とは何なのか。働くことによって障害者、また長く失業している若者も社会の中に統合される、社会の一員に参加されるという新しい価値観を生み出すことができるんじゃないかなと。まさに今このような人たちが社会の中にたくさんいらっしゃる。これからはむしろ、このようなソーシャルファームを含めて社会的企業の拡大なくして世界の経済や社会が成立しなくなってきているのではないのかな、というふうに思っております。このような意味でソーシャルファームのよい点を確実に発展させる方法をヨーロッパの方々の経験を十分参考にしながらやっていきたいと思っております。
 今日は大変有意義なお話を伺うことができ、また具体的に意見交換をすることができたと思います。
どうも本当にありがとうございました。